三階ラボ(長藤寛和・宮澤聖二)「Illustrator iPad版のここがすごい!8つのポイント」

by Takashi Iwamoto

Posted on 10-27-2020

2020年10月20日にリリースされたAdobe Illustrator iPad版。
ベクターベースのオブジェクト編集というアプリの特徴はそのままに、タブレットならではの操作性によって、アートワークを直接触っているかのような、直感的なクリエイティブワークを実現します。
さらに自由度が増したIllustratorを、クリエイターはどのように使いこなすのか。
今回はIllustratorを軸に幅広いデザインを行なう、三階ラボの長藤寛和さんと宮澤聖二さんにお話を伺いました。

仕事のスタートはすべてIllustrator

長藤さんと宮澤さんのデザインフィールドは、ロゴ、フォント、パッケージ、プロダクト、UI、Web、モーショングラフィックに映像と非常に多岐にわたります。では、普段はどのようなアプリケーションを、どのように使っているのでしょうか。

宮澤「僕たちの仕事は8割、いや9割はIllustratorが基本になっています。ロゴデザインのようにそのままIllustratorで仕上げるものもありますし、Illustratorで作ったロゴをベースに、長藤がAdobe After Effectsでモーションに仕上げる、IllustratorのデータをAdobe XDに持っていって、Webのプロトタイピングを行なう、IllustratorのパッケージデータをAdobe Dimensionで仕上がりシミュレーションするというように、ほかのアプリと組み合わせることもあります」

長藤「アニメーションやモーションロゴを作るときも、まずIllustratorで引いたパスをAfter Effectsで分解して動かすという流れなので、何を作るにしても、仕事のスタートはIllustratorからですね。Adobe Photoshopすらほとんど使いません。それこそ、レタッチと解像度を変えるくらいかな(笑)」

宮澤「最近だと3Dプリンタデータを作るために3D CADのツールも使い始めたのですが、それさえIllustratorで描いたパスを3Dアプリ上で押し出して成形していて……もはや僕たちにとって、Illustratorは“macOSのなかにある、もうひとつのOS”のような存在です」

長藤「OSとまで言えるのは、宮澤がより便利に、効率的に作業できるように、必要な機能を全部、スクリプトで書いてくれるんですよ。だから、三階ラボのなかでは常にIllustratorは進化していて、作業効率もどんどんあがっています」

宮澤「ほかのツールで補うケースももちろんあるのですが、あたらしいツールを導入して、仕事に組み込むというのは時間的にもコストがかかりますからね。結果的に、慣れているIllustratorを拡張していくほうが、はるかに効率的なことが多いのです」

宮澤さんのIllustrator作業画面(左)とKeyboard Maestroの設定画面(右)

宮澤さんが作成しているスクリプトには、
・前面・上面・側面の3つの四角形を立体的なボックスにする
・カラーコードテキストからその色の塗りを適用した正方形を作る
・選択したテキストのフォントを変更するためのリスト状のフォントパネル
・アンカーポイントのハンドルの長さを変更する
・オブジェクト間の距離を調べる
・オブジェクトの重なり順を反転する 等、
かゆいところに手が届くものが揃います(配布、販売しているものもあります/URLはページ下部記載)。
さらに、キー操作をカスタマイズするユーティリティ・Keyboard Maestroを組み合わせることで、Illustratorを最大限に効率化させ続けています。

長藤「キーやマウスに100近くの機能を割り当てています。カスタマイズ方法がマニアックすぎて、作業風景を見ても、何をやっているかわからないとよく言われます(笑)」

長藤さんのIllustrator作業画面(左)とKeyboard Maestroの設定画面(右)

最初はとまどった、Illustrator iPad版

他人には到底触ることができないほどにカスタマイズされたIllustratorを操る三階ラボのおふたりは、Illustrator iPad版をどのように評価し、活用しているのでしょうか。
まずは、ファーストインプレッションから聞いてみました。

宮澤「Apple Pencilでの操作は“マウスとは完全に別のもの”として割り切って使うことができたのですが、作業のほとんどをキーコンビネーションで行なう僕たちにとって、一番の壁はキーコンビネーションが使えないことでした」

長藤「それでも、Illustrator iPad版にもshiftキー、option(Alt)キーに相当する操作は用意されているので、使いかたに慣れてしまえば問題はありませんでした。そもそもiPad上のアプリケーションはそこまでカスタマイズさせないようになっていますよね。そのスタンスには慣れていますから」

Twitterにポストした長藤さんの制作過程動画 https://twitter.com/kanwa/status/1308591636369215489

最初こそとまどいはあったものの、デスクトップ版Illustratorでの経験を生かし、Illustrator iPad版ならではクリエイティブをTwitterにポストすると、長藤さんのあざやかな手さばき、宮澤さんの精緻なグラフィックは大きな反響を呼びました。

宮澤さんがIllustrator iPad版のミラーリピートで描いたイラストレーション https://twitter.com/onthehead/status/1308950201550417923

Illustrator iPad版、ここが便利!な8つのポイント

それでは、Illustrator iPad版ならではのよい点はどのようなところにあるのでしょうか。
Illustratorを知り尽くす長藤さん、宮澤さんもうなった、8つのポイントを紹介します。

1.パネル情報の切り替わりが絶妙

宮澤「デスクトップ版だとパネルをたくさん表示して、自分たちの環境を組み立てていきますが、iPad版だとそういうことはできません。でも、ペンでしか操作できない、パネルがプロパティひとつしかないという制約のなかで非常にうまく実装されているという印象があります」

2.ペンでドラッグするだけで整数値になる

長藤「アイコンを作る様子をTwitterにアップしたのですが、そのときに便利だったのがオブジェクトのサイズ(W・H)、位置(X・Y)の数値をApple Pencilでドラッグするだけで整数値にできることです(単位はpxまたはptのとき)。適当に描いて、W・Hの値をピっと整数値にできる。この操作感は楽しいですね」

3.パスに沿ったアンカーポイントの移動

宮澤「タッチショートカット(画面上に出る黒線の円)を長押しした状態でアンカーポイントを選び、移動させると、すでに描いていたパスに沿って移動することができるんです。これは超すごいですよ。スムーズなラインの調整が非常にラクになりますし、左右のハンドルの長さを同じにしながら角度を変えるようなこともできます。慣れるとかなり感覚的に線が引けるようになります」

4.「シェイプを結合」の結果がプレビューできる

長藤「デスクトップ版のパスファインダーパネルにあたる『シェイプを結合』が、適用するオブジェクトでプレビューできるのはすばらしいです」

宮澤「シェイプ関係って長年使っていても、いまだにわからなくなることがあって(笑)。“結果がこうなる”というのをプレビューできるのは、かなり大きいですね」

5.オブジェクトの重なり順をドラッグで変更

長藤「Illustrator iPad版はオブジェクトを選択すると、下にメニューが出てきますが、このなかの重なり順の変更がすごく便利です。スライダーをドラッグするだけで重なり順を変えることができます」

6.塗りブラシツールがさらに感覚的に使える

宮澤「描いた線が塗りとして描ける塗りブラシツールが、iPad版ではアイデアスケッチを描くときにすごくいいですね。ガチャガチャっと描いても、ひとつの塗りになってくれる。個人的に好きな機能です。デスクトップ版では使っていなかった機能ですが、iPadとApple Pencilだからこそ活かせる機能だと思います」

7.オブジェクトのロック/ロック解除が優秀

長藤「これはデスクトップ版にも最近搭載されましたが、オブジェクトのロック状況がわかりやすいですね。これまではサブレイヤーからしかできなかった、オブジェクト単位でのロック解除もかんたんです」

8.ハンドルのコントロールがしやすい

宮澤「ハンドルを動かそうとすると角度が表示されたり、ハンドルの末端を座標でコントロールできるのは本当にすばらしいです。
ハンドルの操作はデスクトップ版よりもIllustrator iPad版のほうが圧倒的にいいですね。デスクトップ版でもぜひ実装してほしい(笑)。
コーポレートロゴのように、重要なデータを作るときは非常にこまかく座標を見ます。だから、こうした情報がすぐに参照できるのはいい点だと思います」

Illustrator iPad版、今後の仕事にどう活かす?

Illustrator iPad版ならではの使い勝手のよさも感じている三階ラボのおふたりに、今後のクリエイティブワークにどう組み込んでいくのか、尋ねてみました。

宮澤「ロゴのスケッチは今後、Illustrator iPad版で描くことになりそうですね。
いままでそうしたアイデアスケッチは、iPadのラスター系アプリで描いていたのですが、ここから実際のデザインワークに入ろうとするとそれを参照しながらイチからパスで描いていました。
でも、Illustrator iPad版があれば、ラフのパスをベースにデスクトップ版Illustratorで作業ができるようになります」

長藤「Illustrator iPad版が作業のスタートになっていくでしょうね。アイデアやラフから仕上がりまでひとつのIllustratorファイルに収めることができれば、効率的ですし、管理もしやすいですから」

宮澤「たとえば、ロゴをがっつり作り込んでいくというようなときは、まだどうしてもデスクトップでの作業になると思います。
でも、それ以外の調整はMacでなくてもいいですし、いろいろなところでIllustratorの作業ができるというメリットは大きいと思っています。
アイデアに詰まったら、違う場所に行くこともできますよね。河原でも喫茶店でも、家の中で場所を変えてもいい。場所を変えることで気分転換をして、インスピレーションを得る。そういう使いかたがIllustrator iPad版には向いていると思います」

三階ラボ
左:長藤寛和 https://twitter.com/kanwa
右:宮澤聖二 https://twitter.com/onthehead
Web|https://3fl.jp
Adobe Illustrator用JavaScript|https://3fl.jp/d/
Illustrator Scripts|https://onthehead.com/ais/

Topics: デザイン, クリエイティブ, UI / Web デザイン, イラストレーション, グラフィックデザイン

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