ブランドハブを再構築する電通のコンテンツプラットフォーム「Content Symphony」

Simon Williams

サイモン ウィリアムズ(Simon Williams)

2020年10月19日

電通グループの一員である電通インターナショナルは、世界143か国に4万7,000人の従業員を擁し、1万1,000社のクライアントにサービスを提供しているグローバルマーケティングサービスグループです。アドビにとって世界最大規模のお客様で、1万2,000人以上のユーザーにAdobe Creative Cloudをご利用いただいています。クライアントのブランドアセットの標準化に取り組む同社は、「クラウドファースト」の組織体制を活かした意欲的かつ最先端の独自コンテンツ配信プラットフォーム「Content Symphony」を世界展開中ですが、Creative Cloudはこのイニシアチブにおいて中心的な役割りを果たしています。

同社のクライアントは長らく、必要なコンテンツを特定し、目的にあわせて手を加え、高いクオリティで配信するまでのサイクルを、もっと効率的かつ効果的におこなえるコンテンツソリューションを求めていました。Content Symphonyは、コンテンツを大量にグローバル展開するクライアント特有の悩みを、「テーマ」と「バリエーション」を組み合わせた運用で解決するソリューションです。これにより、ブランドの核となる理念(テーマ)の維持と、 ローカルマーケット、セグメント、事業単位それぞれの多様なニーズに対応できる柔軟性(バリエーション)の両立が実現します。電通は、グローバル展開している制作スタジオすべてを次世代プラットフォームであるContent Symphonyを介してネットワーク化することで、より効率的なコンテンツソリューションだけでなく、より効果的なクリエイティブをもクライアントに提供できるようになりました。制作スタジオのネットワークはAIで強化され、現場から直接リンクして共有プラットフォームを利用できるため、コンテンツ制作の状況は視覚化され、納期は短縮され、クリエイティブコントロールも強化されました。Content Symphonyで実現した制作スタジオの統合的なネットワークは、クライアントにスピードとスケールをもたらしたのです。さらに、コンテンツのマーケットプレイスを内部運用することも可能で、競争入札によってマーケティングニーズに最適な価格がクライアントに提示されます。

電通インターナショナルのクリエイティブテクノロジー担当ディレクター兼バイスプレジデントであるジェームズ トーマス(James Thomas)氏は、Adobe Creative CloudをContent Symphonyの中核と位置づけています。「ブランドに生命を吹き込むコンテンツやアセットへのアクセスを、クリエイターとマーケターの双方に一貫性をもって提供するには、Creative Cloudの迅速な導入がカギです。Creative Cloudを使えば、一夜にして2万人の従業員にまでその規模を拡大可能です。新たに迎え入れるクリエイターの数が膨大でも制限はありません」

その基本はCCライブラリ

電通のCreative Cloudエコシステムの傘下にある誰もが、さまざまなデスクトップやモバイルアプリから直接デザインアセットを取得し、それらをブランド、プロジェクト、アセット、種類別に整理することができます。クライアント側の関係者や電通のサテライトオフィスのスタッフを含め、プロジェクトに参加中のチームメンバー全員でCCライブラリを共有することで、チームスポーツとしてのクリエイティビティが実現します。結果として、フォーマットやチャネルを問わず、すべてのデザインが最新の共有アセットを使って作成されます。

電通インターナショナルのデジタルマーケティング担当グローバルヘッドであるサブリナ ロドリゲス(Sabrina Rodriguez)氏は、グループ傘下の事業体すべてを横断した一貫性が重要であると指摘します。電通ブランド自体においても、オンラインにおけるプレゼンスであれ、個別のクライアントへのピッチであれ、単一で矛盾のない「ブランドボイス」の維持が求められます。「私たちの組織は非常に複雑であり、そのために異なるカラーが使われたり、ロゴのタイプが違ったり、フォントが不揃いだったり、画像の使い方が一貫していない、という分断化がありました」

ロドリゲス氏が着目した大きな問題のひとつは、大量のコンテンツを制作するクリエイティブチームが重用するストック写真の取り扱いでした。というのも、ある特定の地域でライセンスを取得したストック素材をクリエイティブチームで共有すると、許諾に含まれない地域に展開されてしまう危険性があったからです。Adobe Stockに標準化することでそのリスクは回避され、全世界での使用許諾を得たAdobe StockアセットをCCライブラリを経由して共有することにより、各地域のチームがブランドの一貫性を維持しながら共有画像を使って作業することが可能になりました。Adobe Stock導入後の6か月間でDAN(電通イージスネットワーク)が構築したブランドライブラリにアクセスしたユニークユーザーは5,000人にものぼりました。

Creative Cloudの強みは幅広い相互運用性

Adobe Creative Cloudはこれまでも常に他社製品との連携を重視してきましたが、電通にとってとりわけ重要な機能のひとつがMicrosoft Officeとの深い連携でした。CCライブラリは Officeアプリ内から直接アクセスすることも可能で、PowerPointプレゼンテーションのようなコンテンツを制作するマーケティングチームにとっても、ブランドの一貫性の確保に役立ちます。ロドリゲス氏のチームは、専用の特別なCCライブラリを作成し、プレゼンテーションやソーシャルメディアキャンペーンで使うコアアセットにマーケティングチームが簡単にアクセスできるようにしました。

同様に、電通は全世界の150人のマーケターに対し、Adobe Rush を彼らの業務に適したシンプルなクリエイティブツールとして提供しました。2018年にデビューしたRushは、マーケターがモバイルデバイスだけでプロ品質のビデオの制作を完結し、直接 YouTube、Facebook、Instagramなどのソーシャルチャネルに投稿することを可能にします。

トーマス氏率いるロンドンのテックチームは、世界中のアドビ開発グループと密接な協力関係にあります。電通のCreative Cloudシート数は世界最大規模で、だからこそ同社はアドビの製品計画や将来の機能の策定における重要な貢献者となっています。開発中の製品がアルファ版やベータ版になった段階で、アドビのエンジニアリングチームが投入する新機能を早期テスターとして実地で検証していただいています。

Creative Cloudのプロダクトマネジメント担当シニアディレクターであるヴィジェイ ヴァチャニ(Vijay Vachani)は、こう述べます。「電通のテクノロジーチームが求めるレベルの高さには驚かされました。Creative Cloudの基盤にあるコンテンツインフラとしての側面にいちはやく注目し、誰よりも先に新技術を負荷テストにかけてくれたのは彼らです。例えば、当社のSenseiやクリエイティブアプリケーションのAPIや製品の拡張性を活用し、アセットを迅速に検索してインテリジェントに処理するような、自動化されたコンテンツ制作ワークフローをすでに確立されています」

さらに進化する Content Symphony

このアドビとの緊密なコラボレーションは、今後に向けて段階的に展開が始まったContent Symphonyプラットフォームを下支えしています。このプラットフォームには、アドビのテクノロジーの特性のひとつ、サードパーティ製品との親和性が活かされており、それはWorkfrontをプロジェクト管理のフロントエンドに使用していることでも示されています。また、パーソナライズされたコンテンツを組み入れた顧客体験を迅速にマーケットに投入するために、Adobe Experience Manager(AEM)も採用されています。

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このコンテンツパイプラインの例では、プロジェクトの設定はWorkfrontで始まり、連携を通じて自動的にCC Enterprise Storage上にストレージが確保され、各種メタデータやユーザーのアクセス権限、ならびにアセットに必要なプロジェクト関連情報が付与されます。ブランドアイデンティティやガバナンスのポリシーはCCライブラリ上に作成されて管理および共有がおこなわれます。プラットフォームには、写真撮影の現場から直接データを読み込んで一括処理する機能もあります。被写体の選択、背景の削除、背景の置き換え、インテリジェントな切り抜き、トーンの自動調整、タグの追加といった、時間のかかる反復的なタスクをAdobe Sensei AIやCreative Cloud APIを活用して肩代わりしてくれるのです。クリエイターは、Adobe Photoshopを使って何時間もかけていた手作業による画像の編集から解放され、つくることに専念できるようになりました。

このワークフロー例では、Adobe XDのデザインシステムの機能を活用しながらコンテンツやエクスペリエンスを作成し、イマーシブなAR/VRエクスペリエンスの作成や、キャンペーンに使う商品写真の生成にAdobe Dimensionを使っています。Adobe FontsやAdobe Stockのようなアドビのサービスは、タイポグラフィだけでなく、3Dオブジェクト、イラストレーション、テクスチャ、モーショングラフィックステンプレート、ビデオ、写真といった豊富な素材でクリエイティブプロセスを強化してくれます。また、エンタープライズオートメーションの仕組みとCreative CloudをAPI実装で連携させることで、各地域のチームはカスタムパイプラインを構築し、ブランドガイドラインを遵守しながら背景、テキスト、レイアウト、サイズなどのデザイン要素を地域に合わせて変更した独自のバリエーションを展開することができます。さらに、XDにはレビューのためのオンライン共有機能があり、クライアントはリアルタイムでデザインを確認して承認できます。承認されたアセットはAEMのAsset Link機能とWorkfrontの連携によってAEMにプッシュされ、マルチチャネルのアセット公開が可能になります。

徐々にクライアントの間で知られるようになったContent Symphonyの今後について、トーマス氏は電通のビジネスにとっては良い影響しかないと考えています。「私たちがアドビやWorkfrontをはじめとするサードパーティと協業するのは、コンテンツやアセットの制作ワークフローを再定義したいからに他なりません。そしてそれは、私たちのネットワークに属する制作代理店すべてにとって、新しいビジネスの開拓において自分たちを差別化する、クライアントへの大きなアピールポイントとなるでしょう。これは、効率的で、インテリジェントで、常時利用でき、なおかつセキュアなコンテンツ開発と配信を可能にする、クリエイターがクリエイターのために構築したプラットフォームなんです」

Adobe Stock / Дмитрий Посудин

画像提供(Adobe Stock):ドミトリー ポスディン(Дмитрий Посудин)