リモートから働くデザインチームのコミュニケーションを改善するベストプラクティス | アドビUX道場 #UXDojo

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エクスペリエンスデザインの基礎知識

デザインはチームスポーツです。しかし、このゲームのルールは、パンデミックによって書き換えられてしまいました。

これまでもデザインリーダーたちは、デザイナーが仕事を完了するために必要なツールを利用できるように支援してきました。しかし、突然チームメンバーやプロジェクト関係者がホームオフィスから働き始めた時に、効果的に協業するにはどうすればよいのでしょうか?物理的に離れた場所にいるメンバー同士が効率的にチームワークを保つには?デザイナーのアイデアを広げ、ポジティブな協業を維持できるワークフローとはどのようなものでしょう?

これらの質問への回答を求めて、アドビはロンドンで働く3名のデザインリーダーから話を聞く機会を持ちました。イギリスのほとんどのビジネスがオフィスを閉じざるをえなくなり、人々が家から働くようになった少し後のことです。彼らはその場で、リモートワークのベストプラクティスや注意点を共有してくれました。

これから、リモート環境でのデザインチームのコラボレーションに関するいくつかのアドバイスを紹介します。

ホームオフィスのイラストの上に配置されたアニタ=マイ・ゴールディング、レベッカ・ファーガソン、マット・サンダース、コンスタンティノス・ディマコスのアバター。

アニタ=マイ・ゴールディング(アドビ)が開催したインタービューには、レベッカ・ファーガソン(ThoughtWorks)、マット・サンダース(McCann)、コンスタンティノス・ディマコス(EY Seren)が参加した 出典: レベッカ・ファーガソン

対面の協業とバーチャルの協業

クライアントのオフィスなどで対面している相手と働く場合と、自宅にいてリモートの相手と働く場合では、協業に必要な心構えに大きな違いがあります。

「同じ部屋に集まって、皆が何をしているのか見ることができるなら、コメントするのは容易です」とグローバルソフトウェアコンサルティング企業のThoughtWorksでデザインリーダーを務めるレベッカは話します。「協業は自然に発生します。それは、同じ目標に向かって同じ製品をつくろうとしているからです。デザイナーであれば、何かをスケッチして、隣に座っている開発者に見せて、そのアイデアについて会話したり、ブレインストーミングを行うこともできるでしょう」

リモートから働くときも、そうした連携を可能にしておく努力をすることが重要だとレベッカは指摘します。

「コラボレーションはビジョンを共有するために必要です。ひとりでアイデアを突き詰めてもたどり着ける先は限られています。ですから、アイデアを共有する必要があるのです。幸運なことに、私たちにはそのために利用できる技術があります。Adobe XDのようなデザインツールもオンラインの協業に対応しています」

ホームオフィスから熱心に働くレベッカ・ファーガソン。

ちょっとした日常会話の時間を持つなど、一見小さなことも、気分を高揚させ、リフレッシュし、連続したビデオ会議で力尽きないようにするためには重要です。レベッカは、世間話をせずにすぐビデオ通話を始めるべきだと考えている人が多いことに気づきました。

「机をはさんで行っていたような、自然に発生していた会話を試みる、もしくは別の何かと置き換えることが必要です。もしクライアントと新しい関係を構築しようとしているのなら、コーヒーを飲んでいるかのように振舞って、プロジェクトとは関係のない、彼らのしている何か別のことについて話してみましょう」

エージェンシーMcCannでリードデジタルデザイナーとして働くマット・サンダースはこれに同意して、ミーティングをゆっくりと始めることを提案します。「イントロで雰囲気をやわらげ、打ち解けた状況をつくります。仕事の話を始める前に、ちょっとした会話をしましょう。それだけで実際に違いが生まれます」

リモート環境でのコラボレーションにおけるベストプラクティス

COVID-19のために、企業は仕事のプロセスを最適化し、新しい状況に適応することを強いられています。たとえばMcCannでは、全てのチームメンバーが適切な機材やソフトウェアのトレーニングを必要なときにいつでも利用できるようにしています。

「最初の数週間、私たちはとりあえず一歩ずつ進む先を見つけながら、自宅から働くという新しい状況に慣れてきました。一部には家から働いた経験が全くない人々もいました。そのため私たちは仕事の会話を続けながら、一方でちょうど良いバランスを探さなければなりませんでした。これは家族全員がロックダウン下にある状況では、特に困難なことでした」

重要なのは、チーム内の文化の確立と、チームメンバーとの注意深い会話です。

イノベーションコンサルティング企業EY Serenでシニア製品デザイナーを努めるコンスタンティノス・ディマコスは、「自分自身をチームに没頭させ、誰でも受け入れる姿勢を持つこと」を推奨します。「一部の人は内向的で、カメラに映ることを好みません。人々の背景を理解して、それを協業のタイプを選択するための基準として使いましょう。ツールはA地点からB地点へ移動するための乗り物のようなものに過ぎません。信頼と許容こそがチームが育てるべき基盤です。より多く投資するほど、その結果は良くなります」

一方、マットが家から働くようになって発見したことは、普段はあまり支援を求めないどちらかといえば無口なチームメンバーを巻き込むことが容易になったという点です。リモートコミュニケーションは、彼らが自分たちの声の伝え方を見つける機会になりました。

しかし、それに対する反応の仕方はとても重要です。「お互いに共有してコメントできることは重要ですが、メールやチャットの使い方についても配慮が必要です。誤解される可能性があるからです」と彼は指摘します。

「細かいことまで管理し始めると、協業がとても難しいものになります」とレベッカは付け加えます。「リモートからの仕事では、期待するほどには互いの状況が分からないものです。そのため、コメントによっては相手をおじけづかせる可能性があります。特に、時間が無い時に誰かを追求しているときは危険です。用件を伝えたら、相手に耳を傾けましょう。ほんのちょっとした確認の手続きが、状況を一変させることもあります」

チーム管理をリモートから行うことはさらに困難です。特に、いつもと異なる振る舞いをしている相手をボディランゲージから見分けられないのは大きな障壁です。この点について、マットは次のように語ります。

「ひとり一人と会話をし、彼らに問題がないかを確認しなければなりません。ビデオ会議であっても、対面ほどボディランゲージを読み取れるわけではありません。カメラや音声がオフになっている場合もあるでしょう。McCannでは、毎朝カメラを使って状況を把握するよう試みています。見た目は気にせず、まず互いの存在を見て確認するのです」

コンスタンティノスも同じ意見です。「相手を見て、視覚的なつながりを持てるのはとても重要な意味を持ちます。チームが求めているものや感じていることのヒントをつかみ取る必要があります」

シニア製品デザイナーのコンスタンティノス・ディマコスがチームメンバーとストーリーボードについて協業している。

イノベーションコンサルティング企業EY Serenで、チームと働くシニア製品デザイナーのコンスタンティノス・ディマコス

また、マットは組織に対する変更が一般的に5種類の損失につながることを指摘しました。管理、プライド、親密さと経験、状況理解、そして時間です。それらの損失に対処することで、損失の中を歩むチームの助けになれます。それぞれが体験したことについてチーム内で率直に話しましょう。そうすれば新しい働き方への移行をより良い形で、より容易に進められます。

共感的で柔軟であることにより文化を育む

現在の状況は強制されたものではありますが、異なる働き方が可能であることの証明になりました。クライアントは、デザイナーがリモートからでも効果的に働けることを理解しつつあり、それによって多くの移動時間が不要になっています。以前であればワークショップを企画して集まっていたようなプロジェクトが、今ではビデオ会議ツールを使ってスタートすることも珍しくありません。また、多くの企業が、スタッフがリモートから働くことに以前よりも寛容になりました。こうした企業は全国から優れた才能を持つ人を採用することができるでしょう。

レベッカは次のように信じています。「この先より多くの扉が開かれることになるでしょう。これまで障害を理由に採用を拒んできた企業がたくさんあります。彼らのオフィスがアクセシブルではなかったために職場を提供できなかったケースです。しかし、もはや人がリモートから職務を果たすことを拒む理由はありません」

ホームオフィスから働くことは、仕事とプライベートのバランスに良い影響を持つことになるかもしれません。その際、すべての人のニーズに対する柔軟性と共感がカギになります。たとえばMcCannでは育児に対応できるように柔軟な勤務システムが実現されていて、社員は家族の都合に最適な勤務時間を選ぶことができます。

モニターの向こう側で同僚を見渡すマット・サンダース。

McCannのマット・サンダース

「チームやクライアントのことをより良く理解できるようになりました」とマットは指摘します。「ビデオ会議の画面を走って横切る子供の存在が、私達は人間であることを示してくれます。それは、ライフバランスを保つこと、あるいは、仕事以外の課題への共感を私たちに与えてくれます」

これからの働き方

コラボレーションはスキルです。学術的な研究成果を探したり、トレンドを追うのではなく、自ら学び対応する必要があります。人々と話し、フィードバックに耳を傾け、必要性に応じて自然にコラボレーションを進化させましょう。

「仕事をリモートからこなす達人でないことを気にすることはありません。リラックスして、何が自分にあっているか時間をかけて探しましょう。人としての振る舞いに気を配ることを忘れずに」とレベッカは励まします。

全てのチームは異なります。そして、効果的なコラボレーションは、メンバーの作業場所を含む、チームの構成要素に依存します。たとえばThoughtWorksのデザインリーダー達は、自分たちの失敗からメンバーが学べるように、彼らの体験のサマリーをメールで共有しています。

コンスタンティノスの結論は次の通りです。

「この状況から私たちが学んだことは、かなり直感的です。私たちは何がうまくいって何がうまくいかないのかを見つけるために、いろいろなことを試してきました。それは実に型破りな探索で、誰もが仕事を完了する方法に対してとてもクリエイティブになりました。そうして、チーム全体がリモートから共に働くことは、数名だけが集まって働くよりもずっと良さそうだということが判明しました。重要なのはお互いの働きかけで、それはチームとのつながりの深さから始まります。この状況が一段落した時、次世代のリモートワークを始めるためのしっかりとした調査結果を手にしていると、私は確信しています」

この記事はBetter Design Collaboration Across Remote Teams(著者:Oliver Lindberg)の抄訳です