サイク・アウト:ファンキーで大胆な、最新のデザイントレンド
イメージ:Adobe Stock/Goce Ilievski/Stocksy
サイケデリアといえば、ド派手なパターン、大胆な色使いのカラーパレット、バラエティ豊かなシュールで目を引く文字デザインが特徴的な、1960年代末頃から1970年代にかけてのカウンターカルチャー運動です。最近のグラフィックデザインやブランドキャンペーンでは、70年代のワイルドなスタイルにバランスと抑制の感覚を加え、懐かしさと同時代性を併せ持ったデザイントレンドが生まれています。Adobe Stockのクリエイティブトレンドでは、この大胆なデザインの爆発的な流行を「サイク・アウト」と名付け、今年のトレンドの1つとして取り上げました。
過激なスタイルをルーツに持つ、サイケデリックデザイン
1967年は「サマー・オブ・ラブ」の年。数万人のヒッピーがサンフランシスコに集い、まったく独自のスタイルの音楽、性解放、ドラッグ、政治思想を礼賛する運動が繰り広げられました。当時は、ジェファーソン エアプレイン、グレイトフル デッド、ジミ ヘンドリックスなどのアーティストが大きな人気を博し、ジェファーソン エアプレインの『After Bathing at Baxter’s』(1967年)、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの『アクシス:ボールドアズラヴ』(1967年)、グレイトフル デッドの『Aoxomoxoa』(1969年)など、いずれもベストセラーとなったレコードのジャケットにすばらしいサイケデリックアートが採用されたことがサイケデリックの普及につながりました。
また、当時飛ぶ鳥を落とす勢いにあった大スターのジャニス ジョプリンは、イラストレーターのロバート クラムと共同で、ビッグ ブラザー&ザ ホールディング カンパニーのアルバム『Cheap Thrills』(1968年)のカバーを制作。このカバーは、サンフランシスコのコンサート文化と、ヘイト・アシュベリー地区を中心に急成長していたインディーズコミックの粋を凝縮したようなデザインに仕上がっています。
この時代は、彼らよりもはるかにメインストリームで活動していたポップバンドでさえサイケデリックに傾倒しました。例えば、ビートルズは『リボルバー』(1966年)、『マジカル・ミステリー・ツアー』(1967年)、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(1967年)を発表しましたが、いずれのアルバムも、それまで優等生然としていた4人組とは打って変わり、非常にサイケデリックな音楽とジャケットになっています。
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イメージ:(左)Adobe Stock/NTKN、(右)Adobe Stock/varvarabasheva
初期のサイケデリアは、幻覚作用のある薬物を使用するドラッグカルチャーをその芸術の主な源泉として、メインストリームに躍り出ました。LSD(リセルグ酸ジエチルアミド)は1930年代末頃に発見されていましたが、心理学者で作家のティモシー リアリーが1950年代末頃から1960年代始めにかけてサイケデリックドラッグを大々的に研究し、そのような薬物の利用を声高に訴えたことで世に広まりました。1960~70年代頃にはLSDと幻覚キノコはパーティドラッグの定番となり、鮮やかな色使い、連続する幾何学模様や花のパターン、溶融するテキストや画像など、ドラッグの作用による幻覚がそのままサイケデリアの代表的なモチーフになりました。
サイケデリックルックは1890~1910年頃の世紀の変わり目に見られるアールヌーボーの影響も大きく、1970年代の多くのアーティストやデザイナーが、アールヌーボーの芸術やデザインの特徴である凝った装飾、自由な曲線、女性の肖像、過剰主義のテーマを取り入れています。サマー・オブ・ラブのイベントのメッカとして、フィルモア・ウエストやアバロン・ボールルームなどのコンサート会場に人々を誘ったポスター芸術にも、前世紀の世紀末にヨーロッパで開花した装飾的な芸術や建築のモチーフを見て取ることができます。
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イメージ:(左)Adobe Stock/slovoslave、(右)Adobe Stock/Shamanska Kate
シックになって復活
当初のサイケデリアは「振り切れてる」感がありますが、実際にトリップする必要はありません。1970年代は世紀半ばで芸術の大きな節目となった時代で、社会もデザインも様々な変化がありました。現在では、より洗練されたデザインに現代的なサイケデリアのニュアンスを取り入れるブランドが増えてきています。
太字の手書き風の文字修飾は、CheeeやSynthemescなどのフォントのおかげで、はるかに取り入れやすくなりました。WhompやOpakeはよりカッチリとした印象のフォントで、HWT Arabesqueは『鏡の国のアリス』を思わせるアールヌーボー感が特徴のフォントです。これらのファンキーなフォントを利用すれば、消費者への訴求力を高め、文字を組み込むことによってグラフィックデザインの表現としての説得力を増す効果も期待できるでしょう。
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イメージ:(モックアップ)Adobe Stock/McLittle Stock、(グラフィック)Adobe Stock/Mira Kunstler、(テキスト効果)Adobe Stock/Wavebreak Media、(フォント)Adobe Fonts/Typodermic
同様に、現代版のサイケデリックでは、無秩序で騒々しい印象の補色の組み合わせは控え、エレガントなジュエルトーンを採用することで、薬物の影響を感じさせずに人目を引きつけるハイコントラストな配色を実現しています。シーフォームグリーン、オリーブグリーン、ピーコックブルーと、オレンジ、コーラル、マゼンタをメインに組み合わせ、リーガルパープルを差し色にすることで、深みがありバランスの取れたカラーパレットになっています。
従来のサイケデリックデザインと比べると、2021年版のサイケデリックデザインは色使いが繊細です。Adobe Stockのベクターおよびイラスト部門の責任者を務めるShea Molloyは次のように語っています。「カラーパレットも、以前より控えめな印象を生む一因になっています。必ずしもレインボーカラーではなく、同系色のバリエーションでまとめられたパレットになるでしょう。レインボーカラーになったとしても、落ち着いた暗めのトーンになるかもしれません。また、今年のトレンドでは、非常に温かみのあるあーストーンのカラーパレットも見られるでしょう」
最終的には、2020年1月に発表したデザイントレンドでご紹介したとおり、サイク・アウトは浮世離れした楽観主義を脱し、より現実的で、地に足のついた印象を持たせたい場合に最適な表現手法です。1960年代末頃の理想主義と共に生まれたサイケデリアが、社会的不公平、反戦、果てしなく続くパーティの末にときとして起きた悲劇など、幅広い問題を扱ってきたように、現代のサイク・アウトは、気候変動などの深刻な問題や、長期に渡る隔離が生んだ新たな世界への適応など社会的な問題を扱うことで、ブランド価値を高める可能性を秘めています。
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イメージ:(左上)Adobe Stock/Andrea、(左上)Adobe Stock/Wavebreak Media、(下)Adobe Stock/Slanapotam(パレット)Adobe Color/Retro Roller.
サイケデリックデザインの現在地:ブランドをはじめとする各分野での使われ方
かつてサイケデリック芸術は、ヘッドショップ(喫煙用品を扱う店)や、ウィートペーストで貼られたコンサートの広告で使われるものでしたが、現在では好感の持てるデザインとして様々な分野で発信されています。特に、食品飲料メーカーでの受けがよいようです。
Molloyは次のように述べています。「多くの製品デザイナーが、地元産、手作り品、または環境に配慮した商品であることをアピールして、自社商品をリリースするとき、ブランディングにサイク・アウトのデザインを採用しています」
食料品および小売り分野での例をいくつかご紹介します。
- ブラジルでも前の時代のサイケデリックアートへの回帰が見られ、現在活躍中のブラジル人アーティストHenri Campeã氏は、コーヒーやビールのパッケージ、『Washington Post』の情報誌の表紙で、サイク・アウトなデザインの力を巧みに生かしています。
- Alpha Box & Diceは、タロットからインスピレーションを得たワイン商品すべてを、エメラルド、コーラル、パープル、ゴールデンロッドのみずみずしいカラーパレットと、巨大なエイリアンが人間をペットとして飼育している奇妙な世界を描いた1973年制作のアニメ映画『La Planète sauvage』(『ファンタスティック・プラネット』)から抜き出したようなイラストでブランディングしています。
- Fahrenheit 32は、トレーナー、ロゴ、小売店の販促素材のほか、コーヒーやサプリメントのパッケージデザインにもサイク・アウトのスタイルを採用しています。Fahrenheit 32のブランディングスタイルに使われている流線的な文字組みは、特に飲料のデザインと相性が良いようです。
サイケデリアは手描きが主体なので、それがイラストレーターの才能の自然なアピールにもつながっています。イラストレーターのDawn Aquarius氏が現代のサイケデリック調イラストで新たに表現したウェイト版タロットデッキは、現在、10刷目に入っています。元のウェイト版タロットが発表されたのは1909年のことで、そのアールヌーボーのスタイルと根底を流れるスピリチュアリズムは、サイケデリアのインスピレーションの大きな源泉になっています。カナダ人デザイナーのCristian Fowlie氏がリソグラフで制作したドラッグクイーンのトリクシー マテル氏やジュノ バーチ氏のコンサートポスターは、豊かな歴史を持つサイケデリックポスターアートを現代的なテーマに生かせる可能性を示しています。アーティストのMorgan McPeak氏は、思わず目が惹きつけられるサイケデリアを使い、社会の変化から自己肯定感まで、様々なテーマでメッセージを発信しています。
サイク・アウトによるブランディングは、ポスターアートからステッカー、エネルギーワークまで、内省的なネオスピリチュアリズムに最適ですが、実用的な用途も数多くあり、IKEAやCooper Hewittなど、ミニマリスト志向の企業の間でも再び脚光を浴びています。
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注目の最新トレンド、サイク・アウト
ファンキーで現実逃避的かつ大胆なサイク・アウトのデザインは、従来のサイケデリックを再解釈し、懐かしさを感じさせながらも、非常に斬新なトレンドを生み出しています。Adobe Stockのサイク・アウトのコレクションをご覧ください。
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この記事は2021年8月3日にSarah Rose Sharpより作成&公開されたPsych Out design is funky, bold, and trending nowの抄訳です。