政府の脱ハンコプロジェクトから学ぶ、 紙文書・ハンコのデジタル化のコツ#AcrobatDC #AdobeSign

取引契約や組織内の承認プロセスなど、さまざまな場面で使われているハンコ。コロナ禍であらゆる業務のデジタル化が進むなか、「ハンコを押すためだけに、リスクを冒して出社しないといけない」といった課題が顕著になりました。そこで2020年10月、河野太郎行政改革担当大臣が「99.247%の行政手続きで押印を廃止できる」と会見し、国を挙げて「脱ハンコ」の動きが加速しています。

ただ、ハンコをなくせばそれでOKというわけではありません。大切な点は、不要なハンコを廃止することで業務のオンライン化を加速し、生産性をより向上させることにあります。2020年11月27日に開催されたオンラインセミナー「ペーパーレス・脱ハンコ。デジタル変革とその未来。 ~事業継続を可能にするデジタルドキュメント活用~」では、そんな生産性向上を実現する脱ハンコ化/ペーパーレス化のポイントが示されました。

本人認証、セキュリティの役割としての「ハンコ」

基調講演に登壇したのは、京都大学公共政策大学院教授であり、現在規制改革推進会議委員を務める岩下直之氏です。岩下氏は、河野太郎行革担当大臣の下、まさに行政手続きの脱ハンコを推し進めるワーキンググループとして活動中。大学卒業後は日本銀行に勤務し、それこそ山のようなハンコに囲まれて仕事をしていたそうです。その後、日銀の金融研究所でデジタル署名や暗号技術の研究に従事していました。

京都大学公共政策大学院教授 岩下直之氏

京都大学公共政策大学院教授 岩下直之氏

岩下氏は、こうした経験・視点を基に「ハンコは認証技術として不完全です」と言い切ります。理由としては、まず偽造しやすい点が挙げられます。実はかつて銀行では、「副印鑑」というものがあり、通帳に印影を載せていました。岩下氏いわく「キャッシュカードの裏に暗証番号を書いているようなもの」であり、印影を基にハンコを偽造し、預金が引き出されるという盗難事件があとを絶ちませんでした。ゆうちょ銀行でこの副印鑑が廃止されたのは2013年と、ごく最近です。こういう事例を見て、岩下氏は「ハンコはセキュリティ技術としては終わっている」と感じていたそうです。

また、ハンコは本人性の担保にもなりません。河野大臣が会見で話していたように、認印なら百円ショップで簡単に買えるので、誰かが「河野」のハンコを押しても、それを大臣本人が押したかどうかは証明できません。大臣自らが「これは何の意味もないので、廃止しよう」と強く号令をかけ、その結果、99%以上の行政手続きで認印が廃止になりました。

ハンコを廃止できないのは「慣行」のため

「すぐ廃止になるのなら、なぜ以前から脱ハンコに取り掛からなかったのか」という疑問を持つ人もいるかもしれません。実は、岩下氏らの規制改革推進会議が、各省庁にヒアリングしたところ、どの省庁も「ハンコはセキュリティや認証の役に立たない」ということを認識していたそうです。

それでもハンコが廃止できなかった理由は、「古くから続いていた慣行」のため。たとえば、脱ハンコに向けて大きな議論になったものに、時間外・休日労働の協定届けを労働基準監督署に提出する「36協定」の存在や、保育園の入園申請に必要となる「就労証明書」がありました。

36協定では、社員に残業や休日出勤を求めるため、組合と会社との間で協定を締結しなくてはなりませんが、その締結書類には「労使双方の意見が反映された証」として押印が慣行となっています。ただし、ハンコが押されているからといって、「労使双方の意見が反映された」という証明にはならないのも事実です。

もう1つの就労証明書は、企業の人事担当者がこれを作成し、会社の角印を押して自治体に提出します。ただ、カラープリンタや3Dプリンタで、社の角印を偽造するのはたやすいので、あまり意味はありません。就労証明書に関しては、マイナンバーカードの「マイナポータル」により、9割の自治体で電子化を進めていますが、結局は企業側でデジタル書類を印刷してハンコを押す手間がかかるので、真のデジタル化にはなっていない現状があります。

岩下氏は、どちらのケースも「関係する自治体や企業、組織が多く、『そう簡単には変えられない』という空気感があったことが問題でした」といいます。つまり、理詰めで「本人性の担保やセキュリティの役割は果たしていない」といくら説得しても、要は「空気感」が脱ハンコを拒んでいたわけです。

今回は、河野大臣の鶴の一声で、脱ハンコが一気に進みました。これは裏を返せば、行政機関も「大量の書類やハンコに忙殺されるのでなく、生産性を上げるために改革を行いたい」と考えていたことにつながります。

「すべての紙とハンコを完全にデジタル化」が正解ではない

この例は、日本中の組織における“改革”に重要な指南を与えています。岩下氏は「ハンコ廃止というのはわかりやすいし、目立つ改革です。しかし、就労証明書の例を見てもわかるように、中途半端な電子化や、ハンコを全部デジタル署名に置き換えればいいという話ではありません。もともと不要な部分をしっかり見きわめ、新しい仕事をデザインしていく。これは官公庁だけでなく、日本のあらゆる組織で必要とされている姿勢です」といいます。

「ハンコが廃止されたから、すべてをデジタル署名に置き換えるのではなく、不要なものは思い切って全部止めてしまってから、本人性の担保やセキュリティ面で必須のプロセスに関しては、しっかりした電子署名のシステムを選ぶ。一方で、承認印のように、押印に意味があったものに関しては、高度なデジタル署名ではなく、その代わりになる仕組みを考えていく。このように、一律に古いシステムの廃止・新システムの導入に動くのではなく、本質を見きわめて取捨選択することが必要なのです」(岩下氏)。

電子署名に関する法律「電子署名法」についても議論が進んでいます。現行の法律は20年前に作られたものなのですが、法務省、総務省、経産省が昨今の技術進歩を盛り込み、Web上でQ&Aの形で解釈を公開しています。

いずれにせよ、政府が主導となって「脱ハンコ」が実現し、これから改革は進んでいきます。菅内閣では新たにデジタル庁を設置し、ITを活用して国全体の生産性向上を目指すことが表明されていますし、この流れにより、「民間企業の内部や企業同士の手続きにおいても大きな変化が訪れると思います」(同)といいます。

Adobe Document Cloudで紙文書と業務フローをデジタル化

では、脱ハンコだけでなく、文書にかかわる業務を効率化して生産性を上げるためにはどうすればいいのでしょうか。

岩下氏の講演を受けて登壇したアドビ インストラクターの大倉壽子は、「文書業務効率化、ペーパーレスによる脱ハンコを支援・促進するのが、アドビのドキュメントソリューション『Adobe Document Cloud』です」と説明します。

アドビ インストラクター 大倉壽子

アドビ インストラクター 大倉壽子

Adobe Document Cloud(以下、DC)は、Acrobat DCによる各種PDF機能やAdobe Signによる電子サインソリューションを含みます。PDF による紙のデジタル化のほか、文書業務のワークフローの確立、クラウドと連携した業務効率化を実現するプラットフォームです。クラウドを介して、PCやスマホ、タブレットでPDF文書のレビューや承認フローを回すことができ、場所や時間の制約なく業務を進めることができます。

まず大倉が説明したのは、紙のデジタル(PDF)化です。

紙をデジタルにするには、一般にスキャナーや複合機など専用の機器が必要ですが、アドビではiPhone/Androidのスマホカメラを使って紙をPDF化するアプリ「Adobe Scan」を無償提供し、紙のデジタル化を促進しています。このAdobe Scanにより、紙文書をデジタル化することで、「従来に比べて72.26%業務生産性を上げ、1時間の作業が40分以上短縮されるという成果が出ています」と大倉は説明します。

大倉は実際に、自分のスマホカメラを使って紙文書の写真を撮ってPDF化する手順や、PDFをDCにアップロードする手順、PDF内のテキスト検索などの実演を行い、「単なる画像ではなく、書かれているテキストもOCR機能で認識することで、デジタル文書として業務に活用できます」と話しました。

作成したPDFは、DC以外にも普段使っているOne DriveやDropbox、Sharepointといったクラウド環境にアップロードできます。通常の業務で使っているクラウド環境からPDFをレビュー・承認できるため、業務の効率化が促進されます。

外部クラウドサービス連携によるメリット例:Microsoft 365連携

外部クラウドサービス連携によるメリット例:Microsoft 365連携

「ハンコ」の役割に応じ、スタンプ機能とAdobe Signを使い分け

PDFを閲覧するソフト無料のAdobe Acrobatには、スタンプ機能が付属しており、これを活用すれば、文書のレビューや承認を回す時に、ハンコと同じように承認印がもらえます。「これはタイムスタンプや認証機能はありませんが、『承認プロセスにおけるハンコの役割を果たす』という意味では、まったく問題ありません」(大倉)といいます。

DCにはAdobe Signというより高度な電子署名機能が搭載されています。文書を送る側にAdobe Signの仕組みがあれば、署名欄を作ることができるので、署名する方にAdobe Signが導入されていなくても大丈夫とのこと。スマホやタブレットであれば自筆で電子署名を行うことが可能で、本人性の担保と改ざん防止には、携帯電話やメールアドレスを用いた二段階認証、タイムスタンプ機能で対応します。実際、ソニー銀行は住宅ローンの契約業務にAdobe Signを導入し、それまで数週間かかっていた業務フローを最短で即日、契約関連コストを1件につき最大6万円削減しました。大倉氏は「紙の印刷費や郵送費、印紙が不要になり、コスト・工数が大幅に減ったのです」と説明しました。

最初に講演した岩下氏は、大倉のこうしたデモや説明を受け、「民間企業同士であれば、お互いの合意で従来のやり取りが効率化されることも多いですし、Adobe Document Cloudはそれを誰もが実現できる素晴らしいツールだと思います」と述べ、続けて「いまはまさに変化する時代が到来しています。行政、民間含めてその変化を意識し、改革を進めていきましょう」と評してイベントを終えました。