デザインプロジェクトに本当に必要な存在である「UXライター」という役割 | アドビUX道場 #UXDojo
エクスペリエンスデザインの基礎知識
画面の中の、長方形のホワイトスペースを私のカーソルはさまよっていました。数週間にわたる作業の後、The New Yorker Todayアプリの新機能のデザイン作業はほぼ完成したところで、私に残された仕事といえば、確認用ボタンに表示する言葉を書くことだけでした。UXライティングの世界では、特に頭を悩ませるような課題ではありません。ただ、ニューヨーカーは “Got it!” とは言わないのです。
“Noted” か、もしかすると “Thank you” は口にするかもしれません。しかし、まず “Got it!” と言うことはありません。
これが現在勤務している出版社に、「初めて雇われたUXライター」としての日々の仕事です。デジタル世界のベストプラクティスと、ほぼ1世紀にわたって磨き上げられてきた音声による会話とのバランスをとる役割です。明日にでも、拡張現実の新機能をどう説明すればよいのかと質問されるかもしれません。また、エド・スティードの漫画は購読中止のページにふさわしいかと聞かれるかもしれません。
問題なのは、このゲームの名前です。手元に製品があって、その調査をしているときを除けば、私が質問されるのはこの仕事そのものについてです。UXコピー自体は、デジタル画面が登場して以来ずっと存在してきましたが、多くの場合にその担当は、文章の得意なエンジニアやデザイナーに委ねられてきました。近年では、書籍、ワークショップ、カンファレンスなどで、UXライティングを独立した分野として扱うことが定着しつつありますが、それでも、私の役割の話になると、ほとんどの場合、まだかなりの量の説明が必要になります。よく使う台詞には、ちょっとした比喩の「言葉に特化したプロダクトデザイナーのようなものです」や、初心者向けの「オンラインで何かをするときに目にする言葉があるでしょう?」、そして深く説明するときに使う「よし、LyftアプリとUberアプリを開いて比べてみようか」などがあります。
皮肉なことに、物書きのグループに属する者でありながら、UXライターは自身を説明するのに最善を尽くしてこなかったのです。では、UXライティングの仕事とは、実際にはどのようなものなのでしょうか?
プロセスの設計
UXライティングがデザインの世界にどのようにフィットするのかという疑問は、この数年間、企業から企業へと移る私に付きまとってきました(正確には、私を導いてきました)。その疑問が最初に浮かび上がってきたのは、私がLyftで最初の製品専属ライターのひとりになったときです。そこでの経験は、ライターがデザインプロセスに早く関わるほど、製品の機能が良くなるというものでした。InVisionに最初の専任UXライターとして入社しした時は、完全にリモートから働いていたために、その疑問に対する答えはさらに重要なものとなりました。そこではコミュニケーションが仕事を進める上での鍵でした。
自分が理解するUXライティングと、現場における実践とのギャップがあまりに大きく感じられたために、Condé Nastの現在の役職の面接の際、ポートフォリオのプレゼンテーションの途中でその話題について話すことにしました。スタンフォード大学のd.schoolやBiz Sanfordによりモデル化されたフレームワークを参考にしながら、UXライティングが従来からのデザイン思考のプロセスにどのように適合するかを説明し、ライターがプロセス全体に関与できること、また関与すべきであることを強調しました。
UXライティングが後付けののデザインプロセス 出典: ソフィー・テヘラン
UXライティングがすべての段階で実施されるデザインプロセス 出典: ソフィー・テヘラン
1枚目のスライドでは、コピーは基本的に後付けです。磨き上げる段階になってから扱うもののひとつです。しかし、2枚目のスライドで説明されているプロセスにおいて、UXライティングは豊富なコンテキストを提供します。たとえば、ユーザーがこの機能を自分自身の言葉で説明するとしたら、どのような言い方をするか?目の前の課題を達成するために、何を、いつ、知っておく必要があるのか?どのような懸念に対して、積極的に対応できるのか?
さらに、プロジェクトの初期からコラボレーションすることには多くの利点があります。たとえば、Lorem Ipsumのようなプレースホルダのテキストを使う代わりに、実際の単語を使ってアイデアを表すことができます。ラフなレベルのコピーを作成する際に、最も重要なテキストである見出しやボタンのラベルをモックアップとしてつくり上げれば、すべての重要な情報に場所を確保することができます。ありがたいことに、現在のデザインチームはこのアプローチを全面的に受け入れてくれました。これは、組織におけるUXライターの体験の成否を容易に左右し得る要素です。
私がCondé Nastに入社したとき、新しい同僚たちは、彼らの既存の作業やプロジェクトに私を最初から参加させてくれました。そのため、新しい働き方を創造する作業にすぐに取りかかることができました。UXライティングにおいて、それが意味するのは多くの会話です。デザイン、プロダクト、エンジニアリングチームと目標について議論したり、マーケティングやサポートとの関係を構築したり、編集チームから言葉のトーンやマナーについての意見を把握したりといった具合です。
私が設定した目標は、可能な限り、組織を横断した働き方を確立することでした。UXライターにとって、「コンテクスト」の理解は生命線です。
私たちの仕事は、雑草を掘り起こして、ユーザーの洞察、戦略、機能が複雑に絡み合った網を、容赦なく解きほぐすことです。
すべてがうまくいけば、ユーザーがその瞬間に何をしなければならないかだけを伝える一行のテキストを手に、勝利を得ることができます。制作物についてより詳しく知り、より貢献すればするほど、UXライターはより上手な話し手になれます。
理論から行動へ
もちろん、会話する様々な相手の中で、UXライターの最も身近なパートナーはデザイナーです。両者のコラボレーションは、互いの独立した思考の弧が規則的に同期する8の字を描きます。アイデアを共有して同意したら、再びデザインとコピーのためのインスピレーションを個別に集めます。アイデアを探る手段(スケッチやメモに使うツール)について合意はしていても、始めた後、さまざまな手段をとることを恐れたりしません。
完成が近づいてくると、8の字は三つ編みのように見えてきます。デザイナーとライターが考えているほど直感的であるかどうかをユーザーと検証するため、リサーチャーたちを巻き込みます。その際、デザインと一緒に構築された言葉も、テストの対象に含めることができます。
開発者たちとは、頭の中にあるアイデアが、実際に構築可能であることを確認するために話します。マーケティングチームとは用語のルールについて共有し(このアイコンを「保存」と呼ぶのか「ブックマーク」と呼ぶのか)、編集チームのアート部門とコピー部門から許可を得ます。そして最終的に、仕事の完了を宣言します。少なくとも「デザインは完了」です。
海に浮かぶ氷山のように、UXライターの活動の大部分は画面からは見えません。確かに、最終的な結果は画面に表示される言葉です。しかし、お気づきかもしれませんが、そうした言葉を書く作業自体は、全体の中では比較的小さな部分です。
UXライターは、何よりも擁護者、教育者、そして聞き役として現れます。
とはいっても、アプリやウェブサイトを日々使用している人たちにとって、その裏側で起きていることを理解するのは当然ながら困難です。そしてある程度それは意図的なものです。スマートフォン、タブレット、PC、または印刷された雑誌に表示される単語は、常に「The New Yorker」が語っているかのように聞こえるべきです。そして、もし私たちの仕事が成功しているならば、そうなるまでに何が必要だったのか、読者には見当もつかないでしょう。
この記事はYes, You Really Do Need a UX Writer(著者:Sophie Tahran)の抄訳です