成功するデザインシステムに共通する管理、保守、運営の考え方 | アドビUX道場 #UXDojo

連載

エクスペリエンスデザインの基礎知識

デザインシステムの維持と改善は大切な仕事です。人々に受け入れられず、使用されなければ、デザインシステムは基本的に無意味だからです。ブラッド・フロストが最近の講演で強調したように、デザインシステムは「実際のソフトウェア製品の構築を支援する必要がある」のです。実際に顧客が使用するために出荷されたり稼働しているアプリケーションやWebサイトのデザインとリンクしているデザインシステムであることが鍵です。

ShopifyのPolarisデザインシステムチームでUXマネージャーを務めるステファニー・ポーチェはこれに同意して、次のように述べています。「多くの場合に、デザインシステムはコンポーネントへの注力から始まるようですが、実際には、人に注目することから始めるべきものだと思います。これは誰のためのもので、彼らがどのように使用するのか?どのように自分のものにしていくのか?そして最も重要なこととして、彼らからのシステムへの貢献はどのようなものになるか?ということをまず考えるのです」

こういった問いが重要になってくるのは、サイトのデザインシステムが成熟し、成功したサービスであり続けるためにさらに拡張して管理しようと努める段階です。そこで、Shopify、TELUS、AirBnB、Googleのデザイナーにそれぞれの体験談を尋ねてみました。この記事では、彼らがとった戦術を紹介します。

構築か管理か

デザインシステム構築のときと、管理するときのマインドセットは異なります。構築の段階ではまずつくり上げることに重点が置かれますが、管理の段階になると、利用可能になったデザインシステムを宣伝し、促進し、サポートできる人が必要となります。ポーチェは、「Polarisの構築から2年が経過して、システムの保守が私たちの主な取り組みのひとつとなっています。デザインシステムを構築するときは、知識が豊富でシステムの観点から考えられるデザイナー、開発者、コンテンツ戦略担当者が必要でした。それを維持する段階になってからは、異なるスキルセット、たとえば、教育、プロモーション、マーケティングのスキルなどが必要とされています」と述べています。

Shopifyでは現在、Polarisに関する作業を6対4に分けています。「仕事の60%は、Slackチャンネルの監視、対応時間の維持、GitHubの課題の管理など、Polarisを使用するコミュニティの支援に当てられています。これらはサービスに焦点を当てた作業です。残りの40%は、たとえばコンポーネントの更新など、システムそのものを進化させることに充てられています」 とPolarisチームでシニアUXマネージャーを務めるイェセニア・ペレス・クルスは説明します。

サービスへの注力の一部には、デザインシステムが企業カルチャーの中心にあるよう努力することも含まれています。アドビでSpectrumデザインシステムを担当していたギャビン・ハーヴェイ(現在はGoogle勤務)は、この課題専任の担当者を雇用しました。「デザインシステムチームは、マーケティング、サポート、製品戦略、および製品管理チームの取り組みを、すべてを吸い上げる必要があります。Spectrumチームとして行った最善の選択のひとつは、プロダクトマネージャーとしてヴェーダ・ローズイヤーをチームに迎え入れたことでした。ヴェーダは、私たちの顧客が誰なのかを理解するための重要な役割を果たしました。また、デザインシステムの導入資料の準備とマーケティング資料の制作を支えてくれました」

Adobe Spectrumデザインシステムのオンラインリソースハブのスクリーンショット。

Adobe Spectrumは、アドビの数多くのデザインチームとプロダクトチームのために提供されている。プロダクトマネージャーの採用により、チームはユーザーを理解し、システムの採用を促進する資料の準備を行うことができた 出典: Spectrum

ハーヴェイは、戦術として、組織内に有効なコミュニケーション経路を確立するよう勧めています。「Googleでは、デザインシステムの知識をすべての新入社員にオリエンテーションの一部として伝えています。また、デザインシステムに対する意識を高める手段として、ポスター、メールニュース、講演などの社内マーケティング戦略も展開しています。動画を拡散したりやポスターを壁に貼って、社内向けにシステムをマーケティングすることもあります」。同様に、Airbnbでもチームに新メンバーが入社する際には、デザインシステムの予備知識の提供がプロセスの一環になっています。

本質的に、こういった戦術はすべて、デザインシステムを会社の働き方に組み込み、それを効果的に使用できるよう人々をサポートしようという試みです。

貢献と報酬

ひとたびデザインシステムに一連の基本コンポーネントが揃ったら、次はその進化を支える手段を探ることになります。理想としては、全組織の人々からの貢献を得て、デザインシステムのさまざまなユースケースにおける有用性を保ち続けられるようにしたいところです。しかし、製品に関わるチームは、製品の構築と出荷という日常の仕事で忙しいのが現実です。そのため、組織を横断して多くのデザイナーや開発者の洞察を引き出せる、貢献を奨励するモデルの構築が必要となります。

TELUS(カナダ最大の通信会社)のデザインシステムチームは、この貢献作業をゲーム要素を持つようモデル化しました。TELUSデザインシステム(TDS)のシニア技術製品オーナーを務めるヴァルン・ジェインは次のように述べています。「TDSは、TELUSの顧客体験の構築に携わる400名を超えるデジタルデザイナー、開発者、コンテンツ専門家のために提供されています。私たちは、結果を出すことに注力しているチームの人々に、システムに貢献してもらわなければなりません。デザインシステムを拡張する方法については常に模索し続けてきました。その解決策として私たちが見出したのがTDSコミュニティでした」

コミュニティからのシステムへの貢献を奨励するための非常に重要な要素となったのは、貢献するプロセスのゲーム化でした。「私たちはTDSコミュニティヒーローと呼ばれる制度をつくり、デザインシステムへの貢献にゲーム要素を追加しました。デザインシステムに貢献するとパワーレベルがアップします。十分なパワーレベルに到達すると、レベルに応じて、ストラップ、ソックス、マグカップなどのグッズに交換できます」

TELUSデザインシステムのコミュニティヒーロープログラムは、「パワーレベル」をゲーム要素として使うことにより、デザインシステムへの貢献を促している。パワーレベルのマイルストーンに達すると、貢献への謝礼としてカスタムグッズが贈られる。

TELUSデザインシステムのコミュニティヒーロープログラムは、「パワーレベル」をゲーム要素として使うことにより、デザインシステムへの貢献を促している。パワーレベルのマイルストーンに達すると、貢献への謝礼としてカスタムグッズが贈られる 出典: Telus

ジェインは、TDSコミュニティヒーローの成功を重要視しています。これは、TDSチームの関心が、デザインシステムのユーザーの可能性を広げることへと推移してきたという証しです。「貢献のためのモデルをチームが進化させる様子を見るのは気持ちの良いことです。また、TDSヒーローの存在は、オリジナルのコアコンポーネントに加えて、コミュニティが貢献したコンポーネントが存在することを意味しています。すべての人のためのインクルーシブなデザインシステムに近づいているのです」

ただし、コミュニティからのコンポーネントに関しては、品質と一貫性の面において望ましいレベルにあることの確認を行う必要があります。

Shopifyでは、チームが新しい方向性を模索するためにアイデアセッションを実施します。「Frideation」と呼ばれるこれらのセッションは隔週で5時間にわたり開催され、Polarisを進化させるためのコンセプトについてチームが一緒に取り組みます。これまでに検討してきたトピックには、Polarisエコシステムの視覚化、Shopifyのアイコンの更新、製品の実験的な機能の公開方法などがあります。

読み込み画面のスピナーの使用を排除したShopifyのPolarisデザインシステムのコンセプト例。

ShopifyのPolarisチームは、チームのアイデアやプロトタイピングセッション中にスピナーコンポーネントの排除などのアイデアを検討している。こうしたセッションは、Polarisの新鮮さの維持と、新しい方向性を探る上で役立っている 出典: Shopify

さらに、Polaris Nextという場所が用意されています。これは、システムへの貢献のある種の保管場所で、チームが時間をかけてそれらが適切な標準を満たすかどうかを確認するための場所でもあります。Polarisチームのプロダクトデザイナーサラ・ヒルは、次のように説明します。「Polaris Nextは、システムに適用したいと考えているコンポーネントを、しばらくの別のシステムに保管しておくための手段です。審査期間を設けていて、その場所にコンポーネントがあることを公開するため人々が使用することは可能ですが、一般向けの公開ではありません。コンポーネントの複雑さにもよりますが、通常は、メインのシステムに数か月後に適用します」。このプロセスにより、チームは新しいコンポーネントの調整を行いながら、完全にPolarisの一部にする前にそれが最適の状態にあることを確認できます。

デザインシステムに関する教育とサポート

「デザインシステムは、それを使用するチームとの関係の強さの分だけ価値があります」

かつてはAirbnbのDesign Language Systemのデザインリーダーで、今はShopifyでPolarisデザインシステムのUXマネージャーを務めるヘイリー・ヒューズは、「Systems Thinking Unlocked」というプレゼンテーションを行ったことがあります。デザインシステムは、デザイナーと開発者の作業をより簡単にすることを目的としたプラットフォームまたはサービスと捉えることが可能です。そのシステムの存続は、保守とサポートのモデルがどれだけうまく機能しているかに依存します。

AirbnbのDesign Language Systemの採用モデルは、発券、評価、受け入れ、収集、適応、進化という採用サイクルのすべての側面を考慮している。

AirbnbのDesign Language Systemの採用モデルは、採用サイクルのすべての側面を考慮している 出典: ヘイリー・ヒューズ

The central question for the Airbnb Design Language System (DLS) team is, “How might we become a customer-centric DLS stewardship team?” In her presentation, Hughes articulated the distinction between the DLS offering, which is “A living system of reusable assets: guidelines, designs, code, and tools,” and DLS operations, which is “Stewardship to enable the adoption of DLS across all brands and businesses.”

AirbnbのDesign Language System(DLS)チームにとっての中心課題は、「どうすれば顧客指向のDLS管理チームになることができるか」というものでした。ヒューズは、彼女のプレゼンテーションの中で、

と、その違いを明確にしています。

新規採用者には1時間のデザインシステムに関する説明の場が提供されます。また、チームは、社員がQ&Aの機会を持てるように毎週セッションを開催しています。その他にも、デザインシステムに対するユーザーの所感を評価する調査も行っています。ヒューズは、調査活動の一環として、ユーザーが綴ったデザインシステムに対する「愛と破局」の手紙を読む動画を共有してくれました。

AirbnbのDLSパートナーシッププログラムでは、組織全体の人々にデザインシステムへの参加を呼び掛けている。

AirbnbのDLSパートナーシッププログラムでは、組織全体の人々にデザインシステムへの参加を呼び掛けている 出典: Airbnb

一方、Shopifyでは、Polarisのユーザーへのサポート提供も、成功に不可欠な要素と考えています。その役割を担っているのがPolarisのAir Traffic Controller(「航空管制官」通称ATC)です。「ユーザーは、直接連絡することもできますし、専用のSlackチャンネルを通じて質問やサポートリクエストを送信できます。ATCはそれらを監視して、必要なサポートを確実に提供できるようにしています」とヒルは説明します。「また、90分のワークショップや、特定の問題に取り組むためのオフィスアワーも設定しています。システム何かに貢献したいというユーザーがいれば、彼らとの協業も行います」

TELUSデザインシステムチームもまた、多くの教育と認知度の向上に取り組んできました。「チームでは毎月ワークショップを開催しています。デザイナーと開発者向けのセッションを用意しており、デザインシステムのツールとプロセスを手早く使えるようトレーニングしています」と、ジェインは言います。「私たちが直面した課題は、一貫性を確実に維持することと、結果を出すことに注力している各チームとの対話を継続することです。共有とより良いコミュニケーションを実現するために、モビリティ、ビジネス、ホームソリューションなどのさまざまなチームを巻き込んでデジタルプラットフォームアンバサダー(DPA)という役割を創設しました。各チームから集められた技術リード、デザインリード、コンテンツ戦略担当、アクセシビリティ主担当および、中核となるデザインシステムチームのメンバーから構成されています。彼らは毎週ミーティングを開き、システムの改善案や、追加したいコンポーネントの提案を行います」。DPAがあることで、どこかの部門のリポジトリに埋もれていたかもしれないコンポーネントを見つけ出して、システムに貢献できるものに変えることができます。

この3つのチームに共通しているのは、認知度の向上、教育、そしてユーザーによる改善を貢献する術を与えることにより、デザインシステムのユーザーをサポートしようとする姿勢です。

成長を続けるシステム

デザインシステムの仕事に終わりはありません。システムは生き物を育てるように、その成長や進化への考慮や綿密な計画を通じて、デジタル製品の構築と出荷を担当するチームにとって意味のあるものであり続けるよう努力する必要があります。

結局のところ、今あるデザインシステムを拡張し進化させる方法を見つけることは大きな挑戦です。システムをどれほど厳密または柔軟にするのか、システムの拡張性をどのように維持するのか、組織内の多様な部門すべての役に立つにはどうすればよいのか、といった課題の間には緊張関係があります。「デザインシステムは一般的に非常に新しい概念であるため、まだ適切なバランスを理解している人はいません。これは新しい領域なのです」と、ヒルは言います。

どのような製品やサービスにも言えるように、システムの進化、維持、利用において、人間中心の考え方を持つことが必要です。ヒルにとって、Shopify全体で使用されているデザインシステムに従事することは刺激的な仕事でした。「多くの人がデザインシステムを使用しているのを見て本当に楽しんでいます。社内のデザイナーや開発者を相手に作業すること、デザインする方法や問題に対する考え方を変えていくのは、とても興味深い体験でした。私はデザインに情熱を感じています。ですから、デザイナーのための仕事には気持ちが昂ります」

研究、インタビュー、調査にご協力いただき、深い知識と専門知識を共有してくださった皆様に感謝の意を表したいと思います。デザインシステムの詳細については、AdobeとIdeanが共同出版した電子書籍「Hack the Design System」をダウンロードしてください。

この記事はManaging, Maintaining, and Governing Design Systems for Success – Part 5(著者:Linn Vizard)の抄訳です