グラフィックデザイン科卒業生のキャリア形成を順調にスタートさせるリバプールホープ大学の取り組み #AdobeStock
クリエイティビティの世界は目まぐるしい速さで変化し続けています。
学生たちがクリエイティブ関連キャリアのスタート地点に立ち、埋もれることなく存在感を発揮していくためには、伝統的なグラフィックデザインの枠を越えたスキルを使いこなせなくてはなりません。デザインスクールでは、卒業生が業界に入ったとき順調にキャリア形成をスタートできるよう、最先端のテクノロジーや革新的なワークフローを学ばせるケースが増えています。英国北西部にあるリバプールホープ大学は、そうした流れを現在リードしている教育機関の1つです。同学に新設されたスペシャリストグラフィックデザイン学士コースでは、業界標準だけでなく新種のデザインツールや共同作業ツールにも触れる環境を整え、理論的知識を実体験から学ばせることで応用力を育てています。
学生たちはアドビと緊密にやり取りしながら、キャンパスでおこなわれる実践的なイベントを通して、様々なソフトウェア、世の中の動向、業界のベストプラクティスを学びます。
グラフィックデザイン学科でシニアプロフェッショナルチューター兼プログラムリーダーを務めるMark Wood氏は、「業界から入ってくる最新情報は、学生自身が希望する専門分野に合わせて力を磨くために役立ちます。仕事の世界に入っていくうえで何よりの備えができるわけです」と説明します。例えば昨年実施した「エマージングクリエイティブタレント」イベントは、デザインに関するベストプラクティスのほか、ビデオ制作に関する知識や、「コンテンツベロシティ」の実現(効率的で迅速なコンテンツづくり)について学べる機会となりました。
リバプールホープ大学でアドビが開催した「エマージングクリエイティブタレント」イベントから。アドビのクラウドソリューションコンサルタントCeleste Menichが、デザインの共同作業に関するヒントやテクニックを伝授する様子。
最先端のテクノロジーを学生の力に
学生たちはこのイベントで、アセットの共有と自動化サービスを導入して従来型ワークフローを効率化する方法や、出先でのビデオ編集と異種配信チャンネルへの対応に適したスマートデバイスベースのビデオ編集ツールAdobe Premiere Rushなどについて学びました。もちろん、中には新しいスキルセットを既に身につけている学生もおり、Adobe Premiereによるビデオ編集、Adobe After Effectsによるモーショングラフィックスなどを活用していますが、多くの学生は、まだ日常的なワークフローにビデオを取り入れる段階には至っていません。Adobe Premiere Rushは、そういう多数派がビデオを扱い始めるためのハードルを大幅に下げるツールです。
リバプールホープ大学でビジュアルプラクティスのシニアプロフェッショナルチューターを務めるFrancis Vose氏はこう言います。「本当に便利ですね。Adobe Premiere Rushなら、1つのデバイスだけでシンプルに『撮影して、編集、共有』ができます。それに、Adobe Creative Cloudにファイルを保存し、モバイルとデスクトップを気軽に切り替えながら作業を進めることができます」
Mark Wood氏が付け加えます。「ビデオ制作には高度なスキルが要求されるものですが、そのいくつかは、Rushでは不要になりました。AIによる自動ダッキングは特にありがたい機能です。大勢の人が話しているシーンでBGMトラックのボリュームを自動調整してくれるので、オーディオが邪魔しあうのを避けることができ、編集室での作業が何時間も短縮されそうです」
イベントの後には、学生たちがそれぞれにRushを使って60秒のドキュメンタリーを制作しました。そのコンテンツをクライアントと共有する機能は、大きなプロジェクトのドキュメント記録などにも役立ち、そのために本格的な総合ツールを揃える必要はありません。また、学生たちはAdobe Stockから編集可能な既製品アニメーション素材を入手してコンテンツに組み込み、プロっぽい仕上げを加えるために活用していました。Adobe Stockには、こうした場合に有効なモーショングラフィックテンプレートのストックが着々と増え続けています。
3DレンダリングとデザインのツールAdobe Dimensionについても学びました。学生のTom Williams氏はこう言います。「初めて存在を知ったのですが、いろいろ試しながら単純なモックアップをいくつか作ったり、ほかの3Dソフトウェアと比べたりして、Adobe Dimensionはとても簡単に使えることがわかりました。Blenderの自作3Dモデルまで読み込めるのは便利ですね」
作業環境に直接統合されたAdobe Stockを活用しながら、彼らは作成済みの3Dモデルをバーチャル空間に取り込んで配置し、本物の写真と重ね合わせるといった作業を手早くこなしました。コンテンツベロシティ(「新しいコンテンツの制作スピード」を意味するアドビの用語)を向上させるこうした機能は、もちろん学生だけでなく商用でも、画期的な進歩として幅広く受け入れられるようになりました。商品写真の撮影が必要になったとき、クリエイティブプロが撮影スタジオへ向かうこともせずに作業を遂行できるようになったのです。
このイベントでは、AIがクリエイティブワークフローの必要不可欠な要素となりつつあること、デザインプロジェクトの適切なコンテンツを迅速に検索したり掘り起こしたりする作業の支援手段として浸透していることを大きく紹介しました。それを学生の皆さんがたちまち吸収して作品づくりに生かしていたのは感激でした。
欧州・中東・アフリカ地域でAdobe Stockの戦略的開拓マネージャーを務めるRichard Westの、コンテンツベロシティに関する講演。
クリエイティブ業界で働くということを実践的に経験
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の蔓延による封鎖の中にあっても、グラフィックデザイン科の学生Tom Williams氏、Connor Brennan氏、Nik Xypakis氏の3人は、スキルをさらに高めてAdobe Creative Jam(Airbnb協賛)に参加し、450あまりのチームから注目を集めました。このイベントでは、アプリのプロトタイプをAdobe XDでデザインする課題に取り組んだのですが(完成したプロジェクトはこちら)、米国とカナダから参加した学生がほとんどを占める中で、リバプールホープ大学の学生は独特の苦労を経験しました。グローバルマーケットの中で働くということに通じるプレッシャーを知ったのです。
Connor Brennan氏は言います。「夕方になる前、中途半端な時間にブリーフィングで連絡事項を伝えられるのには参りました。米国とカナダの学生たちには午後と夕方に作業をこなす時間がたっぷりあったでしょうが、僕たちは、わずかな残り時間で締め切りに間に合わせる必要がありました」
そういうイベントでは、業界内で働くグラフィックデザイナーに要求される事柄や、世の中の動向と手元にあるソフトウェアの両方について状況を把握しておくことの重要性を学ぶことができ、非常に重要な経験が得られるとMark Wood氏は考えます。彼はこう語ります。
「私やほかのスタッフから教わる内容について納得する機会という意味で、イベントには本当に大きな価値があります。彼らはイベントや就業体験に行き、訪問先スタジオで目や耳にする職場文化、会話、納期、作業プロセスは、大学のスタジオでおこなわれているものと変わりないことに気づきます。それによって、普段受けている学習体験が的確なものであるという確信が持てるのです」
実際に学生たちは、クリエイティブ業界の慣行に非常に近い働き方で作業し、リモート環境(封鎖状況の有無にかかわらず)で連絡を取り合う方法や、高度な統合ワークフローの使い方(いずれは顧客とのやり取りで実践することになる作業)について学んでいます。
Mark Wood氏によるアートワーク。シネマグラフ技法のプロセスと、目を引きやすいシネマグラフの特性がわかるデモになっています。学生たちは、Adobe Stockからビデオ素材を選び、静止画像レイヤーにする適切なフレームを1つ選んでビデオループと重ね合わせる課題に取り組みました。出典:Adobe Stock/Puzuri
最新のテクノロジー動向を把握
リバプールホープ大学の取り組みには明確な先進性があり、学生たちはAdobe XD、Adobe Spark、Adobe Capture、Adobe Stockなどといった新しいツールやリソースに馴染んで日常的に使いこなすようになります。これは、業界で実際に働く人々の多くがCOVID-19の封鎖以前には新しいツールに目を向けなかった状況とは対照的です。多忙なプロは仕事を次々にこなすだけで精一杯である場合が多いため、新しいツールから得られるメリットの大きさに気づかず、既に扱い方を確立したツールやワークフローに固執しやすいのです。
「時間がもったいないからと言って、人は既に知っているやり方を繰り返しがちです。90年代の半ばごろ、私は高等教育の新参者で、同僚に年下は誰もいませんでした。そこにいた先輩の『切り貼りアーティスト』たちは、Letraset®やライトボックスの使い方は知っていても、マウスとは何なのかは知りもしない人々でした。『テクノロジーの進歩について行けないがために無駄な繰り返し作業を続けるなんて、私はまっぴらだ』と思ったものです」とMark Wood氏は振り返ります。
リバプールホープ大学のコースは、『グラフィックデザインの形はこうであるべき』という既成概念を押し付ける内容ではないため、分野の枠に収まらない活動も展開されています。例えば、学生のひとりDanny Reposar氏はバンドのメンバーとしてつい先日デビューアルバムをリリースしました。また、既に報酬をもらってフリーランスプロジェクトを手掛けている学生もいます。
Mark Wood氏は言います。「Illustrator、Photoshop、InDesignは絶対に外せない必須アイテムです。これらのツールは今や一部の要素にすぎないという認識も学生には必要ですが、『由緒正しい』アプリに特化したコースもまだ残してあります」
リバプールホープ大学の学生Olga Lopez氏による、時間管理アプリのプロトタイプ。コース課題としてAdobe XDで制作。
リバプールホープ大学の学生たちは、短時間で結果を出していくことの重要性を学び、徹夜で時差や厳しい納期に対応することを学び、ビジネスを回していくためのコストについて学びます。新しいテクノロジーによる問題解決を既に実践している彼らにとっては、さらに新しいツールを今後試したり受容したりすることも決して難しくないでしょう。そうしたスキルを身につけた人材として世に出ていくことは、彼ら自身にとって有利であるだけでなく、業界全体の進歩にも貢献するに違いありません。
次年度のコースではAdobe Aeroを採用し、イマーシブでインタラクティブなARエクスペリエンスの構築を教えたいとMark Wood氏は考えています。「盛り込みたい新要素はいつもあります。新たな進歩の成果を学べば学ぶほど、学生たちは動きの速いクリエイティブ業界で活躍する力を身につけられるからです」
また、Mark Wood氏は、ある問題意識を学生に伝える必要性を強く感じています。それは、インターネットで見つけた画像やビデオなどの不正使用がまるで常識のようにおこなわれ、許可を得ること、作者を明示すること、作者に報酬を支払うことが疎かにされている状況について、これからのクリエイティブプロが受け入れてはいけないという問題意識です。
「才能豊かな学生たちの多くが、次世代のアーティストやクリエイターとして、ネット上で作品を盗用される立場になってしまう可能性は十分あります。この状況の中、Adobe Stockのようなあるべきリソースを示して彼らを指導できるのはすばらしいことです。ロイヤリティフリーで使える画像ライブラリとしてのAdobe Stockは、ストックビデオ素材マーケットの古い現状と比べて2倍の利益をもたらすものといえます。なぜなら、学生もプロも同じようにライセンスを取得して訴訟の心配をせずにプロジェクトやキャンペーンで利用でき、しかも、すべての主要なCreative Cloudアプリから直接利用できるため生産性が大きく高まるからです。また、Adobe Stockは多くの学生が自分の作品を世界に向けて公開する場となり、クリエイティブスキルが初めて収入に結びつく場になる可能性もあります。職業人としての成長を願う思いは、どんな教育機関にも必ずあるものでしょう。卒業生が私たちの教えを生かして立派なキャリアを築いていく様子を見るのは、本当に嬉しいことです」
この記事は2020年10月8日にRichard Westにより作成&公開されたHow Liverpool Hope University Gives Its Graphic Design Students a Head Startの抄訳です。
ヘッダー写真:Stockwerk-Fotodesign/ Adobe Stock