【イベントセミナー】東京大学にて開催 不正を疑われない適切な画像処理とは?研究者向けセミナー
研究上で必要な画像を適正に加工するには何に気をつけたらよいのでしょうか。アドビは2021年5月13日(木)、東京大学で「研究者のための画像処理セミナー」をオンラインで開催しました。講師に、エルピクセル株式会社共同創業者湖城恵氏を迎え、研究データとして適切な処理を行うためのポイントと具体的な手法の解説が行われました。
エルピクセル株式会社共同創業者湖城恵氏によるセミナー
画像の不正使用や不正加工が行われている実態
医学・薬学・農学など生命科学分野の論文の多くには、顕微鏡等何らかの画像データが含まれています。研究の重要な記録であるにもかかわらず、その画像データの扱い方については体系的に学ぶ機会がなく、多くは独学や先輩からの口伝で習得されているのが実態。これでは悪意なく不正な画像加工を加えてしまう可能性もあります。
湖城氏は、論文における画像の不正利用が2000年代前半から急増し、平均して4.3%の掲載論文に画像の不適切な使い回しがあるという調査を紹介しました。使い回しの例のうち3分の2以上は悪意を持って画像が加工されているということです。
画像使い回しの例。Simple Duplicationは間違いと言えるかもしれないが、Duplication with repositionとDuplication with alternationは明らかな不正。出展:Bik EM et al. 2016 “The Prevalence of Inappropriate Image Duplication in Biomedical Research Publications”(セミナースライドより)
湖城氏は「Nature」誌の投稿規定をもとに、使い回しを含む不正な画像処理を6点あげ具体例とともに示します。
<施してはいけない6種類の画像処理>
- 歪ませる
- 黒つぶれ・白飛び
- 比較対象の片方のみに画像処理
- 異なる実験区画の画像合成
- 画像の一部分のみに画像処理
- 切り貼り、使い回し
不正な画像処理の具体例(セミナースライドより)
不正は必ず見つかる
学術雑誌は対策を講じていて、例えば「Journal of Cell Biology」誌は、論文に使用された画像の原画像と画像処理手法のデーターベースを持ち、投稿時に登録を推奨するという取り組みを行ってきました。投稿画像を検査する専属のData Integrity Analystもいます。「PLOS ONE」誌の場合は、2019年にゲル画像の原画像提出を義務化し話題となりました。
エルピクセルでは不正画像検出ソフトを開発、販売しており、論文のPDFをインプットするだけでさまざまなパターンの画像不正を検出できます。「現代では、不正な画像処理は必ずばれてしまうと考えてください」と湖城氏は話します。
エルピクセルの「ImaCheck」は不正画像を自動検出できる
研究のために適切な画像処理は積極的に行う
では、画像加工をいっさい行わずに原画像のまま掲載するのが良いのかというと、そうではありません。実験データである原画像には、撮像のボケやノイズなどが入ってしまうので、これらを取り除くためにむしろ積極的に画像処理を行うことが大切です。
客観的で定量的なデータ抽出のために画像処理が必要(セミナースライドより)
湖城氏は、「Nature」誌の投稿規定から、不正を疑われないための3つの原則を示した上で、Adobe Photoshopでデモンストレーションを行いました。
適切な画像処理のポイント(セミナースライドより)
例えば、原画像を保持するためには、Photoshopの「調整レイヤー」が便利。色調補正がレイヤーとして追加されるので、オリジナル画像は独立したレイヤーで保持でき、非破壊的な画像処理が行えるのです。また、「ヒストリーログ機能」を使用すると、Photoshop上で行った作業を詳細にログとしてテキストデータなどに残せます。なお、画像処理自体のコツは様々ありますが、レベル補正で「白飛び、黒つぶれ」を起こさない操作のコツなどが紹介されました。いずれもすぐに役立つテクニックばかりです。
研究成果を伝わりやすくするために、画像を正しく加工することは重要な手順であり、自己流では不正と判断されるリスクがあることが伝わってくるセミナーとなりました。こらからの研究者にとって必須の基本スキルといえそうです。
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