吉岡ゆうこ 「表現を探求する楽しさを思い出させてくれたAdobe Fresco」 Adobe Fresco Creative Relay 06
Adobe Fresco Creative Relay
アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募はかんたん、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートをハッシュタグをつけて投稿するだけです。
8月のテーマは「ポートレート」。
描く対象は家族、大切な人、ペットや自分でもよいでしょう。みなさんが思い浮かべるポートレートをAdobe Frescoで描き、 #AdobeFresco #ポートレート をつけてTwitterにポストしてください。
この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第6回はイラストレーターの吉岡ゆうこさんにご登場いただきました。
テクスチャを活かして描いた女性のポートレート
「テーマがポートレートということで、まず最初に思い浮かんだのは、この丸を敷き詰めたようなテクスチャでした。蓮の花の実のようなこういう柄は苦手な人もいると思うのですが、わたしはゾワっとくるところがすごく好きなんです(笑)。
このテクスチャは、ピンクとグリーンの地色の上に黒のレイヤーを重ねてから、黒のレイヤーをひたすら丸く抜いていくことで作っています。こうしたテクスチャは1色で塗りつぶすのではなく、ピンクとグリーンのように、反対色を使ってニュアンスを出すことが多いですね。
これを描いていて気づいたのですが、子供のころ、いろいろなクレヨンで紙を塗りつぶしたあと、黒のクレヨンを塗り重ねて、それをつまようじで削って絵を描いたことがあって。それに近い効果が出せたのはおもしろい発見でした」
舞台美術に憧れ、空間デザインの世界へ
洗練、スマート、ファッショナブル……そんな形容がぴったりはまる、魅力的なイラストレーションを描く吉岡ゆうこさん。子どものころから絵を描くことは好きだったのものの、現在のような人気イラストレーターに至るその過程にはさまざまな紆余曲折がありました。
「子供のころは紙と鉛筆さえあれば、いつも何かを描いていました。
自分では覚えていませんが、幼稚園のころに通っていた絵画教室の先生は、わたしの絵を『おもしろい絵を描くね』と褒めてくれていたそうです。
でも学校はあまり好きになれず、ともだちも多いほうではなかったので、わたしにとっては“絵がともだち”という感じでしたね。とにかく絵が描ければ幸せでした」
そんな吉岡さんが高校生のとき、自分が目指すべき、目標とする世界と出会います。
「アンダーグラウンドの演劇にはまったんです。東京グランギニョルやロマンチカ……いろいろな劇を見に行きました。劇ももちろんよかったのですが、わたしが特に惹かれたのは舞台美術でした。本当にすばらしくて、これを将来の仕事にしたいと思ったんです」
吉岡さんはその想いを胸に、演劇の舞台美術を学ぶべく、武蔵野美術大学短期大学部 空間演出デザインコースへと進学します。
空間デザインでの挫折、そして広告会社へ
憧れの世界に進む足がかりとして、空間デザインを学び始めた吉岡さんですが、思いもよらず、舞台美術への想いをあきらめることになります。
「入ったのはよかったのですが……わたし、3次元には向いていないことに気づいてしまったんです。最初のイメージは2次元のデザイン画で起こしたりするのですが、舞台美術では立体の設計図も描く必要があります。
3次元を2次元に落とし込むという訓練は予備校のデッサンなどで身につけていたのですが、2次元を3次元に置き換える、頭の転換がどうしてもできなくて。
自分の頭のなかにイメージがあるだけではどうにもならない、自分は2次元でしかものを考えられないんだなとあらためて気付かされたんです」
すばらしい舞台イメージは描けても、それを空間にするための設計ができない。
作りたいものを思うようにかたちにできないというもどかしさに悩みながら、吉岡さんは大学を卒業することになります。
「卒業後は就職せず、しばらくアルバイトをしていたのですが、父の仕事の関係で広告会社に派遣社員として勤めることになりました。
制作部と聞いていたのですが、実際の配属は営業で。忙しい毎日のなかで『このままじゃいけない』『わたしは表現をしたいんだ』という気持ちが強くなっていきました」
そんなとき、予備校時代の友人との会話がきっかけで、吉岡さんの未来に「イラストレーター」という職業が浮かび上がります。
「いまはイラストレーターとして活躍している石坂しづかさんが、当時、『イラストレーターになりたい』と話していたんです。わたしも絵を描くのは好きだし、それを仕事にできないかなと思うようになりました」
イラストレーターのための学校 パレットクラブ
イラストレーターを目指す。そう決意したものの、長いブランクがあり、営業のノウハウもない吉岡さんは、学校に通うことを決断します。
「なにせ何もわからなかったので(笑)。
学校を探しているとき、ふだんから買っていた『イラストレーション』誌にイラストレーターのための学校『パレットクラブ』の第1期生募集広告が出ていたんです。
これだ!と思ってすぐに応募しました。原田治先生もいらっしゃるし、ここなら安心できると思いました」
多忙な仕事とイラストの学校、このふたつを両立させるのは難しいと考えていた吉岡さんは、会社を辞める決意をします。
「とはいえ、仕事を辞めてイラストに専念しようにも、そのままでは暮らしていけないので……会社で仲のよかった営業の方に相談をしたのですが、そこで勧められたのがCMの絵コンテを描く仕事でした。
見よう見まねで作品例を描いて、社内の制作部に配っていただいたら、それがきっかけでフリーのコンテライターとしてお仕事をいただけるようになったんです」
パレットクラブの授業は夜間のみ。それ以外の時間はコンテライターとして絵コンテを描く日々でしたが、ときには真夜中に電話で起こされて、その日の昼には納品するハードなスケジュールの仕事もあったそうです。
コンテライターからイラストレーターへ
コンテライターとパレットクラブをかけもちする日々のなかで、少しずつイラストの仕事が入り始めます。
「パレットクラブでは卒業時に生徒が共同でポートフォリオを作り、出版社やクライアントになってくれそうな企業にお送りするのですが、それがきっかけでイラストの仕事をいただけるようになりました」
吉岡さんの記念すべき最初の仕事は『オレンジページ』の協力店リストに添える女性のカットでした。
「そのころはアナログで描いていたので、マーカーと色鉛筆で原画を描いて送ったのですが、掲載誌を見たときは『わぁ……!』と声が出るくらいに感動しました。母がもう何冊も買ってきてくれて。本当にうれしかったですね」
ひとつの仕事は次の仕事を呼び、徐々にイラストの仕事が増えていった吉岡さん。会社を辞めて3年ほど経ったころにはコンテライターの仕事も辞め、イラストレーターに絞って活動することになります。
早くからPhotoshopを導入
質感のあるラインと手触り感のあるテクスチャでどこかアナログを感じさせる吉岡さんのイラストですが、デジタルツールの導入は早かったそうです。
「実はパレットクラブと同時並行でPhotoshop・Illustratorの教室にも通ったんですよ。谷本ヨーコさんのIllustratorで描かれたイラストを見て、Macを使うとこんな表現ができるんだ、自分もMacで描いてみたいと思って。そこでPhotoshopのブラシやレイヤーといった基本的な機能は身につけることができました。ただ、Illustratorのベジェ曲線にはどうしてもなじめなかったですね」
早速、Macを購入した吉岡さんは、絵コンテの仕事にもMacを活用。イラストの仕事にも徐々にデジタルを取り入れていきます。
「線画をスキャンして取り込んで色をPhotoshopでつけていました。完全にアナログで描いていたのは駆け出しの半年くらいですね。
当時は出版社がデータ入稿を受け付けていないこともあって、そのときはプリンターで出力したものを原画として納品していました。いまでは考えられませんが(笑)」
デジタルに慣れてくるにつれて、ペンタブレットも導入。当初はアナログだった下書きもデジタルに移行していきます。
「紙と鉛筆で描くことに慣れていたので、そのほうがイメージが広がりやすかったのですが、ある時期にふと、スキャンした下書きをもとに清書することが無駄なんじゃないかと思えてきて。スキャンするのが面倒になったとも言えますけれど……(笑)。
いまでは完全にラフから、アイデア出しのスケッチまでデジタルで描いています」
違和感なく導入できたAdobe Fresco
長くペンタブレットでイラストを描き続けてきた吉岡さんにとって、iPadでのスケッチはまったく違和感がなかったと言います。
「実は液晶タブレットが出始めた頃に一度使ったことがあって。そのときはペン先と画面に距離があったり、思った通りに描くことができなくて諦めてしまったんです。その経験があるので、iPadでイラストを描くときにも抵抗感があったのですが、Adobe Frescoではまったく違和感なく、紙で描いているときと同じように描くことができました。
紙で描いてスキャンするのが面倒になって、ラフからデジタルで描くようになりましたが、Adobe Frescoなら、ここで描いたラフもPhotoshopにかんたんに送れますから。すごい便利ですよね」
Adobe FrescoでPhotoshopのブラシがそのまま使えることも、吉岡さんがAdobe Frescoを使うハードルを下げたひとつの要因になっています。
「Kyleさんが作られたブラシの大ファンなんです。有償販売されていた時代からPhotoshopで使っていたのですが、いまはAdobe Creative Cloudユーザーならすべて無償で使えるようになっていて。本当にうれしいですね。
Photoshopでよく使っている、イラストレーター・木内達朗さんが作られたブラシも、Adobe Frescoでそのまま使うことができるので、Photoshopとほとんど同じ環境で描くことができるのもAdobe Frescoのいいところだと思います」
デジタルツールで描くイラストレーターにとって、ブラシは大切な道具のひとつ。
数多くの道具から自分のタッチ、作風に合ったものを選び出すことが重要だと言います。
「PhotoshopやAdobe Frescoにはブラシの種類が本当にたくさんありますが、自分でカスタムして作ることもあります。いつも自分が思うままに描けるブラシを探求しています。
iPadで使えるイラストツールはAdobe Fresco以外にもいろいろありますが、ブラシのような自分が使い慣れた、思い通りに描ける道具をそのまま使えるという点は、Adobe Frescoにしかない魅力だと思いますね」
現在、Adobe Frescoは納品用のイラスト制作ではなく、その前段階のラフやアイデア出しに使っているという吉岡さん。ただ、Adobe Frescoならではの使いかたも生み出しているようです。
「iPadでAdobe Frescoを使うときは、まだ仕事モードになれなくて。リラックスしながらリビングでラフを描いたりするのに使っています。
でも今回イラストを描いてみて、テクスチャ作りにはすぐにでも使えそうだと感じました。
わたしはイラストにテクスチャを多用するので、アクリルや水彩で描いたものをスキャンしてストックしてあるんです。Adobe Frescoにはいろいろな画材のブラシがありますし、色を混ぜるのもかんたん。それを使ってテクスチャを作れば、アナログの画材もスキャンもいらなくなるんじゃないかなと思っています」
デジタルならではの利便性、それを享受しているからといって、アナログに対する想いが消えたわけではありません。
「紙に手で直接描くという行為は、子どものころから変わらない原点だと思っているので、その感覚はなくしたくありません。でも、Adobe Frescoはその原点に立ち戻ったような、アナログの感覚を持っていて。そこにはちょっと感激しましたね」
イラストレータとしての心の支え
テクノロジーやツールだけでなく、メディアやトレンドが移り変わるなか、その変化に柔軟に対応して、魅力的なイラストを描き続ける吉岡さん。
最後に、イラストレーターとしての基礎を築いた、パレットクラブで印象的だったことについて聞いてみました。
「パレットクラブは通常、1〜2年で卒業するのですが、わたしは3年間通いました。プロのイラストレーターとして活動するにはまだ勉強が足りないなと思ったんです。
いまでも印象に残っているのは原田治先生の授業です。
『イラストとはなんぞや』というような哲学的なテーマだったのですが、『イラストっていうのは自分が好きなものを描くんじゃない。商業イラストはクライアントの注文を噛み砕いて、その制限の中で自分の表現をするものなんだ。みんなに受け入れられるものじゃないといけないんだ』ということをおっしゃっていて。
それはいまでもわたしの心にずっと留まっています。
イラストの世界は、いくら過激な表現をしてもアウトではないかもしれませんし、いまは特にイラストとアートの境界があいまいになっています。
でも原田先生のこの言葉は、いまでも、わたしの支えであり、教訓でもあるんです」
吉岡さんは現在、パレットクラブの講師も務めています。
それは、イラストレーターとしての出発点となったパレットクラブへの恩返しなのかもしれません。
イラストレーター
吉岡ゆうこ
Web|https://www.atelier-fabrique.jp
Twitter|https://twitter.com/yuko_bikke/
Instagram|https://www.instagram.com/yukoyoshioka_illustrator/
Behance|https://www.behance.net/atelierfabrique