Mue Studio:その歴史、インスピレーション、アート #Adobe Stock
Adobe Stock ビジュアルトレンド
以前公開したチュートリアルでは、ビジュアルアートチーム Mue Studio の Minjin Kang氏とMijoo Kim 氏が見事なテクニックを披露してくれましたが、ご覧いただきましたか?
両名が27枚の無料3D素材からなるAdobe StockのコレクションとDimensionを使用して制作し、その手順をチュートリアルで解説した「Leaves on Water」。2020年を特徴づけるデザイントレンドであるセミ・シュルリアルにインスパイアされた、息を呑むような一枚です。
「Leaves on Water」(Mue Studio作)
このコラボレーションの一環として、クリエイティブ界隈の人々にMinjin氏とMijoo氏のバックグラウンド、創造性、アーティストとしてのビジョンなどについてもっと知ってもらいたいと考えました。彼らの作風は柔らか、開放的、ドリーミー。独特の構成美がこの閉塞感のある時代に寄り添い、見る者を非日常へといざないます。今回はこの2名のすばらしいアーティストに迫り、活動の原動力を探ります。
おふたりの個人的なバックグラウンドについてお聞かせください。なぜクリエイティブの道へ進み、ビジュアルアートを選んだのですか?
**Mijoo:**もともとは大学でコンピューターサイエンスと統計学を学んでいました。大学2年の頃アート写真の撮影に夢中になり、結局課程を移って、ドキュメンタリーフォトグラファーを目指すようになったんです。影響を受けたアーティストはHenri Cartier-BressonとJosef Koudelka。彼らはストリートフォトグラフィーの先駆者で、ポートレイトや街並みをユニークに切り取ります。「決定的瞬間」のとらえ方や、何が見えるかだけでなく、どう見えるかにもこだわる姿勢に引かれました。
フォトグラフィーは語りかけ、意味を持ち、社会に訴えかけるものだという思いから、韓国の移民労働者や女性ダイバー(haenyo:韓国語で「海女」)をメインに撮るようになりました。彼らがどういう集団で、社会の中でどのように扱われているかを理解し、表現したかったのです。シリーズ「Haenyo, The Mother of the Sea_」では、_海女の方々の美しさだけではなく、人生の中で困難に直面したときの勇気や粘り強さなども映し出せたと思います。
**Minjin:**ずっと仲の良かった祖父が肺がんになったんです。もう先は長くないと。彼なしの人生なんて考えられませんでしたが、とにかく、亡くなる前に何か思い出になるものがほしいと思いました。そこで私は祖父の闘病生活を写真で記録に残そうとしたものの、これは私にとっても祖父にとっても苦痛であり、困難を伴うものでした。この、いわば人生の節目とどう向き合えばよいのか悩んでいると、祖父には友人が多かったことを思い出しました。友人たちのポートレイトを撮ることが、祖父との思い出として残り、祖父の人となりを思い出させてくれるものになると直感しました。
こうして写真を撮り始めると、祖父の人生や人となりがよくわかってきました。私の最初のフォトシリーズ「Grandfather」はたくさんのポートレイトを通じて祖父を表現したもので、おかげで健康で幸多き人生をまっとうしたという祖父のイメージが私に息づいています。創造力というパワーを実感したのはこのときですね。
おふたりはいつ、どのようにして出会ったのですか? Mue Studioというビジュアルアートチームを結成した理由は?
**MinjinとMijoo:**2006年にふたりともシカゴ美術館附属美術大学に転入して、そこで知り合いました。暗室で一緒に作業しているうちに仲良くなった感じですね。美術大学では、お互いの作品にフィードバックし合ったり、必要に応じてお互いの制作を手伝ったりしていました。2015年に私たちはニューヨーク市に引っ越して、本格的に共同制作をスタートさせました。最初のプロジェクトはシリーズ「Coney Island: Paradise at the End of New York」で、それ以来クリエイティブデュオとして各地を訪問しながら制作に励んでいます。
「Astro Tower and Thunderbolt」(Coney Island: Paradise at the End of New Yorkより)(Mue Studio作)
ビジュアルアートチームとしてのアート開発プロセスは?
**MinjinとMijoo:**毎週ディスカッションをして、インスピレーションを促しつつ(個人的に/共同作業として)面白そうな手法を考えています。こうしたミーティングは制作プロセスを進める場でもあり、スケッチを描いたり、コンセプト案を出したり、後処理作業したりしながら軌道修正していきます。常に会話を重ねていくこと、そしてお互いのインスピレーションやビジョンを共有することで私たちの共同作業は前進していくのです。
フォトグラフィーから3Dに転身した理由は?
**MinjinとMijoo:**ふたりともフォトグラフィーから出発しましたが、アーティストとしての未来を考えるようになったときに、「フォトグラフィーは従来の2Dという領域をあっという間に超えていく」という説に感銘を受けまして。そしてこの時期に出席したAdobe MAX(2016年、2017年)で、Adobe Dimension(旧Project Felix)が発表されました。このデザインツールがあれば、私たちは2Dを飛び出し3Dに進出できると確信したのです。
「Young Moon」(Somewhere in the Worldより)(Mue Studio作)
2Dと3Dの共通点は? それぞれの特徴は?
MinjinとMijoo:フォトグラフィーと3Dには共通点もあれば、相違点もあります。まず大きな違いですが、3Dの場合は視覚的な基点なしで空白のキャンバスから作業を始めます。ドキュメンタリーフォトグラフィーはその対極にあります。既に存在する視覚的スペースを使用するため、場所、時間、天気に左右されます。そしてカメラの技法を駆使してシーンを再フレーム、再構成します。
こうした違いはありますが、最終目標は(他のアート手法同様)どちらも同じで、思い描いたとおりの作品に仕上げることです。そこに至るまでの道が異なるということですね。
「The Modern Paradise, Calpe, Spain」(写真)および「Pink Cloud over the Ocean」(3Dレンダリング)(Somewhere in the Worldより)(Mue Studio作)
均等割り付けカラーパレットを使用してブルーやピンクの柔らかなトーンを出していますよね。作品におけるカラーの位置づけは?
MinjinとMijoo:カラーは私たちの作品において非常に重要な役割を担っており、カラーの選択とアートの制作は切っても切り離せない関係にあります。カラーパレットがかみ合わないと、雰囲気や気持ちを伝えることはできません。柔らかい色使いにするのは、各シーンに、やすらぎ、透明感、安心感を加えるためです。カラーは微妙な感情を描き、伝えるための強力な要素なのです。
余白と柔らかな並行光源を生かしたミニマルなデザインをされていますよね。ドリーミーな非日常性も感じられます。このような視覚的要素にこだわる理由は?
MinjinとMijoo:ミニマルですっきりオープンなデザインは、私たちのビジョンを表現するのに最適なスタイルです。大事にしているのが「少ないほど良い」という感覚。こうしたアプローチこそ、心地よさを感じてもらうのに非常に効果的なのです。ごたついた作品やシーンでは、心地よさはなかなか感じられませんから。
さらに、柔らかな光と平行光源を取り入れた構成で夜明けや夕暮れを表現しています。太陽が昇ったり落ちたりする瞬間に人々は周囲に対し非常にオープンになります。朝夕の空にはフルスペクトルのカラーを施し、心理学で言うところの(ヒトやその他の生物のそれを含めた)自然のサイクルを表しています。日の出と夕日のカラー、トーン、構成により、人の心に訴えかけます。こうした視覚的な刺激が感傷ややすらぎなどの微妙な感情を呼び起こすのです。
「Staycation」(Somewhere in the Worldより)(Mue Studio作)
どこからインスピレーションを得ていますか?クリエイティブなビジョンを養うのに役立つ視覚的体験/実体験は?
**Minjin:**日常的なあらゆる体験からインスピレーションを得ています。例えばニューヨーク市。ここは私のように散歩や散策好きの人間にとっては最高の場所です。ストリートで見るもの、聞くもの、感じるものすべてが創造性を刺激してくれます。物理的にも精神的にも、多くのものに囲まれて生活しているので、ビジュアル作品ではその逆を表現するようにしています。
Mijoo:長年フォトグラファーをやっていますが、他の手法にもずっと興味はありますし、様々なジャンルで活動するアーティストとコラボしています。画家から彫刻家、ミュージシャンに至るまで、ありとあらゆるアーティストから刺激を受けます。Minjinと同じように、普段街中で見る建築物や触れる文化にもインスピレーションを受けますし、人間そのものや生きていく環境にも強い興味関心があります。
いま、世界ではたくさんのことが起きています。穏やかな気持ちややすらぎを与えてくれる作風のおふたりですが、このような時代の様々なことから逃れたい人々にどう作品を受け止めてもらいたいですか?
**Minjin:**やすらぎや安心感を維持するのは大変なことです。私のビジュアル作品を見てくださった方々には、世界のどこかにこの景色が存在していると思ってほしいです。やすらぎ、安心感、心地よさを感じていただければと。私のメッセージは変わりません。人々がデジタルを通してつながる世界、ビジュアルコンテンツがあふれる世界に、心を休めるひとときを提供したい。人々が現実から逃避し、希望を持てるような場をつくりたいのです。
**Mijoo:**見た方が心地よさを感じ、誰もがより良い世界を夢見ることができるような作品をつくる。それがアーティストとしての私の役割です。物事の現状にもっと肯定感を持ってほしいし、世知辛い世の中やいらだつこも多い社会でほっと一息つけるようになってほしいです。「この画像を見ると落ち着きます」、「もはやASMR画像ですね」といったコメントをいただくたびにうれしく思っています。こうした感想をいただけるとアーティストとして力がわきますし、私たちの作品を見て考えたこと、思い出したこと、まつわるストーリーなどを共有してもらいたいですね。
「Breeze」(Somewhere in the Worldより)(Mue Studio作)
自分たちの作品を3フレーズで表現するなら?その理由は?
MinjinとMijoo:瞑想、空想、シューリアル。ファンタジーとリアリティーの境界をあいまいにして、融合させたいと考えています。人々をドリーミーな空間にいざない、私たちのシリーズ「Somewhere in the World」に引き込みたいですね。どこにあるかわからないけれど、どこかにはきっとある。そんな世界のどこかを切り取ったシリーズです。
社会的/文化的に大きな流れであるセミ・シューリアルをどうとらえていますか?
MinjinとMijoo:私たちはいま、デジタルコミュニケーションやソーシャルメディアなどにより、かつてないほどつながった世界に生きています。しかし社会としての感情的/社会的つながりは薄れてきています。コロナ禍により、社会は物理的にも分断されました。最先端テクノロジーが私たちをつなげ、コミュニティとしての絆を強める一方で、その逆の現象も起きています。孤立や無縁です。いま、人は世界にはびこる浅ましさや孤独から逃れたいと願っています。セミ・シューリアルはこうした苦しみから逃れる手助けをしてくれます。私たちの作品が、嵐の中でもほっと一息つける避難場所になれば幸いです。
_彼らとその作品について詳しくはMue StudioのMinjin KangとMijoo Kim_のWebサイトをご覧ください。
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この記事は2020年8月10日にKimberly Potvinにより作成&公開されたMue Studio: Their history, inspiration, and artの抄訳です。