拡張現実 (AR) デザインに、現実世界からのインスピレーションを取り入れる | アドビ UX 道場 #UXDojo

拡張現実 (AR) のデザインをするときは、テーブルゲームから、横断歩道、そしてドアハンドルまで、現実の世界からたくさんのインスピレーションを得られます。

Kyle Websterによるイラストレーション。

Kyle Webster によるイラストレーション

拡張現実 (AR) は、デジタルコンテンツと物理的な環境が重なり合った、ちょっと特殊な世界です。この通常とは異なる物の見え方は、強力に体験を推進する力を秘めています。そのため、娯楽用にも実用目的にも、拡張現実が幅広く使われ始めています。

セルフィーを撮るときやポケモン GO などのゲームをして、拡張現実で遊んだことがある人は大勢います。アーティストの中には、メッセージを伝えたり自己表現のための新しいメディアとして AR を模索している人々がいます。また、AR は家具や製品のコンセプトを 3D で視覚化する目的にも使われます。教育や訓練にも採用されており、空間的な概念を教える際に有効であることが示されています。その他には、スマートフォンと自動車の両方で道案内の手段として普及しつつあります。拡張現実は急速に成長している刺激的な領域であり、新しいタイプのデジタル体験の構築に関心を持つ人々を魅了しています。

クリエイターが拡張現実をデザインするとき、画面の前に居続けることは簡単です。ですが、オフィスの外に出ることは創造性を高めるためにとても重要で、最終的にはより良い体験を生み出せます。AR は現実世界の上に重ねられたレイヤーなので、デバイスの画面から離れて現実世界を見渡せば、新しい有用なヒントを探せます。それにより、AR 体験をデザインする際に、アナログの親しみやすさをデジタル体験に加えることができるようになります。

私たちの周囲には AR デザインに役立つ情報を提供してくれる数多くのヒントが存在します。この記事では、テーブルゲーム、横断歩道、ハンドルの 3 つの例を紹介します。これらは私たちの日々の生活の中からインスピレーションを得られる多くの対象のほんの一部に過ぎません。

テーブルゲーム: 空間への適応

私たちが生活したり仕事をしている空間は様々で、その大きさ、レイアウト、置かれている家具は実に多様です。たとえば大学の寮の部屋と企業のオフィスは全く異なる空間です。AR プロジェクトのためにデザインする際は、その体験がユーザーの空間にどのようにフィットするかを考えることが重要です。テーブルゲームは、この点に関して検討すべき項目のアイデアを与えてくれます。

日常空間に合わせた大きさ

テーブルゲームをプレイしたときのことを思い出してみてください。モノポリー、スクラブル、あるいは人生ゲームたちだったかもしれません。そのゲームをした場所はどこだったでしょうか。もし家だったなら、おそらく居間や食卓のテーブルの上だったでしょう。ボードゲームは、一般的な家庭用のテーブルを想定してデザインされています。

テーブルの周りに集まりボードゲームをする 6 人の友人。

テーブルの周りに集まりボードゲームをする 6 人の友人

これは、自宅やオフィスのテーブル上の体験をつくろうとする AR デザイナーにとって有用なヒントです。拡張現実のシーンの幅は、標準的なテーブルサイズに収めるべきです。体験に必要なスペースを大きくしすぎると、コンテンツがテーブルからはみ出て空中に浮いた状態になり、拡張現実がつくり出すイリュージョンを壊しかねません。

ユーザーの視点

テーブルゲームには、テーブル周囲のプレイヤー用のスペースも必要です。チェスや海戦ゲームでは、2 人が向かい合って座ります。カードゲームやカタンのようなゲームでは、多くのプレイヤーがテーブルの周りに陣取ります。こうした状況ではテーブルの周囲に多くのスペースが必要です。壁に沿って配置されたテーブルではスペースが足りないかもしません。

子供が見ている前でチェスをする両親。

子供が見ている前でチェスをする両親

テーブルの周りでポーカーをする 6 人の友人。

テーブルの周りでポーカーをする 6 人の友人

拡張現実のシーンを作成するときも、この問題は発生します。オブジェクトやシーンをさまざまな角度から見て欲しいと思っても、ユーザーは動き回れない、あるいは動きたくないかもしれません。たとえば、AR 体験を利用した製品ショーブースでは、顧客に製品の裏面を見せることが可能なはずです。ですが、製品が配置された場所によっては、顧客が背面に移動できないかもしれません。

使用する AR オーサリングツールの機能次第ですが、この問題にはいくつかの方法で対処できます。製品やアイテムをショーウインドウのディスプレイのように自動的に回転させたり、異なる角度に回転できるボタンを画面に含めることができるでしょう。これは、プレーヤーが移動する代わりにゲームボードを回転する行為と同等です。

また、画面上のジェスチャによる直接操作でオブジェクトの向きを変える方法も効果的な場合があります。このオプションにより、ユーザーは立ち上がって移動しなくてもあらゆる視点から製品を見ることができます。この戦略はジェンガの AR バージョンには効果的かもしれません。

コーヒーテーブルの周りに集まってジェンガを楽しむ家族。

コーヒーテーブルの周りに集まってジェンガを楽しむ家族。

横断歩道: ナビゲーションの提示

横断歩道について深く考えたことのある人はあまりいないかもしれません。しかし、これは現実世界を移動する行為における大切な要素です。子どもにとって横断歩道はおそらくやや威圧的なもので、安全な渡り方を教えられていたはずです。

拡張現実も、まだ AR に慣れていない多くの人々には同様に感じられるでしょう。特に、ナビゲーションや移動を伴う大規模な AR 体験のデザインには、道路を横断する行為からいくつかのヒントを学べます。

信号を作動させるために歩行者にボタンを押すよう促す横断歩道の信号標識。

信号を作動させるために歩行者にボタンを押すよう促す横断歩道の信号標識

明確なガイド

横断歩道の文字を読んだ覚えはありますか?横断歩道についてはあまりに慣れているために、ほとんどの人は文字があることを気にかけません。しかし、慣れていない人にとっては、文字によるガイダンスは非常に重要です。

拡張現実にはほとんどの人がまだ慣れていません。すなわち、ガイダンスの提供は、良い体験をしてもらうための鍵になります。たとえば、読みやすく理解しやすいラベルを UI に使用したり、操作方法を説明する短いテキストを提供することができます。より深い AR 体験のために、基本に慣れてもらうためのチュートリアルをユーザーに受けてもらうのもよい案でしょう。

ユーザーを誘導するという観点から、最も重要と思われるタイミングを見つけてガイドを表示しましょう。それから、過度な情報を与えないように注意することはとても重要です。

テキストやアイコンを多用した横断歩道のガイド。

テキストやアイコンを多用した横断歩道のガイド

方向を示すビジュアル

道路を渡る場所をどのように判断していますか?通常、道路には、横断するべき場所を示す線やパターンが描かれています。同様に、AR 道案内のような拡張現実のナビゲーションでは、画面上に道案内のビジュアルを表示することが基本になるでしょう。

ただし、歩行中に何かに気を取られるのは危険ですから、できるだけ簡素なビジュアル表示を維持することが重要です。シンプルなグラフィックや、透明なグラフィックであれば、ユーザーが周囲をはっきりと見ることができ、危険を回避しやすくなります。

上から撮影した交差点の横断歩道を歩いている歩行者。

上から撮影した交差点の横断歩道を歩いている歩行者

没入感のあるサウンド

私たちは、道路を横断するときに様々な感覚を使います。目では、車が来ないか確認したり、信号の色を見たりします。耳では、車の音を聞いたり、横断歩道に設置されている渡ってよいタイミングを知らせるサウンドを聞くこともあります。

拡張現実でもサウンドは没入感を高める重要な要素です。BGM、効果音、ナレーション等をビジュアルと組み合わせれば、体験をより豊かにできます。ユーザーの中にはオーディオをオフにしている人々がいるかもしれません。そこで、サウンドが体験の重要な部分である場合は、オーディオをオンにするよう通知することを忘れないようにしましょう。

馴染みのある道具に頼る

ハンドルは私たちにとって馴染み深いものです。私たちは日々あらゆる種類の取っ手を本能的に認識して使用しています。拡張現実では、ユーザーが直感的に操作方法を学べるように、普段から慣れ親しんでいるハンドルのような道具に頼ることができます。これから AR 体験デザインの参考になるポイントをいくつか紹介します。

自動車の運転手側の後ろのドアのハンドルを引く。

自動車の運転手側の後ろのドアのハンドルを引く

期待値の設定

拡張現実の車を見た人は、ドアハンドルに触れてドアを開けようとするかもしれません。その際に、ドアが開かなければ期待を裏切ることになります。これは、現実世界に存在するデザインが拡張現実のユーザーに与える影響の一例で、人々が AR の世界に持ち込むメンタルモデルを明確に示します。

現実世界のメタファーやモデルを拡張現実に流用する場合は、ユーザーの期待に応えるために、ユーザー操作へのフィードバックやガイダンスを追加すべき場合があることを覚えておきましょう。

鍵のかかったドアを開けようとしている女性。

鍵のかかったドアを開けようとしている女性

操作へのフィードバック

キッチンの引き出しを開けるときは、まず引き出しを見て、取っ手を握り、引き出しが開くまで引っ張ります。その操作の最中には、引き出しの重さを感じ、引き出しがスライドしながら開くのを目にします。このアフォーダンスは直感的なものであり、そのフィードバックはほとんどの人にとって自然に感じられます。

拡張現実でも、同様の手法をインタラクティブな要素に適用できます。まず、取っ手の近くに「引く」と書かれたラベルがあれば、何が可能なのかを意識させることができます。そして、ユーザーが操作を始めた瞬間にフィードバックを提供すれば、その要素が確かに操作可能であることを再確認してもらえます。ここでは、ホバーやハイライト等の表示、情報を提供するためのアニメーション、触れた感覚を与える触覚フィードバックなどが利用できます。最後にはビジュアルやサウンドを通して取っ手が反応すれば、ユーザーは操作に成功したことへの自信を持てます。

便利さと楽しさ

閉じているドアを引っ張って開けるという行為は、初めての AR 体験では楽しいことかもしれません。しかし、この動作を繰り返し行わなければならない場合は退屈な作業になってしまう可能性があります。すなわち、現実世界のインタラクションを忠実に再現したくない場面もあるのです。この場合は、画面のタップや、コントローラのクリックで同じタスクを実行できるようにすれば、現実よりも便利なインタラクションを実現できます。ガレージのドアを毎回手動で開け閉めするより、ボタンで操作できた方が便利ですよね?

拡張現実での作業をより容易にすれば、体験の複雑さの軽減や、UX デザインおよび開発作業の簡素化もできます。

ガレージのドアを手動で開けている人。

ガレージのドアを手動で開けている人

目を開いてよく見よう

拡張現実は急速に成長している分野で、多様なビジネス業界からの需要が高まっています。技術は継続的に向上しており、利用できる環境はスマートフォンからスマートグラスへ、さらにはコンタクトレンズが利用できる時代が来るかもしれません。新しいパラダイムやパターンを定義する機会は、こうした新しいフィールドで生まれます。その際、身の回りにあるコンセプトや環境から着想を得れば、優れた製品のための創造的なアイデアを思いつくのに役立つでしょう。

AR プロジェクトに取り組む際は、物理的な世界に目を向けることを強くお勧めします。物がどのように動くのか、普段人々が物をどのように使っているか、色や質感が何を語るのかなどに注意を払うのは、優れた AR デザイナーであるために必要です。

この記事は Think Outside the Screen: Physical Inspiration for Augmented Reality(著者:Kim Pimmel)の抄訳です