【College Creative Jam イベントレポート】
2020年7月8日より約3週間にわたって完全オンライン形式で産学共同型のデザインコンペを実施しました。このブログでは、キックオフからフィナーレ、その後の特別企画まで、一連のイベントの様子をレポートします。
Adobe XDを使った学生向けデザインコンペを開催。
学生の創造的問題解決スキルの育成を支援(後編)
College Creative Jam イベントレポート 前編では、キックオフからフィナーレ、その後の特別企画まで、一連のイベントの様子をお伝えしました。後編では、フィナーレで見事、最優秀賞に選ばれた東北芸術工科大学の村岡 光さんと宮野 友里さん、そしてお二人の作品制作の指導に当たった東北芸術工科大学 グラフィックデザイン学科 准教授のアイハラ ケンジ先生に、今回のイベントを体験された感想をお聞きしました。
東北芸術工科大学 デザイン工学部 グラフィックデザイン学科は、既存のグラフィックデザイン的な手法にとらわれることなく、自由な発想で様々な実験にチャレンジしながら、社会と向き合うカリキュラムを展開しています。その中でもUI/UXの領域については、2年次で必修科目としてUIの基礎と概論を学び、3年次は選択科目として、より専門性の高いUI/UXの演習を展開。今回のCollege Creative Jamへの参加は、この専門演習のカリキュラムに組み込まれたものでした。
感覚とロジック、2人の特性が見事に融合したグランプリ作品
学生インタビュー:村岡 光さん/宮野 友里さん
バイカラードティーバック、あまり聞き慣れない言葉ですが、このチーム名の由来を聞かせていただけますか。
宮野さん 「私たちのアプリの中で使用するグラフィックのモチーフとして、様々な種類の魚を制作することになったのですが、その魚のセレクトを行っているときに見つけたのが “バイカラードティーバック” という魚でした。まず名前が独特なのと、きれいに真ん中で色が2色で分かれている魚だったので、2人の中で一番印象に残っていて、そのままグループ名として使いました」
普段はわりと個人での制作が多いと思いますが、チームでの共同制作はどうでしたか?
宮野さん 「私はわりと感覚的にものごとを考えることが多いのですが、村岡さんはロジカルに考えることが多く、やっぱりお互いが全然違う視点を持っているところで、うまく補い合えたかなと思います。村岡さんはUI制作の強みがあるので、私は逆にグラフィックのところで力を発揮して、タスクを分けてお互いの良いところを出し合いながら進められたのが、すごく良かったところですね」
村岡さん 「そうですね。自分の頭だけで考えていると、いつの間にか客観的な視点がなくなってきて、自分はいいと思っているものでも、人に見せたりすると、その反応が自分のものと全く違っていたりするんですね。でもチームで共同制作となると、自分の中のイメージと相手の中のイメージを少しずつすり合わせて、客観的な視点みたいなものをお互いに共有し合いながら進めていけるので、そういった点は今回のコンペにとても合っていたかなと思います」
今回のイベントは完全にオンライン形式で行われたわけですが、チームで共同制作をおこなう上で、やりにくかったことはありますか? また、それをどのように克服しましたか?
宮野さん 「いつもだったら、横でラフスケッチとかを簡単に描いてすぐ伝えられていたことが、ある程度きちんと描いたものを画面共有して見せ合わせないと、お互いの意思疎通ができないというところは、ちょっと大変でしたね 」
村岡さん 「私もそれは同じで、デザインの方向性が完全に定まらない限り、すごく難しいなって感じました。でも方向性が完全に定まるのを待っていると、今回の期間では到底間に合うものではないと思い、ある程度の方向性が見えた時点でタスクを割り振ることにしたんです。宮野さんがイラストを描き、同時に私がUIを作っていったのですが、最初にそれらを合わせたときにすごくマッチして、そこから制作へのモチベーションが一気に上がって、作業もスムーズに進んでいきました」
逆にオンラインだからこそ良かった点はありましたか?
村岡さん 「やっぱりコンペ自体がオンラインでなければ、北から南までこれだけの大学が集まれなかったと思います。オンラインになったことで、繋がりみたいなものもすごく広がりましたね。私は今回のコンペを通して、他大学の学生とも繋がって、イベント後も感想を伝え合ったり、フィードバックを送り合ったりしていました。直接会って広がることもありますが、やはりオンラインだと気軽な部分があるので、自分から声をかけたり、 逆にかけられたり、そういった大学を超えたコミュニケーションが生まれて、私はやって良かったなと感じています」
制作をしていく中で、一番苦労した点は?
村岡さん 「そもそもこのコンペのテーマが、サンゴの絶滅という、私たちにとっては少し遠くて、難解なテーマだったのですが、いろいろとサンゴについて調べていくうちに、私も知らないことがたくさん出てきて、やはりこれは世界中の人に知ってもらわなきゃいけないという意識がすごく強くなりました。でもあまりにも伝えたいことがありすぎて、最初のころはあれもこれもと機能を盛り込みすぎてしまって。そこからは、何が本当に必要なのかという取捨選択のところですごく苦労しましたね」
宮野さん 「私はアイデア出しの部分で一番苦労しました。村岡さんも言った通り、やっぱり今回のテーマが難しくて、かつペルソナを設定しづらかったので、難しいという印象に引っ張られすぎて、考えが止まってしまったんですね。でも早い段階から村岡さんのアイデアを聞いたりして、自分でもリサーチを広げていくことで、 アイデアが出せるようになりました 」
College Creative Jamでどんなことを学ばれましたか?
村岡さん 「UI/UXを作る上で、ユーザーリサーチってすごく大切な部分になってくると思うんですけど、そのユーザーリサーチから得られたことをすべてソリューションに反映させていくと、つまらないものになってしまうというか、ユーザーに付き従うソリューションになってしまうというところはすごく感じて。最初はユーザーに応えなきゃいけないみたいな、ユーザーが一番どう思うかというところを一番に考えて作っていかなければいけないという意識が強かったんですけど、付き従うということが全てではなくて、自分の力でユーザーをどう誘導させるかということだったり、ユーザーの行動さえもデザインしていくというところが、すごく大切だったんだなということを、このコンペを通じて学びました」
宮野さん 「私たちが普段使っているアプリは、タップしたり、グラフィックの配置だったり、今までは当たり前のように感覚的に使ってきたところが多かったんですが、今回制作している中で、そういうものもきちんとひとつずつ行動心理に基づいて作られているんだなということに気が付きました。ほんの少しのサイズとかのズレで、全然違和感を覚えるデザインになってしまうというところは、すごく学べましたし、今後生かしていきたい大切な要素だと思いました」
最後に、最優秀賞を受賞された時の率直な感想をお聞かせください。
村岡さん 「最初は本当に信じられなくて。私たち自身、精一杯やってきたつもりだったんですけど、他のチームの作品を見て驚かされたり、審査員の方々のフィードバックがすごく明確で、掘り返していくと、まだまだ改善できる部分がたくさんあるんだなというのを感じました。嬉しさ半分、私たちでいいのかなみたいな、そういう気持ちもありました」
宮野さん 「他のチームの皆さんもそうだと思うんですけど、毎日のようにお互いの考えとか共有しあったりとか、制作をしてきたので、グランプリを獲れたのは本当に嬉しかったですし、その反面、たくさんのフィードバックをもらって、まだまだ改善しなければならいことが多くあるんだなと実感しました。最初にテーマが出題されたときに、とても難しく感じたのですが、やっぱり一緒に作品を作ってくれる仲間がいると、自分では見れなかった視点が得られたり、いい刺激にもなって、本当にやってみて良かったと思いました」
社会経験にそのまま直結する、College Creative Jamの可能性
先生インタビュー:アイハラ ケンジ先生
まず、このイベントに参加された経緯についてお聞かせください。
「それまでのweb制作中心だったUI/UXの演習を、アプリのプロトタイピング制作にシフトチェンジしたタイミングと合ったというのがまずひとつ。もうひとつは、産学連携のコンペであるということでした。東北芸術工科大学(以下「芸工大」)は、おそらく日本の美術系大学の中では、産学連携のプロジェクト数はトップクラスを誇ると自負しております。今回のコンペについても、いわゆる通常のコンペではなく、産学連携型のコンペということもあり、まさしく芸工大にふさわしいコンペと判断し、参加させていただきました」
授業もイベントもオンラインで行われる中、ご苦労された点はありましたか?
「芸工大では新学期が始業するかなり前の段階で、前期授業はすべてオンラインで行うことが決定していました。その準備も進めていたので、コンペがオンラインで開催されることに関しては、それほど心配はしていませんでした。ただ、人と人がリアルに向き合って行う場合のグループワークと、オンライン上で行う場合のグループワークとではどのような違いがあるのか、本当にうまくスパークするのか、そのあたりが全く読めない状況だったので、その点が気がかりではありました 」
3週間の中で、具体的にどのような指導をされましたか?
「コンペのキックオフ1週間前に演習が始まったということもあり、演習の初週は、Adobe XDを使った簡単なペーパープロトタイピングでウォーミングアップをしました。ウォーミングアップとはいえ、ここでプロトタイピングの意味や意義を叩き込みました。キックオフ後の1週目は、クリエイティブブリーフを読み解き、ユーザーリサーチ・モデリングからペーパープロトタイピングまで持っていき、2週目でそのプロトタイプをPDCAで回していくフローに入り、3週目でグラフィックをつくり込み、デザインを仕上げていくという流れで指導を行いました」
チームビルドについては、どのように取り組まれましたか?
「この演習は選択制の授業なので、学生は自分が志向する方向と演習内容が合致していると理解した上で履修してくれているので、誰と誰を組み合わせても問題ないだろうなとは思っていました。なので、最終的には学籍番号順で機械的に組み合わせちゃっています。
ただ、UI/UXという領域は、ロジカルな部分と感覚的な部分の両方を必要とされるので、学生個々人の特性を見抜いてうまく組みわせてあげることが重要だと思います。それでいうと、宮野と村岡は互いの特性がうまく融合したんじゃないでしょうか 」
ファイナリストに3チーム、そのうちの1つがグランプリ、もう1つが3位でした。
「1チームくらいはファイナリストに入れればと思っていましたが、結果として3チーム、しかもグランプリまでいただけて本当に良かったです。
村岡と宮野のチームは、当初からプロトタイプの完成度が高くファイナリストには残るだろうと思っていたのですが、3位になった阿部と小川のチームの粘り強さというか頑張りには目を見張るものがありました。初期のプロトタイプはとてもわかりづらかったので、どう修正すべきか一緒に考えていきました。よくあることなのですが、結構良いアイデアなのに、学生はそれを自分で理解できずボツにしてしまったりすることがあります。単純にボツにするということではなく、アイデアの中のどの部分を残してどの部分を捨てるか、自分たちでそのバランスをどう掘り当てていくかというところもクリエイティブではとても重要なことなので、そこを諦めずにうまく掘り当てていったのが、阿部と小川のチームの勝因になったと思います」
イベントの前と後で、学生たちにどのような変化が見られましたか?
「最初にあのクリエイティブブリーフを出された時に、学生は相当困惑した様子だったんですが、制作を進めていくうちに、タッチポイントはここじゃなくて、こっちの方がいいよねとか、どういう流れでこのソリューションを作っていけばいいのかとか、学生自らが積極的に考え、形として定着させているのが、手に取るようにわかりました。
芸工大グラフィックデザイン学科は、やはりグラフィックデザインをベースにしていますから、学生たちや指導する側も、なんだかんだで最終的には画面に定着されたビジュアルにこだわりを持ちたいわけです。でも、そうではない目に見えない部分についても、全体のソリューションやデザインをつくり込んでいく上では、とても重要なんだということをこのコンペを通して理解していっている、というのはとても感じました」
最後に、College Creative Jamが教育にもたらす可能性についてお聞かせください。
「UI/UXの領域は、テクノロジーをうまく使いながらユーザーの体験をどうつくり込んでいけばいいのかということですから、その意味では、刻々と変化する社会に目を向けないといけないし、アップデイトが激しいテクノロジーやそれに関連する表現やメディアのトレンドも追わないといけない。また、ユーザーの心理や行動に関しての分析だったり、やること考えることが非常に多岐に渡り、それがそのままイコール社会勉強だったりするわけです。今回のコンペのテーマが環境問題であったり、アウトプットがモバイルソリューションであったりしたわけで、ここでの学びがそのまま社会経験に繋がっていることが実感でき、とても可能性を感じました。ぜひとも継続していって欲しいですね」
College Creative Jamの内容については、アドビの教育コミュニティサイト「Adobe Education Exchange」のでも詳しくご紹介しています。College Creative Jamレポートはこちら
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