快適な VR ユーザー体験をデザインするための注意点 | アドビ UX 道場 #UXDojo
テクノロジー業界は、デジタル製品をより自然に使えるようにするための努力を続けています。いつの日か私たちは、自分の振る舞いが意図したとおりにインタラクションに直結するインターフェイスを手に入れることになるでしょう。
バーチャルリアリティ(VR)は、このムーブメントに大きく貢献しています。VR は、インタラクションの未来と目される技術で、多くの可能性を秘めています。VR が手軽に使えるようになれば、携帯電話の登場よりも、さらに大きな変化を社会にもたらすと業界の専門家は見ています。
それでは、VR 体験におけるデザイナーの役割はどのようなものになるでしょうか。この記事では、バーチャルリアリティの UX デザインについての簡単なガイドを紹介します。
人と VR プラットフォームを理解する
何をデザインするにしても、常にそれを使う人の理解から始めることが必要です。ターゲットとなるユーザーは誰なのか?彼らは VR アプリを使ってどんなゴールを達成したいのか?まずターゲットユーザーを調査して、VR 体験で彼らが遭遇するかもしれない問題を理解すれば、その情報を使ってユーザーペルソナとインタラクションフローを作成できます。
VR プラットフォームに関しては、現在、いくつかのデバイスが入手可能です。比較的手頃な Meta Quest 2 から、高度なコントローラを備え洗練された HTC Vive Pro 2 まで、それぞれのプラットフォームがユニークな機能を持っています。VR デザインを始める前に、対象のプラットフォームの機能を考慮することは不可欠です。
インタラクションプロセスを可視化する
VR 体験のデザインプロセスと、ウェブやモバイルのデザインプロセスとの間に大きな違いはありません。ユーザーが誰で、彼らがどのように製品と関わるのかを理解する必要がある点は同じです。しかし VR 環境では、モバイルアプリやウェブサイトよりも、インタラクションにユーザーがより積極的に関与することが求められます。ユーザーは観察者というよりは、参加者に近い存在です。
バーチャルリアリティの UX を、車を運転する体験に例えてみましょう。VR 環境では、ユーザーは乗客ではなく、運転手です。彼らは、自身の動きを完全に制御でき、起きつつあることを予測できなければなりません。
デザインプロセスの初期段階に、プロトタイプを作成してインタラクションのプロセスを可視化しようと試みることは推奨しません。一般に、高忠実度のプロトタイプの作成には、2D よりも 3D の方がはるかにコストがかかるためです。まずは、アイデアを紙に書き出すことから始めましょう。ストーリーボードを使って、ユーザーの VR 環境における振る舞いのイメージを掴むのは、ずっと優れた手順です。
VR ストーリーボードのテンプレート 出典: cinematicvr
ユーザーに快適な VR 空間を構築する
バーチャルリアリティの UX デザインを検討する際は、VR 製品を使用する人々の能力を考慮する必要があります。
まず、セッションの長さに配慮しなければなりません。VR のセッションは 20 ~ 30 分以内に留めるべきというのは十分に研究された事実です。その時間を超えると人々は集中力を失い始めます。より長時間のセッションが必要な体験は、ユーザーが任意の時点の状況を保存できて、その時点から体験を再開できるようにします。
また、VR のスケールを理解することも不可欠です。現実世界では、狭い空間、広い空間、高い空間を不快に感じることが珍しくありません。VR 空間も、広すぎるとユーザーが迷ってしまうかもしれませんし、小さすぎるとユーザーが閉所恐怖症を感じる可能性があります。
ヘッドトラッキングを維持する
ヘッドトラッキングとは、センサーにより頭の動きを追尾することです。これにより、ユーザーが頭をどのように動かしても、仮想空間におけるオブジェクトの位置を維持することが可能になります。ヘッドトラッキングは、仮想の世界の知覚をつくり出すのに欠かせない要素です。
VR のヘッドトラッキング 出典: dsky
ユーザーが VR 空間内にいるときは、決してユーザーのヘッドトラッキングを止めてはなりません。瞬間的な中断でも、没入感を壊してしまう可能性があります。
ヘッドトラッキングを意図せず中止させてしまうハードウェアやソフトウェアの条件があれば排除しましょう。新しいシーンを読み込むときや、たくさんの 3D オブジェクトを描画するときは、この状況が発生しがちです。Google VR デザインガイドラインは、トラッキングを失いそうになったら画面を真っ暗にし、音声フィードバックを通じてアプリがまだ動作していることをユーザーに通知するように推奨しています。
乗り物酔いを防止する
乗り物酔いは、視覚的に認識される動きと前庭器官が感知する動きの相違から生じる症状です。自動車の走行中に窓から遠くを見ていないと、乗り物酔いを感じる人は大勢います。
乗り物酔いは、VR デザインにおける厄介な問題です。自分の体は停止しているのに、VR 環境が動いているのを目にすると、脳は容易に混乱します。物理的な動きと、視覚的な動きから得る手がかりの間の不一致は、乗り物酔いを引き起こします。VR 環境の乗り物酔いは、疲労、頭痛、不快感の原因になります。
以下は、乗り物酔いを防止するために有効ないくつかの対策です。
- 固定された参照点を含める:拠り所となる参照点を見つけられると、ユーザーは目の安定を保てます。多くの場合に、ユーザーの動きに合わせて動く水平線をデザインすることができるでしょう。
- 速度を一定に保つ:ユーザーがアプリの中で動くときの速度を一定に保つと、より快適な体験をつくり出せます。
- バーチャルローテーションを減らす:ユーザーが VR 空間内でジャンプしたりオブジェクトに近づいたりするときに、体を自由に動かせないとサイバー酔いが起こります。特に、フライトシミュレーションのように動き続ける VR 体験では、バーチャルローテーションを抑えることが重要です。
- アンビソニックを追加する:アンビソニックは 3 次元空間の 360 度全てのサウンドを記録し、再生できる技術です。アンビソニックを使えばサウンドで移動している感覚を演出できます。
- ユーザーを休ませるシーンをつくる
急激な変化を避ける
VR アプリで環境を急激に変化させると、ユーザーを混乱させる可能性があります。例えば、暗いシーンから明るいシーンへの突然の移行は、疲れ目の原因になります。これは、暗い部屋から踏み出して太陽の下に出る瞬間のようなものです。VR 空間では、徐々に変化を導入するよう試みましょう。
快適なインタラクションをデザインする
ユーザーは VR 空間でどのようにオブジェクトと関わるでしょうか?新しいメディアであるため、ユーザーは VR のインタラクションにまだ馴染んでいないかもしれません。誰も採用していない新しいインタラクションパターンを導入するのは魅力的かもしれませんが、この誘惑には抵抗するべきです。というのは、斬新なインタラクションは、ユーザーの学習期間を長くしてしまうからです。一般的には、よく使われているインタラクションパターンを導入するのがお勧めです。
VR デザインでこの課題を解決する 2 つの方法を紹介します。
- VR 環境に可視化したコントローラーを配置する:デスクトップやモバイルアプリでは、目に見えるコントロールを操作します。このパターンは VR 空間でも使えます。ユーザーがアプリを起動したときに、視野の中に UI コントロールを表示します。移動が可能なアプリケーションの場合は、ユーザーの位置や視野の変化に合わせて、UI コントロールの位置を更新する必要があります。
Hovercast VR メニュー 出典: LeapMotion
- 物理世界と同じ操作方法を VR 環境で提供する:VR 空間内の 3D オブジェクトを掴んだり動かしたりして操作できるようにします。このインタラクションパターンを採用する場合は、ユーザーにビジュアルレチクル(対象を追跡するための視覚的な補助)を提供する必要があります。レチクルは、ユーザーが詳細な追跡をするタイミングで表示します。
VR デザインのビジュアルレチクル 出典: Google VR Guidelines
ユーザーがオブジェクトに触れたときは、音でフィードバックを提供することが推奨されます。これは VR では触覚によるフィードバックがまだ不足しているためです。
オンボーディングシナリオをデザインする
初めての VR 体験は、ウェブやモバイルの体験と劇的に異なる可能性があります。人々が、何をすればいいのか、どこに行けばいいのか、すぐにわかるだろうと期待すべきではありません。
すなわち、初めてのユーザーにオンボード体験を提供することは非常に重要です。体験に馴染むための特別なシナリオをデザインし、空間内で移動し操作する際に頼りにできる明確なアフォーダンスを提供しましょう。
ユーザーをガイドする
VR 体験は非常に複雑になることがあります。ユーザーの注意を誘導することは、そうした場面における VR 固有の課題です。VR 環境では、ビジュアルだけでなく、サウンドを使用してユーザーを誘導することができます。サウンドは空間的な位置決めに利用することが可能です。ホロフォニックを使えば、ユーザーは自分の上、下、後方など、音源の方向を知ることができます。
ユーザーが指示を読むことを期待しない
VR 空間では、テキストによる指示がうまく機能しません。たくさんの文字が目を疲労させることや、テキストの存在が没入感を損なうことなどがその理由です。VR のデザインに関しては、長いテキストを避け、短いテキストに区切るか、音声やビジュアルによる指示を使用するのが常によい選択です。
VR 空間では長いテキストを避け、音やビジュアルで情報を伝えるべき 出典: leapmotion
VR 関連の UX デザインガイドライン
VR 体験を多くの人が 利用できるように取り組んでいる企業は、VR 体験のデザインの参考になるガイドラインを公開しています。ここでは、主要なガイドラインを紹介します。
また、「The UX of VR – a curated list of resources to help you on your journey into the UX of virtual reality」もお勧めできるガイドラインです。
おわりに
VR は、本当に大きな可能性を秘めた新しい技術です。将来的には、人々の生活の様々な側面に強い影響を与えることになるでしょう。今の時点では、VR はまだ発展途上の分野であり、確立された慣習はほとんどありません。それが、デザイナーにとって VR が刺激的なものである理由です。今からこの分野に参入すれば、自分のアイデアが未来のユーザーに広く使われる未来が待っているかもしれません。
この記事は Virtual Reality (VR) Design & User Experience(著者: Patrick Faller)の抄訳です
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- https://blog.adobe.com/jp/publish/2023/04/24/cc-web-process-user-testing-website-scannability-for-ux
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