テンプル大学グラフィック&インタラクティブデザイン科の学生、持続可能なデザイン作業環境を自宅に構築 #Adobe Stock
「どんな雲の裏地も明るく輝いている(どんな悪いことにも必ず良い面がある)」という英語のことわざがあります。フィラデルフィアのテンプル大学タイラー芸術・建築学校で学ぶ200人あまりの学生たちは、自宅で課題を仕上げるために作業を完全デジタル化したことにより、この言葉を身をもって実感したのではないでしょうか。すべてデジタルに移行することが作業をどれほどシンプルにするか、効率性と持続可能性をどれほど高めるかに気が付いたのです。
デザイン用の器具や写真撮影用機材をはじめ、大学で当たり前に使えていた様々なツールやリソースが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で突然使用できなくなりました。しかし学生たちはこの状況にすばやく適応し、課題をやり遂げるための画期的な方法を見つけます。
グラフィック&インタラクティブデザイン科のAbby Guido助教授によれば、当初は多くの学生が完全デジタル化に不安を感じていました。課題に取り組むには実際のモノを扱わなくてはならない部分が必ずあるからです。例えばグラフィックデザイン専攻の学生なら、パッケージやパンフレットなど様々なデザインプロジェクトで使う写真を自分で撮ったり、プロのフォトグラファーに撮影を依頼したりする機会が少なくありません。ですが隔離生活によってそれが突然途絶えたとなっては、困惑のあまり頭を抱える学生が出たのも無理もないことでしょう。
「最近ではデザインの授業でデジタルツールを使用しないことなどほとんどありませんが、最初から最後までオンラインで作業することもあまりありません。幸い、私たちにはAdobe Dimensionがありました。直感的に使えて、アイデアを考え作品を生み出す力になってくれるツールで、デジタル環境とリモート環境の両方に対応しています。Dimensionで、3Dモデルなどの素材をAdobe Stockから取得する形で作業を始めたとき、学生たちはきっと、この環境が彼らのクリエイティブなアイデアを効果的に発展させてくれることに驚いたと思います」。Guido助教授はこのように語っています。
リモート環境でのデザイン作業を充実させる
Olivia Colaciccoさんは、グラフィック&インタラクティブデザイン科の3年生です。ほかのチームメイトと一緒に、ウェアラブルアートショー用のポスター、立て看板、名札、ソーシャル広告、モバイル広告などのビジュアルを作成する予定だったものの、イベント自体が延期になりました。そのため、当初の予定とはまったく違う方法で制作を進める必要に迫られました。
Oliviaさんをはじめ、Tara Ryanさん、Josephine Kostusiakさん、Wenqing Liuさんの計4人から成るチームは、プロジェクトのデザインに組み込む画像を作成するために、デジタル素材と物理的な素材を組み合わせてブレンドする手法を検討していました。例えば、題材となるモノの写真を撮影したり、ちょうどいいテクスチャを得るために布地をスキャンしたりする予定だったのです。すべての画像を何度か印刷して、作品の実際の見栄えを物理的に確認するつもりでした。1枚20ドルの写真用プリンター用紙が何枚も必要になりそうな作業です。ところが、4人が実際にAdobe Dimensionなど各種のAdobe Creative Cloudツールを使って制作を始めてみると、そのような作業はすべてノートパソコンの上で簡単に実行できることに気が付いたのです。
Adobe Stockで素材を探してみると、3Dモデルや素材、Instagramなどのプラットフォームで使えるスマートフォン用の画像やテンプレートなど、あらゆるものが揃っていました。そのためAdobe Stockから目的に合ったものを選び、Dimensionに読み込んでサイズ変更をかけ、マテリアルと照明ツールを使って構想どおりのビジョンを実現しました。
Olivia Colaciccoさん、Tara Ryanさん、Josephine Kostusiakさん、Wenqing Liuさんのチームによる作品。使用ツール:Adobe Dimension、Adobe Illustrator、Adobe Stock
「従来の学生プロジェクトでは、モックアップを入手するにしても、手ごろなものを見つけるにはインターネット上を何時間も探し回る必要がありました。その点、Adobe DimensionとAdobe Stockを使用すれば時間を大幅に節約できたので驚きましたね。自宅で作業することにならなければ気が付かなかったかもしれません」とOliviaさんは話しています。
ユーザーフレンドリーなツール
同じチームの一員でグラフィック&インタラクティブデザイン科3年生のTara Ryanさんは、別のプロジェクトでも、デジタル&モバイル環境向けに巧妙な仕掛けを持つ3D招待状のコンセプトをDimensionで制作しました。これはニューヨークのメットガラファッションショー2020(開催延期)のためのプロジェクトで、グラフィック&インタラクティブデザイン科のJenny Kowalski助教授から与えられた課題でした。Taraさんが作った作品は、送付用のデジタルボックス(またはパッケージ)と、箱の中に忍ばせておく立方体形の「招待状」です。電子メールまたはソーシャルメディア経由でこの招待状を受け取ったユーザーは、外側のレイヤー(1つ1つ違う魅力的な写真やグラフィック付き)をクリックして、中に入っている重要なイベント情報にアクセスします。
Tara Ryanさん。制作したデザインを様々な角度からDimensionでレンダリングし、それらを結合してアニメーションGIFにしたもの。
普通の状況のままだったら物理的なパッケージとキューブを制作して、バージョンを重ねながら何度もプリンターで出力していたと思います。Taraさんはそう語っています。Dimensionを使用することでその両方が不要になり、彼女の期待は良い意味で裏切られました。それどころか、デジタル形式で進めるうちに自分の価値観が大きく変わるのを感じました。こういう方法でオブジェクトを視覚化することはそんなに難しくないんだ、実は違和感なくできるんだと思ったそうです。
「とても使いやすいです。プレビューモードで照明を変更しながらオブジェクトを確認できて、現実世界での見え方がすべて反映されるのがいいですね。また、撮った写真やファイルに保存してある写真を取り込んで、『画像から環境を設定』機能を使用すれば、照明やパースをその写真に合わせて一瞬で自動設定できるのはすばらしいと思います」。
合成写真を自宅で作成
Elizabeth “Liz” Pagliaさんもグラフィック&インタラクティブデザイン科の3年生で、Kowalski助教授の講義を受けています。彼女は、指定された1ドルショップ商品の中から1つを選んで新パッケージのコンセプトを制作する課題プロジェクトにDimensionを活用しました。取り上げることにした商品は、マリファナ簡易検査キットです。これをもっと自然志向の商品に変えようと考え、植物栽培キットとテストキットを組み合わせて、検査後もパッケージを捨てずに済むようにしました。
完成した3Dデジタル作品は、さながらFortune 100マーケティング企業がプロデュースしたかのような完成度でした。アースカラーの箱、袋、素焼きの植木鉢を赤いテーブルの上に並べ、きれいに照明を当ててプロが撮影したような商品写真に仕上がりました。本格的な合成写真です。
Substance Source/Adobe Stock(Cardboard Paper、Gold Leaf)、Kollen Wasylean/Adobe Stock(Styrofoam Cup)
「一言でいえば、ドラッグ検査キットのパッケージを、もう少し環境に配慮したデザインにしました。まず、IllustratorでAiファイルを作り、それをDimensionに読み込む。Adobe Stockからもモデルやマテリアルを読み込んで、Dimensionの上で作品にまとめ上げました。作品中の箱は、元々の製品に使われていた箱そのもので、特に何かをダウンロードする必要はありませんでした。素焼きの植木鉢は、発泡スチロールカップの素材に、そのテクスチャーを置き換えるマテリアルとしてボール紙のデジタル素材を適用したものです(Dimensionのスターターアセットに含まれています)。単にDimensionのアセットパネルから新しいマテリアルをドラッグ&ドロップするだけで、植木鉢らしく見えるものができました。袋も、段ボールのマテリアルを適用することで粗さと土の雰囲気を出しています」とElizabethさんは言います。
Dimensionでは、まず物理的なオブジェクトを制作することから始め、それをデジタル環境に持ち込んで様々なビジュアルを適用することもできます。テンプル大学の教授陣にとってはこの点が採用の決め手になりました。
「Dimensionで最も優れた点は、デザインの要素となる個別の部品や個別のグラフィックをいろいろ寄せ集めて取り込むと、3Dの完成作品がどういうイメージになるかをすぐ確認できるところにあります。もう、2Dのフレーム内でおこなうデザイン作業に縛られる必要はありません。デザイナーである私たちにとっては興味深いことです。従来、こういう作業方法を簡単に実現できる方法はありませんでしたから」。
予想外のメリット:持続可能性
Guido助教授は、「3Dレンダリングは地球にやさしい技術である」という認識に至りました。これは教科課程においてあまり考慮してこなかったこと、学生たちも十分に意識していなかったことです。ここで紹介した彼女の教え子たち3人も、この発見によって大いに研究意欲を掻き立てられました。さすがは社会への貢献に強い関心を持つ「Z世代」の若者たちです。
「私たちの学校ではとても大掛かりなCO2排出量抑制の取り組みを進めていますし、私たちがデザインについて話し合うときも常に話題になります。持続可能性は、常に頭の片隅にあります。たぶん、デザイナーとしての自分が大きな問題を感じているポイントだからですね。私は捨てられるためだけのモノを作っているんじゃないか。何のためにいろいろなバージョンを印刷し、たくさんの紙とインクを無駄にし続けているんだろう。そんな疑問がたびたび湧いてくるんです。だから、こういうソフトの上で作業を進めてビジュアルを完成させることができ、物理的なモノづくりが不要になるのは、本当に嬉しいことです」。Taraさんはこのように語っています。
Oliviaさんも同じ思いです。「今、環境に配慮したデザインは非常に重要なテーマになっています。例えば、商品の過剰包装でプラスチックを無駄にすることは極力避けなくてはなりません。どうして、たった1個のお菓子を食べるために剥かなくちゃならない包装紙が3枚もあるんだろう。私たちはそんなことを考え始めています。こういう意識から、将来のために有益な新しいデザインのトレンドが生まれてきているんです」。
環境に配慮することだけではなく、無駄に伴って発生するコストを考えることが重要な場合もある、と彼女は続けます。
「何かを捨てるとき、私たちは伐採されて枯らされた木を捨てているんです。そして、たくさんのお金を捨てているわけです。Adobe Dimensionを活用したりAdobe Stockを利用したりすることには、そういう無駄なお金をまるまる節約する意味があるように思います」。
先んじてキャリアを積む
環境に配慮したデザインと経済的な堅実性を備えたデザインのつながりを学生たちは正しく認識している、とGuido助教授は語っています。将来プロになり、3Dとストック素材を活用してそういうデザインを実践していく自分たちのことが見えていると。
「学生たちに平等な機会をもたらす素晴らしいツールですね。この環境では、望みどおりに凄い作品を作り上げるチャンスが全員に与えられるのです。その扉は、持続可能性の意識が高い学生に対してだけでなく、お金に関することを今後追求していく学生にも同じように大きく開かれています。彼らがDimensionとStockに触れたことは、この意味で非常に役立つ体験だったように思います」。
Guido助教授は、今後の暮らし方はきっと平常に戻るけれど、リモート環境でデザインプロジェクトをやり遂げた経験はずっと後の人生にまで影響を及ぼすだろう、と確信しています。
「私たちは、今までとは違うやり方を試し、リモートワークに対する根強い抵抗感を克服するチャンスを与えられました。多くのデザイナーは、いつも実際のモノに触れて作業することが大切だという固定観念に囚われていたのです。もちろん、ある種のデザイン作業においては物理的なモノを扱うことが今後も必要ですが、新しいやり方に対応せざるを得ない状況に置かれて、デザイナーは視野を大きく広げることができました」。
「どんな雲の裏地も明るく輝いているというのは本当ですね。災いが転じて、学生たちと一緒にDimensionとStockを体験し、素晴らしい力があるツールだということを学べました。私たちはその経験を生かして、春学期をオンラインで進めることができます」と、Guido助教授は語っています。
テンプル大学タイラー芸術・建築学校の学生がAdobe StockとDimensionを使って展開している活動について詳しくは、こちらのオンライン展覧会をご覧ください。
この記事は2020年5月12日にTim Bigelowにより作成&公開されたTemple University’s Graphic and Interactive Design Students Create a Sustainable Design Work Environment at Homeの抄訳です