灸場メロ 「Photoshopの感覚で紙のように描けるAdobe Fresco」 Adobe Fresco Creative Relay 08
Adobe Fresco Creative Relay
アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募はかんたん、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートをハッシュタグをつけて投稿するだけです。
10月のテーマは「秋」。
冬へと移り変わる景色、秋の装いに身を包む人たち、旬のおいしい食べもの、秋らしい配色のグラフィック。……みなさんがイメージする“秋”をAdobe Frescoで描いて、 #AdobeFresco #秋 をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第8回はイラストレーターの灸場メロさんにご登場いただきました。
銀杏、金木犀の黄色。そして斜陽さす夕暮れどき
「絵を描くときはまず、色や構図のイメージが漠然とあって、そこから徐々に具体的なかたちにしていくことが多いのですが、今回、“秋”と聞いてまずイメージしたのは、銀杏や金木犀の黄色と、斜陽がさしこむ夕暮れの時間帯でした」
右上から夕日がさし、その日差しをさえぎるように銀杏を持つ手。
今回のイラストは、そうした色と構図のイメージからディテールを詰めていったそうです。
イラストでありながら写真的なリアリティと表現力が感じられるのは、光と陰の緻密な描画、わずかに色が重なる輪郭の処理、顔を中心に周辺に向かってフォーカスが甘くなるぼかし処理、フィルムカメラで撮影したような暗部のノイズ、レンズのフレアの描き込み等、理由を探ればきりがありません。
こうしたディテールの描写は、メロさんのイラストの魅力のひとつと言えるでしょう。
「ぼーっとしているときに、よく影を見たりしているんです。光があたるとどう見えるか、影はどう落ちるのか。目で見たもの、表現したいものを描くには、Adobe FrescoやAdobe Photoshopでどうしたらいいのか、機能を使いながら試行錯誤しました」
『バクマン。』に影響を受け、漫画家を目指す
灸場メロさんは1996年生まれ。早くからデジタルに触れることができた世代ですが、子どものころからデジタルでイラストを描いていたわけではなく、デジタルペイントに触れるのは実に高校卒業後。
そんなメロさんが絵、イラストに興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか。
「絵を描くようになったのは、小さいころに見ていたアニメの『ドラゴンボール』がきっかけです。寝る前にA4の紙にドラゴンボールの絵を描いたり、キャラを創作しては戦わせたりして。
毎日毎日描いて、A4の紙が本になるくらいの厚みになるころには、絵を描くこと自体が好きになっていたんです」
そして中学生のときに出会ったひとつの漫画によって、メロさんは将来の職業を明確にイメージするようになります。
「当時、『週刊少年ジャンプ』で高校生2人が漫画家を目指す『バクマン。』が連載していたのですが、この影響で『漫画家になりたい』と意識するようになりました。
高校は工業高校だったのですが、アニメやマンガについて語り合う友だちにも恵まれたおかげで、2次元の世界がますます好きになって。この頃は『ジョジョの奇妙な冒険』のイラストをよく描いていましたね。
美術の授業で油彩を描くことはありましたが、趣味で描いていた絵は変わらずアナログの線画で、思い返すと色を塗るということも一切ありませんでした」
“夢は漫画家”というメロさんは、スクリーントーンなどのマンガの道具を揃え、オリジナルのマンガを描くこともあったそうです。
「でも結局、完成しませんでした(笑)。当時は絵を描く仕事といえば、漫画家くらいしか思いつかなくて、イラストレーターという職業も知りませんでしたから、高校を卒業したらマンガを学べる専門学校に行きたい。そう思っていました」
専門学校の体験入学でイラストレーターの道へ
高校を卒業したメロさんは、岩手県から東京の専門学校・日本工学院へと進学します。
「ここはアニメやマンガ、ゲームに特化したコースのある専門学校で、2年間びっしりイラストや絵について学びました。
あえて東京の学校を選んだのは、東京への憧れもありましたし、地元、親元を離れて自分一人でがんばってみたいという想いもありました」
東京への進学、一人暮らし。その背中を押してくれたのは子どものころから、メロさんの絵を見てきた父親でした。
「学校のパンフレットを持って、『自分は漫画家になりたい。そのため、この学校に行きたい』と伝えました。思い返すと、親は自分がよく絵を描いているのを見ていたので、その熱量に納得してくれたんじゃないかと思います」
その言葉には、自分の夢を応援してくれた親への感謝の気持ちがにじみます。
しかし一方で、漫画家を目指していたメロさんは、体験入学で思わぬ壁に突き当たります。
「最初はマンガコースに体験入学したのですが、マンガを描く過程でキャラクターデザインだけでなく、ストーリー、コマ割り、セリフ……自分がやってきたことと比べたときに、足りないものが一気に見えてきて挫折しかけたんです。
そのとき、イラストレーターの講師の方にイラストレーターという仕事を教えてもらって。それがきっかけでキャラクターデザインのコースでイラストを専攻することにしました。
とはいえ、実際に入学してみたら、絵が上手な人ばかりで……自分の中のスカウターが割れる音がしました(笑)。特に中国や韓国、台湾からの留学生の方は圧倒的にうまかったですね」
専門学校で初めてデジタルツールに触れる
専門学校でメロさんが学んだこと。それは絵の基礎からデジタルツールまで、非常に多岐に渡ります。
「学校の設備がとても充実していて、すべての授業を液タブ(液晶タブレット)で受けることができました。
いま、イラストを描くメインツールになっている、Adobe Photoshopもこのときに初めて触ったんです。
それまでは独学で、デッサンすらしたことがなかったのですが、ここではアプリケーションの使いかただけでなく、デッサンや構図についても学ぶことができました。
いま思えば、ここで学んだことが自分のイラストの基礎になっているのだと思います」
入学をきっかけにメロさんの描画環境は完全にデジタルにシフトし、入学1年目にはMacBook ProとWACOM Cintiq 13HDを導入。いまでもこのセットを使い続けているそうです。
「2年目から、灸場メロというペンネームをつけて、Twitterも始めました。今から思うと周りと比べてSNSを始めるのが遅かったなと思いますね。それからは、二次創作の絵を描いては同じ界隈の人たちと盛り上がったり、同人誌のイベントに参加したり、少しずつ活動の場が広がっていきました」
SNSを通じた「灸場メロ」への仕事の依頼
卒業後、メロさんはゲーム会社、イラスト制作会社と経験を重ねていきます。
職場ではペンネームを明かすことなく、ゲーム内のイラストを描いたり、クライアントの指定に合わせてイラストを描き、仕事の時間以外は趣味としてイラストを描く日々。そうしたなか、SNSを通じて、灸場メロへの仕事の依頼が来るようになります。
「2017年にTwitterを使った応援イラストの仕事をいただいたんです。SNSの活用方法もだんだん変わってきて、企業も力を入れてきたタイミングだったのでしょうね。
それ以来、少しつづ、灸場メロとしての自分にイラストの依頼が来るようになりました」
そして、2019年、フリーランスとしての活動を開始。
会社を辞め、フリーランスとして独立することを決めたきっかけはなんだったのでしょうか。
「灸場メロへのイラスト依頼が増えてきたということももちろんあるのですが、昼間仕事をして、夜に依頼されたイラストを描くだけだと、クライアントのいない、自分の好きな絵を描く時間がなくなってきたんです。それがストレスになってきました。自分にとっての息抜きは“趣味絵を描くことなんだ”と、そのときに気づいて。
仕事の絵を描いているときにも“これをちゃんと描き上げたら、趣味絵を描こう”と思っている自分がいる……それなら会社を辞めて独立するしかない。そう思って退職を決意しました」
Photoshopの機能を探りながら表現を追求
ひとつの絵に到達するまでに、すべてを描いていくのか、Photoshopの機能を使いながら仕上げていくのか。
メロさんはいま機能を常に探求しながら、表現に活用しています。
「最後の仕上げにPhotoshopの機能を使っているのですが、たとえば、ぼかしひとつでも何種類もありますよね、全体的にぼかすこともできれば、光っているところだけより強くぼかすこともできる。
色はトーンカーブ、カラールックアップといった調整レイヤーや、レイヤーの描画モードで調整をして仕上げています。そうした機能を模索するのが楽しいですね」
より紙に近い感覚で描けるAdobe Fresco
液晶タブレット+Photoshopですべてのイラストを描くメロさんは、iPad+Apple Pencil+Adobe Frescoという画材をどのように評価しているのでしょうか。
「Adobe Frescoの画面は、Photoshopとほとんど同じなので、迷うことはありませんでした。
一番の違いはキーボードショートカットがないということですが、Adobe FrescoはすべてのUIが左手で操作できるところに集まっていますし、慣れるのは早かったですね。
iPadが液晶タブレットよりも薄いからなのか、アナログで紙に描いているのに近い感覚で描くことができます」
今回のイラストは、Adobe FrescoとAdobe Photoshopが連携するかたちで描かれ、Adobe Frescoでメインの構図と被写体を描き(下)、Photoshopでライティングや質感を加えて仕上げられています。
漫画家になるには足りないものが多すぎるという挫折からイラストレーターへの道を目指したメロさん。
しかし、メロさんがいま描き出すイラストもまた、画力のみならず、観察力、構成力、アプリケーションの機能等、多くの知識と経験、その結晶と言えるでしょう。
「イラストレーターを目指したのはいいものの、突き詰めるほどに“いまの自分でももっといけるところがある”と思ってしまって……うまく描けなくて悩むこともたくさんあります。イラストレーターとして絵を描くことの奥深さを実感しています」
いまの技術、表現力に満足せず、さらなる高みをめざるメロさん。
今後、目指すもの、これから手がけてみたいものについて伺いました。
「自分のなかにひとつの世界観、IPのようなものを作って、それを発信していきたいと考えています。
手がけてみたいジャンルは、本の装画やCDのジャケット、人物絵……いろいろありますが、あたらしいことに積極的に挑戦していきたいと思っています」
イラストレーター
灸場メロ
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