Creativity for All: すべての人に「つくる力」を―Adobe FrescoとAdobe Photoshop向けに、キース へリングのブラシを提供
キース ヘリングの作品は、あらゆる点で並外れています。作品に込められたメッセージから、どこに作品を描くか、そして制作に使用した画材にいたるまで、彼の遺産は生き続けており、ストリートアートという言葉を聞けばまっさきに彼が思い浮かぶほどです。彼は「アートはすべての人のためのもの」と信じていたことで有名ですが、その信念を発展させ、あらゆる階層の人々に届くものでなければ「アートに価値はない」とも言っていました。そして地下鉄の駅やビルの壁、スニーカー、人体などをキャンバスに、シンプルな道具やテクニックを使いながら、誰にも真似のできないアートを描くことでそれを実践しました。
アドビは日頃から偉大なアーティストの作品の保存とその共有に取り組んでおり、そうした作品で彼らが使っていたツールを世界中のクリエイターに提供しています。今回は、デザイナーがキースのような作品を創れるように、キース ヘリング財団(英語)のご協力のもと、キース ヘリングのタッチを再現したデジタルブラシを作成し、Adobe FrescoとAdobe Photoshopに無料でお使いいただけるようにいたしました。誰もがアクセスできるデジタルな場に、クリエイターがアート作品を創り出し公開する新たな手段が提供できたと考えています。ただ、これは簡単なことではありませんでした。キース自身がアートを制作していた当時使っていたブラシの筆致を再現するうえで、いくつかの技術的な課題があったからですが、最終的な出来栄えに私たちは満足しており、ぜひ皆さんに使っていただきたいと思っています。
「キース ヘリング財団は、キースの遺産を存続させることに非常に積極的です。そして、アドビが目指す方向性は ”Creativity for All:すべての人に『つくる力を』”であり、アートは民主化されるべきだというキース ヘリングのアプローチと一致しています。アートとは、一部の鑑賞者のために美術館に閉じ込められるべきものではなく、あらゆる人々のものです」と、このプロジェクトを担当したアドビのクリエイティブ ディレクターであるダニエル ヴァーガス ディアス(Daniel Vargaz Diaz)は述べています。
キース ヘリングの画材を再現。それは誰でも手に入るツールと意外性のあるキャンバスの組み合わせでした
アートはすべての人のためのものであるべき、というキース ヘリングのアプローチは、彼が作品を残した場所の選び方だけでなく、アートの制作方法にも及んでいました。彼が使ったツールのほとんどは、専門の画材店に行かなくても手に入るものでした。シンプルなブラシやスプレー塗料を使い、ビニールシートのような支持体(絵を描く表面)のうえに、彼の特徴的なデザインを創り出したのです。そこで私たちは、以下のブラシを開発してAdobe FrescoとAdobe Photoshopで使えるようにしました。いずれもキース ヘリングが好んで使ったツールであり、彼のスタイルを知り尽くした人々の協力によりデジタル化に成功したものです:
- Sumi Ink(墨)
- Marker(マーカー)
- Chalk(チョーク)
- Felt Tip(フェルトペン)
- Acrylic Paint(アクリル絵具)
- Spray Paint(スプレー塗料)
- Dripping Paint(液垂れ)
「これまで私は、よりハイエンドなツールのデジタル化や、特殊効果を生み出すデジタルツールの開発に焦点を当ててきました。今回の課題は、彼が使ったさまざまな画材を分析することでした。誰もが使ったことがある一般的な画材だからこそ、難しかったですね」と、アドビのペイント&ドロー担当シニアデザインエバンジェリストであるカイル ウェブスター(Kyle Webster)は言い、キースのブラシをデジタル化する際に直面した個別の課題を挙げて説明しました。
キース ヘリングのチョーク、マーカー、ペンの再現
ウェブスターは、これらのありふれた画材の、その動きだけでなく、時間の経過とともに変化するさまも含めてデジタル版として再現することに全力を傾けました。
「キースは地下鉄の駅などのチョーク画で有名です。そこで私は、長い時間をかけて、そのテクスチャーを適切に感じられるように調整しました。また、筆圧に対応するようにしたので、高い筆圧をかけると表面により多くのチョークが塗りつけられ、色が濃い、不透明な筆致が残るようになっています。低い筆圧だと、表面をかすめるような感じになります」とウェブスターは説明します。
「キースが使っていたアルコール系のマーカーもデジタル化しました。軽めの筆圧だと、アルコールがインクや顔料を押しのけて、小さなインク溜まりが発生します。それが描いているストロークの輪郭の部分にちょっとした凹凸の形状を作ります。マーカーを使ったことがあれば、描いていてしばらくすると線が途切れがちになることを知っていると思いますが、それも再現しています」
ビニールシートやスプレー塗料を使ったキースのテクニックも再現
キース ヘリングは、ビニールシートに作品を描くこともありました。その際、塗料はシートに吸い込まれることなく、すべて表面に残ります。ウェブスターにとって、このような画材のデジタル版としてキースのブラシを開発する際に重要だったのは、アーティストが実際の画材を使って体験したであろうことを、デジタルにおいても可能な限り忠実に反映することでした。
「キース ヘリング スタジオの人々が、彼がよく墨絵用の筆の、筆毛の長さがすべて同じになるように、筆先の尖りを自分でカットしていたと教えてくれました。筆先で細い線を描くのではなく、一定の太さで描ける切り落としバージョンです。そこで私たちは、平面で切り落とした墨絵ブラシと、半球状に切り落としたブラシの2つを開発しました。後者はアクリル画のような見た目になります」と彼は言います。
そしてもちろん、キース ヘリングはスプレーの使い手として有名です。スプレー塗料の効果を再現するにあたっては、ブラシをコントロールしやすいものにすると同時に、濃度のばらつきや思わぬところに落ちる小さな液滴などの「ハッピーアクシデント」の余地を残した、しぶきの効果を実装することが重要でした。Adobe Frescoでは、スタイラスの筆圧だけで、スプレーの直径や飛散効果をコントロールすることができます。
「それほど知られていない作品のなかには、絵の具がたくさん垂れているものがあります。それらは、絵筆を絵の具に浸してそのまま表面に筆を持っていって描いたもの、あるいは顔料を吸収しない支持体の表面に、顔料がたっぷり付いたアルコールマーカーを使って描いたものだと説明を受けました」と、ウェブスターは述べます。
「短い制作時間で、絵の具をたっぷり使って作業を進めるので、インクや絵の具が時々垂れるわけです。そこで、私たちは、液垂れを再現したブラシをいくつか開発し、そういった効果を作品に加えられるようにしました」
「アートとは魂を解放し、想像力を刺激し、人々を勇気づけるものでなければならない」
このキース ヘリングの有名な言葉は、世界中のあらゆるアーティストが持っている情熱と重なります。今日でも、キースの創造と共有の精神、そしてアートを使って感情をかき立て、変化を起こすという態度は、彼の象徴的なイラストを使った新しい作品や、彼の後を追うように登場してきた、何世代にもわたるアーティストたちのなかに受け継がれています。皆さんもぜひ、キースのブラシを手にして「キースへリング コンテスト」に参加し、自分のスタイルで「世界をより良く」するための作品を、あらゆる人々に開かれたWebというデジタルキャンバスに掲げてください。Creative Cloudの年間サブスクリプションを獲得するチャンスもあります(記事末尾でご案内します)。利用条件の詳細はこちらをご確認ください。
「キース ヘリングが望んでいたように、アドビは一人でも多くの人がクリエイティブであるように支援したいと考えています。私個人としても、彼のアートのスタイルはとても身近に感じられる、やってみたいと思わせるものです。アートを創造するのに、アカデミックな画家である必要はありません」と、ディアスは語ります。
「このブラシのセットを使うと、きっといろいろ実験してみたくなるのではないでしょうか」と、ウェブスターは付け加えます。「実験はいつだって、とても良いことですからね」
これらのブラシが、皆さんにとって重要な問題に人々が意識を向けるようなアートを描くきっかけになることを願っています。キース ヘリングのブラシについての詳細や、皆さんのアートをより大きなコミュニティーに公開する機会について、別の記事でご案内しています。ぜひこちら(英語)もご覧ください。
※この記事は2020年9月9日に公開されたCreativity for All: Adobe digitizes Keith Haring’s brushes in Fresco and Photoshopの抄訳です。