自然浴から色彩のインスピレーションを得る #AdobeStock

Adobe StockはPantone Color Instituteと提携し、社会的・文化的なシフトに伴い変化していく、色が消費者に及ぼす効果を調査しています。今年のパントン・カラー・オブ・ザ・イヤーであるクラシックブルーは、不穏な時代に心静まる逃げ場や信頼できる安定した基盤を求める私たち共通の思いを体現する色です。今回はゲストオーサーとして、Pantone Color InstituteのクリエイティブチームヨーロッパのJane Boddy氏と副所長のLaurie Pressman氏に、再認識される自然の美や大自然の持つ再生させる性質のほか、自然の中での時間がもたらす心身の充足感を感じさせる具体的な色彩やカラーパレットついて執筆していただきました。

自然界の癒しの色がトレンドに

どれほどテクノロジーが発展しようと、私たちを絶えず魅了するのは自然の緑や植物由来の色です。加えて、コロナウイルスのパンデミックにより世界中で規制が強まったために、「自然への没入」で得られるパワーが注目されています。2020年、私たちは休止を余儀なくされ、自己と向き合うことになりました。そんな中で、安らぎを得るために、身も心も自然とのつながりを求めていることに改めて気づかされたのです。

クレジット:Adobe Stock/Isaiah &Taylor Photography/Stocksy United.

これまで忙しすぎて楽しむ余裕がなかった環境と人との垣根を今回の危機が取り払ったかのように、このパンデミックを通じて、私たちと自然界との関係性は変わりつつあります。植物の栽培やガーデニングなどのアクティビティは、私たちをコンピュータの画面から遠ざける機会を増やし、心身を解きほぐしてくれます。種をまき、成長する姿を見守り、時には手塩にかけた果物を味わったりすることができるという自然の特質は、私たちに感動を与え、ゆったりとした暮らしの良さを実感させ、自然界に対する見方を変えています。

私たちも自然であり、私たちの体は何の介入もなく調和して機能する巨大なシステムの一部であると認識すると、心の平穏が得られます。季節の移り変わりやカッコーの初鳴き、月の周期と潮の満ち引きの関係など、本来の自然のリズムに合わせることで、より広い宇宙とのつながりを感じやすくなります。それに都市環境の中であっても、気づいていない自然がたくさんあります。自然は、私たちが操作しようとしても、操作しきれるものではありません。

自然の中に浸りたいという欲求が高まっている今、色彩による表現は、自然のパワーや豊かさを映し出す傾向が続いています。世界各地で、感覚に訴える植物のイメージや、森林やその下生え植物の色調が主役になりつつあります。こうした親しみのある素朴な色彩が与える信頼感に私たちは引き寄せられているのです。

クレジット:Adobe Stock/Katerina Kouzmitcheva/Stocksy United.

ノルウェーでは、自然を心身の健康の源として捉えることを基本とする「フリルフスリフ(屋外での暮らしの意)」という概念が、夏だけでなく冬にも積極的に実践されています。寒さがより一層厳しくなる時期、ノルウェーの人々は日中の暗さや気温の低下でさえも受け入れ、そうあるものとして季節を謳歌します。長距離のハイキングやキャンプ旅行を行うと、自然との一体感が高まり、過酷な天候の中でポジティブな思考へ切り替えやすくなるそうです。もちろん、防寒対策は必須です。色彩でいえば、森の地面から切り取られた雑多に入り混じる様々なブラウンに対して、濃く、インクのような冷たいブルーが無限の深みを感じさせるイメージが浮かびます。

クレジット:Adobe Stock/ Fancy Bethany.

クレジット:Adobe Stock/ Tania Cervian/Westend61.

海や田舎の湖で泳ぐことは、かつては子供時代に欠かせないもののひとつでしたが、そうした文化の一部は失われつつあります。今では、エキスパートが少人数のグループを人里離れた山あいの湖へ連れて行き、あらゆる天候状態の下、自然の中で泳ぐ解放感や爽快感を体験をしてもらうというツアーさえあります。そこでは屋外水泳を単なる運動の一つというより、生きている実感を得られるセラピーと捉えています。そのような自然界の色彩を表現するのであれば、例えば、葉緑素に満ち溢れたグリーンに古びた苔のイエローや艶めいた藻類を組み合わせます。

自然の要素はファッションやデザインにも

ファッションやデザインは時代を写す鏡となり、私たちが置かれている状況を鋭く捉えて浮き彫りにすることがあります。最新のファッションウィークのショーは、バーチャル空間に移行せざるを得ない状況ですが、そんな中、多くのブランドが自然の中での開催を選択しています。ロンドンファッションウィークの一環として、Paria Farzanehが田園風景の広がるバッキンガムシャーでコレクションを披露したりErdemがエッピングの森で無観客のランウェイショーを行ったりするなど、従来のロンドン中心部の会場から外へ飛び出すブランドも登場しました。

クレジット:Adobe Stock/ Cat_Arch_Angel.

COVID以前にこうしたコンセプトを取り入れたデザイナーもいましたが、現在の傾向は急激な自然へのニーズの高まりと大きく関係しているようです。ライブストリーミング配信プラットフォームTwitchが提供する最新のテクノロジーを利用し、Burberryは 森の中をショーの会場としました。とはいえ、チーフクリエイティブオフィサーのRicardo Tisci氏は次のように述べています。「人間として、私たちはこれまでも常に自然に対して深い親しみを抱いてきました。私たちは自然の稀有な美しさに感嘆し、それを享受しつつ、自分たちの存在そのもののために自然の力を敬い、頼る必要があるのです」。

自然を求める欲求は私たちの五感に浸透し、ナチュラルカラーを身にまといたい、あるいは自然の色合いに囲まれて暮らしたいといった感情を喚起します。土っぽさや豊かさは、ライフスタイルの様々な場面におけるデザインの要になっています。

気候変動が世界中で混乱を引き起こし続けている時代に、再生という概念は希望を与えてくれます。今回ご紹介したような大地にまつわる色からインスピレーションを得て、私たちは自然の一部であることを実感するかもしれません。そして、その自然の再生を支援することが、逆に自分たちの心身の健康を支えることにつながるでしょう。来年は、SNSやビジュアルカルチャーを通じて、このトレンドが一層顕著になると私たちは予測しています。

2021年に発表予定のAdobe Stock’のクリエイティブトレンドにも、引き続きご注目ください。

この記事は2020年11月19日にJane Boddyにより作成&公開されたFind inspiration in the colors of nature bathingの抄訳です。

ヘッダー写真:Odua images. / Adobe Stock