国民中心のデジタル・ガバメントを考える

9月のデジタル庁設立に向け政策が動く中、命題ともなる国民中心のエクスペリエンス主導型デジタル・ガバメントを実現するための勘所を世界7か国で行ったアドビの調査レポートから紹介します。

デジタル改革関連法案が今国会で成立し、9月のデジタル庁創設に向けて、政策が動いていくことになります。デジタル庁は、「Government as a Service」を打ち出し、「デジタルの活用により、一人一人のニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人にやさしいデジタル化~」を掲げています。このミッションを達成するために、国民中心のUI/UXに取り組むことがデジタル・ガバメント実行計画にも盛り込まれています。

アドビは行政サービスにおいてもユーザー中心のデジタルサービスを提供していく必要があるとして、世界7ヵ国のオンラインの**行政サービスのユーザーエクスぺリエンス調査**を2017年にWPPと実施し、レポ―トにまとめ、各国政府と共有してきましたので、改めましてこの機会にご紹介したいと思います。

このレポートのWPPの調査研究では、行政機関のデジタルトランスフォーメーションは3段階あると発表しました。

まず第1段階は、各組織のWebサイトやサービスがばらばらにサイロになっており、国民はそれぞれのサイトを探し当てていかなくてはいけない状態で、「Department Government」と呼んでいます。

第2段階が、デジタルサービスの総合窓口を提供し、組織ごとの分断を避けるようにしており、オンライン利用も増えてきている状況で、「Service Government」と名付けています。日本では、自動車保有関係手続きのワンストップサービスがこの段階にあたります。

第3段階が、複数の行政機関のサービスがシームレスにつながり、国民中心のサービス、パーソナライズされたサービスを実現している状況で、「Me Government」と位置付けています。デジタル庁もマイナポータルを通じてこの第3段階を目指しています。

デジタル・ガバメントの進化の方向はこのようにテクノロジー中心からユーザーエクスペリエンスを重視した国民中心の方向へ進むことにより、行政機関はコスト効率が最大限に上がり、さらに新しい価値を生み出すサイクルができる好ましい状況になると結論づけています。

さらに、AdobeとWPPの調査研究レポートではこのユーザーエクスペリエンスを以下の5つの要素にまとめています。

1.シチズンジャーニー:国民のニーズをデジタルで完結できる設計

2.モバイル:スマートフォンやタブレットなど様々なデバイスにも最適化

3.デザイン:サイトの設計、グラフィック、コンテンツなどのデザインは総合的にサービスの使いやすさに影響大

4.パーソナライゼーション:ユーザーにとって関連性の高い情報やサービスを提供

5.リレーションシップ(エンゲージメント):デジタル・ガバメント サービスを通じて、国民と信頼関係を築き、さらなる価値を生み出すこと。

これらの5つの要素が総合的に高いパフォーマンスを提供できると、国民にとって、活用しやすい、デジタル・ガバメント サービスとなります。

今、デジタル・ガバメントのエクスペリエンスを国民視点で見直す時期に来ています。国民中心のエクスペリエンス主導型デジタル・ガバメントを実現するためには、利用者の声やニーズを知るとともに、利用状況を可視化・分析しながら、継続的な改善に取り組んでいくことが重要です。この分野においても官民連携を進め、民間からも積極的にノウハウを共有していきたいと思います。