ヘンゼルとグレーテル:The Rusted Pixelによる3Dコレクション

ヘンゼルとグレーテル(Hansel and Gretel)/The Rusted Pixel

2020年12月、アドビはPaul McMahon氏(別名:The Rusted Pixel)とのコラボレーション企画で、おとぎ話から題材をとった2つのカスタム3Dコレクションを無料リリースします。1つ目は「眠れる森の美女(Sleeping Beauty)」のお城をもとにしたコレクションです。Adobe Stockからコレクションを入手できるほか、こちらの記事「眠れる森の美女:The Rusted Pixelによる3Dコレクションでは、おとぎ語の背景にある発想についての詳しいエピソードを読むことができます。

そして2つ目は「ヘンゼルとグレーテル(Hansel & Gretel)」のコレクションです。ここでは、クリエイティブに関するPaul氏の来歴と、すばらしい作品を生んだ発想の源についてご紹介します。

Adobe Stockで提供中のヘンゼルとグレーテル(Hansel and Gretel)コレクション

昔々あるところに…

アーティストの人生には大きな変化が訪れる瞬間があるものです。Paul氏の場合、お姉さんの絵本の挿絵を描いたアーティストが誰なのかをお母さんから聞かされたときと、Adobe After Effects(AE)とCinema 4D(C4D)を使い始めたときがそうでした。彼はそれ以前にもずっと3Dとアニメーションが大好きで、別の3Dソフトウェアを試したこともありますが、それは複雑で難解すぎて使えませんでした。ところが、AEによる3Dデザインの基礎はチュートリアル動画をいくつか観ただけで理解できました。Paul氏はAEを気に入り、毎週のようにどんどん新しいアクティビティをこなすようになりました。以前見たソフトウェアと違って、AEのツールやタスクには、彼を尻込みさせる近寄りがたさはありませんでした。

まもなくPaul氏は、ほかのアーティストが作った3Dモデルをそのまま使うのをやめ、独自の3Dモデルを作り始めました。モデルの作り方を学ぶと、それまでとはまったく違う新しい世界が開けました。すべてをゼロから構築することや、Adobe Stockなどから入手したモデルを自作素材とブレンドすることによって、思い描いたとおりの要素や3D世界を構築できるようになったのです。

Topiary Sugary from All the Things/The Rusted Pixel

陽気な遊び心にあふれる作品を見たファンから「この作品を食べてみたい」などと言われると、Paul氏はとても嬉しくなります。コントロールの効いた明るいカラーパレットと鮮烈な色使いで構成される3D世界のスタイルは、昔から大好きだった雰囲気を自分の持ち味として確立したものです。このような色彩は扱いにくく、特に黄色は難しい色ですが、Paul氏にとっては、難しい色を使いこなして輝きと温かみのあるシーンを生み出すのも楽しい作業です。

Breakfast time/The Rusted Pixel

カラーパレットを決める際、Paul氏は、シーン内で最も大きいオブジェクト(たいていは背景)の色を決めることから始めるのがほとんどです。この順番で考えると、ほかの素材に対する影響を一番確実に見積もれるからです。その後は、大きめのオブジェクトから順に小さな要素まで、色とテクスチャの検討を進めていきます。ここの段階では、テクスチャをいろいろ変えながらテストレンダリングを繰り返し、ちょうどいいバランスを見極めます。繰り返しが10~12回になることも珍しくありません。既定路線にこだわらず試行錯誤を重ねることで、そのシーンにふさわしい自然な色彩のストーリーを導き出します。

おとぎ話世界の冒険をつくり出す

Paul氏は昔からおとぎ話に興味があり、何年も前から、おとぎ話テーマの作品をつくりたいと考えていました。今回、アドビと共同でカスタムコレクションのコンセプトを検討し始めたところ、彼の温めていたアイデアは企画にとてもよく馴染むことがわかりました。いろいろな素材やそのレンダリングにPaul氏が得意とするデザインスタイルをそのまま生かせるだけでなく、架空の物語世界に逃避できるテーマは2020年の状況にもぴったりでした。

コレクションの性質については、デザイン全体に流れる雰囲気の統一性と、個々の素材に独特の雰囲気を持たせられる柔軟性を両立するという目標を設定しました。Paul氏は「眠れる森の美女」の全体的なデザインを考えるにあたり、いろいろな実在の建物などをリサーチしました。鋭角な建物と伸び放題の曲線的なイバラが共存する最適なバランスを模索して採用された基本構造には、ルーマニアの古城に見られる四角い小塔やフラットな屋根板が取り入れられています。それに加えて、ヘンゼルとグレーテルらしい「お菓子」感を最大限に出すためオーガニックな形状を付け加え、キャンディがけのようなカラーパレットをブレンドして、全体的なコレクションとシーンをまとめ上げました。

眠れる森の美女(Sleeping Beauty)/The Rusted Pixel

このコレクションに含まれる3Dモデルには、舞台の中心的な存在になることが想定されたもの(ジンジャーブレッドの家お城の天守など)と、舞台の補助的な構成要素となるもの(旗竿ショートブレッドの椅子など)があります。Paul氏が最初から意図したとおり、このコレクションはクリエイティブな柔軟性を最大限に重視した構成になっているため、利用するアーティストはこれらの素材をそのまま使うことも、別の素材と組み合わせることも自由にできます。ヘンゼルとグレーテルや眠れる森の美女の世界はもちろん、別のおとぎ話や、まったく独自の新しい物語を表現したい場合にも使うことができます。

Jack’s Patch/The Rusted Pixel

このお話の教訓

Paul氏にとって、2020年はこれまでの人生の中で最も実り多き1年でした。世界全体に起きたことは「災難」でしたが、彼自身は、業務と個人的な取り組みの両方で、過去のどんな年よりも充実した様々なプロジェクトを手掛けました。コラボレーションによる2つのモーションプロジェクト「Rainy Days」、「Jack’s Patch」では、それぞれに、3Dアーティスト兼デザイナーとしての自分の資質と進歩を示すことができました。また、いろいろなクリエイティブ活動の内容向上に役立ちそうなワークショップやチュートリアルにも例年より多く取り組みました。今年、Paul氏は自分が今まで学んだことをコミュニティへのお返しとして共有したい、使われ方を見守りたいと考えています。

Rainy Days/The Rusted Pixel

Paul McMahon氏のプロフィールと作品について詳しくは、こちらこちらの作品紹介をご覧ください。

この記事は2020年12月15日にKimberly Potvinより作成&公開されたHansel & Gretel: A 3D collection from The Rusted Pixelの抄訳です。