1人1台端末整備で学びの連続性が生まれる〜千代田区立九段中等教育学校が選んだクリエイティブなPC環境
小中学校でのGIGAスクール構想による端末整備が進み、高等学校での環境整備が次のステップとして注目されています。千代田区立九段中等教育学校では2020年3月には1人1台のPCとしてMicrosoftのSurface Proの整備が完了。Adobe Creative Cloudのユーザー指定ライセンスが全生徒に配布されました。同校情報科主任教諭でICT委員会の須藤祥代先生に、活用の様子や使用感を聞きました。須藤先生はAEL(Adobe Education Leader)とMIEE(Microsoft Innovative Educator Expert)の認定教諭として積極的にICT活用を行っています。
高校1年生の情報科でCM制作
1人1台導入早々の2020年度末、4年生(高校1年生)の情報科で須藤先生はさっそくアドビのツール群を使いCM制作の授業をおこないました。すでにウェブ制作のプロジェクト型学習を通じてターゲットユーザーを想定したデザインの考え方を学んできた生徒達。同校への入学を検討する小学生をターゲットに学校の魅力を伝えるテーマでCM制作にのぞみました。
須藤先生が生徒に最初に示した要件。目的やターゲットに応じてコンテンツを考えることが浸透している
須藤先生は日頃から生徒が「学び方を学ぶ」ことを重視しています。画像加工のPhotoshopと動画編集のPremiere Proの学習に1時間ずつ使いましたが、ごく基本的な機能を教え、あとは自分でやりたいことを自ら調べるよう促しました。アドビの公式動画をはじめ、学習動画が豊富にあるので、生徒たちはさまざまなリソースにアクセスしてどんどん使い方を習得していきます。自分で、特殊効果を加えるAfter Effectsやオーディオ編集のAuditionを習得して使った生徒もいるほどです。
テーマの理解とアプリの基本をおさえたら、早速絵コンテの制作に入ります。ここでもGIGAスクールのPCが活躍。紙にスケッチするのではなく、グループごとにPowerPointの共同編集でSurfaceペン入力して絵コンテを作成していきました。アイデアを練って絵コンテにOKが出たグループから撮影と編集に入ります。学年末のため4時間分の制作期間しか確保できませんでしたが、生徒は自主的に撮影アポを取りに行くなど先生の想定を上回る動きで制作を進め、魅力的なCM作品が完成しました。
※千代田区立九段中等教育学校公式サイトに、こちら以外の作品も多数掲載されております。
1人1台で、学びの連続性が生まれる
同校は共用PCでのICT活用経験も長く、以前からアドビやMicrosoftのアプリ群を使う環境がありましたが、1人1台のPCがあることでどんな変化が生まれたのでしょうか。
「生徒の学びが連続しているなと思います。共用PCでは限られた時間内でしかできませんが、1人1台あれば、学校で完結せずに、自宅でもより深く調べたり自分のペースで進めたりできます。同じPC環境のまま、調べてすぐに試したり、撮影、録音からデータ共有まで一貫して行ったりできるのもいいですね。生徒たちの主体的に学びに向かう態度が阻害されることなく学びが開花していくイメージをもっています」と須藤先生。
他にも、全員が同じPC環境を持っているので、特定のメンバーに作業負荷が偏ることなく自然な役割分担ができたり、生徒同士で教え合いやすいなどの効果が見えるそうです。これは先生が教えるときにも重要なポイントで、個人のPC環境の違いを気にせずに説明や指示ができることは大きなメリットです。
それぞれのパソコンでCM制作を進める生徒さんと実際に作成された絵コンテ。
「情報科は社会に出て必要だから……」という生徒の声
須藤先生は日頃から、一斉教授で知識を伝えるよりも、学び合いや、知識を使う中で深めることを重視して授業を構成しています。「アプリの使い方にしても、教えたことが永久に同じであることはないと思うので、きっかけは伝えるけれどもやりたいことがあったら、方法を調べるところからやってみようと伝えています。答えは教えないけれどたどり着き方は教えるという授業ですね」。
そんな情報科の授業を受けた生徒たちからは「なんだかんだいって社会にでて一番役に立つ科目だと思う」という感想が出るといいます。授業中、教え合ったり調べたことをアウトプットしたりずっと止まっていることがないので、「情報は体育」という表現をした生徒も。
手元にアプリがありいつでも使える環境が大切
1人1台整備前に共用PCのみでICT活用をしていた頃から、アドビのアプリで動画や音声編集などを行う生徒の姿がありました。コロナ禍で行事が減ってしまいましたが、今年の文化祭はオンライン開催をするので、1人1台のPCが動画制作等でも活躍しそうです。
現在は全員のPCにアドビのアプリが入っているので、情報科の授業がきっかけで、自主的にアドビのツールで動画制作やロゴ制作などをしている生徒も。「環境があれば生徒たちは調べてどんどん使います。自分達の興味に合わせてどんどんクリエイティブな活動をしていますね」と須藤教諭。何かやりたいと思ったときにいつでも使えるので、環境によって諦めることなくクリエイティブな可能性が広がります。最近では、大学入試で動画でプレゼンテーションを提出するというケースも出てきていて、表現方法のひとつとして動画は当たり前の手段になってきているようです。
現在中学1年生でSparkでのウェブページ制作や動画制作にも着手。また、先生が動画編集や画像編集などにアドビのアプリを使う姿もあり、活用が広がります。
マシンスペックは重要
須藤先生は、マシンのスペックで子ども達の学びを阻害したくないと考えています。同校では学習や各種活動のあらゆる場面でMicrosoft 365のアプリ群やファイル共有を使用していて、Surface Proは十分な動きでその活動を支えています。GIGAスクールのPCは常駐ソフトがいくつもあったり、高校生は複数のアプリを立ち上げて同時に使ったりすることが多いので、現機種よりも下のスペックは選択肢として考えられないといいます。
「欲をいえばもっとメモリがほしいですね」と須藤先生。特に動画制作に関わるPremiere ProやAfter Effectsは、使用スペックを満たすだけでなくさらに余裕が欲しいという印象を持っています。パソコンルームにはよりスペックの高いPCがあるためGIGAスクールの個人PCと併用したり、生徒同士で編集を手分けしたりと、生徒は自主的に工夫しているそうです。
生徒の学びを促進し、可能性を開くにはどのようなスペックのPCとアプリが有効か……。先行する現場からの声が、これから1人1台端末やパソコンルームの整備を進める学校にとって参考になるでしょう。
Surface ProとAdobe Creative Cloudが高校生の「新たな学び」の要に…九段中等教育学校のICT教育 | リセマム (resemom.jp)
今回お話を伺った須藤祥代教諭