日本のデジタルトランスフォーメーションのチャンス カスタマーファースト文化+デジタルファースト=広がる大きな可能性

※アドビ株式会社 代表取締役社長 ジム マクリディによるブログの抄訳です。

日本は歴史的にみても技術革新において時代を先取りしてきたため、 近年、デジタルトランスフォーメーションにおいて遅れを取っていることに驚かれる方もいるかと思います。

しかしそれは新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう以前の話です。

今、日本企業はデジタルな顧客体験の必要性に気づき、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みを遅らせてきた文化的な要因を克服しようとしています。ある企業幹部は「デジタルな課題の優先度は急激に上昇しました。多くのデジタルな顧客体験を提供して顧客との関わり方に変革を起こす用意は整っています」と語ります。

問題は、どれだけ素早くデジタル空間へと進出できるのか、そしてどうやって辿り着くのかということです。

トランスフォーメーションのチャンス

新型コロナウイルス感染症は時代遅れで非効率的な日本のビジネスプロセスにスポットライトを当てました。例えば、日本の一部の銀行では口座を開設したりキャッシュカードを作ったりするプロセスが紙ベースで行われ、数週間かかる場合があり、非常に骨が折れます。しかし日本でも人気が高まってきているオンラインバンキングでは、キャシュカードが3日で発行可能など既存のモデルを覆しています。日本の人口の80%以上がスマートフォンを所有しているため、消費者はデジタルファーストやモバイルファーストの体験を受け入れる準備ができており、それがチャンスを生み出しています。

日本でビジネスを行う上での最大の障壁の一つが、押印が必須とされることが多いドキュメントワークフローです。 新型コロナウイルス感染症の発生当初は、書類に関わる作業をする社員は押印をもらうためだけにオフィスに行かなければなりませんでした。家に居ると作業が滞ってしまうのです。印鑑に依存するあまり、ビジネスがうまく機能しなくなることすらあったようです。日本政府は紙への署名から電子サインへの切り替えを可能にするべく、ルールの見直しを行っていますが、これも最初の一歩に過ぎないのです。

多くの日本企業は、従業員と顧客がバーチャルで相互に関わりを持てるようなインフラを即座に導入できるほどのデジタルに順応する能力を持ち合わせていませんでした。その一例として、対面でのやりとりに大きく依存している製薬、医療業界があげられます。遠隔医療への突然のシフトは、デジタルとの隔たりを浮き彫りにし、企業は革新を余儀なくされました。

デジタルへの対応力の評価

アドビ ではデジタルワークフロー、ドキュメントワークフロー、電子サインに関するソリューションのニーズが急激に高まっています。お客様やパートナー企業など、市場のニーズが大きく変化したことにより、自社のリソース戦略を変更する必要がありました。

しかし、日本企業のニーズは技術的なソリューションに限ったものではありません。多くの企業がアドバイスや専門知識も同様に求めています。私たちのお客様はトランスフォーメーションのどの段階にいるのか、顧客や従業員にとって優れたデジタル体験を提供するには何が必要なのかなどについて自社を評価する必要性に迫られ、アドビのDigital Strategy Groupにいっそう注目が集まっています。

繰り返しになりますが、製薬業界がその典型例です。いくつかの企業では、何千人ものMRが日々対面による業務に従事していましたが、一夜にしてそれがなくなりました。このような環境の中でも、医薬品を処方する医師との対面ではないやり取りや患者の病状をモニタリングする方法を考え出すことが急務となっており、研究開発における戦略や投資に大きな影響を与えています。これらのニーズを解決するために、日本企業は日本以外のユースケースやベストプラクティスに目を向ける必要があるでしょう。

アドビ自身のトランスフォーメーションストーリー

アドビはデジタルな企業ですから、日本の企業から「それ、どうやって実現したの?」と聞かれることがあります。私たちはここ10年間の間に独自の社内改革を行ってきました。アドビは代理店を通じて、パッケージソフトウェアを販売するビジネスでスタートを切り、当時はお客様との直接の関わりはほとんどありませんでした。サブスクリプションモデルに移行してからは、お客様とデジタルで関わりを持つようになり、アドビ製品に関するリアルタイムのフィードバックを得られるようになりました。フィードバックは研究開発、イノベーション、企業成長に関わる戦略決定の助けとなりました。

この移行は破壊的な変化を伴うため、多くのステークホルダーは反対していましたが、アドビの会長、社長兼CEO(最高経営責任者)であるシャンタヌ ナラヤンには、サブスクリプションモデルへの移行がビジネスにとって正しいことであるという明確なビジョンと確信がありました。彼は半年から1年の間ではなく3年から5年の間を視野に入れていましたが、ビジョンがデータにしっかりと基づいたものであったため自信をもっていました。今日では、Adobe.comは日本最大級のeコマースプラットフォームとなっています。

日本の多くの企業もサービスモデルやサブスクリプションモデルに移行してきています。データに基づいた確固たるビジョンを築き上げるだけでなく、リーダーシップの観点において何が求められているのかを問う必要があります。そしてその答えとはビジョンに対する確信と自信です。

日本企業にとっての次なる一歩とは

グローバル企業は、その点でリードしています。例えば日本の航空会社は国内の顧客ではなく、世界中の顧客を取り込む競争に参戦しているという事実に気がついています。JALやANAの対面による機内サービスは、すでに競合他社との差別化を図っています。現在の課題は、デジタル面においてグローバルに戦えるレベルまで到達することです。もしそうなれば、このようなグローバル企業は日本の市場においてどのようなことが実現できるのかを示す成功事例となるでしょう。

新型コロナウイルス感染症の拡大はこうしたデジタルトランスフォーメーションを加速させています。例えば、日本は伝統的に対面で関係を構築することへの依存度が非常に高く、ミーティングを完全にオンラインで行うなど、1年前の時点では想像もできないことでした。しかしこのような状況下に置かれ 、私たちもお客様も、通勤 に時間を取られないことにより、オンラインミーティングが予想以上に生産性や効率性が高いことに気づき始めています。

一方で、コミュニケーションから対面でのやり取りを一切排除してしまうと、意思疎通に齟齬が生まれることは間違いないでしょう。将来的には顧客とのミーティングの大半はオンラインで行いつつ、別途、食事会を催すことで、リラックスした環境でより良い関係を築く、といったハイブリッドなモデルが確立されることになるでしょう。

イノベーション、効率性、デジタルファーストの未来

変化は多くの人に不安を与えます。しかし、変化は往々にしてチャンスをも意味し、それはとてもエキサイティングなことです。

日本は新型コロナウイルス感染症の拡大によって、今まで歩んできた道とは異なる道へと歩みだすことになりました。そして決して元の道には戻ることはできません。パンデミックは、消費者と企業の関わり方、企業と従業員との関わり方、そして一市民としての私たちの関わり方を大きく変えてしまいました。この差し迫ったデジタルトランスフォーメーションを実現できない企業はおそらく淘汰されてしまうでしょう。

しかし、同時に日本は信じられないほどエキサイティングな時期を迎えています。電子サインや指紋による文書への署名が可能になることで、多くのイノベーションと効率化が生まれています。そしてこうしたデジタル体験へシフトしていくことによって、生活の質が向上するでしょう。創造的かつ驚くほど革新的な多くの人々が、新しいビジネス、新しい市場、新しい産業の創出を模索しています。いつか私たちは、日本の企業力を最大限に引き出し、デジタルファーストの未来へと導いたのは、従来のやり方を一度壊し、あらゆる課題を浮き彫りにした、新型コロナウイルス感染症であった、と振り返ることになるでしょう。

私はそう確信しています。