ユーザーテスト&ユーザビリティテスト初心者のための手引き(ベストプラクティス編) | アドビUX道場 #UXDojo
この記事は、ユーザーテスト後に尋ねる質問の候補と、参加者に質問する際のベストプラクティスを紹介します。
この記事の前半では、ユーザーテストの事前質問、およびテスト中に尋ねるべき質問を紹介しました。ここからは、テスト後に尋ねる質問の候補と、参加者に質問する際のベストプラクティスを紹介します。
3. テスト後の質問
ユーザーテストのセッション終了直後は、参加者に質問や意見を求めるのに最適なタイミングです。さまざまな質問をして、より多くの個人的な意見を集めましょう。
指示されたタスクの難易度(1 = とてもやさしい、5 = とても困難)
参加者に与える指示は迷う余地がないくらい明確であるべきです。一方、テストの課題を洗練させるためにどれだけ時間をかけても、ユーザーが理解に苦しむ何かが残る可能性は常にあります。難易度を参加者に確認すれば、見直しが必要な作業の特定に役立ちます。
全体的な体験の共有
参加者に、ユーザー体験全体を考えるよう求めます。製品を使うことで生まれる参加者自身のジャーニーを評価してもらえば、UXの観点からの良い点と悪い点の話が出てくるでしょう。この情報は、ユーザーフローの変更に優先順位をつける際の参考になります。
代わりに、5段階で全体の印象を尋ねるという方法もあります。参加者が答えたら、その理由を尋ね、彼らの考えを述べさせます。
ひとつ変更したいポイントとその理由
参加者が一番変更したいと思う点について聞きましょう。その答えは、追加したい機能や、より分かりやすいナビゲーションかもしれません。この質問により、テスト参加者にとって最も優先度の高い変更を特定できます。ユーザーにとってより良い製品を提供するために必要な洞察が得られるでしょう。
将来の追加を期待するもの
デザインのバックログはユーザーのニーズに沿ったものであるべきです。複数のテスト参加者が将来欲しい機能に同じものを挙げたなら、バックログの優先順位を確認するべき明きらかなサインであると捉えましょう。
4. ユーザーテストで「するべきこと」と「避けるべきこと」
以上でテスト参加者に聞くべき質問候補の紹介は終わりです。次はそれらを正しく聞く方法を確認します。これから紹介するのは、ユーザーからより価値のある洞察を集めるために役立つ、いくつかの実践的なアドバイス(するべきこと、避けるべきこと)です。
するべき:思考発話法(think-aloud protocol)の使用
思考発話法は、製品を操作して特定のタスクに取り組んでいる間、声に出しながら考えてもらうという手法です。この手法は、テストプロセスの重要なステップにおけるユーザーの心の状態を理解するために役立ちます。同時に、リサーチャーは状況に応じた質問をする機会を得られます。
するべき:自由回答の質問形式で聞く
定性的データの収集が目的であれば、回答者が自由に話せる聞き方をするべきです。自由回答式とは、「はい」や「いいえ」では答えることができない質問です。この形式でユーザービリティテストの質問をすれば、参加者からより詳細なフィードバックを得られるようになります。たとえば、「この機能は気に入りましたか?」ではなく、「この機能についてどう思いますか?」のように質問します。
するべき:参加者の表情や身振りの観察
デザインにおいて感情は重要な要素です。製品がユーザーに引き起こす感情は、ユーザーの製品に対する愛着に直接影響します。その一方、感情は扱うのが厄介なしろものです。また、テスト参加者は必ずしも感情を説明したがるとは限りません。そのため、テスト中に表情や身振りを観察することが大切になります。ユーザーの操作を観察する際は、言葉以外で発せられるヒントにも注目しましょう。そして彼らが気に入った個所、気に入らなかった個所を見つけ出しましょう。
するべき:補足質問
ユーザーテストの質問の時間は参加者との会話であるべきです。そのため「何故そう思ったのですか?」のような補足質問は有効です。ユーザーがある考えや意見を持っていたとしても、彼らがその背景にある理由に気付いているとは限りません。掘り下げたいトピックについて親しみやすい会話をすれば、参加者は個人的な意見を気楽に話すことができます。その結果、より価値のある洞察を得られるでしょう。
「なぜ?」を5回尋ねる「Five Whys」のテクニックにより参加者の意図や視点を理解する 出典: Nick Babich
するべき:回答の様子の録画
録画はセッションのすべての詳細を記録します。そのため、より深い分析を行いたいときの優れた素材になります。参加者を撮影するときは、事前に確実に許可を得ておきます。許諾書にサインを貰ってから録画を始め、いつでも問題が起きたら廃棄する準備をしておきます。
ユーザビリティセッションを録画すると後で参照できる 出典: Adobe Stock
避けるべき:参加者を誘導する
質問は会話を進めるためにするべきもので、相手を導いてはなりません。質問する際に使用する言葉に応じて、人々は解釈を変えます。参加者を特定の回答に導く質問は、誤った洞察の原因になります。
以下は避けるべき質問の代表的な例です。
- 「新しいデザインの方が古いデザインよりも好きですか?」
この質問は新しいデザインの方が古いデザインよりも良いと暗示しています。 - 「アプリはより効率的に働くのに役立ちましたか?」
こう聞かれたテスト参加者は効率的に使えたケースを探すことに注力しようとするでしょう。 - 「この機能はどんな時に便利だと思いますか?」
この質問は、その機能の特定の使い方だけをユーザーに考えさせます。
避けるべき:詳細を詰め込む
情報をたくさん共有するほど、参加者はその量に圧倒されるものです。参加者は与えられた情報すべてが等しく重要だと思う傾向を持ち、すべての詳細を記憶しようとします。ですが、人間の短期記憶はあまり多くの情報を保持することができません。そのため、多くの情報を耳にした参加者は、重要な情報を簡単に忘れてしまいます。本質的な情報だけを共有して、参加者が正しくセッションを進めるために必要なことを理解できるよう試みましょう。
避けるべき:過度な支援
セッション中にモデレーターがあまりに指示や助言を与えすぎると、参加者の自然な操作の探求を妨げてしまう場合があります。参加者によっては、そうした支援を制限と捉えるかもしれません。
参加者を支援する際に悪い印象を与えないための実践的なヒントをいくつか紹介します。
- 参加者が既にタスクを開始していたら邪魔をしないよう注意しましょう。これは、ユーザーが間違いを犯すリスク増にも関わります。
- 参加者が間違えるのを目撃しても、それを止めてはいけません。失敗する様子を見守り、次に何をするのか観察しましょう。ユーザーの予期せぬ振る舞いを詳細に知ることができるかもしれません。
- 参加者に助けを求められたら、自身で解決案を見つけるよう促します。このルールの例外は、問題に解決策がまだ存在しない状況です。その場合は、参加者の時間を無駄にしないよう、そのことを伝えましょう。
避けるべき:参加者を評価する
参加者を評価したり教育することへの衝動を抑えましょう。人々をテストに招待するのは正直な考えや意見を聞くためです。ですので、会話を次のような言葉で始めるのはおすすめです。「私が何か質問をするときは、皆さんの正直な意見を聞きたいのだということを覚えておいてください。正しい答えも間違った答えもありません」。そして、テストが終わるまでその言葉を忠実に守りましょう。
避けるべき:ユーザーの言葉を文字通りに受け取る
参加者がセッション中にしたことや言ったことすべてが、彼らの実際の振る舞いを表しているわけではありません。ユーザーがテスト環境で画面を操作するとき、その行為や意見は偏っている可能性があります。そのため、テストセッションから明確な結果を得て何らかの仮説を構築したら、他のテスト手法を用いてその仮説を検証することが必要です。
誘導せず質問するための3つのテクニック
参加者から質問を受けた時はどのようにすればよいのでしょうか?何と回答してよいかわからなかったり、ヒントを与えてしまうことが心配な時は、口を閉ざすという選択もあります。しかし、そうした状況をよりうまく乗り切ることも可能です。「エコー」「ブーメラン」「コロンボ」は、NNGroupのカーラ・パーニスが提案する3つの便利なアプローチです。どの方法も、淀みなく質問に応えるために役立つでしょう。
効果的にユーザーテストのファシリテーションを行うテクニック 出典: Nielsen Norman Group
それぞれのアプローチの概要を紹介します。
i) エコー
「エコー」テクニックは、参加者が話した最後のフレーズまたは単語を、リサーチャーが繰り返して声に出すというものです。それにより参加者は、より詳細を話すよう促す質問をされているように感じます。たとえば参加者が「このフォームのフィードバックが少し変でした」と言ったら、リサーチャーは最後のフレーズを使って「少し変でしたか?」のように返答できます。参加者により詳細を促すことになるため、彼らの考えを明確化できます。
ただし、このテクニックを使いすぎないようにしましょう。意見を述べるたびに繰り返し聞かれると、参加者はまもなくイライラし始めます。「エコー」の使用は参加者がまとまりのない話をしたときだけに留めましょう。
ii) ブーメラン
その名前から想像できるように、「ブーメラン」テクニックは、参加者からの質問を彼らに投げ返すことです。このテクニックは、参加者がリサーチャーの意見や支援を求めた時に有効です。たとえば、参加者が「この操作を完了するにはこのボタンを押すべきですか?」と質問したとします。モデレーターは参加者を誘導したくない立場から、「あなたはどう思いますか?」とか、「今一人だとしたらどうしていましたか?」のように回答します。この質問は丁寧に行うる必要があることに注意しましょう。参加者は、モデレーターの口調からプレッシャーを感じたり、自身に対するジャッジを感じ取るべきではないからです。
iii) コロンボ
ピーター・フォークが演じた有名なキャラクター「刑事コロンボ」にちなんで名付けられたこのアプローチは、リサーチャーが実際より知識がないよう思わせるというものです。その目的は、参加者にリサーチャーを助けるべきだと感じさせることです。
このテクニックの例を示します。
- ユーザー:この閉じるボタンを押すと、データを保存せずにアプリを終了してしまいますか?
- リサーチャー:つまり、あなたがしたいことは… (当たり障りのない部分だけを話して間を置き、参加者が話しだすのを待つ)
- ユーザー:ウインドウを閉じたいんですけど、このボタンがどう動作するか分からないんです。アプリが自動的にデータを保存してくれるとは思うのですが、そうした情報がどこにも書かれていないので。 (ユーザーが問題について話をつづけることにより、改善点を発見するためのヒントを得る)
コロンボは他の2つよりも高度なテクニックで、事前準備が必要です。また、やりすぎると不誠実な印象を与えることに注意しましょう。リサーチャーは、誘導にならない質問を場面ごとに見つけなければなりません(時にこれが困難な場合もありますが)。
おわりに
ユーザーテストの間にリサーチャーが尋ねる質問は、ユーザーについて学ぶための中心的な役割を果たします。製品を操作するときにユーザーがどのように感じ考えているかという情報は、より効率的でより楽しい体験を考えるために活用できます。ユーザーテストは投資です。より多くの時間と労力をつぎ込むことにより、最終的には時間を節約できます。なぜなら、製品に関するすべての判断は、実際のユーザーの振る舞いに基づくことになるはずだからです。
この記事はUser & Usability Testing Questions: Ultimate Guide(著者:Nick Babich)の抄訳です