Trend & Illustrations #4/川﨑真奈が描く「From Me to We」 #AdobeStock
[連載]
Adobe Stock ビジュアルトレンド
Adobeが予測する2020年のビジュアルトレンドをテーマに、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員のイラストレーターが描きおろした作品のコンセプトやプロセスについてインタビューする連載企画。第4回目のテーマは「From Me to We」。人種や国籍にとらわれず、魅力的な人物を描く川﨑真奈さんにお話を伺います。
プロフィール – 川﨑真奈 / MANA KAWASAKI
東京都生まれ。法政大学経営学部卒業。F-school of illustration受講。山田博之イラストレーション講座6期修了。2013年に初個展。以降、雑誌や書籍等で活動。第4回「イラストレーターズ通信コンペ」入選 、第192回「ザ・チョイス」入選(南伸坊氏選)、第15回「TIS公募」入選、ギャラリーハウスMAYA「装画コンペ」vol.17入選。
http://www.milmil.cc/user/mana
https://tis-home.com/Mana-Kawasaki
「colorful」2020年
色の調和があってこそ美しい
Q:「From Me to We」というテーマに決めた理由を教えてください。
これまでこちらの連載で登場した方々が選んでいなかったテーマだったこともありますが、ご相談していた時期にちょうど黒人差別に抗議する運動「Black Lives Matter」が広がっていて、すぐにテーマが決まりました。
黒人差別の問題は歴史が長く、それゆえ一筋縄ではいかない複雑さもあると知っていたつもりでしたが、報道などをとおして自分が思っている以上に、現在でも黒人の方は日常的に差別の問題にさらされていると改めて感じました。日本ではそこまで差別はないと思っていましたが、日本で生活している外国人も差別の経験を持つ人が多いことを知り、自分も知らずしらずしていることがあるのかもしれない、他人事ではない、と感じました。
Q:「From Me to We」は、個人として動くのではなく、同じ価値観を共有する人々がソーシャルメディアなどで声を上げて連帯することで世のなかを変えていく、といった内容が含まれています。企業が環境問題に取り組む姿勢を広告をとおして表現するような、コーポレートブランディングにも関わるテーマです。テーマをどのように解釈して、作品に落としこんでいきましたか?
個々の声が集まることで大きな声となり、世界を変えていくというテーマだと解釈しました。さまざまな肌の色の人たちが並ぶ姿は、肌のグラデーションやそれぞれの個性、肌に合った服の色と相まって美しくなるだろうとイメージしていたので、いろんな色があるからこそ、その調和が美しいということを表したいと思いました。攻撃的な主張はしていませんが、人種や肌の色の違う者同士がカラフルに、幸せに調和している絵で、人種差別の幼稚さを表現したいという想いを込めて制作しました。
Q:川﨑さんご自身は、小さくても声を上げたり表現することで価値観や意識を共有し、問題を解決したような経験はありますか?
相撲が好きなのですが、相撲界の不祥事がやたらと騒がれていた時期があり、見聞きしていて気持ちのいいものではありませんでした……。相撲に限らずですが、才能がある人や社会に大きく貢献してきた人でも一度の過ちで再起を許されない風潮に納得がいかず、新聞に投書したり、オンライン署名を集めるWEBサイト「Change.org」で署名したりしました。それが解決の一助になったとは思いませんが、納得出来ない社会の出来事に対して声を上げる経験ではありました。
Q:これまでの作品のなかでも、人種や国籍によらず、魅力的な人物や風景を描かれていますが、川﨑さんにとって海外の人々や文化は描く対象として身近なものですか?
人物を描いているときはあまり人種、国籍は考えずに描いていることが多いです。単純に魅力的だと思う人物の資料をもとに描くことが多いので、海外の人の写真も資料としてよく使います。風景は旅行で撮った写真をもとに描くこともありますね。海外の街並みや雰囲気が好きなので参考にすることが多くて、そう言う意味では身近に捉えていると言えるかもしれません。
「空風」2019年
自然なデフォルメを生みだす
Q:イラストレーターを目指したきっかけについて教えてください。
ファッションが好きで、服飾の勉強をかじったことがあります。そのときに自分は服の柄や色を描くことが好きなんだと気づき、それならイラストレーションがいいかな、と。それに、イラストレーターになればテキスタイル制作などファッションの仕事につなげることも出来るかなと思って、イラストレーターの仕事を考えるようになりました。
Q:イラストレーションはどのように学びましたか? 現在の作風に大きく影響を与えた経験があれば教えてください。
F-school of illustrationと山田博之イラストレーション講座で学びました。F-school of illustrationで人物を描く課題があり、福井真一先生が「人を描くときは顔の中身から描くといい」とおっしゃっていて、試してみたらいい具合に固定観念を外すことが出来て、それ以来、人物画を描くときは目か鼻の穴から描くことが多くなりました。個人的に輪郭から描くと中途半端にまとまった、守りに入った顔になってしまうので、あえて描きづらい顔の中心から描くことで自然なデフォルメが出来るのかなと思います。
「imagine」2019年
Q:川﨑さんが描く人物の表情やフォルムが魅力的です。人物画において意識していることはありますか?
顔の中身から描いてなるべく自然にデフォルメすること。あとは、モデルの資料選びの時点で自分が魅力を感じるものを選ぶこと。描いてるうちにモデルとはまったく違う人物になることが多いのですが、参考にするモデルの雰囲気や魅力から派生して描いている感じなので、たとえ原型を留めていなくてもモデル選びは重要です。
Q:人物モデルを探すとき、どういった部分に強く魅力を感じることが多いですか?
ファッションも含めて俗っぽくないというか、あまり現実的すぎない雰囲気のモデルに惹かれることが多いです。なので描く分には、一般的に美しい、おしゃれな人に必ずしも魅力を感じるわけではないのかもしれません。アンニュイだったり、透明感があったり、年齢に関わらず少女性があったり、ちょっと怪しさや不思議な雰囲気があったり……。いかにも人生経験による深みが滲みでてるようなおじいさんやおじさんブームだった時期もありました(笑)。
Q:今回の作品について、具体的な制作の流れを教えてください。
まず、いろいろな人種の人物写真をネットでランダムに探しました。そして、もともとストックしてある気になったモデルの資料とミックスして、何パターンかの肌の色の人物を並べて描いていきました。鉛筆の下描きの時点で構図も細かいパーツも完成形の状態で描き、その後着彩に入りました。
Q:絵の制作のなかで、好きな時間はいつですか?
あえて1つ挙げるなら、着彩段階です。それと、絵に人物が入る場合は顔の中身が大事なので緊張しますが、そこをクリアして解放されて描く感じも好きです。顔の中身がうまくいくと俄然テンションが上がってきて、そこから背景の色や細かいところがスイスイうまく描きすすめられたり、楽しむきっかけがつかめたりします。でも、気持ちが乗らないことも多いです……(笑)。
「昨日の夢」2019年
普段の制作について
Q:普段の制作ではデジタルツールを使いますか? Adobeのツールで使用しているものはありますか?
Photoshop、Illustratorを最低限という感じです。アナログ人間過ぎるから勉強していかねば……、と思っています。
Q:今回はAdobeからテーマを投げかけられましたが、Adobe Stockでアップしてみたいテーマは他にありますか?
今回のテーマの影響もあって、普段はあまり描かない広告を意識した作品もアップしてみたいと思いました。社会に問題提起するもの、社会的意識が強いものにも興味があります。
Q:制作に関わらず、いまご自身のなかで流行っていることはありますか?
数年前から相撲ブームで、現在進行形です。本場所にも何度も行きましたし、大阪や名古屋など地方にも行きました(笑)。テレビで観るのも含めて相撲は癒しであり、刺激でもあります。推しはモンゴル力士が多いです。あとは小兵も。相撲がらみのイラストレーションの仕事も楽しそうだなと思ったり……。そこはあえて趣味として楽しむのが得策だとも思ったり……。
そして最近出産したばかりなので、否応なしに赤ちゃんのことで生活の大部分が占められていて、結果的に赤ちゃんブームです。
「夢を見る」2017年
「土曜日のアイスクリーム」2016年
Q:洋服や寝具に愛らしい植物模様が描かれています。川﨑さんが好んで普段の暮らしに取り入れているものですか? ファッションはお好きですか?
実際に自分が好んで着ている服の柄に似たものを描いている気がします。なので、似たような柄のものが多くなっているかもしれません(笑)。服も好きなので、いつかテキスタイルや広告などでもファッションに関連する仕事をしてみたいです。それと、柄や模様自体にも興味があるので、包装紙の絵を描く仕事も楽しそうです。
印象に残る作品
Q:今まで描いたオリジナル作品のなかで、特に思い出深い作品があれば教えてください。
「風の音」(2019年)
東京のHB Galleryで開いた個展「風の音」のDMに使用した絵です。それまで作品を描く際、さわやかすぎる絵を描くことに多少抵抗があったのですが、このときは見に来てくれた人が心地よく感じてくれるような絵が素直に描きたくて、心は軽いまま気張らずに描けて、これはこれでありだなと思いました。
Q:お仕事で描いた作品のなかで、印象深い作品はありますか?
『からだ、いのち、こころ』成瀬悟策・玄侑宗久・河野文光 著(金剛出版)2018年書籍表紙原画
元々は、装丁家の鈴木成一さん主宰の装画塾で描いた作品でした。課題に対して最初に描いた風景画は「描きこみが多く、装画としては説明的過ぎる」とご指摘を受けました。もう少しシンプルに、要素を減らして描き直して鈴木さんにも選考に残していただけて。そこでは最終的に仕事につながらなかったものの、その後、ご縁があって装丁家の臼井新太郎さんに装画として使っていただきました。
当時は風景画でも描いていくうちにいろいろ描きこんでしまうことも多かったのですが、シンプルに描くことで伸びのびと気持ちのいい空間が画面に生まれることや、装画であれば見る側に想像の余白を残すことにつながること、デザインする側の目線など、たくさん学びがありました。ひたすら草を描くのも楽しかったです。
個人として出来ること
Q:今回、テーマを決めたきっかけは黒人差別の問題に関する報道でした。問題を解決するためにどのようなことが出来ると思いますか?
海外旅行をしたとき、たとえ細かいことでも親切にされるととてもうれしかったりします。逆に、些細なことでもすごく嫌な出来事に感じて「これってもしかして差別?」という印象が残ることも。個々の小さな経験が積み重なって、その国や人種に対するイメージ、思い出となっているのではないでしょうか。「Black Lives Matter」のような大きな活動ももちろん大事ですが、まず自分が出来る身近なこととしては、個人対個人の接し方や関係をよくすることだと思います。
Q:ソーシャルメディアやネットの発達によって、社会や環境に対して声の出しやすさ、価値観の共有のしやすさを感じた経験はありますか?
自分自身はSNSがそこまで得意ではありません。社会問題や政治に対する考えなど、周りの人が発信しているのを見て反応する程度です。SNSでは今の社会の流れや世のなかの反応がすぐに目に見えるので、ニュースではフィーチャーされない問題や意見など知る機会として活用出来ると感じています。
人種差別のような歴史的な根深い問題を解決するのは、なかなか難しいことですね。声を出さなくても個人レベルで人同士の関係をよくしたり、Adobe Stockに作品を登録したりすることも草の根運動ではありますが、意味があるように思います。もっとやさしい、皆が生きやすい世界になってほしいです。
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