製造業のデジタルトランスフォーメーション、その課題と対策とは

2021年5月開催のアドビセミナー「デジタルトランスフォーメーション × 製造業 ものづくり日本における紙業務のDX」において、デジタル変革における製造業特有の課題を明らかにし、課題解決に向けた提案を行いました。

あらゆる業種でリモートワークが推奨され、デジタルトランスフォーメーションが進むなど、ビジネスが大きく変わりつつある今日。こうしたなか、難しい状況に立たされているのが、出社を要する製造現場ラインを持つ製造業です。2021年5月12日に開催されたオンラインセミナー「デジタルトランスフォーメーション × 製造業 ものづくり日本における紙業務のDX」では、アドビと日経クロステックリサーチが共同で行ったアンケート結果を踏まえ、デジタル変革における製造業特有の課題を明らかにし、先進的な取り組みを行っているダイヤ精機株式会社様の事例講演を交えながら、課題解決に向けた提案を行いました。

創業57年の町工場、コロナ禍でも収益増を実現できた理由

新型コロナウイルスの脅威を背景に、急激に進んだリモートワーク。働く環境をデジタルに移行することがきっかけとなり、ビジネス全体をデジタルに最適化していくデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されています。

日本の基幹産業である製造業においても、DXは喫緊の課題です。しかしほとんどの企業では、現場の製造業務に当たるライン作業担当者・技術者と、バックヤードを担うオフィスワーカーの二層になっており、本格的なDXを実現するには種々のハードルがあります。

そうしたなか、いち早くITを活用して業務改革を推進してきたのが、創業57年になるダイヤ精機です。同社は鉄を1ミクロン単位で磨き上げる高度な技術力を背景に、自動車エンジンや車両に使う治工具やゲージなど種々の部品を加工製造しています。

ダイヤ精機 代表取締役の諏訪貴子氏

ダイヤ精機 代表取締役の諏訪貴子氏

セミナーに登壇したダイヤ精機 代表取締役の諏訪貴子氏は、2004年に現在の職務に就任後、「技術の継承」を念頭に若手人材の採用・育成を推進。また取引先のニーズに迅速・柔軟に応えるために図面を電子化し、生産管理システムを全面刷新しました。その結果、社員の年齢人口構成は、若手が最も多くなり、取引先へのレスポンス向上やコストダウンを実現。2008年のIT経営力大賞「IT経営実践企業」を受賞しました。

ただ、人材育成やシステムの刷新は成功したものの、生産性は一時的に落ちてしまったそうです。原因を調査すると、若手社員は熟練者と比べ、「図面を手にしてから、治具等をセットして機械を動作させるまでの段取り時間」が多くかかっていることがわかりました。経験の差が、そのまま段取り時間の差につながっていたのです。

「経験値によるものを時間短縮するのは難しいので、機械の稼働率を下げている要因を深掘りすると、会議や電話応対、営業との確認、図面を探す時間など、コミュニケーションや情報管理に時間を要していると判明しました。そこで、これまで生産管理システム外の範囲だった『営業活動から受注・納品までの情報の流れ』を整理し、そのプロセスに関わる情報をクラウドに上げて全社員で共有することで、生産性向上を目指したのです」(諏訪氏)。クラウドの情報へのアクセスや、コミュニケーションを実行するグループウェアは自社開発しました。

これにより、営業利益率は8倍へと大幅にアップ。コロナ禍でも売上は変わらず、収益性は向上したそうです。また、営業や現場での情報共有やお互いの仕事が可視化されたことで、良好な関係が築けるようになりました。クラウドを活用することで、コロナ禍においてオフィスワーカーの出社を抑制できるという効果も出ています。

今後は、取引先からの発注書をISO規格のPDFに統一し、生産管理システムと連携させて、年間500時間に及ぶ受注入力の負荷削減を目指すとのこと。諏訪氏は「電子化することで、コロナ禍でも業務継続が可能となり、ビジネスのスピードも上がります。そして、紙文書のデジタルトランスフォーメーションは製造業にとって、まず取り組むべきテーマの一つだと実感しております」と話しました。

製造業の設計開発現場、リモートワークを阻む“壁” とは?

一方、製造業のDXに関する課題にはどういうものがあるのでしょうか。

この点について、製造業へのアンケート結果をもとに分析したのが、Document Cloudの製品戦略を担っているアドビ エンタープライズ製品戦略部の楠藤倫太郎、製造業への製品導入支援を行っているデジタルメディアエンタープライズセールス 第三営業部の下村武史です。

まず2021年4月において、リモートワークがどの程度行われているか尋ねたところ、「ほぼ全社員が出社」という回答が47%でした。下村は「工場などの生産現場がある製造業だけに、出社割合は高いようです」と説明します。

では、リモートワークできる環境についてはどうでしょうか。端末環境(複数回答可)に関しては、持ち運びできるノートPCの利用は83%と高い一方、デスクトップPCの利用も62%となっています。楠藤と下村は「CADなどは高性能CPUが必要なので、デスクトップPCの利用が多いのかもしません」と見ています。

製造業従事者が業務で使用するデバイス(左下はアドビ 下村武史)

製造業従事者が業務で使用するデバイス(左下はアドビ 下村武史)

なお、設計開発関係での勤務状況で「ほぼ全員出社」という企業におけるデスクトップPCの使用率は72%、「約3割以下」では42%と差が出ました。在宅勤務が進んでいる企業では、デスクトップPCの利用が少ないといえます。

もう1つ、クラウドサービスの利用状況を見ると、「パブリッククラウドの利用は認められていない」という企業は36%、利用を認めている企業は17%という結果となりました。「クラウドは便利そうだけど、情報セキュリティに不安」という声も散見されています。楠藤はこれに関し、「来年度には、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度である『ISMAP』が始まることになっており、これに対応予定のクラウドサービスを利用するのも一手です」と説明し、アドビのクラウドサービスも対応予定であることを明らかにしました。

こうした前提を踏まえ、在宅勤務・リモートワークに関する現場の課題を深掘りしたところ、在宅勤務の阻害要因として、「紙の印刷・出力」(60%)、「押印出社」(48%)、「文書の確認や回覧などの共同作業」(46%)、「郵送作業」(34%)など、紙文書に起因する課題があることがわかりました。

製造業における在宅勤務の阻害要因トップ3(右下はアドビ 楠藤倫太郎)

製造業における在宅勤務の阻害要因トップ3(右下はアドビ 楠藤倫太郎)

特に図面の場合、フィジカルな紙文書であることで、逆に「複数人での確認/回覧作業」(49%)、「ファイルの保管」(43%)、「共同編集/制作作業」(36%)に課題が生じています。ペーパーレス化の状況については、「グループウェア等での文書保管・共有」が44%、「社内ハンコレス」(42%)、「デジタル文書の共同編集・確認・承認」(40%)と、社内向けに取り組んでいるところでも4割にとどまることがアンケートから見えてきました。これについて、楠藤と下村は「多くの人が課題と感じているにも関わらずまだ取り組みが進んでいない」とし、製造業ならではの難しさを指摘します。

製造業の場合、ISO9000シリーズやPL法対応の要件に合わせ、紙⽂書の保管が義務付けられており、技術継承の観点等も含め文書が長期で保存されています。アンケートでも「保存期間が7年以上」という回答は68%に上り、⼤半の企業で10年以上の長期にわたって紙⽂書を保管していることがわかりました。

今回のアンケート調査から、「紙⽂書とIT環境が在宅勤務の阻害要因となっている」「紙⽂書によりさまざまな⼿間が発⽣」「紙⽂書のデジタル化は道半ば」といった製造業特有の課題を浮き彫りにし、「紙業務のデジタルトランスフォーメーションを推進することで、これらの課題を解決可能」と提案しました。

現場の課題はAdobe Document Cloudで解決

そんな紙業務のDX実現を大きく後押しするのがAdobe Document Cloud(Document Cloud)です。セミナーの最後に登壇したアドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 プロダクトスペシャリスト 永田敦子は、デモを交えながら、製造業の現場課題にDocument Cloudがどのように貢献するのかを説明しました。

まず文書の保管に関しては、デジタル文書で長期保管や閲覧性を確保するために、PDFの国際標準として策定されたISO32000-1に対応したPDFツールを使うことで、保管のみならず、文書の検索や参照といった情報資産の活用が可能になります。

ISO32000-1では、紙に変わるデジタルドキュメントの取り扱いにあたり、PDFを作成するツールと閲覧するツールを分け、要件に沿った規格のファイルの生成と、要件を満たしたツールによる閲覧、により文書の再現性を担保する考え方をとっています。

アドビは、ISO32000-1に準拠したPDFファイルを作成・編集・加工・管理するAdobe Acrobatと、PDFファイルを閲覧するAcrobat Readerを提供し、紙文書のデジタル化と長期保管・閲覧性を担保しています。永田は「すべてのPDFファイルが、⻑期にわたって閲覧・活⽤できるとは限りません。ISOの⽔準を満たさないPDFの場合、将来、閲覧者の環境次第では、⽂字化けや表⽰の不具合が発⽣したり、ファイルが開けないといった⽀障が出る場合があります」と注意します。

ISO13000-1に含まれるPDFの構成要素

ISO13000-1に含まれるPDFの構成要素

この水準を満たしたPDFを核にして、紙業務のDXを実現するのがDocument Cloudです。PDFの作成・編集・加工・管理・閲覧に加え、他システムと連携するAPI、ワークフロー、電子サインの仕組みを備えています。またユーザー単位のライセンスのため、デスクトップPC/ノートPC/スマートフォンなどユーザーのデバイスをまたがって利用できます。このDocument Cloudを活用することで、文書の印刷や共同レビュー/確認、押印、郵送といった紙特有の工数が削減できます。たとえば図面をレビューする場合、図面ファイルをPDF化してクラウドにアップロードすることで、複数人が同時にオンラインレビューできます。特定の人に向け、注釈コメントでメンションすればその人に通知されるので、確認事項を見逃すこともありません。また文書が更新された場合は、差分を自動検出するので、確認作業の工数そのものが削減できます。

文書の承認や合意に関しては、3つの機能で対応できます。1つは簡易承認に使える印影の「スタンプ機能」、もう1つはアドビが発行する証明書による改ざん防止・メールアドレスで本人性を担保する「クラウド型電子サイン」、そして最後に、電子証明書で本人性を担保し、高い法適要件にも対応する「デジタル署名機能」です。Acrobatはスタンプ機と電子署名(デジタル署名)に対応していますが、Document Cloudに付属の「Adobe Sign」は、クラウド型電子サインと電子署名の両方に対応し、社外との法的有効性を担保した文書承認や契約にも利用できるので、印刷や郵送が不要になります。なお、Adobe Signで署名を完了したPDFファイルは、Acrobat Readerで閲覧する際、文書の変更されていないことを検証し、分かりやすく表示します。

Document CloudとAdobe Signでデジタル文書の承認・合意を実現

Document CloudとAdobe Signでデジタル文書の承認・合意を実現

さらにPDFなら、一般書類だけでなく、CADソフトで作成した図面ファイルや、動画・アニメ、イラスト、写真、3Dなどあらゆる文書フォーマットを1つの文書に集約できます。このポートフォリオ機能は、元のファイル形式のまま1つのPDFファイルに集約すること、各ファイルの形式をPDFに変換して1つのPDFファイルに集約すること、のいずれもが可能です。

紙文書をPDFにする意味

紙文書をPDFにする意味

修正や編集操作を防止するセキュリティ機能も備えているので、改ざんや不正利用、複製などのリスクも心配ありません。文書内検索など、紙では不可能な機能を活用することで、文書のナレッジを有効活用できます。

永田は「Document Cloudにより、大規模なシステム開発をすることなく、最小の負荷で紙業務をデジタル化し、製造業のDXを加速できます」と話します。紙文書のデジタルドキュメント化は、BPRや業務システム化プロジェクトと比べて、これまでの業務プロセス変更や現場への浸透の負荷を抑えやすい取り組みです。デジタルトランスフォーメーションの中で、まず取り組むべき領域としてアドビはいつでも製造業の皆様をご支援いたします。

上記で紹介した機能は、Document Cloudのほんの一部です。製造業のDXに向け、具体的な課題への解決策や詳しい説明が必要な場合は、ぜひアドビにお声がけください。

※オンデマンド動画のご案内

こちらのブログでご紹介したオンラインセミナーを、オンデマンド動画でご視聴できます。下記URLから視聴をお申し込みいただき、皆様の業務にぜひご活用ください。

デジタルトランスフォーメーション × 製造業

ものづくり日本における紙業務のDX ~製造業界の設計開発など現場におけるDXのヒント~

アーカイブ動画はこちら

※企業導入のご相談とお見積りはお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォームはこちら