ダークパターンは法律とテクノロジーの関わり方を変えるか? | アドビUX道場 #UXDojo
エクスペリエンスデザインの基礎知識
こんな経験はありませんでしたか?電子メールを受け取ったら、それは登録した覚えのないニュースレターで、特に興味のないサービスのアップデート情報が書かれているのです。ため息をついた後、サブスクリプションを取り消すためにメールの最後までスクロールし、購読停止のボタンを見つけます。クリックすると、Webサイトに誘導され、ページに表示された「本当にキャンセルしますか?」という質問に繰り返し答えて、やっとすべてが完了します。これでサブスクリプションは取り消されました。ところが翌週、再びそのサービスからのニュースレターを受信トレイに発見します。確かにサブスクリプションはキャンセルしたはずです。いったい何が起きたのでしょうか?
おそらくダークパターンに遭遇したのです。
ダークパターンは、故意あるいは意図せずにユーザーをだまして決断や選択をさせるデジタルデザインのパターンです。情報をあいまいにするのもダークパターンの一種です。たとえば、キャンセルするボタンをクリックすると、少し表現が違うだけのページで再びキャンセルを求めたり、もしくは、SNSアカウント設定の奥深くにセキュリティ関連の機能を配置し、すぐに見つけられないようにするのもそうです。では、なぜこのタイミングでダークパターンの話をしているのでしょうか?それは、11,000以上の悪意のあるパターンをeコマースサイトに見つけたプリンストン大の研究や、ダークパターンを違法にしようとする米上院議員による試みなど、ここ数年、ダークパターンに対する関心の復活が見られるからです。デザイナーとして、私たちはデザインが社会に根本的な影響を与えられることを知っています。アクセシビリティへの配慮、新しい技術の使い方の提案など、私たちの生活のあらゆる側面にデザインは関わります。しかし、法律家は、必ずしもデザインがテクノロジーや社会に与える影響を考慮しているわけではありません。
法律の世界において、テクノロジーが社会に悪い影響を与える可能性は理解されています。一方、デザインがそうした技術の中で持つ役割はしばしば見逃されています。それが、ダークパターンへの注目が重要である理由です。ダークパターンはテクノロジーを利用するユーザーを騙すことができます。プリンストン大の研究が見つけたように、eコマースの世界には、価格を実際より低く見せたり、ユーザーを少しずつ高いものを買わせるよう誘導するサイトがあります。ProPublicaが見つけた例では、無料で税金を申告する資格を有する人たちが、TurboTaxの無料版(税金申告のためのサイト)を見つけないよう隠したダークパターンもありました。
プリンストン大の研究により発見されたダークパターンの例
野放しにされているダークパターン
ダークパターンは、偶然を装い、それを見た人を可能な限り巧みに操ろうと試み、そして面妖なものです。まさに、政策の立案者たちに、デザインが持つ影響を理解し始めてもらうにはちょうど良いメタファーです。先ほど紹介したように、ダークパターンの問題点はデザイナー以外にも明白で、それが及ぼす害悪も容易に理解できます。
これから議論しようとしていることは「デザイン政策」とでも呼ぶべきもので、デザインが政策に対して持ち得る影響を理解し、テクノロジーは実際に何ができるのか説明するツールとしてデザインが有効であることへの理解を求めるものです。
2019年から2020年まで、私はベルリンの政策シンクタンクStiftung Neue Verantwortungと協業し、政策におけるダークパターンの意味について調査し論文を書きました。そして、立法府の議員に向けて、ダークパターンに重きを置きつつデザイン政策の重要性を説明する手段を見つけ出そうとしました。
EUにおいては、ダークパターンがある種の脅威として扱われています。何らかのあつれきを起こし、選択肢を隠すことで、ユーザーの主体性やプライバシーの権利に影響するものという認識です。すなわち、EUでは政治家がデザインの重要性を理解しているのです。EU域外のデザイナーのために説明しておくと、ヨーロッパではプライバシー保護のために数多くの法案が成立しており、アメリカや世界の他の地域よりも、ユーザーの権利とユーザー情報に関するより厳しい法律が定められています。一般人のプライバシー保護の歴史を見れば、ダークパターンのような問題に対処する法案が成立する最初の場所はヨーロッパになるかもしれません。
政治家にとって、テクノロジーの中に存在することに気づいてはいたものの、理解したり分析する拠り所がなかった事象に対して、ダークパターンは名前と具体的な理由を提供します。私たちの論文では、プライバシーに関する条件や設定を分かりにくくしたり隠したりすることにより、ダークパターンがデジタル製品における個人のプライバシーを侵食している状況を論じています。特定のデザインの選択が、個人データの保護をより困難にしていると主張することが可能ですし、特にヨーロッパの場合は、ダークパターンがEUのプライバシー規制を体系的に弱めている可能性があります。意図せずに、偶然に、あるいは貧困なデザインによって、プライバシー関連の選択肢が隠れることが、個人の同意の原則を弱体化させるためです。Facebookの込み入ったプライバシー設定はその最たる例と言えるでしょう。
プリンストン大の研究により発見されたダークパターンの例
その他の例としては、2017年に成立したドイツの法律「Netzwerkdurchsetzungsgesetz (NetzDG)」があります。これは、オンラインにおける不適切な発言など、新種の非合法コンテンツについてレポートするようソーシャルネットワークに要求するものです。しかし、NetzDGの設計上の問題のために、ユーザーがレポートの手段を見つけ、不快なコンテンツを報告することが困難になっています。私たちの論文では、これがNetzDGによる規制の効果をかなり低下させており、法案本来の意図とは無関係に、ダークパターンになっていることを論じています。FacebookはNetzDGを非効率的なものにしたかったのでしょうか?おそらくそうではないと思われますが、コンテンツを隠したり、混乱を生じさせたり、ユーザーに特定の選択を促す設計はダークパターンそのものです。ここで意図を問うことはさほど重要ではないでしょう。
デザインと法律のこれから
最後に、ダークパターンは、ヨーロッパの不正競争防止法に違反する可能性があります。ユーザーを操ったり誤解を招くようなデザイン戦術によって、あるデジタルストアが競合他社よりも優位に立つ可能性があるのでしょうか?これは未解決の問題であり、特に政治家による調査が必要です。つまり、政治家にはより深い専門知識が必要で、製品やインターフェースデザインを理解している研究者と協力する必要があるということです。
1990年に「障害を持つアメリカ人法」が通過したときのように、デザインと法律がこれほどまでに接近しているのは、ダークパターンが存在しているからです。
デザイナーとして理解すべき重要な点は、私たちの仕事が大きな影響を持つことです。それはテクノロジーと同じくらい大きな害になる可能性があります。
害を生み出すのはテクノロジーだけではありません。デザインは、テクノロジーをすべてのユーザーが理解できるようにするために使われます。テクノロジーに対する規制はヨーロッパではすでに存在していますし、アメリカにもその波が来るかもしれません。そして、デザインの規制もそれほど遅れはしないでしょう。
このことは、デザイナーの行為の影響がこれまでになく大きくなっていることを意味し、責任がさらに重大になっていることを伝えています。テクノロジー側には、標準や提案を通じて、責任や倫理を追求する動きが存在します。ダークパターンに関する調査が行われ議員が覚醒すれば、デザインに関しても同様の大きな動きを生み出す可能性があります。
この記事はDark Patterns Are Changing How the Law Understands Technology(著者:Caroline Sinders)の抄訳です