After Effects から始める!欲しい映像のイメージを確実に伝える制作ワークフローへの取り組み 【ソニーグループ株式会社クリエイティブセンター事例】

新製品を宣伝する映像の撮影現場には、多くの機材が持ち込まれ、大勢の人々がいるものです。しかし、現場にいる人のほとんどは映像制作会社や広告代理店など撮影を依頼された側の人たちです。製品撮影を依頼した側の意思決定者が揃うことはまずありません。

すなわち、現場で下せる判断は限られています。撮影に臨む前の準備として、依頼する側がどんな映像が欲しいのかを的確にまとめ、それを撮影チームに明確に伝えていなければ、依頼側の意思決定者が意図する映像にたどり着くことは困難です。

新製品の撮影現場の写真

新製品の撮影現場では多くの人が慌ただしく作業している

そこで課題になるのは、頭の中にある映像のイメージを、他の人と共有する手段です。脳内のイメージを明確に伝達することができれば、即座に関係者の認識を合わせて、一緒にゴールへ向かうことができますが、曖昧な伝え方では、互いの認識がずれたまま、合議や撮影が行われることになってしまいます。

では、明確にイメージを伝えるにはどんな手段を使えばよいのでしょうか?ソニーグループ株式会社 クリエイティブセンターでデザイナーとして働く清水 良広氏は、Adobe After Effects がその答えになると考えています。「After Effects を使ってアイデアを可視化した映像をつくり、それを社内、代理店、制作パートナーと共有するワークフローを始めたところ、以前よりも、社内関係者の意図が反映された映像が出来上がるようになりました」

After Effects を使って作業する清水氏

After Effects を使って作業する清水氏

映像で映像のイメージを伝える

クリエイティブセンターが採用した新しいワークフローの大きな特徴は、映像のイメージを伝える手段として映像を使用している点です。従来のワークフローでは、製品の CG モデルから何枚かの画像を作成し、それらを並べて貼った資料から映像を想像しつつ、社内の意思を統一するための議論や、制作パートナーへの指示が行われていました。

「画像を見て『この角度からこう動くといいですかね?』のような話をしていたのですが、実際の映像との差分は各自がなんとなく埋めていたため、人によって認識がずれていたと思います。それに、画像のレンダリングの品質があまり良いものではなかったために、最終的にどういう雰囲気に落とし込まれるのかは誰も分かっていない状態でした」と清水氏は以前の状況を振り返ります。

2枚の画像から映像を想像している人のイラスト

従来のワークフローでは、画像を並べた資料から最終的に出来上がる映像を想像していた

一方、新しいワークフローでは、製品を見せるためのカメラの動きやライティングのアイデアを、After Effects を使って映像化します。目の前に提示されている映像についての議論であれば、そこに想像が入る余地はありません。清水氏によると、社内の調整が以前よりスムーズになり、映像制作会社や広告代理店からは、どう撮りたいのかが明確に伝わるようになって助かると言われているそうです。映像制作会社とは、製品の見せ方だけでなくライティングについても事前に相談ができるようになりました。

映像を見て内容を理解している人のイラスト

新しいワークフローでは After Effectsで作成した映像を見ながら議論が行われる

実際に映像を確認しながら議論するため、「この動きだよね」とか「こう見せたいよね」のような具体的な話し合いが、企画の最初の段階から可能になりました。そのおかげで、何を明確にしたいのかを発見し、それを明確にするまでのスピードが上がったそうです。さらに、明確にできることの数も多くなりました。その集大成である映像を携えて撮影現場に臨めるようになったことが、以前より見せたいものを見せられる映像の撮影を可能にした大きな理由だと清水氏は考えています。

パターンを出してこだわりを追及

After Effects を採用したもうひとつのメリットとして清水氏が挙げたのは、少しだけ動きの角度を変えたり、動き出しのタイミングを変えたりといった細かな違いのあるパターンを、わずかな調整作業だけでつくれるようになったことです。

自社製品へのこだわりがあれば、時間が許す限り、できるだけ多くのパターンを検証したいと思うのは当然のことでしょう。After Effects の扱いやすくて柔軟な操作性は、100 種類程のパターンを作成して、その中から最適な映像を選ぶというプロセスを可能にしました。

「新しい製品には、市場が想像していなかった何かを持つから新しい製品として成り立つという側面があります。その見たこともない新しさを的確に届けられる映像を見つけるために、After Effects を使って最適な映像パターンを作成しています」と清水氏は説明します。本当に違う見せ方をしている映像は大体 20 種類ぐらいで、そこから細かい違いのあるパターンを 100 種類くらい制作しているそうです。清水氏によると、経験上は、数種類の映像を確認するだけでも十分に有効だろうとのことです。

After Effectsでビジュアライズした映像イメージ

検証用に制作した映像スケッチからキャプチャしたいくつかのシーン

コラボレーション機能の活用

リモートワークが当たり前になった今では、映像やフィードバックを共有する手段も重要です。Team Project は After Effects に統合されているコラボレーション機能で、これを使うと、遠隔地のユーザー同士が、クラウド上に管理されているプロジェクトファイルを共有できます。基本的に、社内の関係者はプロジェクトファイルへのアクセスを与えられており、その中でも After Effects が使える人たちは、共同編集者としてパターン出しの作業に参加しています。映像制作会社や広告代理店の一部の人も、Team Project を利用してコメントしているそうです。

「これまでは、フィードバックを出そうと思ったら、該当箇所のスクショを撮って、スライドに貼って、『ここをこう動かしたいです』って書いて、該当する時間を書いて、といった作業が必要だったんですけれど、Team Project を使えば、動画プロジェクトに直接書き込めば共有できます。簡単なグラフィックとかを添えて指示できるのも便利です」と清水氏は語ります。

Team Project を使っている画像

映像へのフィードバックを効率的に行える Team Project の使用イメージ  出典: Adobe Stock

撮影後、完パケに近い状態の映像に対するフィードバックには Frame.io が使用されています。Frame.io は、アップロードした映像のフレームに直接コメントまたは描画できるアドビのサービスで、レビュー内容をチーム全体で共有できるため、映像への修正作業を効率的に進められます。今はまだ使い始めたばかりのため、デジタルに強い人が Frame.io を使用して、それ以外の人はスクリーンショットにコメントする従来の方法を使用しているとのことです。

Frame.ioを使っている画像

コメントをチーム内で共有できる Frame.io の使用イメージ 出典: Adobe Stock

あらゆる映像のアイデアを After Effects でスケッチ

目的が自社製品の紹介動画ではなかったとしても、動きが含まれる創作物が目的であれば、After Effects によるアイデアスケッチは手軽で優れた手段です。例えば、2D のキービジュアルが動く映像をつくる時、もちろん Adobe Illustrator を使ってキービジュアルのスケッチを始めることはできますが、最初から After Effects で始めれば、ラフの段階からビジュアルに動きを追加できます。ツール間を行ったり来たりする必要はありませんし、なにより、全体として統一感のあるデザインがつくりやすくなります。

清水氏は、最終的に動きを表現に取り入れることになる案件であれば、After Effects から始めることは理にかなっていると語ります。「最終成果物に動きが入ってくるものについては、やはり動きの要素はとても重要で、ラフスケッチの段階でも動きが付いていると、ステークホルダーの反応が違います。チーム全体のテンションが上がって、実現に前進する流れができるんです。After Effects は『動きも加えたデザイン資料』をつくれるツールだと思っています」

ソニーグループ株式会社 クリエイティブセンター デザイナー 清水 良広氏 の写真

ソニーグループ株式会社 クリエイティブセンター デザイナー 清水 良広氏