現場の先生方がクリエイティブな教育を考える集い〜Adobe Educator Day Online 2020 #アドビ教育
小学校から大学まで幅広い教育関係者が参加して創造性を育む教育について考えるAdobe Educator Day Online 2020が11月29日(日)に開催されました。「Make the Leap ~飛び立とう。クリエイティブな教育へ」をテーマに、第1部は事例発表を中心としたオープンなセッション、第2部は、Adobe Education Leader(以下AEL)に認定された先生限定のAdobe Education Leader Summitで議論と交流を深めました。
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企業も大学も重視するクリエイティブスキル
第1部の前半は、米国からの報告と日本の AELの先生による実践報告です。アドビ教育プログラム責任者Tacy Trowbridgeは、2020年6月に行った調査「大学入学選抜の決め手とクリエイティブスキルについて」(※)を紹介しました。アドビをはじめ多くの企業が採用の際に注目している力のひとつがクリエイティビティ。米国の大学入学選抜におけるクリエイティブスキルの位置づけを大学入学選抜担当者、高校の進学指導担当者、高校の生徒を対象に調査しました。
企業だけでなく米国の大学入学選抜でも、近年クリエイティブスキルやコミュニケーションスキルが重要な要素として注目されています。調査では、大学の選抜担当者は、テストの点数よりもGPA(学校の成績)、面接、コミュニケーションやクリエイティビティのアピールを重視しているのに対し、進学指導担当者や生徒は、標準テスト(SAT、ACT)のスコアを重視している割合が高く、その意識にギャップがあることがわかりました。
調査結果日本語訳版より。大学入試選抜担当者と進学指導担当者、生徒で違いがある
特に今年はコロナ禍の影響で52%の大学が標準テストを一時的または完全に免除したと回答していて、今後ますます総合的な評価に移行する見込みです。大学は従来の願書では表現できないクリエイティブスキルの評価プロセスに関心を寄せていて、マサチューセッツ工科大学では出願にポートフォリオの提出を求めるなど、テストの点数で測れない力を評価している例があげられました。生徒がプロジェクト型学習などでクリエイティブスキルを伸ばし、その力を入学選抜の過程で評価される仕組みが求められています。(※)調査結果はこちらのページの「創造性を育む教育に関する調査結果」部分に掲載
アドビ教育市場部長小池晴子は、クリエイティブスキルについて「アーティスティックなことや生まれ持ったセンスのように思われがちですが、そうではなく、ひとことで言えば創意工夫の力です」と説明しました。クリエイティブスキルは芸術系の技能を指すのではなく、問題解決の方法を導く発想力や対応力であり、アドビのツールはその力を発揮する手段のひとつとなります。
社会的課題をクリエイティブスキルで解決
そのクリエイティブスキルによる課題解決を体現しているのが米国のAELでセントラルフロリダ大学のMatthew Dombrowski先生。子ども達に無償で筋電義手を制作して提供するLmbitless Solutionsの活動を紹介しました。このプロジェクトが作る義手は子ども目線でデザインにこだわり、エンジニア、アート、医療等異なる専門性を持つ学生がボランティアで制作しています。義手の使い方を練習するビデオゲームも開発していて、子ども達が楽しめる工夫がいっぱい。自己肯定感を下げがちだという子どもたちがパッと明るい表情になるのが印象的です。
子ども達の様子。デザインはカスタマイズでき、子ども自身のデザインで制作した例もある
大勢の学生が関わっている。工学分野には女性が少ないものの、このプロジェクトの女性比率は高い
このプロジェクトは大きな社会課題への挑戦ですが、学校の教室の中でも、日常の様々な課題解決がクリエイティブスキルを育み、その力を発揮する場になるでしょう。
教育現場でクリエイティブスキルを育む事例
日本のAELによる事例では、工学院大学附属中学校・高等学校の中川千穂先生が映像教育とポスター制作の実践を紹介しました。中川先生は、広島への修学旅行の事前学習としてグループごとの映像制作を実施しています。生徒が平和について考えを深めるのに最適の手段と考えたからです。仕上げた作品は複数の平和映像祭に出品し賞を取ることもあり、生徒にとって大切なアウトプットの機会になっています。英語科のプロジェクト型学習では、自分の街をテーマにポスター制作に取り組むことで、英語だけでなく伝え方や見せ方について生徒達が試行錯誤した様子が伝えられました。中川先生によると、中学の頃から映像制作を経験している生徒は高校でさらに伸びるとのこと。早くからクリエイティブな活動に取り組むことがスキルを育むのに大切なポイントとなりそうです。
国際的な映画祭に積極的に出品している
福島県立平支援学校の稲田健実先生は、肢体不自由の特別支援学校での学びを紹介します。「モノに命を吹き込もう!」がテーマの作品作りでは、iPadで撮影した写真にAdobe Frescoで絵を描き加える手法で生徒たちの個性が様々に発揮されました
自分で撮った写真に自由な発想で命を吹き込む
また、美術と音楽が連携した学びも行われています。補助具を工夫してFrescoで自由な発想で絵を描いた生徒たちの作品を、別のクラスの生徒が観賞して、その絵から受けるイメージに合う曲を選びました。絵の作者はその曲を聴きながらあらためて自分の絵を鑑賞し、生徒間の双方向の学びが実現しています
ムソルグスキーの「展覧会の絵」のように、絵から音楽を発想する学びとつなげた
稲田先生は「生徒たちはとてもクリエイティブですよね。障がいを補うためにICTを使うのではなく、それぞれの強みを生かしながらICTを使うことが大事です。ICTを日常的な武器にして社会に出て行って欲しいと思っています」と話しました。
いずれも、アドビのミッションである「すべての人に『つくる力』を(Creativity for all)」を実感する事例です。
なお、アドビのClara Galanからは、今年6月にスタートしたAdobe Creative Educatorコースの紹介がありました。オンラインでクリエイティブな教育について学び、認定資格を得られるコースで、来年には日本語版も公開される予定です。他にも、先生同士の交流の場であるAdobe Education Exchangeや、YouTubeチャンネル、各種ソーシャルメディアアカウントなど無料の教育リソースが豊富にあるので、ぜひ積極的に活用して欲しいと呼びかけました。日本にもFacebook コミュニティ「Adobe Education Community」が あり、ぜひご活用くださいとのことでした。
Adobe Creative Educator日本語版資料より
つづいて後編では、日本のAELの先生限定のAdobe Education Leader Summitの様子をご紹介します。
(文:狩野さやか)