いまどきのビデオ会議に自分の顔が映るようデザインされている理由 | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

1968年の映画「2001年宇宙の旅」に登場するテレビ電話のデザインをスタンリー・キューブリックが手がけた時、彼はベル研究所のある研究者の助けを借りました。彼らが思いついたアイデアは、水圧式ガラスドアの背後にある公衆電話ボックスに座り、相手を追いかけるカメラからのカラーの動画を画面いっぱいに表示するというものでした。

その数年前の「宇宙家族ジェットソン」では、テレビ電話は20世紀中ごろ使われていたアンテナ付きテレビの様な見た目で、家の壁にかけられていたり、オフィスのデスクの上に置かれていました。ビデオ通話は60年代半ばのスタートレックにも登場しました。通話相手はUSS エンタープライズのブリッジの、カンファレンス会場に設置されていそうな大型スクリーンに映し出されていました。

テレビ電話ブースの中のスクリーンやインターフェイスを示す画像。スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」より。

スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」に登場するテレビ電話ブース 出典: YouTube

これらの半世紀ほど前に制作された未来の描写のすべてにおいて、ビデオ通話の技術にはアナログ的な優雅さが見られます。それは、今日私たちがスマートフォン、タブレット、あるいはPCから行うデジタルのビデオ通話にはすっかり欠けているもののように思われます。

では空想の世界が予測していなかったテレビ会議の重要な要素とは何だったのでしょう?それは、一般的に「セルフビュー」と呼ばれる、通話中の他の参加者と一緒に、画面に映し出される自分自身の姿です。

セルフビュー自体は、現在のテレビ会議プラットフォームでは特に目新しい機能ではありません。しかし最近まで、一般ユーザーはその存在を特に意識していませんでした。ところが、COVID-19が、この数ヶ月間の間にZoomやGoogleハングアウトやFaceTimeを日常生活の一部にしたことで、何時間も自分自身を見つめる行為に対する懸念が、あらゆる種類の新しい不安不快感を駆り立てるようになりました。この状況は、次のような疑問を提起します。今日使われているビデオ通話技術には、なぜセルフビューが含まれているのでしょうか?それはどのように使われ始めたのでしょうか?

最初の「セルフビュー」の登場

現実世界でも、インターネット以前のビデオ通話技術には、現在私たちが目にしているようなセルフビューは含まれていませんでした。たとえば、1964年のニューヨーク万国博覧会で初めて披露されたAT&TのPicturephone(これもベル研究所から世に出た)は、丸みを帯びた背面と5インチの白黒画面を持つデスクトップTVのような形状で、たしかに技術的には洗練されていましたが、法外に高価な双方向テレビ電話でした。表示オプションは2つあり、ユーザーは自分と相手のどちらを画面に表示するかを選択できました。しかし、セルフビューは会話を開始する前に自分の姿を鏡で確認する機能といった位置づけでした。

1986年に発売されたオフィス向けの電話「Mitsubishi Luma 2000」は、自分の白黒のスチル写真を通話中に相手に送ることができる製品でした。翌年には、家庭向けのバージョンとして、地上回線で話している間だけ画像を送信できるVisiTelが発売されました。90年代半ばに登場したビデオカンファレンスシステムPictureTelの初期モデルは、ほんの少しサイエンスフィクションのデザイナーが想像したかのような雰囲気があり、動くカメラが付いていて、カラーの画像を大きなモニター間で送信することができました。

AT&TのPicturephoneを使っている女性の写真。Picturephoneは地上回線につながれており、小さくて丸みを帯びた90年代半ばのテレビのような形をしている。

AT&TのPicturephoneは1964年の万国博で公開された 出典:AT&T Archives and History Center

CU-SeeMeVDOPhone Internetのような90年代のデスクトップ向けビデオカンファレンスソフトウェアは、独立したウインドウ内にセルフビューを表示していました。これらは、会話中のユーザーに、自身のカメラが送信している映像を提供した最初のプラットフォームの一部です。

1998年に、ピクチャ・イン・ピクチャ用の画面が埋め込まれたPolyCom Viewstationの初期のモデルが、重さ2.7Kgでたったの6千ドル(約70万円)で発売されたのは革新的でした。それが大きな画面の中にセルフビューを組み込むことを標準として確立するきっかけになったようです。Skypeが2005年にビデオ通話を提供し始めた時には、セルフビューがインターフェースに組み込まれていました。そしてセルフビューのサイズは解像度が高くなるにつれてより大きくなりました。ビデオカンファレンスのハードウェアは小さく持ち運びやすくなりましたが、ソフトウェアは大きく複雑な表示へと進化しました。

適応の問題を解決する

デザイナーがビデオ電話のインターフェースにセルフビューを組み込み始めたのは、単にそれが可能だったからかもしれません。しかし、Skypeが動詞として使われるようになってから10年以上後に、Godfrey Dadich Partnersでemergent experiencesのデザインディレクターを務めるショーン・スプロケットは、セルフビューは人々が期待する「外すことができない」機能になったと言いました。彼以外のデザイナーにとってもそれは同様でした。彼の最後の仕事だったFacebookの家庭用ビデオ電話デバイスのひとつPortalのUXチームでは、誰もそれを取り除くことを考えることさえしませんでした。この機能がそれほど支持され続けている理由について、スプロケットはそれが環境への適応の問題を解決するからだと信じています。「同じ場所にいる相手に向かって話す場合は、相手に自分がどう見えているかが分かります。もし柱の陰に隠れたら、相手に見えないことが分かります。ビデオ会議をするとき、これと同じにはなりません」

言い換えるなら、セルフビューは自分が相手に話している姿を見せてくれます。たとえそれがフレームからはみ出していたり、ひどく傾いていたり、照明が不十分であったとしてもです。

ギャラリーモードのZoomのカンファレンスコールのスクリーンショット。多くの参加者の動画を表示している。

ギャラリーモードのZoomのカンファレンスコール。参加者は自分自身と相手を見ることができる 出典: Wikipedia Creative Commons、撮影:ステファン・キューン

このような自身を表示することのすべての利点に関わらず、セルフビューは邪魔になることもあります。2017年のComputers and Human Behaviorに公開された研究によると、マーケット大学の研究者たちは、ビデオ会議中に自分自身を見ることが、その経過と結果の両方において、チームパフォーマンスと個人の満足度にマイナスの影響を与えることを発見しました。その理由として、彼らは2つの仮説を提示しています。自己意識の高まりと認知負荷です。研究によると、自身を見ることが、個人の関心を目の前の状況や作業から逸らします。同時に、多すぎる情報はその種類に関わらずパフォーマンスの低下につながります。

これらを踏まえて、研究チームは「テクノロジーやシステムの能力が向上するにつれて、バーチャルチームの個々のメンバーは実のところ非効率的になるかもしれない」ことを示唆しています。セルフビューを表示しないオプションを提供しているプラットフォームもありますが、今日提供されている多くのビデオ会議ツールはそうではありません。

屋内の机の上に置かれたPortalの画像。iPadとフォトスタンドの交雑種のように見えるビデオ通話用デバイス。

Facebook Inc.によるビデオ通話デバイスPortal 提供:Facebook Inc. 出典:REUTERS

新しい視点の兆し

自主隔離による変化を人々が実感するようになってからしばらく経ちますが、今日利用できるビデオチャットは、現実世界でテーブルの向こう側に座っている相手を見て話す感覚を再現するには程遠いものです。そのため、セルフビューは注意力を保つよう自分に言い聞かせる目的に使用されます。UXデザイナー達との会話の中では、「存在感」に関するアイデアがビデオチャットをデザインする目標として常に登場しました。それこそがプラットフォームの体験を他と差別化できるものだからです。

現在広く使われているビデオプラットフォーム、Zoom、Skype、Google Hangoutsの体験はどれも表面的で、カメラの範囲は制限されています。しかしこうした状況は変わり始めています。そしてセルフビューの必要性も、時と共に変わることでしょう。たとえば、The Squareは、窓あるいは戸口のように見える複数のカメラを持つLEDスクリーンで、私たちが住み働く場所を画面いっぱいに映し出します。こうしたコンセプトは、ビデオプラットフォームが向かおうとしているひとつの方向を示してしているように思われます。通話の両側に3Dの視点を増やせば、会話はよりリアルに感じられるでしょう。しかし、それはユーザーが自分の場所を今以上に共有する必要があることを意味します。

ボトムアップからの変化

ゲームとチャットを組み合わせたアプリBunchの製品部門のトップを務めるジョナス・クリステンセンは、COVID-19の影響によりビデオカンファレンス技術の採用は5年進んだと見積もります。彼のは、Zoomにとって代わるものは、それがどのようなプラットフォームであれ企業からではなくボトムアップから始まるだろうという意見を持っています。

かつてFacebookがそうであったように、「ティーンエイジャーがまずそれを使い、流行らせるでしょう」とクリステンセンは言います。そして、それ以外の人たちの注目を集めるのです。もし、それが起こりそうにない場合には、ビデオ通話技術における次の大きな前進はハードウェアでしょう。そして、既存のデバイス上のソフトウェアの発展が当面行き詰まるようであれば、セルフビューを隠すオプションの採用が、ビデオ通話の次の大きなデザインの潮流になるかもしれません。

Bunchを使用しているいくつかの画面のキャプチャ。ビデオ機能とゲーム画面を示している。

ビデオ通話とゲームを組み合わせたアプリBunch 出典:Bunch

Z世代(アメリカで概ね1990年代中盤以降に生まれた世代)向けのZoomと評されたSquadのCEOのエスター・クロフォードは、彼女の製品をB2Bの顧客向けにデザインし直すつもりは全く無いと語ります。Squadにはセルフビューモードがあり、完全にビデオから抜けない限り、閉じることはできませんが、音声と画像によるフィルター、テキストの上書き機能、ビデオレイアウトのカスタマイズなどの遊びを提供しています。

彼女は、本流のビデオチャットサービスは、長い間同じ人々により同じ人々のためにデザインされてきたために同じような見た目をしているのだと考えています。実際、Picturephoneのプロモーションビデオを見ると、ほとんどの製品が、ビジネス界に力を持っている人たちにより自分たちの役に立つよう開発されている現実について考えずにはいられません。ですが、今やビデオチャットは企業の外の世界でも主要な一部になりました。私たちがより遊び心に満ちたインターフェースや機能を目にし始めているのは当然です。

それでも、仕事のためにつくられたテクノロジーの変化はゆっくりです(Microsoft Outlookを見てください)。タイル型インターフェースの認知度にも関わらず(最近、Google MeetはZoomに対抗するため、ギャラリービューを追加するという決定をしました)、大抵のプラットフォームのデフォルトのプレゼンテーションスタイルは、会話中最も大きな声で話している人を目立たせるレイアウトです。すべての人に等しくスペースを配分するのは明らかなデザイン上の選択のように思えますが、聞かれるべき大きな声が存在する企業文化においては、不均衡が常識になっていたとしても驚くことではありません。

かつてないほど幅広い業界や地域の人々が日常的にビデオ通話を使うようになったことにより、これまでリモート通話の見た目を決定してきた常識の持つ課題が問われる状況は生まれるのでしょうか。

この記事は、AIGAのEye on Designと共同で執筆されました。

この記事はWhy Are All Video Chat Platforms Designed with the Self-View?(著者:Rachel del Valle)の抄訳です