Photoshop Camera レンズクリエイター インタビュー Vol.3 クロカワリュート「Photoshop Cameraは自分の作った世界観を、 使う人がさらに広げてくれる」

連載

Photoshop Camera レンズクリエイター インタビュー

すでにたくさんの方にご利用いただいている Adobe Photoshop Camera。被写体に合わせて写真に最適なエフェクトを瞬時に適用する魔法のような「レンズ」も続々と追加されています。

世界中のアーティストが制作、提供する多種多様なレンズは、使って楽しむだけでなく、自分でレンズを制作して世界中のユーザーに使ってもらうこともできます。

そこで、Photoshop Cameraのレンズ制作に携わった日本のクリエイターの方々に、作品のコンセプトやこだわりのポイント、制作にまつわるエピソードなどを連載でご紹介しています。

第3回目は、フォトグラファーのクロカワリュートさんにご登場いただきました。

ポップでカラフルな世界観を誰でも手軽に体験

クロカワリュートさんは、パッと目を引くポップでカラフルな写真が特徴のフリーランスフォトグラファー。そのクロカワさんが制作した「SugarMePop」レンズは、被写体の人物が背景から切り取られ、カラフルなバック紙のような背景および幾何学的なグラフィックと合成されます。まさにSNSで大人気の「#SugarMePop」シリーズのモデルになったような気分を味わえるレンズです。

この最新のレンズは、Photoshop Cameraから無料でダウンロードできるので、ぜひ試してみてください。

クロカワさんは、ディレクターやプロデューサーを経験後、副業として始めた写真がSNSで話題を呼び、2019年6月にフリーランスのフォトグラファーとして独立。現在は有名企業の広告撮影を中⼼にアーティストやアパレルの撮影を行っており、場合によってはアートディレクションまで行うなど幅広く活動しています。

今回のレンズを制作するにあたって、初めにどのようなコンセプトを考えられたのでしょうか。

「最初はいわゆるカメラのフィルター機能みたいな方向で考えていたんですけど、アドビチームの皆さんともお話ししていく中で、『もっとクロカワさんらしさを出したほうがいいのでは』というアドバイスをいただき、だったらフィルターというよりも、僕が普段作る世界観をそのまま表現して、カメラに写る被写体の人がその世界に飛び込めるようなものにした方が面白いんじゃないかと思いました。

ちょうどそのタイミングで、僕個人のアートワークでも、写真と幾何学的なグラフィックを組み合わせた作品を作ることがあって、これだったらいろいろなバリエーションが出せるんじゃないかと思い、今回それをPhotoshop Cameraに移植したような形になりました」

クロカワさんの作品の特徴といえば、何と言ってもポップでカラフルな色使い。今回のレンズ制作においても、かなり色へのこだわりがあったようです。

「色はなるべく中性的に考えました。普段は女性を撮ることがほとんどなのですが、今回は男性でもポップにはまるようにしたくて。例えばピンクでも可愛くなりすぎないようにするとか、かといって男性に寄りすぎないようにするとか、そのあたりのバランスには特にこだわりました。

それと今回は、色と形の組み合わせにも重点を置いています。ピンクなどの柔らかい色は甘い表現になりがちなので、シャープなグラフィックを合わせてみたり。逆に強めの色には丸みのあるグラフィックを合わせてみたり。それだけだと面白くないので、ブルーやイエローのようにバキッとした色にあえてエッジを効かせたグラフィックを合わせて、小さいお子さんが使っても可愛いような、年齢性別を超えて楽しんでいただけるものを目指しました」

クロカワさんは、このレンズをどのように活用してもらいたいと思っているのでしょうか。

「こんなシーンで、こんなふうに撮ってほしいとか、そういったものは全くなくて、ほんとうに普段の日常の中で気軽に使っていただければと。新しい洋服を買ったとか、髪型を変えたとか、ネイルがうまくいったとか、そういうシチュエーションで自撮りする方って結構多いと思うんです。このレンズはロケーションに依存しないので、部屋が散らかっていても、多少天気が悪くても気にせず、撮りたいと思った時にどんどん撮っていただきたいですね。

実際にみなさんがこのレンズを使ってどのように撮ってくれるのかすごく楽しみです。おそらく僕が想定しているものもあれば、全く想像になかったものが出てくるかもしれない。そこの可能性というのが、今までにない新しい感覚なので、ぜひいろいろな撮り方にチャレンジしてもらえると嬉しいです。

それと、このレンズで撮った写真は余白が結構多いので、文字を入れたりとか、落書きしてみたりとか、いろいろといじって自分なりのオリジナリティを出してみるのも面白いと思います。僕も知らなかったんですが、Photoshop CameraからワンタップでPhotoshop Expressという画像加工アプリに切り替わり、写真にテキストやスタンプなどを追加したり、コラージュなんかも作れたりするので、ぜひ試してみてください」

Photoshop Camera レンズの制作過程

クロカワさんにとって、レンズ制作は新たな挑戦であったわけですが、戸惑いや不安に感じたことはあったのでしょうか。

「なにしろ初めてのことだったので、最初は作れるのかな?という不安はありました。1つは技術的な部分で、それはPhotoshopで作れるということを聞いて、だいぶ気が楽になりましたね。

もう1つは、僕自身ではなく、ユーザーのみなさんが撮るという点。プロとしての観点で言うと、手軽に撮れない写真を撮るのがプロじゃないですか。普段の仕事だったら、撮影の技術だったり、世界観だったりが求められるのですが、でも今回はそうじゃなくて、みなさんがどうやったら僕の世界観をうまく表現できるのかを考えなければならない。そこは結構悩みましたね。カメラマンとしての頭ではなく、アートディレクターとしての頭で考えることが大事なんだと思いました」

Photoshop Camera レンズ制作の醍醐味は?

制作していく中で、一番苦労された部分、逆に楽しかった部分はどんなところだったのでしょうか。

「やっぱり、このレンズの方向性を決めるまでが一番苦労しましたね。自分の写真はすごくミニマムなぶん、被写体のポーズとかトリミングの仕方がすごく重要になってくるんです。それをユーザーのみなさんが自身でやるわけなので、このレンズの特徴を出すにはどういう表現にすべきか、背景だけ色をのせるのか、グラフィックをどれくらい入れるべきなのか、もっと柄物とか入れた方が面白いんじゃないかとか、試作の段階で結構な数のバリエーションを作りました。 制作時間の大半を方向性の模索に使ったと思います。

まあ、ここが一番苦しいところでもあったんですけど、同時に一番楽しいところでもありました。なにしろ、自分の作ったものを見てもらうのではなく、使ってもらうというのは初めての経験。ユーザーのみなさんがどういったものを求めているのか、どうしたら楽しんでもらえるのか、使ってるシーンとかシチュエーションとかを想像しながら考えていくのは、僕自身の頭の体操というか、考え方として成長した部分が大きかったかなと思います。

僕の作風を好んでいただいた上で、それがどう展開できるのかという可能性を感じてもらって、そこに対してアンサーをしていくというのは、クリエイターとしての醍醐味ではありますね」

通常のお仕事でPhotoshopをバリバリと使われているクロカワさんですが、今回のレンズ制作を通して、普段あまり使われていない機能や使い方など、何か新しい発見みたいものはあったでしょうか。

「使い方というよりは、データの作り方で見直した部分はありましたね。普段あまりレイヤー構造を人に見せることはないのですが、レンズの制作データはレイヤー構造を保持したまま後工程に渡さなければならないので、変な緊張感がありましたね。なるべくシンプルに、きれいにまとまったレイヤー構造にしたほうがいいなと改めて思いました」

大事なのは自分らしさを表現すること

最近SNSなどにおいては、ナチュラルな写真やフィルムっぽい写真が流行っている中で、クロカワさんは敢えてスタジオで撮影し、加工もする。そんな逆張りの姿勢が、クロカワさんならではのオリジナリティを生み出しているのかもしれません。

そんなクロカワさんが、次にレンズを制作するとなった場合、どのようなものを考えているのでしょうか。

「PhotoshopやAdobe Senseiの技術も年々上がっているので、それらを上手く使って、いろいろと試してみたいですね。とにかく人がやっていないことをやってみたい。人が分身したりだとか、2つ違う顔になっているだとか、もっと異世界というか、嘘な世界が作れると面白いですね。

写真は写真としていろいろな表現がありますが、でもPhotoshop Cameraって、写真そのものの持ち味というより、もっと拡張していく方向なんだなと感じました。僕もそのタチなんですよね。写真を写真としてそのまま使うことはあんまりなくて、写真を作るというよりは、アートワークを作る、デザインを作る、クリエイティブを作るというのが僕のマインドなので、すごく近い部分があるのかなと思いました」

最後に、これからレンズを制作してみたいと思っているみなさんに向けて、何かアドバイスがありましたらお聞かせください。

「最初はPhotoshop Cameraのレンズをいろいろと試してみて、そこに結構影響されて寄せちゃった部分があったんです。だけど制作しているうちに、自分らしさをもっともっと出した方がいいんだなって。臆せず、ビビらず、もっとわがままに自分のカラーを思いっきり主張したレンズを作ってもいいんだなって思いました。最終的には全部出し切ったという感じで、自分なりに納得のいくものができたと思います。

なので、みなさんも自分らしさをバリバリ出してみてください。それが、Photoshop Cameraの本来のコンセプトなんじゃないかと思います」

アドビでは、Photoshop Cameraの新しいレンズの制作にご協力いただける方を募集しています。

Photoshopをご利用のクリエイターの方で、興味のある方はこちらから詳細をお確かめください。

※応募いただいた後のコミュニケーション、コミュニティでは英語が必須となります。

クロカワリュート

フォトグラファー

1985年東京生まれ。広告代理店や事業会社にてディレクター・プロデューサーを経験後、フリーのフォトグラファーとして独立。ディレクター時代の経験を活かし、カラフルでポップなアートディレクションを得意とする。広告領域を中心に、アパレル、アーティストなども撮影。
Twitter:https://twitter.com/ryuto_kurokawa
Instagram:https://www.instagram.com/ryuto_kurokawa/