Adobe MAX Japan 2025 セッションレポート:日本の小さなウェブサイト制作会社に勤めるデザイナー達が海外での評価に真剣な理由
海外のアワードを身近に感じている Web デザイナーはあまり多くないかもしれません。ですが、Garden Eight のデザイナーは全員がアワード受賞者です。Adobe MAX Japan 2025 のステージに登壇した Garden Eight 代表の野間 寛貴氏は、セッションタイトルにもなっている「なぜ海外の評価を求めているか?」という問いに対し、理由を 2 つ挙げました。一つは、「本場に挑戦したい」、もう一つは、「デザイナーのキャリアの追い風になる評価をつけていきたい」です。
プロとして世界で認められたい
欧州の主要リーグに挑戦するサッカー選手や、ウインブルドンなど四大大会を目指すテニス選手を例に挙げ、「プロとして本場で活躍したいと思うのは当然」と野間氏は語りました。野間氏を含む Garden Eight の創立メンバーが Web デザインを志した時に、その本場が欧米だったことが、国内よりも海外からの評価を求めた大きな理由だったということです。
設立当時はまだ 20 代半ばと若かったこともあり、「賞を取るって格好いいじゃん」のような単純なノリもあったようですが、若いが故にどうしても武装が必要で、何らかの鎧を着れるようにと一生懸命頑張っていた面もあったそうです。賞を取れれば、認知向上になったり単価向上になったりと、会社としてのメリットが期待できます。
そして、2010 年代には、クラフト志向の強い Web デザインアワードが幾つも登場しました。Web サイト自体の表現、あるいは技術技巧だけを評価してくれる、小規模な Web 制作会社としても、個人としても、エントリーしやすいアワードです。その中でも Awwwards には、ずっとこだわり応募し続けているそうです。
デザイナーのキャリアの追い風になる
海外の主要な賞を取ることは、海外の然るべき第三者から評価されていることの証明になります。アワード持ちのデザイナーは、クライアントから信頼されやすくなるでしょうし、転職時にも条件の良いポジションを見つけやすくなるでしょう。
野間氏によると、Garden Eight には、学校を出たてで実務経験なしで入社して、そこから 3 年間頑張って CSS Design Awards の賞を取ったデザイナーがいるそうです。新卒の頃には、どうやって案件を持って来ようかと思っていたのが、賞を取ってからは本人に合った案件を探せるようになり、今では指名で仕事が多数来るようになっていると、野間氏はアワード受賞による変化を紹介しました。野間氏は、「未経験でも、何らかの目標を 3 年後ぐらいに持って勉強して挑戦するのは全然アリ」だと考えています。
アワードへの挑戦は、デザイナーにとってもう 1 つ重要なメリットがあります。サイトを制作するためには、いろいろな表現、そしていろいろな技術を勉強する必要があります。一方で、デジタルの世界は常に進化しています。そのため、使えていた表現や技術が使えなくなることは珍しくありません。そうした環境で働くデザイナーにとって、時間を費やして習得しているものが適正かどうかは、自身のキャリアに関わる問題です。勉強してきたもの、表現しているものに対するニーズが市場にあるのかを確認する上でも、アワードへの挑戦は有効だと野間氏は語りました。
賞を取るためのコツ
野間氏は、これからアワードに挑戦しようとするデザイナーのために、いくつかのコツも紹介してくれました。この記事ではそのダイジェストをお伝えします。
1. 応募先を決める
成果物が完成してから応募先を考えるのではなく、先に何処に応募したいかを決定します。何が評価される賞なのか、受賞作を見て制作依頼が来ても問題ない賞のか、他の受賞者が尊敬できるか等を考慮します。特に最後の点は、並べられた時に自分たちの評価に関わるために重要になるとのことです。
2. 制作するものを探す
一緒にアワードを目指すクライアントを見つけられれば最善ですが、最初はそれも難しいだろうということで、知人に頭を下げるなど、賞を取るためのパートナー探しは割と泥臭くなることも受け入れるべきだと野間氏は言います。
3. 制作する
通常業務を抱えながら、世界的にレベルが高いアワードに挑むのはまず無理だというのが野間氏の考えです。Garden Eight では、誰かが Awwwards に挑戦するとなったら、1 ヶ月位の制作期間を確保できるように、他のメンバーが業務を引き受ける態勢をとっているそうです。会社全員で応援するために社内が盛り上がり、取れた時の一体感は格別だと野間氏は話しました。
4. 応募する
審査員は多数の応募作品を見なければなりません。従って、良い印象を与えるために、実際のサイトだけでなく、応募素材もしっかりつくり込むことが肝要です。また、名義はとても重要なので、何のために、誰のために賞に応募しているのかを、会社と個人がしっかり話をして決めてから応募するようにします。
会社としてアワード挑戦を支援する利点
最後に野間氏は、会社経営の視点から、アワード挑戦の意義について語りました。まず、会社として一つの目標を持つことで、当人はもちろん、仲間との一体感が生まれます。当然、社内の雰囲気が良くなりますし、全員にやる気が生まれます。
次に、尊敬し合える知人が増えます。世界的なアワードに受賞者として参加すれば、そこには世界トップクラスのクリエイターと知り合える機会があります。普通に仕事をしているだけでは得られない出会いが何年も積み重ねられて、今では Garden Eight のオフィスに、世界的に評価される人たちが来日ついでに来るようになりました。そうした相手との会話から社内のデザイナーが学ぶものは当然多く、また、目の前にいる相手に恥じないものをつくりたいという気持ちが生まれます。これは、その後の仕事の品質に大きく関わるはずです。
野間氏はニューヨークの著名なデザイナーのポートフォリオサイトを一緒に制作した事例を挙げて、普通は出会えない人たちとコラボレーションする機会を与えられることに喜びを感じると話しました。野間氏にとっての会社の存在意義は、「所属しているデザイナーたちがしっかり楽しめる、居心地がいいと思える、制作に集中できる」です。そして、「制作者が評価を得ていないとこれが長続きしない、最終的に困るのは会社である」という点は、常に忘れないようにしていきたいと考えているそうです。
こうした、デザイナーを会社の価値と捉えてアワードのために投資するというやり方は、小さな会社だからできることかもしれません。ただ、野間氏としては、今より会社を大きくするべくデザイナー、デベロッパー、PM を募集しているそうですので、このセッションを見て興味を持った方はコンタクトしてみてはいかがでしょうか?