#AdobeforAll Summit レポート なぜニューノーマル時代に多様性が必要なのか〜グローバルトレンドから日本の未来を考える

近年、ビジネスや政治、教育などさまざまな場で「ダイバーシティ」という⾔葉が聞かれる
ようになりました。直訳すると「多様性」という意味で、1 ⼈ひとりが持つさまざまな価値
観や⽂化、考えを尊重し、共⽣する姿勢を⽰した⾔葉です。最近では、こうした多様性を積
極的に受容していくことを「インクルージョン」と呼んでいます。

アドビは、このダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組み「Adobe for All」を加速させるグローバルな社内イベントを毎年開催しています。多様性を受け⼊れて独⾃の⽂化基盤を熟成していくことは、アドビが⽀援してきたクリエイティブ業界のカルチャーにも通じています。なぜなら創造⼒を発揮するには、多様なものの⾒⽅、柔軟性のある発想が不可⽋だからです。

今年のAdobe for All Summitは、⽶国時間2020 年9 ⽉1 ⽇〜4 ⽇にオンラインで開催され、盲ろう者で初のハーバードロースクール出⾝の弁護⼠Haben Girma ⽒や、アボリジニをルーツとするCNN の元ニュースキャスター/ジャーナリストのStan Grant ⽒などによる講演が配信されました。

また9 ⽉4 ⽇には、⽇本の社員向けにOECD(経済協⼒開発機構)東京センター所⻑の村上由美⼦⽒をお招きして「NEW NORMAL 時代を⽣きる GLOBAL から⾒た⽇本の⼈的資源」について講演いただきました。この講演から、今後のニューノーマル時代の⽇本にとって、いかにダイバーシティ&インクルージョンが⼤切なのかを考えていきます。

少子高齢化がもたらす「チャンス」と「課題」

村上⽒は1994 年にハーバード⼤学ビジネススクールでMBA を取得し、外資系⾦融機関の
勤務を経て、2013 年にOECD 東京センターの所⻑に就任しました。アドビの代表取締役社長 ジム マクリディとは家族ぐるみの付き合いで、プライベートな家族時間を⼀緒に楽しむ仲だそうです。

OECD(経済協⼒開発機構)東京センター所⻑の村上由美⼦⽒を紹介するアドビの代表取締役社長 ジム マクリディ

そんな村上⽒が2016 年に上梓した『武器としての⼈⼝減社会: 国際⽐較統計でわかる⽇本の強さ』
(光文社新書)は、OECD の各種統計データから、少⼦⾼齢化が進む⽇本の状況を
分析したベストセラー本です。今回のAdobe for All の講演では、この著作の内容を基に、
今後の⽇本にとってダイバーシティ&インクルージョンの精神がいかに必要なのかを明ら
かにしました。

村上⽒は、「急速に進む少⼦⾼齢化は、実は⼤きな勝機をもたらす可能性があります」との
⾒解を⽰します。その勝機の鍵を握っているのが、ダイバーシティ&インクルージョンなの
です。その理由は何なのでしょうか。村上⽒によると、いま世界では3 つのメガトレンドが起こ
っているそうです。

第⼀に、テクノロジーにより、職場に変化が起こっていること。

第⼆に、世界市場が統合化され、⾃国第⼀主義よりも、実態は相互依存性が進んでいること。

そして第三に起こっているのが、少⼦⾼齢化です。

いま⽇本は少⼦⾼齢化がかつてないスピードで進んでいますが、統計データによると、この傾向は世界的なもので、現在はそれほど⾼齢化が⽬⽴たない国でも、2050 年には現在の⽇本とほぼ同じような状況に陥ることがわかっています。

「少⼦⾼齢化がいち早く進んでいる⽇本では、⾼齢化社会に対応したビジネスチャンスを
いち早く掴むことができます。それは数⼗年後に世界的なチャンスとなることが予想され
るので、いまの状況を活かすことができれば、今後⽇本は⾶躍的な成⻑路線に乗ることがで
きるでしょう。」(村上⽒)

そんな⽇本の問題点は、⽣産性が低いこと。たとえば現在、⽇本における1 ⼈当たりのGDP
は、OECD の平均を下回っています。

なぜGDP が低いのか。理由として挙げられるのが、労働⽣産性の低下です。「実は⽇本の
労働時間は、時間単位で働く⾮正規雇⽤の増加、リタイアした⾼齢者が時短で職場復帰して
いるなどの理由から、相対的に低下しており、いまはOECD の平均とほぼ同じくらいなん
です。すると、これまで時給1000 円で10 時間働いてきたものが、5 時間になり、⽇給が
5000 円となってしまう。働き⽅が変わらず、労働時間が下がったため、収⼊が減少してい
るのです。ここにメスを⼊れ、改善していくことが、⽇本が抱える問題の解決につながりま
す」と村上⽒は説明します。

イノベーションに多様性の許容が必要な理由

前出のとおり、いま働く現場はテクノロジーの進化によって⼤きく変化しています。そのひと
つが⾃動化の流れです。近年のテクノロジーの発展により、「仕事が置き換えられる=機械
による⾃動化が進む」ということがいわれるようになりました。

村上⽒も、「どうしても⼈⼿が必要な部分や、⾼度な専⾨知識・技術が求められる部分以外
は、⾃動化が進む可能性があります」と述べますが、同時に「⾃動化が進むことで、⽇本の
問題点を解消し、チャンスにつながる可能性があると思います」との⾒解を⽰します。
その根拠は、⽇本⼈の基礎学⼒は、読解⼒・数的理解⼒共にOECD トップのため。基礎学
⼒があるので、来るべき⼤きな環境変化の際に、⼀から学校で学び直す必要がなく、スキル
アップに取り組める余地があるのです。

「先ほど、テクノロジーによる変化がグローバルなメガトレンドとして起こっていると説
明しました。その波に数多くの⼈が乗ってこそ、⼤きなイノベーションが⽣まれます。そし
て⽇本の⼤多数は、この波に乗れる基礎的な能⼒がある。これこそ、⽇本が今後⼤きなチャ
ンスを掴めるという根拠です」(村上⽒)

⽇本は研究開発に対する投資額も多く、特許も多数持っていて、国際的に⾒ると技術⼒は⾮
常に⾼いのです。それでも近年、⽇本はイノベーションから遠ざかっているというのも事
実。その理由について村上⽒は、「底⼒や経済⼒、技術⼒はあっても、価値を⽣み出すイノ
ベーションにつながらないのは、『つながる⼒』が不⾜しているからです」と説明します。

つながる⼒とは、異質な考えや多様な⾒⽅を取り⼊れ、1+1 を 3 や 5 にする⼒のこと。

⽇本の場合、たとえば特許を取る場合も、同じバックグラウンドを持つ同じ企業内の研究チー
ムが取ることが多いのですが、これは国際的に珍しいタイプとのこと。多様なバックグラウ
ンドの⼈々が⼀堂に介し、違うものの⾒⽅や、多⾯的な考えを取り⼊れて、これまでになか
った新しい価値を創出する̶̶そういう環境や、多様なものを受け⼊れる⼒が不⾜してい
るのが、いまの⽇本の状況です。

「英語では、「Agree to disagree(同意しないことに同意する)」というのですが、違った
視点を持っている⼈たちをお互いに尊重しあうことで、新しい気づきやアイディアが⽣まれ
ます。⽇本ほど基礎的な底⼒が優れている国はそれほど多くないので、多様性を受け⼊れ、
尊重する環境を作ると、伸び代がある分、⼤きなイノベーションが⽣まれると信じていま
す」と村上⽒はいいます。

イノベーションを興すリーダー/チームとは

村上⽒は講演後、アドビの福⽥浩正との対談を⾏いました。

社員を代表して村上氏に質問するアドビの福⽥浩正

「これまでのキャリアを通し、リーダーとして何が最も⼤切だとお考えですか」という福⽥
の問いに対し、村上⽒は、「1990 年代は、圧倒的なカリスマ性で組織を引っ張っていくリー
ダー論が主流でしたが、いまは多様な意⾒に⽿を傾け、⽺飼いのように⼈々の後ろから優し
く誘導するリーダーが求められています。特にコロナ禍で不確実性が増すこの時代、多様な
可能性の芽をつむのではなく、さまざまな考えを持つ⼈々を後⽅⽀援できるリーダーこそ
が必要なのではないでしょうか」と答えました。

では、組織の⼀員としてインクルージョンに貢献するには、どのような点がポイントになる
のでしょうか。村上⽒は「Agree to disagreeという感覚を養うことが必要でしょう」との考
えを⽰します。「⽇本社会は、どちらかといえば同質性が⾼く、Agree to disagreeのマ
インドをなかなか持ちにくいかもしれません。そのマインドがどれだけあるのか、⾃⾝に問
いかけるだけでも、感覚を養うのに重要だと思います」と述べ、ダイバーシティ&インク
ルージョンの観点を 1 ⼈ひとりが持つことの重要性を説きました。

アドビでは、さまざまな国籍や⽂化背景を持つ社員が働いています。アドビはこれからもダ
イバーシティ&インクルージョンを推進していくと共に、多様性にあふれた社会の実現に
向け、製品やソリューションを通じて貢献していきたいと考えています。