2024 年を代表する 4 つのトレンドが紹介された「クリエイティブトレンド 2024」オンラインセミナー開催レポート

クリエイティブトレンドは、ビジュアル制作に関わるクリエイターに向けて、Adobe Stock チームが毎年発行しているレポートです。先日配信されたウェビナーでは、Dentsu Lab Tokyo Executive Creative Director / Copywriter 田中 直基 氏をゲストに迎え、アドビ コンテンツ開拓エリアマネージャー JAPAC 吉本 龍生の司会により 2024 年のクリエイティブトレンドが紹介されました。

今年のトレンドについて、吉本は「多くの人々が世界の急速な変化に何とか追いつこうとする一方、それとバランスを取るようなある種の安らぎや落ち着きを求めているように見えます。そのため、今年のクリエイティブトレンドでは、見る人たちをワクワクさせたり、喜んでもらえるようなビジュアルと共に、慌ただしい日常生活のペースと相反するような、リラックス感や充足感などのエッセンスが含まれたビジュアルが取り上げられています」と解説しました。

クリエイティブトレンドは、表面的な流行だけでなく、その背後にある社会的な出来事や人々の動向も含めて言語化されている点が特徴です。田中氏は、この点について、「僕らの仕事は、人の心に触れて動かして、結果的にその人の価値観が変わったり、それで社会がより良い方向に行ったりしたらいいなって思いながらやっているんですけど、そうすると、メッセージを届ける相手はどういう気持ちなんだろうとか、その背景にどういう出来事があるんだろうとか考えるところから企画がスタートするんです。その意味で、本当にこのトレンド分析はすごく面白くて、興味深く拝見しました」と評価しました。

Dentsu Lab Tokyo Executive Creative Director / Copywriter 田中 直基 氏(右)、アドビ コンテンツ開拓エリアマネージャー JAPAC 吉本 龍生(左)

この記事では、最新トレンドとして紹介された 4 つのテーマを、二人のコメント、及び田中氏から紹介された作品へのリンクを交えて紹介します。また、4 つのテーマについては、それぞれを代表するアセットのコレクションが Adobe Stock に公開されています。田中氏が「今の世の中の気分とか、温度感とか、インサイトとか、本当に映し鏡のようです」と評価したテーマをぜひ実際にご覧になって、今年のトレンドを体感してみてください。

テーマ1:穏やかなリズム 流れるようなリズムで感覚を落ち着かせる

一つ目のテーマは「穏やかなリズム」です。社会の変化のペースが速くなるにつれ、心と精神の健康が個人と社会にとって不可欠であると多くの人達が考えるようになりました。気持ちのバランスを整えようとするニーズに応えるべく、「シンプルで抽象的なパターンが反復する画像や、流量的なフォルムの抽象的なオブジェがなだらかに形状を変化させていく映像に、多くの場合に心を穏やかにする音が加えられて、ゆったりとした雰囲気をつくり出すビジュアルが多く使われるようになっています」と吉本はこのテーマを解説しました。

田中氏は、ここ数年つくってきたものを振り返って、穏やかなリズムのニュアンスが存在することを強く感じたと語りました。「一見人工的な表現のベースに、自然界にあるゆらぎや流れ、夕日の色などが使われるなど、自然と人工的な表現の融合が、多分、今すごく面白いんだろうなと思いました」と話し、風をモチーフにしたパラリンピックの開会式や、朝焼けの美しい空を鳥の目線で悠々と漂う CM の事例などを紹介しました。以下は、田中氏がこのテーマに関連するとして選んだ作品の一覧です。

テーマ2:ワンダー&ジョイ 畏敬の念を呼び起こし、幻想的な魅力を称える

二つ目のテーマは「ワンダー&ジョイ」です。コロナ禍以降、個人的なつながりを大切にし、前向きな感情を呼び起こす体験を求める人の増加をいくつもの調査が示しています。吉本は、「ストレートで誰にでも共感してもらえるようなモチーフが多く使われ、子供時代に感じた素直な楽しさとか、純粋に幸せだった瞬間を想起させられるシンプルで濁りのない体験が、幅広い形でビジュアルに落とし込まれています」とその特徴を説明しました。

田中氏は、つながりや原体験を思い出させるものの上に成り立っているこのテーマに強い共感を覚えたそうです。そして、「広告表現物をつくるときの思想として、大事にされているものだと思います」と話しました。紹介された作例は、何が出てくるかわからないワクワク感をサナギのフォルムを使って表現したラフォーレの広告、街にいる人たちが他人でありながらもちょっと交差する場面を描いたサントリーの CM などです。

テーマ3:ダイナミック・ディメンションズ 2D 要素と 3D 要素がマルチバースで融合する

三つ目のテーマ「ダイナミック・ディメンションズ」は、2D と 3D、AR と VR など、異なるメディアのデザイン要素が映像や音楽と混ざり合って、インパクトのある未来的なビジュアルをつくり出す点が特徴のトレンドです。「リアルなものを見るとちょっとしんどい場面で、現実から抜け出したようなビジュアルを使うと、見ている人の気持ちが安らいで、現実を忘れられる時間を演出することができます」と、このテーマの背景を吉本は話しました。

田中氏は、リアリティのある言葉をアニメのキャラクターと組み合わせたパートナーエージェントの CM を紹介し、「生の人間がこれをやるとちょっと辛いけど、アニメにするとより届きやすくなるかなと、この企画のときは、全くこのテーマ通りのことを考えていました」と振り返りました。また、「2 次元と 3 次元を行ったり来たりするマルチバース的な表現は、今、世界中のクリエイターが面白がって取り組んでいる領域だと思います」として、ティロリミックスを含めた 3 つのミュージックビデオを紹介しました。

テーマ4:ニューノスタルジア ビンテージスタイルを現代的に解釈した

四つ目のテーマは「ニューノスタルジア」です。英語圏の調査では Z 世代の 50% 以上がスマホ絶ちをしたいと答えるなど、スマートフォンやソーシャルメディアに日常生活を支配された社会にテクノロジー疲れが広がり、それに呼応するように、古い時代の価値観やライフスタイルを支持する動きが強まっています。吉本は、「過去に寄り添う傾向がここ数年ずっと続いていましたが、今年はさらにレトロなツールに対するニーズが上がっていて、それを今風に昇華させるとさらに格好良くなるとして展開されたビジュアルが非常に多くなっています」と説明しました。

このコメントに対して田中氏は GUCCI の T シャツを紹介しつつ、「ファッションの世界が特にこのインサイトを敏感に捉えていると思います」と語りました。また、「未来よりも過去に対しての方が共感が強いという分析は、本当に最近の社会を表していると思います」として。昔の文房具と AI を活用した表現により、懐かしさと新しさを両方取り入れたミュージックビデオなどを紹介しました。

最後のサントリーの CM は、昔のアニメのノスタルジーを取り入れながら、2 次元と 3 次元を行き来しつつ、人のつながりがちょっとシュールに描かれるという、複数のテーマが同時に表現された映像です。田中氏は、4 つのテーマがそれぞれ独立していながら、互いに重なる面もあるように感じたそうです。

共感の取り方の進化

人間社会は、スタンダードを共有することの安心感を求める一方、それが行き過ぎると閉塞感を感じるようになってダイバーシティを志向するようになります。ところがダイバーシティが進むとこんどは孤独を感じるようになって、もう一回共通性が欲しくなります。これを、ずっと繰り返してきているという視点を田中氏は共有してくれました。

「新型コロナの影響もありますし、コンテンツもエンターテインメントもどんどんダイバーシティが進んで、みんなで同じものを見て教室で『昨日観た?』みたいな会話をするよりは、みんながそれぞれ違うものを楽しんでいる時代になった中で、やはりどこか不安があるのかなと今日の 4 つのトレンドを見て思いました。なので、ノスタルジーとかが共感を得やすい領域になるわけですけど、それをまんまやるのではなくて、それぞれの領域で新しい表現の仕方とか手法とかテクノロジーとかと掛け算されているのがすごく面白いなと思いました」

田中氏が普段の仕事の中で大事にしていることは、受け手の心の中を考えることです。そこでは、共感がとても大きな武器になると田中氏は言います。「今日は、クリエイティブトレンドの 4 つのテーマを見て、共感の取り方の進化の過程を勉強させてもらえたと思います」と田中氏はウェビナーを締めくくりました。ビジュアルを通してもっと楽しくて前向きな社会を実現していく一助として、Adobe Stock 2024 年クリエイティブトレンドをぜひご活用ください。