雪下まゆ「やわらかい筆致が繊細で描きやすいAdobe Fresco」 Adobe Fresco Creative Relay 11

by Takashi Iwamoto

Posted on 01-19-2021

連載

Adobe Fresco Creative Relay

アドビではいま、Twitter上でAdobe Frescoを使ったイラストを募集しています。応募はかんたん、月ごとに変わるテーマをもとに、Adobe Frescoで描いたイラストやアートをハッシュタグをつけて投稿するだけです。
1月のテーマは「雪」。空から舞い降りる雪、降り積もった雪景色、雪合戦や雪だるま……みなさんが思い描く“雪”をAdobe Frescoで描いて、 #AdobeFresco #雪 をつけてTwitterに投稿しましょう。
そして、この企画に連動したAdobe Frescoクリエイターのインタビュー「Adobe Fresco Creative Relay」、第11回はアーティストの雪下まゆさんにご登場いただきました。

ファッション×メイクで雪を表現

「2020年11月にTRUNK(HOTEL)で三人展があったのですが、そのときにわたしが描いたのは、ダークな雰囲気の女の子の顔のアップにメイクを施した作品でした。
2021年はこのイメージの絵をたくさん描いていきたいと考えていましたし、イラストにメイクの要素を取り入れるというのは、いま取り組んでいるスタイルのひとつだったので、テーマの“雪”をメイクで表現できないかとチャレンジしたのがこの作品です。
いまは絵だけでなくファッションにも興味があって、自分で『Esth.』(エスター)という洋服のブランドも始めたのですが、このイラストの女の子が着ているのも『Esth.』の服なんです。
最近はイラストとそのファッションブランドをうまくつなげていけたらいいなと思っていて。ブランドのよさをイラストに活かしたり、イラストのよさをブランドに活かしたり。今回の絵では、それができたかなと思っています」

雪下まゆ「TRUNK(HOTEL)#1」「TRUNK(HOTEL)#2」「TRUNK(HOTEL)#3」

リアルにしすぎない、絵画表現としての写実

雪下まゆさんの絵は、遠目に見ると写真かと錯覚するほど、写実的に見える一方、ディテールにはむしろ手の動き、筆の流れを残しています。
写真と絵、リアルと非リアル……その絶妙なバランスが、見る人を惑わせ、引き込み、惹きつける魅力となっています。

「油絵を描いていたときは、どこまで写実的にかけるかを意識していましたし、デジタルならなおさら描き加えるほどに密度、(描画の)解像度を上げられるので、突き詰めれば限りなく写真に近づけることができます。
でも、わたしの作品としては、“絵である意味”を残したい。そのためにも、写実に寄りすぎずに、どうやって筆致、荒さを残していくか、そのバランスを常に意識しながら描いています」

雪下まゆ「WAVE2020 #1」

雪下さんには絵を描くとき、最初に行なう重要なプロセスがあります。それはモチーフとなる人、空間の写真を撮ることです。

「ここで絵の雰囲気が決まります。今回の絵も家で雪のメイクをしてから、自撮りをしたものをベースにしました。何十枚も撮影をしてその中からセレクトしたり、組み合わせていくのですが、これがうまくいくと、あとはラクに描き進めることができます。
わざわざ、メイクをしてから写真を撮らなくても、絵の上でメイクをすることも可能ではあるのですが、肌になじんでいる感じ、写真に撮ったときにフィルムと被写体との距離感で生まれる陰影やボケ感は、実際に撮影をしたほうがリアルに出るのではないかと思っています」

グラフィックデザインの道へ

自身の作品制作に加えて、装画や広告のような商業イラストレーション、そしてファッションブランド「Esth.」と、幅広いクリエイティブを展開する雪下さんですが、これまでずっと絵画の道を歩み続けてきたのかというとそうではありません。

「以前から絵を描くのは好きだったのですが、特にデッサンが好きで。高校生のときは授業中に前の人の後ろ姿を描いたり、自分の手を描いたりしていました。結局、描写が好きなんですよね。
美大に行きたいということは、高校1、2年の頃には決めていました。でも、そのときは具体的に美大に行って何がしたい、将来は何になりたいということはまったく決まっていませんでした。ただただ、“絵を描く仕事に就くんだろうな……”くらいに考えていましたね」

そうして多摩美術大学に進学。選んだ学科はグラフィックデザイン学科でした。絵画ではなく、グラフィックデザインを選んだ理由はどこにあったのでしょうか。
「絵を描きたいという気持ちもあったのですが、そのころは映画もすごく好きで。映像の編集もやってみたいなとか、いろいろ考えていたら、予備校の先生がグラフィックデザインへの進学を勧めてくれたんです。
ただ、実際に入ってみると絵を描く授業はほとんどなくて……一度は油画への転科も考えたのですが、3年になって受けた大貫卓也さんの授業が本当におもしろかった。せっかくグラフィックデザイン学科に入ったんだから、しっかりとデザインの勉強もしよう、絵は自分でしっかりと勉強していこうと思えるようになりました。
最終的にはグラフィックデザインを選んでよかったと思っています」

グラフィックデザイン学科での学びの経験はいま、装画に添えるタイトルの描き文字にも活かされていると雪下さんは言います。

「絵にあわせて題字を依頼いただくことがあるのですが、そういうときにデザインを学んでおいてよかったなと思います。
雑誌『イラストレーション』の『人を描く』では、表紙自体の色を人の肌、体をイメージする色にしてもらって、ひっかき傷のようなイメージで赤いタイトル文字をデザインしました。
『恋のこと/文読む私』や、尾崎世界観さんの『犬も食わない』でも、絵のイメージ、作品のイメージに合う文字を描いています。描き文字は流行もあって、そこからどう抜けていくのか難しい部分もありますが、やりがいはありますし、頼まれるとうれしくなりますね」

左:『イラストレーション』No.227/発行:玄光社(2020) 右:「恋のこと/文読む私」美的計画/ワーナーミュージック・ジャパン(2020)

“仕事にするならスタートは早いほうがいい”

雪下さんがアーティストとして仕事をするようになったのは、卒業後ではなく大学在学中から。そこには“絵で食べていく”という力強い信念がありました。

「卒業後の進路を考えたとき、デザイン科には『広告会社に行きたい』『デザイン会社に入りたい』という子が多かったのですが、絵を描きたかったわたしには、就職というビジョンはありませんでした。
そうなると、それを仕事にしようと思ったら、いろいろな人にわたしの絵を知ってもらって、仕事を取っていくしかないと思っていました」

絵の仕事が欲しい。そのためにも絵を見てもらいたい。その一心でまずはTwitterを開始します。
圧倒的な画力に裏打ちされたイラストは、ガーリーなものから映画をテーマにしたものまで幅広く、そうした絵をポストし続けるうちに、徐々にフォロワーは増加。大学1年生でグループ展を開催するなど、社会との接点を積極的に広げていきました。

「最初に仕事を依頼されたのは、大学1年生のときです。同学科のハヤカワ五味さんがランジェリーブランドのポップアップストアを出すことになって、その紙袋をデザインするというものでした。ありがたかったですし、うれしかったですね」

“泣きたくなるほど嬉しい日々に”

早くからプロとしての道を探求し続けていた雪下さんにとって、いまのスタイルを決定づけるきっかけになった仕事があります。
それがクリープハイプのアルバム「泣きたくなるほど嬉しい日々に」のトレーラー映像でした。

「泣きたくなるほど嬉しい日々に」トレーラー映像/クリープハイプ/UNIVERSAL MUSIC JAPAN(2018)

「曲に合わせて10枚近く描きました。自由に描いてくださいという依頼をいただいて、どうしようか本当に迷ったんです。そこで生まれたのがいまのフィルムで撮ったような作風です。これをきっかけにお仕事をいただく機会が増えたようにと思います。
そのあとで担当した尾崎世界観さんの『犬も食わない』の表紙も、いろいろな装画の仕事をいただくきっかけになりました」

左:『犬も食わない』著:尾崎 世界観、千早 茜/発行:新潮社(2018) 右:『アイドル 地下にうごめく星』著:渡辺 優/発行:集英社(2020)

モード学園の2019年度TVCMも、雪下さんの人気、知名度を押し上げた仕事のひとつです。
「このモデル誰?」「写真かと思ったら絵だった」「絵だと思っていたら瞬きした!」……リアルに違和感が入り混じる、雪下さんならでは世界観は多くの人を魅了しました。

専門学校モード学園2019年度TVCM 「承認欲求」篇/学校法人日本教育財団(2019)

デジタルから入り、アナログを行き来する

こうした雪下さんの絵はどのように描かれているのでしょうか。
現在の制作環境について聞いてみました。

「仕事ではデジタルが多いですね。展示の作品は油画で描くこともあります。
油画は大学1年生のときにはじめました。デジタルでイラストを描いているとき、いわゆる厚塗りが好きだったのですが、それをアナログで表現するなら、油画が合うかなと思ったのがきっかけです。
自分のなかではデジタル/アナログ、どちらが上という位置付けはないのですが、展示する、誰かに買ってもらうということを考えたとき、油絵も用意しておきたいと思っています」

学生自体からペンタブレット+Photoshopで描いていた雪下さんは、2019年ごろからiPad Pro+Apple Pencilを導入します。

「わたしはAdobe Frescoのピクセルブラシにある『厚塗りブラシ』というのをすごく使うんです。
筆致がやわらかくて、強く乗せると濃く、軽く乗せると薄くなる、その感覚がとても繊細で描きやすい。筆がやわらかい感じがします。
指先ブラシもいいですよね。今回のイラストで手前にある雪は指先ブラシでぼかしているのですが、単純に描いたものをぼかすのではなくて、いろいろなブラシの設定で指先ブラシが使えるのは便利だと思います」

Adobe Frescoには「スタイラスペンの筆圧調整」機能があり、雪下さんはブラシをやわらかくカスタマイズすることで、より求めるタッチを表現できるブラシへと調整をしています。

iPad+Adobe Frescoならいつでも描ける、仕事ができるのは心強い……そう話す雪下さんは、すでにAdobe Frescoを仕事でも活用中。
『5分後に残酷さに震えるラスト』『ひとでちゃんに殺される』の2冊の装画は、Adobe Frescoで描かれています。

左:『5分後に残酷さに震えるラスト』編:エブリスタ/発行:河出書房新社(2021) 右:『ひとでちゃんに殺される』著:片岡翔/発行:新潮社(2021)

ツールを駆使しながら、より表現力を高め、そのフィールドを広げている雪下さん。最後に今後の活動、目標について聞きました。

「装画や絵のお仕事をいただけるようになってから、『イラストレーター』という肩書きで活動していたのですが、2020年からファッションブランドも始めていますし、展示を重ねるうちに作家としての活動ももっと増やしたいという欲が出てきて。今後は『アーティスト』として、活動の幅を広げていきたいと思っています」

アーティスト
雪下まゆ

web|https://yukishitamayu.com
Twitter|https://twitter.com/mognemu
Instagram|https://www.instagram.com/mayuyukishita/
Instagram(Esth.)|https://www.instagram.com/esth.official/

Topics: クリエイティブ, デザイン, イラストレーション, グラフィックデザイン, ユーザー事例

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