eスポーツと教育の接点は?〜N高×アドビがその可能性をさぐる

近年注目されているeスポーツの世界ですが、多くの人にとってはまだ馴染みが薄い世界かもしれません。アドビではeスポーツをクリエイティブスキルの側面からサポートしていて、11月15日(日)に開催された「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2020」では、学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校(以下、N高)とアドビによるトークセッションと、人気ゲームタイトル「リーグ・オブ・レジェンド」のエキシビジョンマッチが行われました。

このイベントは渋谷の都市フェス「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2020」の一環で、ヨシモト∞ホールを会場に開催。無観客ながらYouTubeとTwitchでライブ中継された

Eスポーツの世界で広がるビジュアルコミュニケーション

「高校教育×eスポーツがもたらす可能性」をテーマに行われたトークセッションは、N高から来春開校予定のS高等学校校長の吉村総一郎氏、アドビから教育市場部マーケティング マネージャー原渓太が登壇し、タケト氏が進行しました。

左から、タケト氏、S高等学校校長 吉村総一郎氏、アドビ 原渓太

2016年に開校したN高は通信制高等学校で、授業をネットで行うなど従来の型にはまらない学校の姿が話題となっています。あらゆる子ども達を生徒として受け入れ、15,803人(2020年10月時点)という日本一の生徒数。高校卒業に必要な勉強に加えプログラミングやウェブデザインなど学びたいことを自由に学べる個性を生かすカリキュラムで、全生徒がAdobe Creative Cloudのライセンスを利用できます。部活もネット上で行われており、2018年にできたeスポーツ部は現在全国トップレベルです。

アドビは、eスポーツをゲームプレイだけでなくさまざまなクリエイティビティが支えていることに注目し、その表現活動を応援しています。そのひとつが現在募集を行っている「飛び出せワイリフ! Adobe Students 学生コンテスト」。ゲーム「リーグ・オブ・レジェンド:ワイルド・リフト」のキャラクター素材を使って、自由に自分の世界観でデジタル作品を作るコンテストです。

「N高生の間でも同人作品は非常にはやっていますね」と吉村氏。他にも配信のための動画作成などさまざまな創作活動が行われるといいます。原は、「おしゃれなカフェの写真をSNSにアップするのと同じように、今後、ゲームの話題をビジュアルで表現して発信することが増えると思います」と予測します。10年前には、現在のような写真や短い動画でコミュニケーションを取る習慣はなかったわけですから、私たちの「当たり前」はかなりのスピードで変化しているわけです。

アドビ 原

アドビにはスマートフォンやタブレットで利用できるAdobe SparkやAdobe Premiere Rush、Adobe Frescoなどの無料モバイルアプリが多数あり、気軽にグラフィックやムービーを編集することができます。こうした手軽なツール群は、プロだけの世界というイメージが強かったクリエイティブの世界観を変え、すべての人の創る力になっています。「『自分はデザイナーじゃないから』という思いは捨てて、コンテストに楽しんで参加してほしいです」と原は呼びかけました。

eスポーツは娯楽としてのゲームを超えた世界

N高のeスポーツ部は2019年、2020年ともに高校生の大会で全国優勝の実績がありますが、現在850人もの部員がいて、初心者からトップ選手までが幅広く活動しています。吉村氏は「eスポーツ部の目的は、『勝つ』ことではなく、eスポーツでつながり、競い、成長することです」と説明します。好きなことを通して目標を立て成果を出すという個人の経験だけでなく、チームでコミュニケーションをとって力を発揮する経験にもなります。高校生向けのeスポーツ大会ではチーム戦のゲームタイトルを扱うことが多く、本イベントの「リーグ・オブ・レジェンド」も、5対5のチームで戦います。eスポーツにコミュニケーションスキルは必須なのです。

吉村氏

また、N高のeスポーツ部の活動は主にグループチャットツールで行われていて、オンラインでのコミュニティ運営や、大会の企画運営なども大きな経験となります。「大学のAO入試でも、eスポーツの大会運営や配信などの経験やスキルは実績として大いに語れるポイントです」と吉村氏は話します。原は「eスポーツを通して身につけられるデジタルリテラシーやクリエイティブスキル、発信のための権利関係の知識などは、どんな業種に進んでも役立ちますね。今、多くの企業が注目するスキルです」と、将来に続く大切な力になることを指摘しました。

今回のようなeスポーツイベントの裏側では、ゲーム専門のライブ配信チームなど、プレイヤー以外にも専門性の高いスタッフが活躍しています。好きなことを入り口に多様な経験をし、コミュニケーションスキルやクリエイティブスキルを磨いた先に様々な可能性があることが見えてきました。

課題も見据えて

一方で課題もあります。吉村氏によれば、ネットゲームの世界では、チャットによる暴言や差別的な発言などが多く、匿名性ゆえのネットマナーの悪さが課題だというのです。N高eスポーツ部では、同じプレイヤーとして相手に敬意をもって接することを重視していて、負けた時でも「ありがとうございました」や「GG(Good Game)」と言うように指導しているということです。こうしたカルチャーを育てることは、eスポーツが高校生や広く一般に競技として親しまれるための大切なポイントになりそうです。

原は、「ゲームは“親に怒られる”というネガティブなイメージが強いですが、eスポーツが生まれたことで、ゲームを深く追求したいと思う子ども達が胸を張って活躍の場を広げられますね」とポジティブな変化を指摘し、吉村氏は、「ゲームで初めて輝ける場を手にした生徒たちは、人間的にも成長し、学校の代表として皆に応援されるというかげがえのない経験をします」とeスポーツ部の価値を説明しました。

吉村氏(左)と原(右)

トークセッション後の「リーグ・オブ・レジェンド」エキシビジョンマッチは、全国優勝経験のあるN高のチーム「KDG N1」とストリーマー&プロによるチームとの対戦、個人戦、シャッフルチーム戦が行われ、個人戦では高校生が勝つシーンもあり、大いに盛り上がりました。

N高のチーム「KDG N1」とストリーマー&プロによるチームのエキシビジョンマッチの様子

今後eスポーツがどう広がりを見せるのか、動向が楽しみです。

(文:狩野さやか)