デスクトップ版IllustratorユーザーのためのIllustrator iPad版 攻略(2)デスクトップユーザーが感じる疑問、まとめて解決します《前編》
デスクトップ版IllustratorユーザーのためのIllustrator iPad版 攻略
前回はiPad版のIllustratorを使う上で「あれはどこ?」を俯瞰できるようにUIまわりを確認しました。今回は、デスクトップ版のIllustratorユーザーが実際に使う上で感じる疑問を取り上げます(イラスト協力:宇佐美由里子)。
ツール
[ダイレクト選択ツール]や[グループ選択ツール]はないの?
[ダイレクト選択ツール]は デスクトップ版と大きく形状が異なっていますが、[選択ツール]のすぐ下にあります。
一方、[グループ選択ツール]はありません。オブジェクトをダブルタップすることで階層を潜ります。
[ブラシツール]で描いた線は、線じゃないの??
iPad版のIllustratorのブラシツールは、正確には[塗りブラシツール]。描いた線は、線に見えても実体は「塗り」のみです。
そこで困ってしまうのが「塗りブラシで囲んだ領域を塗る」こと。
手順に沿って解説します。
- [塗りブラシツール]を選択する
- たとえば、このように♡を描いてみると見かけ上は「線」ですが、アウトラインモードにしてみると「塗り」になっていることがわかります。
- [オブジェクト]パネルの[複合パスを解除]をタップします。
- “窓”部分が塗りのオブジェクトになりますので、“窓”部分のみを削除します。
パスファインダーを実行しても合体しない…
デスクトップ版のIllustratorユーザーが戸惑うのがパスファインダーの挙動(シェイプを結合)です。
上記のサンプルにて、[複合パスを解除]直後にパスファインダーの合体を実行してみましょう。正確には[シェイプを結合]パネルの[すべてを合体]をタップします。
すると、内側のパスがうっすら残ってしまっています。
デスクトップ版と異なり、Illustrator iPad版でパスファインダーを実行すると、「複合シェイプ」になります。合体や型抜きなどが“仮”の状態で行われるので、後からの変更に対応できます。
実際にオブジェクトを結合したい場合には[パスに変換]をタップします。
Illustratorのデスクトップ版とiPad版は、パスファインダーの挙動の違いについて把握しておきましょう。
- デスクトップ版:optionキー(Altキー)を押しながらだと複合シェイプになる。パスにするには[拡張]ボタン
- iPad版:デフォルトで複合シェイプになる。パスにするには[パスに変換]をタップ
シェイプ形成って何?…
[シェイプ結合]パネル上部にある[シェイプ形成]は、デスクトップ版の[シェイプ形成ツール]のことです。上記の場合ですと、[すべてを合体]→[パスに変換]よりも、[シェイプ形成]でオブジェクト上をドラッグするのがスピーディです。
キーボードをお使いであれば、デスクトップ版のIllustratorと同様、shift + Mキーで切り替えることもできます。
ただし、デスクトップ版とは、若干操作が異なっています。
- [次のカラーを使用]オプションがないため、ドラッグ開始時にカラーにかかわらず、前面のオブジェクトで塗られてしまう
- optionキー(セカンダリのタッチショートカット)を使わずに削除できる
- 外側からドラッグすると削除される
デスクトップ版のIllustratorの[シェイプ形成ツール]については、こちらの動画を参照ください。
「塗り・線」系のツールの使い分け
あらためて「塗り・線」系のツールの使い分けについて確認しておきましょう。
iPad版のIllustratorでは、今のところ次の3つしかありません。
- [ペンツール]:塗り、線ともに描画される
- [鉛筆ツール]:塗り、線ともに描画される
- [塗りブラシツール]:塗りだけが描画される
デスクトップ版のIllustratorでは、線のみを描画するツールとして、鉛筆ツールとブラシツールがあります(鉛筆ツールの挙動の違いに注意)。一方、iPad版のIllustratorには強制的に線のみを描画するツールはありません(設定によって、[ペンツール]と[鉛筆ツール]を使って線のみを描画することはできます)。
現状、iPad版のIllustratorにはブラシや線幅ツールがありません。塗りで描くのか/線で描くのかを意識することで、iPad版のIllustratorで「線」として描き、それをデスクトップ版で開いて仕上げるといったワークフローを実現できます。
基本操作
[前面にペースト]や[背面にペースト]はないの?
ありません。次の操作を行うことで同じ座標に複製されます。
- [共通アクション]の複製
- [編集]パネルのコピー/ペースト
[共通アクション]の複製ボタンには、次のようなオプションがあります。
- [共通アクション]の複製をロングタップすると、クリップボードにも入ります。
- [共通アクション]の複製を押したままドラッグすると、複製しながら移動できます。
重ね順を変更したい場合には、次のいずれかで調整します。
- 共通アクションから[重なり順]
- [レイヤー]パネル
なお、複製を行うには、次の方法も可能です。
- command + C/command + Vのキーボードショートカットを使う
- セカンダリタッチショートカット(optionキー)を併用しながらオブジェクトをドラッグする(※テキストのみ不可)
command + Dで複製の繰り返しはできないの?
変形の繰り返し(command + Dキー)はありません。iPad版のIllustratorでは「リピートグリッド」を使いましょう。
長方形を角丸にしたいのにコーナーウィジェットがひとつしか表示されない…
あれ?っと思いますよね! 長方形を描画した後、コーナーウィジェットはひとつしか表示されませんが、四隅に対して適用されます。
なお、[ダイレクト選択ツール]を選択すると四隅にコーナーウィジェットが表示されます。
たとえば、「タブ」形状を作成するには、下の2つのアンカーポイントを選択して調整します。
多角形ツールで三角形を描いたときも同様です。
円を扇形できない?
基本図形(□、○、△、☆)のうち、△のみがライブシェイプです。今のところ、○はライブシェイプではないため、扇形にするなどは行えません。
バウンディングボックスの形状が異なるけど…
デスクトップ版のIllustratorとは異なり、バウンディングボックスの上の辺の中央から一本飛び出ています。これをドラッグするとオブジェクトが回転します。
回転を制限するには、タッチショートカットを用います。
- プライマリ:45°
- セカンダリ:10°
10°ずつの制限はデスクトップ版のIllustratorにはない機能です。
なお、回転するごとに[プロパティ]パネルでの角度はリセットされてしまうため、取り消しは可能ですが、元に戻せないこともあるのでご注意ください。
ルーラーガイドはないの?
今のところ、ルーラー(定規)がないのです…
次の手順でガイドを作成します。
- プライマリのタッチショートカットを使いながら鉛筆ツールでドラッグして垂直線(水平線)を作成する
- [プロパティ]パネルで[X](または[Y])の値を変更したり、[整列]パネルでアートボードに対して中心などに移動する
- [オブジェクト]パネルで[ガイドに変換]をタップ
アートボードの中央に配置したい場合には、[整列]パネルを使います。デスクトップ版のIllustrator(2020年6月リリースの24.2以降)と同様、オブジェクトをひとつだけ選択しているときには、アートボードに対して整列が可能です。
アートボードの回転はできないの?
今のところ、できません。
ファイル名の変更ができない…
ファイル名の変更を行うには、上部のナビゲーションバーの歯車アイコンをタップし、表示されるポップアップ内で行います。
スポイトツールがないのは困る!
[編集]パネル内にある[アピアランスをコピー][アピアランスをペースト]を使いましょう。
ペースト時に次のオプションを選択します。
- カラー(塗り)
- カラー(線)
- 文字スタイル
- 段落スタイル
正直、少し面倒です。[スポイトツール]は欲しいですね!
スライダー
iPad版のIllustratorには新鮮なUIのスライダーがあります。
これは「0←→100」ではなく、○を左にスワイプすると値が減少、右にスワイプすると値が増加します。
ゆっくり左右にスワイプすれば、細かく数値が変わります。
一方、馴染みのある「0←→100」のスライダーも存在しています。この場合には、スライドの○を左右にスワイプするほか、値フィールドをスワイプして値を増減するのがiPad版のIllustratorらしい操作方法です(スクラブ)。
まとめ
起動画面の[Illustratorの最新機能]をタップすると、次のようなウィンドウが表示されます。
「追加予定の機能」として次が挙げられています。
- スケッチしてベクターに変換
- 精度の改善
- 可変線幅
- ブラシ機能の向上
- 効果とアピアランス
- その他の機能
30年以上の歴史のあるIllustratorのすべてを詰め込むのでなく、必要最小限でスタートしたiPad版のIllustrator。
指やApple Pencilを使えることでデスクトップ版とは異なるアプローチが取れ、新しい使い方が生まれそうです。
デスクトップ版のIllustratorとの違いに戸惑うところもありますが、ぜひ、チャレンジしてみてください。