高等学校の情報科が変わる〜新学習指導要領対応の授業事例セミナーを実施

2022年度の高校「情報1」必履修化に向けてご準備中の高校の先生・教育行政関係者を対象に、問題の発見・解決の力を育む「新しい授業づくり」をテーマとした無料オンラインセミナーを、アドビ・アシアル情報教育研究所の共催で開催しました。

高等学校「情報科」事例セミナー ~情報技術を活用した問題の発見・解決

2022年度より高等学校の新学習指導要領が実施され、情報科の学習内容が再編されます。アドビはアシアル情報教育研究所(以下アシアル)と共同で、2021年5月29日に「高等学校『情報科』事例セミナー ~情報技術を活用した問題の発見・解決」を開催しました。新たな情報科の内容を把握し、先行授業事例を知る貴重な時間となりました。

再編される「情報科」のポイント

基調講演には京都精華大学メディア表現学部教授の鹿野利春氏を迎え、新しい情報科の内容について詳細な解説が展開されました。鹿野氏は、昨年度まで文部科学省の高等学校情報科担当の教科調査官として学習指導要領の改訂など情報教育の施策に携わってきました。

京都精華大学メディア表現学部教授 鹿野利春氏による基調講演

京都精華大学メディア表現学部教授 鹿野利春氏による基調講演

現在の情報科は「社会と情報」「情報の科学」からの選択必履修ですが、今回の改訂で「情報I」と「情報II」に再編され、「情報I」が共通必履修となります。2022年度の1年生から新学習指導要領が実施されるため、「情報I」の授業開始は目前。授業内容に合わせた各種教材やネットワーク整備等の環境整備、研修等は2021年度中に行う必要があります。

2022年度の新学習指導要領実施に向けてのタイムテーブル

2022年度の新学習指導要領実施に向けて時間の余裕はない(講演スライドより)

「情報I」の学習内容

「情報I」として再編される学習内容は、現在の情報科の内容とすべてが変わるわけではありません。新しい内容が追加された部分を重点的におさえ、「問題の発見・解決」のためにツールとして「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」を有機的に活用できるように授業を設計することが大切です。

「情報I」の学習内容と全体の捉え方

これまでの情報科の内容との差違と「情報Ⅰ」全体の捉え方を概観(講演スライドより)

また、高等学校での情報科の学習は突然始まるわけではなく、小中学校での学習の前提があってこそ。情報科という科目は小中学校には存在しませんが、どの教科でどのような学習を積み上げてくるのかが示されました。

情報科に関連する小中学校での学習内容

小中学校の既習内容を理解しておくことも大切(講演スライドより)

「情報I」の解説では、改訂前後の内容を詳細に比較しながらおさえるべきポイントを解説。例えば、情報デザインは表現だけではなく、表現、機能、論理の3つの要素をおさえる必要があり、インタフェースのデザインとプログラミングが連携するような学び方は生徒の深い理解につながると評価しました。また、プログラミングは特定の言語の指定はなく、教科書や教材によって取り上げる言語は異なるということです。

新学習指導要領に対応した大学入学共通テストでの情報科の動向も注目されていますが、出版された教科書のプログラミング言語がばらばらという状況ですので、特定の言語を使用した出題は行われないのではないでしょうか。

全体的に学習内容が高度化、増加する印象を受けますが、先生が全てを学んで教えるというのではなく、「より新しいこと、プログラミングのテクニックのようなものは、先生も一緒に学んでいくということで良いのではないかと思います」と鹿野氏。一方、学びの設計と自校に合う教材の選択や必要な環境の整備は先生の大切な役目であり、そこに力を入れて欲しいと呼びかけました。

先行授業事例:情報デザインに取り組んだ足立学園

続いて、新学習指導要領の内容で授業を先行実施した先生からの報告です。足立学園中学校・高等学校(東京都足立区)の情報科・技術家庭科主任の杉山直輝教諭は、アドビが提供する「Adobe XDを使ったプロジェクト学習『防災アプリを作ろう』」の授業案をもとに高校1年生で情報デザインの授業を行いました。

足立学園中学校・高等学校の情報科・技術家庭科主任 杉山直輝教諭による発表

足立学園中学校・高等学校の情報科・技術家庭科主任 杉山直輝教諭による発表

全6コマの学習のゴールは、地域に特化した防災アプリを考えプロトタイプを作ること。授業は個人での作業から始めて班での作業に移行し、XDの共同編集機能が活躍しました。宿題として班ごとにリモート共同作業も実施。完成したプロトタイプは相互に評価し合い、まわりの意見をもとにブラッシュアップします。最終的にはコンペティションを開催し、プレゼンを経て投票で1位を決めました。

Adobe XDの活用メリット

Adobe XDの活用メリット(アドビの説明スライドより)

実習では最初から良いものができるわけではありません。プロジェクト型学習でコミュニケーションをとりながら、自分一人ではできないことを相互にフォローしながら進めることで、プロトタイプがどんどん良くなっていくことを先生も生徒自身も実感することができました。

今後は、足立区とコラボレーションするなど地域との連携や、プロトタイプをプログラミングにつなげられるような展開ができたらと、杉山教諭は考えています。

先行授業事例:プログラミングに取り組んだ

学校法人岩田学園岩田中学校・高等学校(大分県大分市)の技術・情報科 八木真也教諭は、アシアルによるアプリ開発プラットフォームMonacaを利用したプログラミングの授業を高校2年生で行いました。

学校法人岩田学園岩田中学校・高等学校の技術・情報科 八木真也教諭による発表

学校法人岩田学園岩田中学校・高等学校の技術・情報科 八木真也教諭による発表

全20コマで前半はMonaca公式テキストで基礎を学習し、その後実際にアプリを制作するという計画。同校の生徒は中学3年生のときにScratchでプログラミングを経験し、高校2年生の前半ではウェブの制作実習でHTMLとCSSを扱っていたため、既習内容も多いと判断。MonacaでJavaScriptを使ったアプリ開発に挑みました。

授業の流れとMonaca Educationの開発プラットフォームの特徴

左:授業の流れ(発表スライドとMonaca書影)。右:Monaca Educationの開発プラットフォームの特徴(アシアルの説明スライドより)

テーマは「自分が中1だったらほしいと思うアプリを制作する」。時間的な制約からサンプルアプリを改良する形で制作を進め、生徒各自のアイディアでアプリを完成させました。例えば「学校の先生ガチャ」という先生の紹介を見られるアプリを制作した生徒は、大勢の先生にアンケートや写真掲載の同意書を取るなどし、情報を扱う経験にもなりました。

八木教諭は全体を振り返り、既習内容と捉えていた内容とアプリ開発で使う技術とのつながりを生徒が実感できていないことに課題を感じています。生徒にとって、Scratchでのプログラミング経験とMonacaの開発で使うJavaScriptの記述の概念をつなぐことは難しく、ウェブサイト制作で使ったHTMLとCSSをアプリのインターフェース制作に使っているという認識もしづらかったようです。

また、コロナ禍の活動制限で個人制作としたため、文系やコンピューターに苦手意識のある生徒にとってはテキストや実習のハードルが予想以上に高く、トライアル&エラーに慣れていない生徒は制作が進みづらいという状況も見えてきました。今後はグループでの学び合いや共同制作の環境づくりも検討したいということです。

現場の工夫が共有された座談会

最後に鹿野氏、杉山教諭、八木教諭による座談会が行われ、参加者からの事前及び当日の質問に答えました。教科書の採択ポイントや授業内容に至るまで広く話が及びます。

なかでも「限られた授業時数で問題の発見・解決につなげるには?」という問いは多くの先生にとっての悩みごと。杉山教諭は、「授業の中だけでなく、きっかけ作りを多くしてあげるのが大事だと考えています。生徒が自分で解決する手法を探すのも大切なこと。手を出しすぎずに宿題などで投げかけるようにしています」と話します。

八木教諭は、「問題解決の手法の引き出しをたくさん持っておいて、クラスにあったものを使うようにしています。また、生徒はのめりこむといつまでも時間をかけるので、時間で区切って結論を出すようタイムスケジュールをすることが大事だと思います」とアドバイス。時数が増えずに学習内容が膨らむジレンマの中で、具体的な現場の工夫が共有されました。

なお、小中学校のGIGAを受けて高校生の1人1台デバイスの議論が進んでいますが、足立学園中学校・高等学校ではSurface Go 2、岩田学園岩田中学校・高等学校ではiPadで、すでに1人1台の活用を行っています。

アドビのデジタライゼーションマーケティング本部本部長の小池晴子は、今後よりいっそう情報科の存在感と重要性が増すと指摘。「課題解決の手段のひとつであるプログラミングを学ぶ際にも、情報デザインの視点でアウトプットのイメージを持てることが子どもたちの学びにとっても非常に重要だと考えています」と話し、アシアルと連携して研修や教材開発の取り組みを進めていることを紹介しました。2021年6月25日には、「『情報Ⅰ』に向けたプログラミング研修会 ~ 情報デザインのためのAdobe XD入門」が開催されます。

大きく変化する高等学校の情報科。十分な準備のために大切な年となりそうです。

本セミナーは全編動画アーカイブを提供しています。視聴をご希望の方は以下のリンクよりお申し込みください。

https://edu.monaca.io/archives/6335