時代に先駆けたスキルを武器に、日米をまたいでキャリアを築くプロフェッショナル- 心、おどる、この人に会いたい!(6)

ユニークな個性にあふれるアドビ社員のキャリアや実績をさまざまな角度で紹介するオンラインインタビュー「Adobe Japan Talent Discovery Talk Show 心、おどる、この人に会いたい!」。今回は、デジタルメディア戦略事業部で新規事業開発チームを担当しているシニアマネージャーの宇野 香織さん。宇野さんは米国の大学を卒業後、米放送局のCNNを皮切りに米国にある4社で勤務後、帰国してアドビに入社しました。CNNに入社したころにちょうど映像業界でデジタル化が起こり、その過程を実際に経験しています。帰国後はそんな経験から、アドビのプロビデオ領域の事業責任者に抜擢。市場を切り開いていった過程やマネージャー職について、そしてキャリアの築き方についてお話しいただきました。

(聞き手:教育・DX人材開発事業本部 小池 晴子)

放送業界のデジタル化元年がキャリアのスタート

小池:本日のゲストはDMe GTM&セールスのストラテジックビジネスデベロップメント シニアマネージャーの宇野 香織さんです。アドビは宇野さんにとって5社目の職場だそうですが、その前の4社はすべて米国にある会社だったそうで、日本で会社員となられたのはアドビが初めてと伺っております。まずはここに至る経緯についてお伺いしたいのですが、米国の大学を卒業して最初に就職されたのはCNNだったそうですね。

宇野:はい、CNNにはインターンシップ期間を含めて4年間在籍していました。ちょうどテレビの映像編集でデジタル化が進んだ時期で、CNNの入社は映像編集工程がアナログからデジタルへ移行した年でした。大型の編集用デッキがすべてMacに置き換わって、社員の皆さんが困惑していたことを覚えています。

デジタル戦略事業部 シニアマネージャーの宇野 香織さん

その時インターンだった私はそのままCNNに入社したいと思っていました。そこで言葉のハンデを克服するため、デジタル映像の認定資格を取って映像編集の現場に貢献しようと思ったんです。デジタル化を自分の差別化ポイントにしたんですね。

その後、コンテンツワークフローを進めるメディアマネジメント部署の立ち上げに関わりました。いまでこそDAM(デジタルアセットマネジメント)の重要性が叫ばれていますが、デジタル化元年だった当時も同じ状況だったんです。ルールを統一してファイル名をデジタルコンテンツに付けて検索しやすいようにする、10年後も20年後もそのコンテンツをアーカイブとして保存・復元できるようにするなどのワークフローを構築しつつ、テレビ局のスタッフがそのワークフローを進められるように働きかけました。

小池:まさにアドビのソリューションですが、実は1990年代のお話なんですよね。

宇野:そうです。アメリカの会社なので動きがとても早かったです。

その後、米Yahoo!が立ち上げたニュースストリーミング配信の事業で西海岸で仕事をすることになりました。この時期に9.11米同時多発テロが起きて、そのライブ放送にも関わりました。非常につらいニュースではありましたが、同時に「伝えること」という仕事の使命を深く実感することができましたし、チーム一丸となって取り組んだことはいまも深く記憶に根付いています。

そして映像編集機器メーカー、日系のIT企業の米国法人を経てアドビに入社しました。

小池:前職は日系の米国法人だったんですね。これまでの米国企業と比べてどのような違いや苦労があったのでしょうか。

宇野:その企業で最も権限がある人というのは、役職が上の人ではなく、エンジニアでした。そのためエンジニアに納得してもらえないと製品にならないという苦労がありました。

当時、テレビ局や映画業界のような映像編集の現場ではアメリカが日本より先行していました。そんなアメリカのお客様の意向を日本のエンジニアに伝えるだけではなかなか製品に反映されないので、エンジニアの方に理解していただけるよう、顧客訪問やミーティングを通して関係性を深めていきました。飲みにも行きましたね。本当にいろいろなやり方でエンジニアやアライアンスパートナーの方々と信頼関係を築き、仕事をしていました。

Adobe Premiere Proの日本市場責任者に抜擢——新市場をどう開拓?

小池:そうしたなか、日本に帰国してアドビに入社されたんですね。

宇野:帰国に関しては何年も悩み続けていました。そんなある時、急に日本への出張が入り、3時間だけ実家に戻ったんです。そのタイミングで、私が渡米する時に実家で飼い始めた犬が天国に還っていってしまって……。私の里帰りのタイミングを待っていたかのようでした。「さっさと帰国しなさい」と言われているようで、犬には「よく頑張ったね」と感謝を伝え、そこで帰国を決めたんです。

小池:なんと、そんな出来事があったんですね……。そんなメッセージを受け、アドビに入社されたわけですね。

宇野:私にとっては大きなキャリアチェンジをするという覚悟でアドビに入社しました。これまでは映像でしたがアドビはデザインで、Adobe Creative Cloud全体の事業開発や新規開拓を行うポジションで入社しました。

小池:そして入社3カ月で当時の社長のクレイグさんに呼び出されたそうですね。

宇野:はい、ちょうど試用期間の3カ月目が終わった直後だったので、緊張したことを覚えています。「映像編集のAdobe Premiere Proの国内市場担当者になってほしい」という話でした。

当時は欧米の映像業界では、製造中止になってしまったツールからPremiere Proへの切り替えが進んでいましたが、日本では遅れていたんです。「明日からすぐにそっちの仕事に就いて欲しい」と言われました。

小池:当時はどんな市場環境だったのですか。

宇野:私も帰国したばかりで全く状況がわかっておらず、前任者も私が入社する1年前に退職していましたし、顧客情報もなく、営業もついてないという状況でした。Premiere Proの認知度も高くなかったので、テレビ局を訪問しようと思ってもできない状況でしたね。

小池:そこからどのように切り開いていったのでしょうか。

宇野:「なぜPremiere Proは日本のお客様に受け入れられないのか」を探るため、自分なりの調査をしてみました。そこでわかったことは、やはり日本と海外との状況の違いでした。日本の映像現場はまだテープが使われていたので、最終的に編集した映像をテープに戻すワークフローが必須だったんです。「これを受け入れてもらわないと、ミッションは達成できません」と当時の上司と話していました。

小池:アドビの本社からすると「日本市場はなんて遅れているんだ」という感じだったでしょうね。そこでどのように米国本社の力を借りたのでしょうか。

宇野:日本市場の状況を地道に説明し続けました。日本のQAチームとともに「時代の流れが変わるのは5年10年かかるので、日本市場を勝ち取りたいのであれば、ここはどうしても直してもらわなければならない」ということを訴求し続けて理解してもらいました。あきらめずに続けることの大切さを実感しましたね。

小池:日系の米国法人の映像機器メーカーに在籍した時期の逆バージョンだったわけですね。

宇野:おっしゃる通りです。やはり日本のQAチーム、本社、そしてサードウェアベンダーの方々と丁寧に話を進め、信頼関係を構築して進めました。

その後運良くパートナー企業さんにも恵まれ、「Premiere Proを使いたい」というキー局の方が現れました。それが2016年のことでした。おかげさまでいまはテレビ局や制作会社の多くの現場でPremiere Proが使われています。

キャリアを作るため自分の「To Beモデル」を持とう

小池:宇野さんのアドビでのキャリアは、まず一般社員として入社された後、Premiere Proで大きな業績を挙げた後、マネージャー、そして現在のシニアマネージャーと管理職になられましたが、そのきっかけはどんなものだったのでしょうか。

宇野:当時の上司の方から「やってみなよ」「やってみたらいいと思う」と背中を押していただいたんです。当時は考えていなかったから驚いて、周囲の人にも相談したのですが、皆さん一様に「できると思う」と背中を押してくれたので、チャレンジしようと気持ちを切り替えました。

小池:マネージャーになって最初の仕事は、米本社のSVP(シニア・バイス・プレジデント)への事業プレゼンだったと伺っております。本当に大きなチャレンジを次々と達成してきた宇野さんですが、現在はビジネスデベロップメントで5人のチームを束ねていらっしゃるということで、良いチームを作るためにどのような工夫をしていらっしゃるのか教えてください。

宇野:メンバーは専門性が高く、知識も経験も豊富です。しかし裏を返すと1人ひとりが優秀なため、個人パフォーマンスが多くなってしまう傾向があるので、チームコラボレーションを高めるために、オンラインホワイトボード「Miro」を使ってコラボレーションしながら、四半期ごとにテーマを変えてみんなで意見を言い合う会を開催するなど、オープンなコミュニケーションを推進しています。そこでメンバーが皆「幅広い知識を持ちたい」という課題を抱えていることがわかり、いまは各回でメンバーが講師となって自分の得意分野を教え合う「ナレッジシェア」を展開しています。

小池:チームが成長していく様子が伝わってきます。最後に、宇野さんにとって「キャリアを作る」とはどういうことか、お考えを教えてください。

宇野:キャリアを作るとは、まず自分自身を知ることだと思います。自分ができること、やりたいことを具現化してビジョンを作る。目指す姿、つまりTo Beモデルを自分自身が考えて、その実現のためにチャレンジし続けることだと捉えています。

キャリアプランを立てても思い通りに行かないこともあるでしょう。ただ本人の意志と努力があれば、キャリアの機会があった時にそれを発展させることができるので、まずは自分のTo Beモデルを持つことが大切です。

小池:ありがとうございました。

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聞き手:小池 晴子

アドビ 教育・DX人材開発事業本部 執行役員 本部長 兼 ダイバーシティ&インクルージョン推進担当。教育関連企業にて通信教育事業、教室事業などの商品開発責任者を務めた後、米国のEdTechベンチャーの日本オフィス立ち上げに参画。2017年にアドビに入社した後はマーケティング部にて教育市場への働きかけをリード。2022年12月よりマーケティング本部 執行役員。2023年4月より現職。