クライアントの「いい感じにして!」に対応するためのデザインスペクトラム実践のススメ | アドビUX道場 #UXDojo
エクスペリエンスデザインの基礎知識
「いい感じにして!」
このフレーズは、デザイン会議ではごく一般的に聞かれ、業界では決まり文句の一種として扱われています。
しかし、もう少し共感的な目で見てみましょう。私たちが外国語を使うと正しく表現できないことがあるのと同じように、クライアントは、必ずしも自分たちのデザインに対するニーズを明確に表現するのに適切な語彙を持っていないかもしれません。その結果、デザインへの要求に成りすました「あの」一般的なフレーズが使われます。さらに、クライアントチームの中でブランドについての認識が一致していなかった場合には、過度な変更と予算の浪費が繰り返され、双方の不満が募ることになります。
では、こうした問題をどうすれば和らげられるでしょうか?この記事で提案するのは「デザインスペクトラム」の実践です。目に見えないコンセプトを、誰もが理解できる形にしていくエクササイズです。10upのチームは、これを政府機関、高等教育機関、大企業のチームと成功裏に行ってきました。次は、この記事を読むあなたの番です。
極端な例を検討して、より理解を深める
デザインスペクトラムを実践すると、クライアントチーム自体に加えて、彼らの目標、そしてブランドについての共通理解を形にしたフレームワークを作成できます。クライアントのデザインに関する好みが、スペクトルのどこに位置するかを確認し、彼らの特徴を絞り込むことができるでしょう。
現場で作成されたデザインスペクトルのボードの例
会議室で行う場合は、上図のようにチャートをホワイトボードなどに貼って、その上にステッカーを貼り付けます。オンラインで実施する場合には、Miroのようなツールを利用して同じ作業を行うことができます。
Miroを使って記入されたデザインスペクトラムのボード例
これはトヨタとメルセデスのロゴを両端に置いた「ブランドのポジショニング分析の演習のようだ」と思ったのなら、その通りです!この作業では、クライアント側がすでにブランドについての整理ができていることを前提としています。デザインスペクトラムは、そのブランド解釈を視覚的に分解していく作業です。
ブランドを検討する場合と異なり、デザインについて、このレベルでクライアントと議論されることはほとんどありません。むしろ誤って、そのような詳細を議論する必要はないと考えられている節もあります。頭の中でそうしたアイデアを検討するデザイナーは少なからずいるかもしれませんが、それを文書化したり見える形で表現する人は稀でしょう。
ドキュメントを作成すると、クライアントに説明を求めることができます。すなわち、彼らに説明責任が発生します。これは、ステークホルダーの入れ替えがある場合には特に重要です。また、誰もが参照用に利用できるよう公開することもできます。幾度となく終わることのない修正を繰り返えさなければならなかったデザイナーであれば、前提をしっかりと固めておくべき理由に心当たりがあるはずです。
デザインスペクトルの実践
仮定を確認するために、極端なデザインに対するクライアントの反応を確認し、評価を行います。この作業を行うために必要なものは、以下の通りです。
- 4〜5人から構成されるクライアントの選抜チーム(それ以上の人数の場合はグループ分けすることが望ましい)
- スペクトルを表すチャート(印刷、手書き、またはデジタル) – 個々のスペクトルの線が表すものは、使用したい言語や、クライアントにより合った言語にカスタマイズしてよい
- ステッカー(物理的なものでもバーチャルでも) – 匿名化することに価値があるため、コンテキストやチームに応じて、色を割り当てるのか割り当てないのかを判断する
- ワークショップの実施に最低1時間、理想としては、議論のためにさらに30分を確保
最後にひとつ。クライアントはボードに書かれた用語を理解しているでしょうか?最大の間違いは、クライアントが何に投票しているかを知っていると思い込んでしまうことです。デザインスペクトラムは、表面的な発言に留まらず、クライアントの心の声を聴くためうのひとつの手段です。
仮定の確認:1回目
まずクライアントに1回目の投票をお願いして、彼らの理解を確認します。それぞれのメンバーに行(スペクトラム)ごとに1票を投じるよう伝え、投票の際には用語の意味をどのように理解しているか説明してもらいます。これにより、その時点の彼らのデザインに対する理解度のヒントを得られます。
全員の投票が終わったら、ボードを隠します。対面で行った場合は、はがして見えないところに置いておきます。Miroを使った場合は、プライベートボードにコピーしておきます。ここで作成したボードは、後に行うレビューで使用します。
仮定の確認:2回目
最初の投票が終わったら、その場の雰囲気を整えて、デザイナーである自分が用語の意味をどう考えているかということは、実際にはどうでもよいのだと伝えましょう。その通りです。あなたの意見は重要ではありません。スペクトラムに使われている用語の彼らにとっての意味を、クライアント自身の言葉で定義してもらいましょう。
あるチームにとっての「極端」は別のチームの「普通」かもしれません。だからこそ、それを確認するための会話をしているのです。そして、そのスペクトラムを表す用語を評価する最良の方法は、サイトの例を共有することです。競合他社のサイト、刺激的なサイト、挑戦的なサイトなど、クライアントの業界と密接に関連するものと関連しないもの両方とも選択します。これらのサイトの選択は安易に行うべきではなく、デザインチームが徹底的に吟味して、クライアントの目標に沿った例を選ぶことをお勧めします。
10upではこれを「デザインショッピング」と呼ぶ(ワークショップ後のメモ付きのバージョン)
サイトを共有しながら、以下のことを行います。
- 時間が許す限りできるだけ多くのサイトを共有して、掘り下げたい用語を明確化します
- サンプルサイトをひとつずつ見せ、クライアントの好みについて議論しながら、それぞれのサイトがスペクトラムのどこに位置していると思うかを尋ねます
- チーム全員に意見を述べるように促します。その際、一方的な発言を求めるのではなく、会話になるようにしましょう
- クライアントがわからないことがあれば、助けを出します
サイトの例を見ていくうちに、クライアントはデザイン用語について議論する機会を何回もも持つことになります。また、デザイナーにとっては、選択したデザインがクライアントの特定のビジネスやブランドにどのように適合するか、または適合しないかを確認する機会になります。
仮定の確認:3回目
クライアントにサイトの例を説明し終わり、チーム全員の同意が得られたことを確認したら、改めて未記入のデザインスペクトラムのボードを取り出します。
新しい理解に基づいて、クライアントに再投票を促します。時間が許せば、ひとりずつ個別のボードを使ってプライベートセッションを行うのが最善です。しかし、時間が限られていれば、チームとして投票するという選択もあります。
この最後の投票では、クライアントは新たな視点からスペクトルを見ることになります。すなわち、自分たちが何を求めているのか、皆が使っている用語が何を意味しているかをよりよく理解した上で、クライアントは考えを見直す機会を得られます。
完成したら、最初に作成したボードを新しいボードの隣に配置します。チーム全体で話し合い、類似点と相違点がどこにあるのかを確認します。相違点については、話し合って合意を得ます。
確認の際には次のようなフレーズを使用します。
- 「これについて私が理解していることは…」
- 「私が聞いていることはこういう意味でしょうか。つまり…」
クライアントのフィードバックを言い直すことは、クライアントが必要としているものを明確にするための手段を、さらにいくつも提供する価値のある手順です。言い直して確認することで、クライアントが自分の考えを訂正したり変更するための時間を提供できます。少なくとも、これまで経験では、多くの場合にそのような場が生まれました。
実際、外国語を学ぶときのように、話し方を学んでいる人は間違えることがあると想定しておくべきです。このワークショップは基本的に語彙のレッスンです。クライアントが覚えたての言葉を使い、すぐにデザインをすらすらと表現できるとは期待しない方が良いでしょう。
最初のボードと最終的な投票ボードを並べた例
このプロセスすべてを終了する頃には、クライアントがそれ以降のデザインプロセスで参照することのできる、最終的なデザインの方向性を手にしていることでしょう。
クライアントはあなたのデザインパートナー
適切に実施されれば、このワークショップはクライアントに活気を与えます。同時に、デザイナーは、クライアントチームとの方向性を揃えることができます。また、ブランドとビジネスの目標をデザインに変換できることに対するクライアントからの信頼も得られるでしょう。クライアントのための翻訳作業の最初のステップをすでに完了しているためです。
最終的には、デザインスペクトラムを実施することで、デザイン成果物を構築するための強固な基盤を得られます。クライアントのニーズを最初から理解すれば、より早く承認が得られたり、修正を要求される回数の減少が期待できます。ぜひ、お試しください。
この記事はA Design Spectrum Exercise for Navigating ‘Make it Pop’ Client Requests(著者:Lea Alcantara)の抄訳です