クリエイターのキャリア別もやもや資料室【第 1 回】はじめの一歩の激ムズ問題。未経験クリエイターの悩みを真正面から受け止めるの巻
著者情報にありますとおり、人材サービス会社のコンサルタントとして企業とクリエイターのご縁を結んでいるトム・イシカワと申します。本連載では、クリエイターのキャリアごとの「もやもや」を私という資料室から引っ張りつつ、私なりの解釈と向き合い方をお伝えして、全力で背中を押していく所存です。
ジュニアな方々もミドルな方々もハイな方々も、それぞれに大小様々な悩みがあるわけですが、やっぱり最初に向き合うべきは、未経験の方々が抱える「はじめの一歩の悩み」だと思っています。
夢や憧れを胸にこの業界を目指した方々が、現実の壁の高さに打ちのめされ、十分な情報が得られないまま諦めていく姿を、私は何度も目の当たりにしてきました。未来のクリエイティブの担い手を減らしたくない。この世界がもっとかわいくて、もっとかっこよくて、もっともっと優しくて使いやすくなっていってほしい。そう願ってやまないからこそ、まずは未経験な方々の「もやもや」と真っ向から向き合っていきたい。そう思っています。
キラキラ広告から始まるキャリア。キッカケはなんだっていい。ただし、続けるには「それ以上」が必要な世界。
コロナ禍以降、「在宅」「稼げる」「副業」といった言葉が躍る「みんなでクリエイターになろう ✨」的な広告が一気に増えました。そして実際、それをキッカケにクリエイターを目指す人も激増しています。では、「在宅だから」「稼げそうだから」「副業できそうだから」という動機でクリエイターを目指すのはアリなのか?結論から言えば、アリだと思います。
ただ、その動機「だけ」で続けられるほど甘い世界ではないんだ…!!ということは、声を大にして伝えたい。
技術もツールも日進月歩で進化し、トレンドも目まぐるしく移り変わる。そして今では AI との共創も同時に求められていくクリエイティブな世界。そんな激流の中で、最前線で走り続けている人たちは、「ものづくり」への強い執着と愛情を持っている人がほとんどです。だからこそ努力を惜しまないし、それが普通の人には計り知れないレベルで深く長く続き、結果的に技術、そしてセンスが磨かれていく。そこに価値が生まれて、顧客がつき、収入という対価に繋がっていく世界です。
未経験者にとって本当に大事なのは、「結果的にそうなること」であって、「最初からそれを目的にしすぎないこと」なのだと思います。短絡的に「在宅で副収入」を求めると、どこかで置いて行かれてしまい、気付いた時には仕事がない…という状態に陥りかねません。
キッカケはなんだっていいはずです。何が自分を突き動かし、何が将来の糧になるのかなんて誰にもわかりません。でも、せっかくこの業界でものづくりに関わるわけですから、「何をつくりたいか」「どんなものに感動したのか」「誰に喜んでほしいのか」そんな問いを自分に向けて欲しいと思っています。
その問いに自信をもって答えられるようになった時、いつのまにか「好き」がクリエイターとして前に進むエンジンになっているはずです。
「自分に向いてる仕事ってなんだろう…?」横文字職種が多すぎて、何をするのかわからない問題。
始めてからなんとなくわかってくるものづくりの流れ。周囲が見え始めるとぶつかる悩み。それが、「誰がどこを担当していて、何をしているのかよくわからない」問題です。
プロデューサー?プランナー?ディレクター?デザイナー?コーダー?と、職種を挙げればキリがないし、その横文字職種のどれも、輪郭が曖昧だったりします。これは、市場が成熟する中で、業務も職種も細分化されてきた結果です。よくわからないとはいえ、そうなっていることに対して嘆いていても始まらないので、こればかりは受け入れて詰め込むしかなさそうです。まあこういう時は気合いです、気合い。
まずは、制作・開発プロセスの全体像をざっくりと捉えることです。細かい「〇〇デザイナー」とかは一旦横に置いておいて、作業工程ごとの役割や、各職種の関係性を大まかに理解するくらいで OK です。そして、自分なりに図解をつくります。頭の中だけだと絶対にこんがらがりますから。
この段階で大事なのが「自分の向いている領域はここだ!」と早々に決めつけないことです。理系か文系か、右脳型か左脳型か、なにかと分けられてきた私たちですが、まずはできるだけ幅広く学んでみてください。学ぶ中で、「これちょっと苦手かも」「これは不思議と楽しい」といった小さな手応えを感じながら、徐々に自分の輪郭を探っていくプロセスが大事だと思っています。
何がどこでどう発展するかわかりません。早い段階で可能性の芽を自ら摘んでしまうのは、あまりにももったいない行為じゃないですか。
「実績は何件…?何を掲載したらいいの…?」から始まる自己アピールの悩み。大事なのは、何を見せたいか。どう見せたいか。
ものづくりの工程や職種への理解がぼんやりと進み、就職・転職・独立といった未来の選択肢が浮かびはじめたあたり。そんなタイミングで現れるのが、ポートフォリオって何を載せればいいんだろう…という問題です。
多くの場合、課題のみの掲載となってしまっているのですが、厳しい言い方をすると、それは論外です。だって、他の人とほとんど差がつきませんから。差がつかないということは、それ以外の要素、たとえば年齢や学歴といった本質とはズレた指標で評価される可能性が高くなるということです。そんなので判断されたいですか?絶対に嫌ですよね??だから、課題以外でアピールするのです。
すると今度は、載せる実績をどうしたらいいんだろう…問題にぶちあたります。よくあるのは、架空案件かクライアントワーク案件(無償含む)かで悩むパターンです。
私なりの結論としては、「意思があればどちらでもよい」です。どちらにも良さがあります。難しさもあります。アピールポイントが変わるだけの話です。大事なのは、どちらを選ぶにせよ、「いいものをつくる」ことです。架空か実案件かは、ちょっと違う別ルートくらいで捉えておいていいんじゃないでしょうか。
「何件載せたらいいでしょうか?」もよく質問されます。ぶっちゃけた話、件数にあまり意味はありません。
自分をどう見せたいのか。どんなキャリアを描きたいのか。そこから考え始めれば、1 件で伝わる人もいれば、10 件あっても伝えられない人もいるでしょう。一般的には 5 ~ 10 件くらいが目安と言われますが、そこは本質ではありません。重要なのは、「目的から逆算する視点」を持つことです。数に囚われる前に、まずは「どう見せたいか」をとことん考える方が、ずっと前に進む気がします。
「え、ポートフォリオって一生完成しないやつでは…?」全クリエイターがハマるポートフォリオ沼へようこそ。
でました。ポートフォリオという名の大巨人。決して避けては通れないポートフォリオ。ポートフォリオは、クリエイティブな我々の業界では、「自らの実績や経験を証明するもの」であり、クリエイターの武器として扱われています。
少し乱暴に言うと、ポートフォリオは「実績を置いておく箱」です。未経験者の場合は、実力を示す材料が限られている分、中身が伴いません。そのために濃厚すぎる自己紹介や、あしらいすぎた個性などに走りがちです。
ポートフォリオが重視されるのは、なんといっても実績が大事だから。採用側が最も知りたいのは「どうつくったか」です。制作プロセスと、各段階における思考と行動がわかれば、ある程度の資質と伸びしろは見えたりするものです。その意味で、ポートフォリオ自体も実績の一つになり得ます。ですから、力を入れて箱をつくるというのももちろんアリです。
ただーーーし!(ここからが重要)
未経験者にはどうしたって限界があります。採用側だって、実績の質だけで判断するほど冷たくはない。ポートフォリオに書かれた経歴、クリエイターを目指す背景、学びの軌跡、強みと弱み、志望動機、そういった文脈もしっかりと見られています。このあたりの書きっぷり次第では、「伸びしろがありそう」「うちと相性がよさそう」「熱意がすごい」といった理由で次のステップへつながる可能性はちゃんと残されています。
ただーーーし!(さらに重要)
採用側も決して暇じゃない。知りたい情報を適切な量と質で欲しいと思っている。なのに、「抽象的で何を言ってるかわからないポエム」「エモいけどありきたりなコピー」「長くてまとまりのない自己語り」では、採用の現場で真っ先にスルーされます。ポートフォリオの目的が「転職」である場合、採用者のニーズを踏まえた、「読ませる」「伝える」という設計の塩梅がめちゃくちゃ大事なのです。
「いや、だから、その塩梅がわからんのよ」という声、わかります。特に、未経験者の場合はそうでしょう。そんな時は、ポートフォリオのまとめ記事やギャラリーサイト、そしてBehanceといったプラットフォームなどを活用し、研究してみてもいいんじゃないでしょうか。相談できる人を探すことも、決して難しくはないと思います。
…と、書きたいことを書きまくっていたら、指定の文字数をかなりオーバーする気配が漂ってきました。未経験ゆえの「もやもや」はまだまだたくさん資料室にあります。この機会にみんなが悩むアレコレをできるかぎり書いていこうと思います。
ということで今回はここまで。続きをお楽しみに!