コロナ禍でデジタルシフトが加速! 製薬会社のDX状況レポート #AdobeSign #AcrobatDC

新型コロナウイルスの感染拡大により、医療業界を取り巻く状況は日々厳しさを増しています。もちろん製薬業界も例外ではありません。

実は製薬業界では、コロナ以前から少しずつデジタルシフトが進んでいました。コロナ禍において、その変化のスピードは一層加速しています。こうしたなか、製薬業界が直面するデジタルシフトについて、エンゲージメントやIT、そして人材や意識変化の点から考えるオンラインセミナー「DIGITAL INITIATIVE 2020 製薬業界の未来を拓く意識・人材・組織」が開催されました。

新型コロナでライフサイエンス4.0が加速

セミナーのオープニングに登壇したのはアドビ デジタルエクスペリエンス営業統括本部でストラテジック アカウント ディレクターを務めるプラブネ・マニッシュです。

アドビ デジタルエクスペリエンス営業統括本部でストラテジック アカウント ディレクター プラブネ・マニッシュ

マニッシュは国内の大手製薬業で実務を執った経験があり、医療従事者向けにブランドポータルを立ち上げたことがあります。ただ、その時代のブランドポータルは、サイトの訪問者全員に同一の情報を提示するだけで、「パーソナライズもなく、コストはかかるだけで、本当に営業活動につながっているかわからず、もっぱらMR(Medical Representatives:医薬情報担当)に依存していました」(マニッシュ)というものでした。

ところが新型コロナウイルスにより、状況は一変。MRの対面営業活動は自粛となり、非対面のコミュニケーションや、デジタルを活用した情報提供など、デジタルトランスフォーメーションが加速しつつあります。

マニッシュによると、この変化は実は以前から少しずつ起こっていました。米フォレスター・リサーチの調査によると、コロナ前の2018〜2019年から、「8割近くの医療従事者が、MRとの商談よりもセルフサービスコンテンツを望んでいる」「6割以上の医療従事者が、複数のHCP(Health Care Professional:医療従事者)プラットフォームを活用中」と話していたそうです。

こうしたデジタルシフトは、医療従事者だけではありません。「MRも営業活動にタブレットを使うようになり、また患者自身もデジタルを駆使して製薬や医療情報を調べたりするようになりました」と、マニッシュはいいます。

「こう考えると、これからの製薬会社は、自社のエンゲージメントについて、医療従事者だけでなく、患者/消費者や、管轄省庁・当局など、包括的に捉えてコミュニケーションを組み立てる必要があります。これがライフサイエンス4.0であり、依然としてコロナの脅威がある現在、ライフサイエンス4.0は加速しています。」(マニッシュ)

とはいえ、一気にIT化を図る前にやるべきことがあります。マニッシュは、「第一に企業全体のマインドチェンジを促し、デジタルファーストの組織を作ること。第二に、社内的にデジタルリソースを育て、データを解析・分析して戦略を実行できるデジタル基盤を作ること。第三に、こうした活用が機能するガバナンスを設けること。この3つが大切です」と断言します。

この3つのポイントについて、各製薬会社の取り組みや、その施策を支えるITソリューションについて、事例発表やディスカッションが行われました。

アステラス製薬、グラクソ、シミックホールディングスのIT化

続いて、アステラス製薬 情報システム部長の須田真也氏、アドビのマニッシュ、そしてシミックホールディングス 人財部 総務サービスグループ マネージャーの着月高志氏と、同 ICT部 副部長の花岡良氏が登場し、それぞれの製薬企業が取り組んでいる改革について具体的な取り組みを紹介しました。

アステラス製薬 情報システム部長 須田真也氏

アステラス製薬の須田氏は、第一歩である意識変革をテーマに講演。同社では企業ビジョンに「患者さんの価値」を掲げており、組織運営や業務ミッションの考え方も、常にこの「価値」作りが反映されています。そしてコロナ禍でテレワークの割合が上がるに連れ、「共同で仕事をする」という意識が希薄化するリスクにいち早く対応しました。「製薬企業が、患者さんに価値を提供する共同体として機能するには、目的や意識、価値観を共有するというリーダーシップが重要になります」(須田氏)と話し、マネジメントのやり方やリーダーシップの両面で社内意識を変えつつ、顧客エンゲージメント向上のために、デジタルチャネルの強化に努めているそうです。

マニッシュからは、英製薬会社グラクソ・スミスクラインの取り組みが紹介されました。同社では、コロナ以前から「デジタル活用がエンゲージメント向上に向け、社内コンテンツの統合・整備や活用について、アドビのコンサルタントの支援を受けてロジックツリーを構築活発化している医療業界」の変化を感じており、Adobe Audience Managerや、パーソナライゼーションエンジンのAdobe Target、アクション基盤のAdobe Experience Manager、クロスチャネルのAdobe Campaignを導入し、ビジネス活動を展開しているそうです。

1992年に日本で初めてCRO(医薬品開発支援)ビジネスを展開したシミックホールディングスは、年々高くなる業務効率化ニーズを受け、4年前からペーパーレス化に着目してプロジェクトを立ち上げました。

シミックホールディングス ICT部 副部長の花岡良氏(左)、人財部 総務サービスグループ マネージャー 着月高志氏(右)

同社はGMP/GQPなど製薬関連文書の電子化とペーパーレスにAdobe Document Cloudを採用し、取り組んでいます。さらに。オンプレミスの文書保管システムを実現して、さらに電子署名機能を持つAdobe Signと連携した「CeSA(CMIC e-Sign Archive)」を構築し、業界特有の帳票類の電子化を推進しています。電子サイン導入に際し、21 CFR Part11の要件や電子署名方式の対応において、Adobe Signは準拠していたことが採用の理由だそうです。最後に、先んじで電子化していたことにより、コロナ禍においても、円滑に業務を遂行できたことが「大きなメリットでした」と、同社 着月氏、花岡氏は話しました。

デジタルシフトが進む中外製薬の戦略

最後に、中外製薬 執行役員 デジタル・IT統轄部門長の志済聡子氏、日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏を迎え、モデレーターのマニッシュの下、製薬業界のデジタル変革についてディスカッションが行われました。テーマは(1)Withコロナの製薬業会を取り巻く現状、(2)顧客エンゲージメントの維持・強化において今後中心となるデジタル活用、(3)製薬業界で働くビジネスパーソンの業務効率化の3点です。

中外製薬 執行役員 デジタル・IT統轄部門長 志済聡子氏(上)、日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長 大山訓弘氏(中)、アドビ プラブネ・マニッシュ(下)

まず、製薬会社としてのコロナ禍におけるデジタルの取り組みについて、志済氏は「AIを活用した創薬業務の効率化・生産性向上のほか、マーケティングから市場供給までのバリューチェーンに関しては、コロナの影響もあり、優先されるところから進めていきます」と説明しました。

これと同時に同社が進めているのは、社員の意識改革です。デジタル人材の社内育成と同時に、外部からの採用に向け、ITパートナーとのアライアンス強化や、外部への情報発信を展開し、「DXに注力している」ことをアピール。Microsoft Teamsを使った勉強会や、社内アイディアハッカソンの開催を行い、社内に眠るデジタル改革アイディアを発掘する取り組みを行なっているそうです。

一方、日本マイクロソフトの大山氏は、日本の医療業界の問題として、少子高齢化にともなうさまざまな問題と共に、「コロナ禍において、患者が医療サービスにかかりにくくなったり、患者の情報流通が進まず、医療サービス格差が起こっている状況にあります」と指摘します。これに対しては政府も対策を講じていますが、抜本的な変革にはなかなかつながっていません。

これに対し、日本マイクロソフトは、コミュニケーション・業務基盤を提供するIT企業であり、クラウド事業者である強みを生かし、オンライン診療の支援や、医療現場とMRのオンライン連携の促進、安心・安全な保険医療情報の流通整備に取り組んでいます。またコロナ関連として、AIを使った診断・治療対策に20億円超の投資を行い、各国の国立医療/研究機関や製薬企業との連携を強化しています。

コロナ禍で進む製薬業界の業務効率化、アドビとMSも支援

製薬業界のエンゲージメントについて、中外製薬ではどのように考えているのでしょうか。

志済氏は「コロナ禍においてデジタルマーケティングやリモートのニーズが高まっています」と説明し、これを受けて「社内外のデータ統合を促し、MRの意思決定を支援する仕組みを考えています」といいます。これを受けて「社内外のデータを統合し、MRが誰にどのような価値を提供すべきか示唆を与える意思決定支援の仕組みを考えています」(志済氏)といいます。また、医療従事者との効果的なコミュニケーションのために、LINE WORKSを導入して、差別化を目指しているそうです。

業務効率化に関しては、2019年にMicrosoft Azureを活用した問い合わせチャットボット「MI chat」を構築。Azure上にある文書解析AIを活用し、医師や薬剤師が製品について知りたいことをテキスト検索すると、適切な回答が提示される仕組みとのこと。日本マイクロソフトの大山氏は、「コロナ禍で、面談や電話以外のコミュニケーションチャネルの重要性がより高まっていると考えています」と述べます。実際、中外製薬以外にも、Teamsを使って社内外のコミュニケーションや、各種クラウドサービスと連携した業務効率化を進めている製薬会社もあり、コロナ禍における業務効率化が加速しているそうです。

実際、中外製薬もこのコロナ禍において、Adobe Document Cloud/Adobe Signを組み合わせ、4カ月でGxP文書を含めた署名基盤をグローバルで構築。医療機関との契約や注文書なども含めて対応を完了しており、さらなる業務効率化を目指しているそうです。

アドビ、日本マイクロソフトでは、こうした製薬業界を取り巻くコロナ禍の現状や、デジタルシフトの加速を受け、パートナーとして一層強く支援に当たることを表明しています。

最後に、マニッシュは「コロナ禍をきっかけに起きたデジタルシフトは、HCP・患者・MRといった方々のコミュニケーション活動を変えてきました。アドビはライフサイエンス領域において、Experience Cloud, Document Cloud, Creative Cloudを提供することにより、この変化に対応しカスタマー活動を広範囲で支援していくとともに、デジタル基盤の構築支援やコミュニケーション設計、デジタルトランスフォーメーションに必要なノウハウをコンサルティングしていきます。アドビは製薬業での実績とノウハウを持っています。DXにおける課題を抱えている企業の方々には、ぜひアドビに相談してください」というメッセージで製薬セミナーをクロージングいたしました。

関連リンク:米国DX事例 AbbVie Inc.「How AbbVie delivers exceptional patient experiences