生成AI最前線:生成AIシーンのリーダーが伝える “企業がいま取り組むべきこと” | Adobe Firefly Meetup #1
2024年3月14日、アドビ 東京オフィスにてAdobe Firefly Meetupが開催されました。企業内のAdobe Fireflyユーザーのための小規模なミートアップイベントとして企画され、生成AIへの取り組みや課題、ノウハウ、知見などを共有し、交流を深める場として構成されています。企業内のユーザーが抱える生成AIに関する問題や悩みなどをカジュアルに意見交換できるエンタープライズ向けのイベントです。
今回は、Adobe Firefly 最新アップデート情報、生成AI最新動向とFireflyベストプラクティス[ 2024年3月版 ]、そして、トヨタコネクティッド株式会社 Executive AI Director / Experience Designer である川村 将太 (しょーてぃー) さんをゲストとしてお迎えし、生成AIの先進的な取り組みをご紹介していただきました。
もくじ
- 生成AI技術・サービスの全体像
- 画像生成AIの課題と対応策
- 生成AIの本質と組織でどう活用していくか
生成AI技術・サービスの全体像
私たちが生成AIを実際に使用できるようになったのは、2022年7月です。まず、画像生成AIのMidjourneyが一般公開され、同月にOpenAIのDALL·E 2、翌月にはStability AIのStable Diffusion、そして11月にはLLM(大規模言語モデル)のChatGPTが利用可能になりました。あと3か月で2年経ちますが、生成AIの技術進化のスピードは衰えるどころか、さらに加速しています。次々と新しい技術やサービスが登場しており、すべてのトレンドをキャッチアップしていくのは困難になっています。
代表的な生成AI技術/サービスのタイムライン(抜粋)
Adobe Fireflyが登場したのは2023年3月21日。他の画像生成AIよりも後発でしたが、個人や企業が安心して使用できる商用利用可能な生成AIとして大きな話題になりました。生成AIにおける説明責任、社会的責任、透明性の実現に向けてコンテンツ認証イニシアチブ(CAI)の活動も開始しており、ルール作りも慎重に進められています。
生成AIには、テキスト生成(LLM:大規模言語モデル)や画像生成、動画生成、音楽生成、コード生成などさまざまな種類がありますが、LLM のChatGPT(GPT-4)やMicrosoft Copilot、Google Geminiなどは画像も生成できるため、厳密に線引きすることはできません。また、Adobe FireflyはPhotoshopやIllustrator、Adobe Express、Adobe Stockなどにも一部の機能が実装されており、領域横断的に広く浸透していることがわかります。生成AI技術、サービスの全体像を把握しておかないと、体験的な使用さえ難易度が高くなっているのが現状です。
生成AI技術/サービスのカテゴリーと種類
画像生成AIの課題と対応策
画像生成AIは日々トレーニングが進められており、定期的にAIモデルが更新されます。Adobe Fireflyは現在、Firefly Image 2というAIモデルがデフォルトになっていますが、今後、新しいモデルに置き換わっていく可能性があります。
他の画像生成AIと共通の問題として、「ノウハウのリセット」がよく話題になります。AIモデルが更新されると、過去のプロンプトの流用が難しくなり、新しいモデルで一から検証し直す必要がでてくるという問題です。慌ただしいデザインの現場において、蓄積したノウハウが簡単にリセットされてしまうのは作業上の影響が大きいため、画像生成AIとの付き合い方を考えるきっかけにもなっています。
画像生成AIのモデルの推移
1つの対応策として有効なのが「画像の参照」です。わかりやすく言えば、「画像で指示する」方法で、テキストプロンプトではなく特定の画像を参照させることで意図したイメージに近づけることができます。Fireflyには「スタイル参照」と「構成参照」機能が搭載されており、画風や色調、画像内のオブジェクトの位置や大きさなどを生成結果に反映させることが可能です。AIモデルが変わっても、それほど大きな影響を受けない持続性のある生成手法として高い評価を得ています。
※「構成参照」は、2024年3月26日にアップデートしたFireflyの新機能です。
Adobe Fireflyの「スタイル参照」機能
Adobe Firefly Meetupは、このような現在進行形の諸問題をユーザー同士で自由にディスカッションできる貴重な場として機能しました。スモールイベントは深い交流に適しており、各企業が抱える生成AI絡みの問題について多くの参加者が共有できたと思います。
生成AIの本質と組織でどう活用していくか
本イベントのゲストであるトヨタコネクティッド株式会社の川村 将太 (しょーてぃー) さんは、「【 生成AIのすゝめ 】ビジネスプロセスと人的資本をちょっと未来へ」と題して、生成AIの現実的な活用事例、組織推進での重要なポイントなど、軽快なテンポとわかりやすい解説で語っていただきました。
印象的だったのは「生成AIの本質は生成ではなく推論である」と強調されていたことです。SNSを含む各種メディアでは、生成AIを魔法の技術のように喧伝することが多いですが、過度な期待だけでは生成AI導入が持続性のない単発のイベントで終わってしまうことになります。生成AIの特性を正しく理解するならば、できるだけハルシネーション(間違ったことをもっともらしく語る現象)の影響を受けない業務プロセスで試していくことが重要です。
生成AIの本質は生成ではなく推論
冒頭でユーザーリサーチ・インタビューにLLMを活用する事例を紹介されていましたが、生成AIの有効な使い方だと感じました。これは、後半に語られていた組織論にも深く関係することです。生成AIを組織で安全かつ積極的に使っていくには、可能なかぎり起こりうるリスクを回避しつつ、人間側の能力強化につながる使い方を優先した方がよいのではないでしょうか。セッションの後半で「セカンドブレインみたいなもの」と表現されていましたが、今の生成AIは完成物を丸ごと生成させるより、利用者の能力が拡張されるイメージが正しいと思います。
生成AIの本質:生成物重視と推論過程重視の比較
組織活用の場合、生成AIに対する疑心暗鬼と過度な期待が入り混じって足並みが揃わないことが多いですが、だからこそ、しょーてぃーさんのような技術を理解し組織全体を俯瞰できる役割がとても重要になってくるはずです。
ビジネス領域における生成AI導入では、技術の可能性よりリスクの方が注目されているため、暫定的なガイドラインを作成したり、勉強会などを積極的に実施して、社内啓蒙を進めていく必要があります。
AIを推進するリーダーに求められる役割
今回のミートアップイベントは、ユーザー同士の交流を促進し、最新動向の共有、そして生成AI活用のモチベーションにつながったのではないかと思います。
Adobe Firefly Meetupの会場風景