産業 VR の高品質なテクスチャを支える Substance 3D Painter - 株式会社 積木製作事例


産業分野への VR の活用は、まだ新しい領域ではあるものの、着実に広がりを見せています。建築 CG 制作を主たる業務としてスタートした株式会社 積木製作の場合は、2015 年の案件で、安全教育用の VR コンテンツ制作を相談されたことが大きな転換点となりました。今や、安全体感トレーニングを軸とする産業 VR は、同社の主力事業の一つです。

積木製作の VR 事業が成長した背景には、徹底した顧客視点があります。安全体感 VR では、危険な作業に潜むリスクをバーチャルで再現し、安全な作業の仕方を学びます。顧客の期待である労働災害削減への貢献度を高めるために、同社がこだわっているのは VR 体験のリアルさです。「弊社では没入感を高めるため、現場の写真と見比べながら、本物らしさに隅々までこだわって作業しています。VR 空間のクオリティの高さは弊社の強みだと思います」と、積木製作 3D Visualization Division でビジュアライザーとして働く杉村 知昭氏は語ります。

インタビュー中の杉村 知昭氏

その本物らしさを実現するための、欠かせないツールの一つになっているのが Adobe Substance 3D Painter です。「産業 VR に必要な現場らしさ、例えば、汚れや摩耗やサビをとても簡単に、しかも高品質に描き分けられるテクスチャリングツールは他にありません」と杉村氏は言います。「また、クオリティを担保するのにパフォーマンスの達成が前提になるのですが、ヘッドセットがリアルタイムで描画できる軽さを実現するのにも Painter は重宝しています」

スマートマテリアルで現場感をリアルに再現

Substance 3d Painter の利点の一つはスマートマテリアルです。工事現場で使われている重機であれば、塗装の一部が剥がれていたり、埃にまみれていたりするはずです。もし、そのビジュアルに嘘っぽさがあれば、VR 体験のクオリティは一気に下がってしまいます。スマートマテリアルを使えば、作業現場の臨場感を演出できる高品質なテクスチャを手軽にペイントすることができます。

「Painter のスマートマテリアルには必要なエフェクトが事前に設定されていて、塗りたい場所に置くだけで汚れるべきところが汚れてくれるので、本当に作業が簡単です。それも、単純にテクスチャをタイリングするのではなく、ランダムに汚れるので有機的で自然な汚れ方になります。もちろん、高品質でリアリティのあるテクスチャで、つくりものっぽさはありません。過剰に汚れていると思ったら、修正したいエフェクトを選んで、そのパラメータを調整するだけです。つまり、適切な観察眼さえ持っていれば、説得力のあるビジュアルを仕上げられます」と杉村氏は評価します。

重機にペイントされたマテリアルには使い込まれた様子が表現されている

テクスチャの調整が簡単な非破壊編集

Painter では、テクスチャを、レイヤーの重なりとして構築します。各レイヤーは、マテリアル、塗り、粗さ、汚れ等の、テクスチャを構成する要素です。前出のスマートマテリアルも、その実体はレイヤーの組み合わせです。レイヤーの属性を編集したり、レイヤーを追加したりすると、その結果はリアルタイムで再計算されてテクスチャに反映されます。『任意のパラメータを変えて、その結果を確認して、また変えて』という繰り返しを気軽に行えるおかげで、テクスチャを確実かつ効率的に調整できます。

「編集が非破壊なのは嬉しい点です。メッシュにレイヤーを重ねて一旦テクスチャができたとして、そのレイヤーのどれかを弄っても、元のテクスチャを修正しているわけではないですし、焼き込んでいるわけでもありません。だからいつでも思い通りに編集できるんですよね」と杉村氏は語ります。

Substance 3D Painter ではレイヤーの重なりでテクスチャが表現される(画像右端のパネル)

この編集のしやすさはツールの学びやすさにもつながっていると杉村氏は指摘します。例えば、スマートマテリアルを構成するレイヤーが、ベースのメタル、汚れ、埃、錆の 4 つだったとして、最初は何もわからなくても、元の塗装の色はこれとか、剥げた時の色はこれとか、触っていれば何となくわかるというわけです。

「私は建築業界出身の建築士で、映像技術者ではないため、テクスチャの描き分けを Adobe Photoshop でできる人間ではないんです。Painter も入社後に初めて使ってみたという状態でした。そうしたら、選択眼さえあれば、高品質なマテリアルの描き分けができるという、映像技術のない私にとってすごく好都合なツールだったんです。使い方は、あれこれパラメータを試してみたり、チュートリアル動画を見たりして学びました」と杉村氏は当時を振り返ります。

Substance 3D Painter で汚れや錆のあるテクスチャをペイントした重機

アンビエントオクルージョンの容易な追加

パフォーマンスは VR 体験の必須条件です。安全体感 VR はヘッドマウントディスプレイを対象につくられています。そのヘッドマウントディスプレイの性能に見合う軽さのコンテンツを提供するためにも、杉村氏は Painter を活用します。例えば、リアルタイムの計算負荷を避けるために、背景等の静的なオブジェクトには、事前にアンビエントオクルージョンをベイクしています。

「まず、周囲光をリアルタイムで扱うことが重いわけです。そして、静的なオブジェクトにその処理を入れるメリットは非常に薄い。すると、パフォーマンスの観点から、静的なオブジェクトは事前にベイクすることになります」と杉村氏は説明します。

「一方、動的なオブジェクトはリアルタイムでレンダリングする必要があって、そこには周囲光の影響も含める必要があります。そうしないと、動くオブジェクトが周囲から浮いてしまいます。Painter は、マテリアルの汚れ等を調整して、それを 3D ビューで確認する一連の流れの中で、オブジェクトを背景に馴染ませるためのアンビエントオクルージョンも一緒に出せてしまうんです。動くオブジェクトのペイントに Painter が必須になっているのは、これも大きな理由です」

分解したパーツにアンビエントオクルージョンを加えたところ

背景と合成された重機が周囲の光と馴染んでいる

複数マテリアルを一枚にまとめてパフォーマンス向上

杉村氏が挙げたもう一つの Painter の利点は、一枚のテクスチャに複数のマテリアルを描き分ける際の使い勝手です。別々のパーツをまとめて扱いたい場面で必要になる使い方で、パフォーマンス改善にも効果があるテクニックだそうです。

「例えば、各パーツのメッシュが分かれていて、それぞれのマテリアルが異なると、ハイライト表示する時にパーツごとに光ります。でも、それをいっぺんに光らせたい時があるんです。そうすると、一枚のテクスチャで複数のマテリアルを描き分ける必要が出てくるのですが、Painter で描き分けると、3 次元で周囲光を回転させて、一枚の絵の中で全部の調整を行えます」

一枚のテクスチャに別々のマテリアルが描き分けられている

様々なツールを使いこなしたい

積木製作は、3D を日本のものづくりには欠かせない力であり、同社の礎である技術と位置づけています。杉村氏は「弊社は『全産業の未来を創造する』というビジョンを掲げ、クオリティを大切にして、それを体験していただきたいと考えています。また、新しいツールをどんどん使っていける企業でありたいと思っています。3D 関連のツールは数多くありますが、それぞれのツールに得意不得意があるために、多様なツールを使えることには意味があると思います」と話します。

Painter に期待することについて、杉村氏は次のように語りました。「Substance 3D に関しては、テクスチャに特化しているところが他にはない特徴だと思います。餅は餅屋と言いますか、高品質なテクスチャの自然な描き分けができるという点で、Painter は他のツールでは置き換えがきかなかったツールです」

積木製作 3D Visualization Division ビジュアライザー 杉村 知昭氏