創造性を育む教育は、生涯にわたって「その人らしく生きる力」につながる~工学院大学付属中学校・高等学校~

工学院大学付属中学校・高等学校での事例です。創造性を育む教育は、子どもたちの可能性を広げます。映像制作を通じて、自分を見つめ、自己表現へとつながります。

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By Adobe Education Japan

Posted on 07-21-2021

映像制作を積極的に取り入れ、生徒の創造性を引き出す

緑豊かな八王子に校舎を構える工学院大学付属中学校・高等学校。21世紀のグローバル社会を見据え、「挑戦・創造・貢献」を校訓に掲げ、意欲的に社会に関わり、新たな価値を作って貢献できる人間形成教育に注力しています。

力を入れている取り組みのひとつが「創造性を育む教育」。中学校の授業で、全員が映像制作に取り組み、コンテストに応募するのです。応募作からは、国際的なコンペティションで受賞作品が次々と生まれ、高い評価を得ています。

同校で「創造性を育む教育」の柱として映像制作が導入されたのは、4,5年前のこと。修学旅行の事前学習がきっかけでした。インターネットで簡単に情報収集できる現代、目的地の歴史や文化をネットで調べてコピーペーストすれば体裁は整ってしまいます。「そこで、映像制作を課題に出すことにしました。生徒が作品をアウトプットすることによって自分の想いを深めるためです。」と語るのは、英語科の中川千穂教諭。修学旅行の目的地が広島の時は、「平和」をテーマに掲げました。「平和について考えなさい」と言っても、漠然としていて、生徒はどう考えてよいかわからないでしょう。しかし映像にまとめる過程では、自分が伝えたいことは何か、どう表現しようか、と考えを深めることができます。また、コンテストに出品するために、締め切りというゴールが設定されると、どういう段取りでプロジェクトを進めるべきか、生徒が自主的に考えるようになります。情報の正確さにも責任を持たねばなりません。「目的意識を持つことで、生徒のモチベーションがぐっとアップするのです。」

映像制作にあたっては、ソフトウェアを先生からは特に指定しません。生徒は各自好きなソフトウェアを自由に使っています。その中で、Adobe Creative Cloudは当初から導入していました。「学校用にスペックダウンされたツールを使うのではなく、生徒のアイディアを十分に形にできて、社会でも広く使われているソフトウェアを選択肢に入れたい」という考えがあったそうです。

中高生にとって、映像制作のハードルは低くなっている

生徒たちが映像制作に取り組む際に、困難はなかったのでしょうか?受賞作品を制作した3人の生徒に、初めて映像制作に取り組んだ時の気持ちについてうかがいました。

「小学校の担任の先生が、クラスの様子を日ごろから動画撮影してDVDにして配ってくれていました。それを見て、“なんだか面白そうだな”と、興味を持ち、自分でも動画制作を始めたのです。」と齋木宏共さん(高校3年生)は振り返ります。「難しそう」と思うより先に、好奇心に突き動かされたのでした。

同様に、飛川優さん(高校3先生)も、「特にハードルは感じませんでした。」と語ります。当初、友人の齋木さんとアプリで短い動画を作って楽しんでいたのが、徐々に本格的にステップアップしていったのでした。

齊藤真尋さん(高校3年生)は、「父が映像に関する仕事をしているので、動画の編集作業は見たことがありました。」と話します。

今の中高生は、身近で動画制作に触れる機会が多く、心理的なハードルは低くなっている様子がうかがえます。

取材を受けて下さった生徒のみなさん
取材を受けて下さった生徒のみなさん

「見る人に伝わるために」、多様な意見を交わし、試行錯誤を繰り返す

3人の受賞作は、メッセージ性、切り口のオリジナリティ、表現力など、とても高いクオリティに仕上がっています。こうした作品はどのように作られたのでしょうか?

「どうしたら飽きずに見てもらえるかにこだわって作りました。」と齊藤さんは語ります。“THE NEW STRESS”では手書きで絵が描かれていく様子が印象的です。「以前の映像制作授業で、手書きの絵で紹介していた子がいたんです。とてもかわいくて面白かったので、今回の作品に協力してもらいました。」

“THE NEW STRESSS” コロナ禍での人と人のつながりの大切さを訴える作品。

齊藤真尋さんが手がけました。2020年Peace in the Streets Global Film Festivalにおいて、国連75周年特別賞を受賞

また、第三者に見てもらい、アドバイスを受けました。実は齊藤さんの作品は、当初、他の映画祭で落選続きだったのです。「伝えたいことが見る人にちゃんと伝わるには?」と、客観的に見る視点を養い、繰り返し修正を重ねました。途中、一緒に制作するパートナーと意見が食い違うこともありました。「お互いに入れたいものを盛り込むと、5分という作品の枠に収まりません。より大事なのは何か、考え抜きました。」その試行錯誤が実って、見事に受賞に至ったのでした。

飛川さんの“Where Does Peace Come From?”は、彼が所属するインターナショナルコースのクラスだからこそ生まれた作品です。「中国人のクラスメイトと知り合う前は、中国にあまりいいイメージがありませんでした。」と飛川さん。中国人の生徒も同様に、戦争時代の悪印象を日本人に対して今も持っていました。ところが、知り合ううちに、共通の趣味や話題で打ち解け、偏見はすっかりなくなりました。「個人個人を知ろうとする気持ちがあれば、民族の対立もなくなるのでは?」と思い、相互理解が深まっていく様子を、自然に会話している動画で伝えたいと考えたのです。

飛川さんが手がけた“Where Does Peace Come From?” 日本人と中国人の生徒がお互いの偏見を超えて理解しあうディスカッションが描かれます。国際平和映像祭(UFPFF)2019 ファイナリスト

「映像を制作する中で、色々な立場の人の様々な考え方があることに気づけました。そして、日本は他の国からどう見られているのだろうか、と大きく見直すきっかけにもなりました。」と飛川さんは語ります。中国の生徒と力を合わせて作品作りをする中で、多様性への理解が深まったのでした。

齋木さんの受賞作は2作品。“PEACE”は、中学校の授業で「平和」」をテーマに取り組みました。「平和とは何か?人それぞれ、多様なとらえ方があります。色々な人が見た時に、共感してもらえる作品を作るにはどうしたらよいかを意識しました。」と齋木さんは語ります。そこで、地元の八王子の空襲を題材にすることにしました。齋木さんのお父さんの知人が八王子の郷土資料館の関係者だった縁で、空襲の資料を見せてもらい、これを作品にできないかと考えたのです。

齋木さんが手がけた“PEACE”。戦争体験者のインタビューや空襲の跡地などが丹念に取材されています。

もう1つの作品“What is Welfare?”は、SDGsに関する映像作品を作るという課題で作ったもの。「弟に障がいがあり、車いすで生活をしています。それを支える両親たちの姿を見て育ちました。そこでSDGsの中でも“福祉”のテーマを、実体験を通して伝えたいと思いました。」

“What is Welfare?”。健常者と障がい者の壁を乗り越えることを訴えた作品。20th Digicon6 ASIA Asia’s Supreme Short Movie Contest JAPAN Award (2018) Youth New Hope賞他

弟さんのリハビリテーションの先生や医師にインタビューをして、障がい者と福祉について、私たちがこれからどうあるべきか洞察しました。

2つの作品共に、齋木さん自身の実感から伝えたいテーマを見つけ出したものです。そして身の回りの人のつながりから協力を得ることで作品を作り上げました。

3人から具体的な制作過程をうかがうことで、多くの試行錯誤と学びがあったことが伝わってきます。

レンズを通して「自分とは何か?」という省察が深まる

映像制作を通して、生徒たちにどのような成長が促されるのでしょうか?中川教諭は実感をこめて語ります。「映像を作ることで生徒たちは“自己発見”をしていくのです。」レンズの先にあるものは、自分が「撮ろう」と意思を持って選んだもの。そこには自分の「何か」がおのずと現れます。カメラで撮り、編集するということは、自分を見つめ続け、客観視する作業なのです。

また、チームで活動することによって、多様性への感受性やコミュニケーション力も養われます。他の人の作品を見ることで、その人の視点に興味を持ち、自分との考えの違いも知ることができます。「友達と考えは違うけれど、この子はこうに思っているのだな」と想像する力が養われるのです。また、「グループ活動ではもめごとも日常茶飯事です。」と中川教諭。「あの子は何もやらない」、「自分ばかりやっている」など分担でもめることも。そのような問題は、社会でもよくあることなので、「それも人生勉強だよ」と、中川教諭はよほどのことがないと口を出さないそうです。

レンズの先に自分が選んだものを見ること、友達から反響していくる自分自身の姿を見ることで深まる自己への内省。やがて生徒たちが大学受験に向かい、「自分は何がしたいのか?」というテーマにぶち当たる時、作ってきた映像を見れば、そこに「自分らしさ」が現れているのです。

何かを成し遂げた経験は、その後の人生の礎となる

豊かな学びがもたらされる創造性を育む教育活動。時には、試験勉強との両立を不安視する声が保護者からあがることもあるそうです。「映像ばかり作っていて、あまり勉強しないのですが」と。そのような危惧に対して、中川教諭は言います。「何かひとつ、自分が好きなものに熱中してやり遂げた体験があると、生徒はさらに伸びていくのです。」創造性を育む教育は、自由気ままに作るのではなく、「これを伝えたい」という目的意識を持って取り組む活動。その姿勢は勉強にも生きます。また、学校後の人生でも、何かうまくいかないことがあった時に、「こういう時はこうすればいい」と、自分の経験から対処することができます。多忙ななかで、いかに効率よく作業を進めていくか、マネジメント力もつきます。「作品をもっとよくしよう」と諦めずに編集作業を続けることで、粘り強いガッツも養われ、たくましくなります。プロジェクト活動を通して身についた力は、色々なことに応用が利くのです。

「学校生活の後にも長い人生は続きます。創造性を育む教育を通して、“生涯学習者”として一生に役立つ力の礎を培っていけたら、と思います。」という中川教諭の言葉のとおり、齋木さん、齊藤さん、飛川さんの3人の語り口は、充実感と自信にあふれていました。このような理念のある同校からは、今後も個性豊かでクリエイティブな作品が生まれてゆくことでしょう。

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工学院大学付属中学校・高等学校 中川教諭

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