N高でアドビが特別授業を実施。高校生が学ぶデザイン思考とは?【後編】
相手を理解する共感からはじまるデザイン思考が、アウトプットの質を高める!
では、デザイン思考とは何でしょうか。
世の中には家具や建物、広告やパッケージなど、デザインされた“モノ”が多く存在しますが、どんなモノであっても、中心にあるのはデザイン思考です。井上はデザイン思考について「モノを作るとき、または何かを解決する提案を作るとき、情報をきちんと集めて、ある一定の手順を踏んで問題を解決すること」だと説明しました。そして、一定の手順とは、「共感」「定義」「概念化」「試作」「検証」というステップであり、この一連の思考プロセスがデザイン思考であるというのです。
一例として井上は、高校生たちに「目が不自由な方が文字や看板、標識を認識するためにはどうすればいいか」という課題を与え、点字にたとえてデザイン思考を分かりやすく説明しました(※点字の実際の成り立ちとは異なる)。
デザイン思考では最初に、解決したい対象を学ぶ「共感」から入ります。実際に目の見えない人に話を聞いたり、観察をしたり、また自分も目隠しをして体験をするなど、目が見えないことはどういうことかをリサーチしながら理解するのです。
続いて、集めた情報をまとめ、その意味を言葉で「定義」づけします。たとえば、この場合であれば、“視力の代わりに、聴力や触る感覚を頼りに物や位置を認識している”という具合。この定義を元に今度は、解決策のアイデアを出す「概念化」に移り、“指で触れるものなら、目が不自由でも自分で文字を読み取れるかもしれない”といった具体案を考えていきます。
そして「試作」の段階では、点字のプロトタイプを作ってみます。それを目の不自由な方に使ってもらいながら「検証」を行い、得られたフィードバックからどこがダメだったのかを理解し、再び「共感」のプロセスへと循環していきます。つまり、デザイン思考のプロセスを一巡しながら、試行錯誤を行い、アウトプットの質を高めていく方法です。
一方で、「デザイン思考と対極にあるのがアート思考です」と井上。アート思考は作り手のアイデアや感情、信念、哲学を表現することだけに目的を置いた考え方で、アーティストやミュージシャンだけでなく、企業でも自由なものづくりの発想に活かされているといいます。
たとえば、有名メーカーの車のデザインもアート思考が活かされています。これまでにない斬新なデザインの車を作りだすためにはどうすればいいか。想像力を発揮するための手段として、アート思考を活かしたモノづくりが行われていると説明しました。
アドビ製品やデジタルツールに触れる大切さとは?
続いて井上は、「アドビ製品にもデザイン思考が活かされています」とAdobe Senseiを取り上げました。Adobe Senseiとは、アドビが開発した人工知能(AI)で、画像や動画の意味、またはデザイナーのスタイルを理解しながら製作者のアシスタントとしてサポートしてくれる機能です。
たとえば、「Adobe Photoshop」で写真の中のモデルを切り抜きたい場合。以前は、ペンツールで細かく指定して切り取っていましたが、Adobe Senseiの機能を使うとモデルを自動的に画像認識し、服のシワや髪の毛などを切り取ってくれます。ユーザーの細かな作業負担を減らすことのできるこの機能は、相手を理解する、製品を使っている人のニーズを把握する、という、デザイン思考の「共感」の部分を大切に生まれています。製品を使っている人のフィードバックからアイデアを得て、製品開発に活かしているのです。
また、アドビの共感の仕方として3つの手段も紹介しました。ベータ版を限られたユーザーに提供してフィードバックをもらうことや、欲しい機能をリクエストし、ユーザーが投票し合う掲示板があることなど、アドビがどのようにユーザーの声に耳を傾けているのかについても説明しました。
そして最後に、なぜアドビのようなデジタルツールに触れることが大事なのか、という点を考えていきます。高校生の中には、デザイナーやアーティスト、クリエイターをめざしているわけではないのに、アドビ製品を使うことについて疑問を持つ生徒もいるからです。
井上は、「相手に分かりやすく伝える」「どんな仕事に就いてもマーケティングと広告は必須である」「デジタルリテラシーが今から鍛えられる」の3点をメリットに挙げました。自分の考えを分かりやすく伝える手段を知っていることや、どうすれば良いところが伝わるかをアピールできるスキルを養っておくことは重要であり、アドビ製品は、誰かに何かを伝える場面でよく使われているツールであると説明しました。
「アドビ製品を使えるようになると、他の製品も使えるデジタルリテラシーが身につきます。若いときからデザインツールを使えることは自分を表現できる強みにつながるので、どんどん使ってほしいと思います」。
最後は、N高生からの質問タイム。“デザイン思考とアート思考を鍛えるために大切なことは”という質問に井上は、「デザイン思考は、相手を理解しようとする気持ちが大切。アート思考は、インスピレーションが大切。映画、音楽など色々な作品に触れたり、行ったことのない場所に行ったりするのも大切です」と回答。また“デザイン思考で一番苦労する点は?”という質問に対しては、「どんなモノづくりにおいても、アイデア出しがむずかしい。いきなり、すごいアイデアを出すことはむずかしく、皆が何を欲しているのか、調べたり、実際に話を聞いたりすることが重要です」と語りました。
この後も、授業時間終了まで、高校生からの質問は続きました。このオンライン授業が、高校生たちの視野を広げ、刺激を与えることにつながったのであればうれしく思います。