Adobe Stockで見出す、障害を持つクリエイターの表現の場と創作活動の機会
クレジット:Adobe Stock / Hero Images
Andraéa LaVant氏は、LaVantConsultingのプレジデント兼チーフインクルージョンスペシャリスト。身体が不自由な人々の立場や意見を正しく尊重する環境づくりに取り組む組織を支援しています。2021年、Adobe StockはLaVantと業務提携を結び、ハンディーキャップをもつクリエイターの活躍機会を拡大し、より寛容な社会を目指すためのコンサルテーションを実施しました。
黒人女性で人権活動家のKimberlé Williams Crenshaw氏は、個人のアイデンティティを1つの視点からしか捉えようとしない人間の思考に異を唱え、「インターセクショナリティ(交差性)」という用語を発案しました。人種、社会階層、ジェンダー、セクシャリティという概念は、多くの場合、それぞれ明確に異なる軸を持った個別のカテゴリーであると見なされていますが、Crenshaw氏はそのような捉え方を「単一軸分析」と名付けました。同氏には、「インターセクション(交差)的な差別の度合いは人種差別と性差別の合計よりも強い」こと、「黒人女性の現実を理解させるには異なるアイデンティティのインターセクショナリティに着目することが必須である」ことがわかっていたのです。
黒人女性であり障害者でもある私は、障害と、それ以外の要因である人種、社会階層、ジェンダーなどの複合的な差別要素を強く感じながら人生を送ってきました。また、米国に住む黒人のおよそ4人に1人は障害者であり、障害者の世帯年収の中央値は、障害者でない人々の半分に近い低水準にあります。インターセクショナリティは、障害者の暮らしを理解するために必要不可欠な概念です。
私は、これらの複数の異なるアイデンティティと共にずっと生きてきて、それは自分ならではの経験だと主張できるようになりました。そこで、NPOで10年以上働いた仕事経験と人生経験を生かし、LaVant Consulting.を立ち上げたのです。当社のミッションは、世の中を変える大きなインパクトを起こしたいお客様企業の取り組みをお手伝いし、私のような障害者を企業の活動に引き入れ、参画させ、価値を発揮させるための環境を整えることです。
当社は、Ford Foundation、Google、Verizonなど様々な企業と協力して、障害を持つ人々のインクルージョンを促すための企業カルチャーづくりやメディアキャンペーンを展開しています。また、私はNetflixのドキュメンタリー『Crip Camp』にもインパクトプロデューサーとして携わっています。
Adobe Stockとの取り組みにおいては、障害を持つアーティストとの様々な関わり方を検討するにあたって当社のノウハウを提供し、アーティスト支援プログラム(英語)を実施して、当事者であるアーティストの大切な価値観がAdobe Stockの提供するビジュアル素材に反映されるようにしました。また私は、黒人のトランス男性で障害者でもあるアーティストの故・Ki’Tay Davidson氏に敬意を表してCrip Campとアドビが発足させたフェローシップ制度の立ち上げにも協力しました。これは、障害を持つアーティストに対して5,000米ドルを寄贈、サポート役となる業界メンターを紹介、Creative Cloudの1年間無料使用権を提供して、プロジェクトの実現を支援する制度です。
以上のようなプロジェクトは、障害を持つ人々に対する世の中の認識を変え、将来につながる持続的変化への道筋をつける役割を担うものです。
LaVant Consultingのプレジデント兼チーフインクルージョンスペシャリスト、Andraéa LaVant氏
学びによって適切な取り上げ方を広める
世の中が着実に進歩しつつあることは間違いありませんが、日々流れるメディアコンテンツの中には、障害者を一面的なステレオタイプに当てはめて扱うだけのものや、障害者の存在を完全に無視しているものが多いことも確かです。障害者の立場や考え方が世に出ることを妨げる要因は多数ありますが、そのような妨害に打ち克つための手軽な手段のひとつが学ぶことです。どのようなコンテンツが有害で、なぜ有害なのか、どのようなコンテンツが良質で、強い魅力と影響力を持っているのかは、学びさえすれば認識できます。知識のない人が適切な行動をとることはできませんから、啓蒙活動は私の仕事の大部分を占めています。
障害者がメディアに登場するときには有害な決まり文句や固定観念がついて回ります。例えば、「勇気をもらえるエピソード」。これは、どのように障害を乗り越えて生きているかを何よりも重視して型にはめるパターン。「この人たちにできるのだから、あなたにもできる」と言わんばかりの取り上げ方は、結局、障害のない人々を持ち上げ、「自分は恵まれている」と思わせるものにほかなりません。
また、「スーパーヒーロー」パターンもよくあります。これは、ハンディキャップを埋め合わせる特別な力を持った障害者だけが存在を認められるかのような扱い方です。プロフェッサーXやデアデビルのようなアメコミヒーローの存在に励まされている障害者も多いのですが、「障害は超能力がなければ克服できない」かのような固定観念を与え、現実世界でごく自然に生きている障害者たちの現実を置き去りにしてしまうリスクがあります。
もちろん、こうした紋切り型の扱いがすべて有害というわけではありません。しかし、メディアがいつもそのような形で障害者を取り上げることは、実際に生きている障害者に対する世の中の理解や視野を狭めてしまう要因になります。「本来のあり方を適切に描く」とは、障害者を当たり前の完全な人物として登場させ、そこにある人生の複雑さ、豊かさ、価値を普通に扱うということです。
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クレジット:(左上から右回りに)Adobe Stock / Marcos, Adobe Stock / AS Photo Project, Adobe Stock / Seventyfour, Adobe Stock / Trevor Adeline/Caia.
初期段階から障害者が関与することの大切さ
これは何度言ったかわからないほど言い続けているのですが、会社の業務にせよメディアにせよ、「後で障害者を入れればいい」といった考え方で取り組むのは間違いです。問題の本質を捉え、強いインパクトを生み出し、流れを変える変化を起こすための第一歩は、初期段階から障害者の関与のもとで物事を進めること。つまり、障害者が意思決定者、企画者、編集者、アーティスト、モデルなどを務めることです。
編集会議、戦略会議、制作現場などに関与すれば、障害者は、スキルや専門知識を生かせるだけでなく、個人的な経験をその場の人々に伝えることができます。障害者を見下すようなメディアキャンペーンと、心の機微をとらえたメディアキャンペーンとの違いが何なのかについて、健常者の立場から詳しく知ることは簡単ではありません。しかし、障害を持つ当事者は自分の経験にもとづいて語ることができます。
Ryan O’Connell氏が制作に携わり出演もする『Special』のようなTV番組は、カメラを通して映像を観る人々と制作現場にいる人々の両方にストーリーを伝える手段があるという強みを持っています。Chella Man、Aaron Philipのようなモデルやアーティストが、クリエイターやメディアインフルエンサーとして途方もない力を持っているのは、経験者の立場で仕事をしているからです。彼らはソーシャルメディアというツールを活用し、誰よりも先に自分の体験談を発信することができます。
クレジット:Adobe Stock / Seventyfour.
障害を持つクリエイターに活躍の場を
初期段階からハンディーキャップを持つクリエイターを関与させたくても、言うほど簡単でないのは理解しています。実現が難しいほど大きな代償が伴うという場合もよくあります。そこで私は、クリエイターやアーティストのプラットフォームとなる企業において、障害者の活動の支えになるネットワーク構築の取り組みに大きな労力を割いています。また、Adobe Stock アーティスト開拓ファンド (英語)、Adobe クリエイティブレジデンシーなどの制度も、障害を持つアーティストがクリエイティブな活動を展開して作品を世に出すための支援策として活用する方法も有効でしょう。
私は、テキストや映像とは異なる分野で障害者の登用を促す活動もおこなっています。例えば、企業がメディアキャンペーン企画に障害者を採用することにはメリットがあります。インクルージョンコンサルタントとして社内チームに加えるか、私がCrip Camp(英語)に携わったときのようにインパクトプロデューサーの役割を担わせてもよいでしょう。そのような障害者の存在は、キャンペーンの充実度、強さ、効果の長さにプラスの作用をもたらします。ストック写真素材を撮影する際や、広告キャンペーンをデザインする際などには、このことをぜひ考慮してください。
クリエイティブに障害者を関与させることは、映画、TV、ドキュメンタリー、メディアキャンペーンの質を高めるために役立つだけでなく、純粋にビジネス的にも意味があります。全米の人口のうち25%近くは障害者であり、その可処分所得は5,000億米ドルの規模にのぼります。また、消費者の90%は倫理的・社会的正義を支持するブランドを選びたいと考えています。気配りができる企業には消費者のお金が集まるということです。
変化は一朝一夕に表れるものではありませんが、私たちの努力と忍耐はゆっくりと実を結んでいます。世界中のメディアのあり方が、障害を持つ人々の力で良い方向に変わりつつあるのです。
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クレジット:(左)Adobe Stock / bernardbodo(右)Adobe Stock / Andrea
いかがでしたでしょうか?日本でも徐々にこの取り組みは進んでおりAdobe Stockでもサーカスビジョンを中心に、自らが障害をもつアーテイストたちの作品が徐々に増え始めています。是非日ごろのクリエイティブ制作に彼らの作品を活用いただき、ビジュアルから社会の多様性を目指す活動にご協力ください。また、作品を投稿したい方は、是非こちらからコントリビュータープログラムにご参加ください。皆様の作品をお待ちしております。
この記事は2021年7月29日にAndraéa LaVantにより作成&公開されたThe way to improve disabled representation and empower disabled creatorsの抄訳です。