グラフィックデザイナーのための3Dアプリ・Adobe Dimensionで変わるパッケージデザイン最前線
私たちの身の回りにはパッケージがあふれています。
食べもの、飲みものはもちろん、日々の生活用品から趣味のものに至るまで、あらゆるものが商品を魅力的に見せるパッケージによって彩られています。
パッケージには商品の内容、特徴を伝えるものから、商品そのものの価値、体験を体現したものまで、コミュニケーションの方法によって多種多様なデザインがあります。
こうしたパッケージをデザインする現場はいま、Adobe Dimensionの登場によって制作ワークフローが大きく変わりつつあります。それはどのような変化なのか、株式会社GTDI代表のヘンリー・ホーさんに話を伺いました。
パッケージを中心にしたブランディングを手がけるGTDI
GTDIは、パッケージを軸にしたビジュアルコミュニケーションによるブランド構築を得意とするデザイン会社です。
デザインフィールドは、食品、飲料、化粧品、嗜好品から、普段目にする機会のない高級ブランドの特別なパッケージまで実に多彩で、国内外問わず、幅広く活動しています。
香港出身のGTDI代表 ヘンリー・ホーさんを中心に、さまざまな国・地域にルーツを持つデザイナーが在籍していることも特徴のひとつで、販売される国・地域の背景、トレンドを踏まえたうえで、魅力的で新しい提案をすることができるのは、GTDIならではの強みと言うことができるでしょう。
これまでのパッケージデザイン制作とその課題
パッケージデザインは成果物こそ立体ですが、そのデザインの過程では平面としてデザインを行ないます。
デザインの提案をする際には、この平面のデザインを、クライアントが仕上がりをイメージできるようなかたちで提案する必要がありました。
「たとえば箱のデザインなら、正面、上面といった各面のデザインと展開図に加えて、仕上がりの立体イメージを作って提案していました。
立体イメージは、IllustratorやPhotoshopを使って、各面に合わせて変形をかけたり、立体的に見えるように影をつけるのですが、どこかリアリティに欠け、商品そのものの雰囲気、イメージを伝えるようなものにはなりませんでした。ガラスの質感やラベルの透明感、素材のテクスチャ感もあくまで擬似的なものに過ぎないからです。
制作上もパースを固定して仕上げていくので、あとから振りの角度や、アイレベルを変えるとなればイチからやり直しでしたし、プレゼンで『後から見るとどう見えるの?』と聞かれても想像してもらうしかありませんでした」(ヘンリーさん)
3D CADツールを扱えるスタッフに、3Dアプリでのシミュレーションを試みたこともありましたが、それでも満足のいく仕上がりにはならなかったと言います。
「3D CADを使うと箱やボトルに対して正確にデザインをマッピングすることができますし、素材感の再現をすることもできます。プロダクトとしての再現性は高い、でもどこか臨場感がなく、フォトジェニックな仕上がりにはならない。どこか“固い”仕上がりになってしまうのです」
Photoshop、Illustratorで再現されたパッケージのデザインシミュレーション
“このままでは勝てない”……海外コンペの衝撃
ブランドの価値を十二分に表現したデザインも、それを正確に伝える提案ができなければ、意味がありません。リアリティがなく、フォトジェニックでもない。それはヘンリーさんがプレゼンテーションする際の大きな課題でしたが、とあるできごとが大きな転機をもたらします。
「海外のコンペに参加したとき、ほかのデザイナーにプレゼンテーションの資料を見せてもらう機会があったのですが……衝撃でしたね。パッケージデザインのシミュレーションにとどまらず、ブランドの1シーンとしてビジュアルが描き出されていたのです。ブランド広告そのものと言えるほど、精度が高かった。
それに対して、自分のプレゼンテーションは白い紙に各面のデザインを配置して、立体的にシミュレーションをしたもの。日本ではまだいいかもしれない、でもこのままでは海外のコンペには勝てない、勝てるわけがないと思いました」
どうすればあのレベルに追いつけるのか、いまのままで次のコンペに勝てるのか。思い悩むヘンリーさんはAdobe Creative Cloudアプリの中から見覚えのあるアプリを発見します。
「それがAdobe Dimensionでした。15年以上前に使っていたAdobe Dimensionsと同じような名前のアプリを見つけたんです。“もう一度使ってみようかな”と、ほんの軽い気持ちで使ってみたのです」
Dimensionによって描き出されたパッケージのデザインイメージ
Dimensionはグラフィックデザイナーのための3Dソフト
Adobe DimensionはPhotoshopやIllustratorで作られたグラフィックを、3Dモデルにマッピングすることで、パッケージデザインの仕上がりや空間、環境のシミュレーションを行なうことができるAdobe Creative Cloudアプリのひとつです。
「Dimensionを使うようになってから、制作ワークフローとプレゼンテーションがこれまでとはまったく別のものになりました。
これまで無理やり平面で作っていた仕上がりイメージは、Photoshop・Illustratorで作ったデザインパーツをライブラリに加えていき、Dimension上の3Dモデルに貼り付けるだけというシンプルな流れに変わりました。
背景写真にパースを合わせる、3Dモデルの素材を変える、光源の強さや位置といったライティングの調整も驚くほど簡単でした」
ヘンリーさんがDimensionに惹かれたのは、簡単・便利という点だけではありません。
「たとえば商品の写真を撮るとき、プロダクトデザイナーは、全体の輪郭や特徴的なディテールを捉え、文字をしっかり読ませたいと考えます。工業的、プロダクト的なアプローチですね。
一方でグラフィックデザイナーとしてはたとえ輪郭や文字がシャープに見えなくても、ブランドが持っている雰囲気、全体が伝わるようなフォトジェニックなビジュアルとして表現したいと考えます。
プロダクトの配置や平面としての構図、光の当たりかた、背景、周りの小物……商品を魅力的に見せるあらゆる要素をコントロールして、1枚の絵を作る。商品そのものだけでなく、そのブランドの価値が伝わるシーンを表現する。Dimensionならそれが簡単にできるのです。
Dimensionはまさに、“グラフィックデザイナーのための3Dアプリ”と言えるのではないでしょうか」
パッケージのデザインをシミュレーションするだけでなく、ブランドとしての全体像を見せることが重要だとヘンリーさんは話します。
「仕事のスタートがひとつのパッケージデザインからだったとしても、ブランド全体のなかのひとつのパッケージという意識を持つようにしています。全体像がまずあり、そこから個別のデザインをしていく、それこそがブランディングデザインだと思っています。全体をイメージしておくことで、クライアントとともにブランド戦略を考えることもできますから」
Dimension 導入前(左)と導入後(右)
提案の精度を上げ、コンペ勝率を高めたDimension
Dimensionでビジュアルを作るようになってから、提案の精度は飛躍的に向上、コンペの勝率も上がったそうです。
「コンペは本当にいろいろなタイプがあり、実物でのコンペもあれば、スケッチによるコンペもあります。
たとえば平面の資料のみで行なうプレゼンテーションの場合、提案する相手、判断する相手はデザインのプロではありませんから、平面図を用意して“ここから想像してください”と伝えても、デザイナーである私たちと同じようなイメージを思い描いてくれるとは限りません。一般的な感覚で、おいしそうに見えるか、手に取りたくなるか、周りに合うかどうかで判断するのです。
そのとき、Dimensionがあれば、デザインだけでなく、質感、雰囲気、トーン……あらゆるものを伝えることができます。まるでディスプレイされたパッケージのように見せることができるようになったことで、デザインの提案精度は確実に高くなりました」
Dimensionは作成した3DモデルをWebブラウザで360°操作できる形式で書き出すこともできます。そうした点も、デザインのプロではないクライアントに、より具体的なイメージを持ってもらうためには有効だと言います。
「国際コンペや大きいプロジェクトで求められるプレゼンテーションのレベルは、年々高くなっています。そこで勝つためには、Dimensionのようなツールを武器に、これまでとはまったく違うレベルのビジュアル提案をしていかないといけない。そういう時代になってきていると思います」
ツールの活用でクリエイティブにスピードとクオリティを
ヘンリーさんは、クリエイティブに課題が発生したときだけでなく、常に新しいツールや機能はチェックし、自身の仕事に役立つものがないかを検討しているそうです。
常に最新版のPhotoshop、Illustratorを使い、ライブラリを使ってデザインデータを共有、Dimensionでイメージを構築するという一連のワークフローをスムーズに構築できたのも、クリエイティブをより高い品質に、そして効率的に進めようという、日々の意識の積み重ねによるものと言えるでしょう。
「Dimensionが使えるAdobe Creative Cloudのプランは、これまで会社でも一部にしか導入していなかったのですが、Dimensionの魅力に気づいてからは社員全員がDimensionを使えるように、すべてコンプリートプランに変更しました。これなら、Webや映像を手がけるときにも対応できますからね。今後はパッケージに限らず、ブランディングを中心にいろいろなフィールドにチャレンジしていきたいと思っています」
ヘンリー・ホー(Henry Ho)
株式会社GTDI 代表取締役 / TOPAWARDS ASIA設立者
1972年生まれ。香港理工大学グラフィックデザイン学部 卒業。渡日後、1996年株式会社GTDI代表取締役に就任。KIRIN、大塚製薬、資生堂、花王、リッツカールトン、LOTTE、Philip Morris Japan、モンデリーズ、docomo、Blue Bottle Coffee Japan、Taiwan Star Telecom等のパッケージデザインやブランディングを手がけ、JPDA日本パッケージング賞、グッドデザイン賞、Red Dot Design Award等を受賞。
アジア各国が持つ文化がパッケージデザインにも影響されることに興味を持ち、2016年より応募制ではない初の「招待制」アジア限定パッケージデザイン賞TOPAWARDS ASIAをスタート。
Web(GTDI)|https://www.gtdi.co.jp
Web(TOPAWARDS ASIA)|https://www.topawardsasia.com
Dimensionへの取り組みは Adobe MAXでも講演を頂きます、是非こちらもチェックしてください(岩本)