中高生がPremiere Pro、After Effectsなどでオリジナル動画制作に挑戦!〜十分なスペックのメディアラボで生徒の「やりたい」を実現する

生徒の創造性育成と発揮の支援を目的として、東京都立三鷹中等教育学校にインテルとアドビがメディアラボを設置。高度な映像編集に十分なIntel Core i7搭載PCとAdobe Creative Cloudの動画制作アプリを使い、実証研究のキックオフで行われた動画編集講座の様子をレポートします。

コンピューター室の一角にメディアラボが設置された

コンピューター室の一角にメディアラボが設置された

プロの現場でも使われる映像編集アプリAdobe Premiere ProやAfter Effectsなどクリエイティブツールを中高生のうちから自由に使える場があったら……。そんな理想のクリエイティブ環境が、生徒の創造性育成と発揮の支援を目的に東京都立三鷹中等教育学校に誕生しました。高度な映像編集に十分なIntel Core i7搭載PCとAdobe Creative Cloudライセンスが備えられたメディアラボを、インテルとアドビが設置。実証研究のキックオフとして、さっそく希望者対象の動画編集講座(2回連続)が1~2月に開催されました。

人気アプリ3種を集中講義で学ぶ

動画編集講座は、アドビ コミュニティエバンジェリスト/教育インストラクショナルデザイナーの境祐司氏が講師をつとめオンラインで実施。2021年1月30日(土)にPremiere Pro、2月21日(日)にAfter EffectsとCharacter Animatorの基礎を解説しました。両日とも半日で一気に解説するペースで、生徒たちはメディアラボのあるコンピューター室で実際にアプリを操作しながら受講します。

講師のアドビコミュニティエバンジェリスト/教育インストラクショナルデザイナー境祐司氏

講師のアドビコミュニティエバンジェリスト/教育インストラクショナルデザイナー境祐司氏

動画制作に関心の高い希望者22名(中学1〜3年生7名、高校1年生15名)が課外活動として参加

動画制作に関心の高い希望者22名(中学1〜3年生7名、高校1年生15名)が課外活動として参加

復習や自由制作に取り組む生徒たち。

復習や自由制作に取り組む生徒たち

Premiere ProやAfter Effectsは大画面のモニターの方が圧倒的に操作しやすい

Premiere ProやAfter Effectsは大画面のモニターの方が圧倒的に操作しやすい

Premiere Proは基本的な動画編集を行うアプリ。まずは複数の動画や写真などの素材をつなぎ合わせて短い作品を作る実習を繰り返し、プロジェクトの構造や素材編集の基本操作に慣れていきます。後半で、素材をアニメーションさせるのに使用する「キーフレーム」の扱い方や、特定の背景色を抜く「キーイング」の方法などを学ぶと、一気に表現の幅が広がりました。

様々な動画、音素材を組み合わせて動画を編集する

様々な動画、音素材を組み合わせて動画を編集する

グリーンバック撮影の背景を抜いて合成する

グリーンバック撮影の背景を抜いて合成する

After Effectsは動画にさまざまな視覚効果を加えたりモーショングラフィックスを作成したりするアプリ。幅広く高度な表現ができる分使いこなすには奥が深いので、短時間でできる視覚効果やアニメーションに挑戦しました。Character Animatorは人の顔や体の動き、発話音声に応じてリアルタイムでキャラクターを動かせるアプリ。表情豊かにしゃべるキャラクターの動画を作成できます。これらのアプリで作成した動画は、素材としてPremiere Proに取り込み、動画の一部として使うことができます。

After Effectsでモーショングラフィックスを作成

After Effectsでモーショングラフィックスを作成

Character Animatorでは自分をカメラに写してキャラクターを動かした

Character Animatorでは自分をカメラに写してキャラクターを動かした

講座で取り上げた3つのアプリはいずれもプロの映像編集の世界でも使われ、機能が膨大で操作方法も独特です。こうしてポイントをしぼった解説を受けると習得の初速度があがります。今回の講座は初歩に応用をおりまぜて実習しながら楽しく学べる内容で、短時間ながらも生徒たちは最初の作品を作るのに十分な知識を得られたようです。オンライン講座は生徒の進捗を確認しづらいので、学校側で先生がサポートし、アプリによっては講師から復習用の解説動画を配布しました。

生徒のクリエイティビティが花開く

Premiere Proの講座を受講した翌日から、生徒たちはさっそく動画制作に取り組みました。制作中の作品を見せてもらうと、写真を印象的につないだミュージックビデオ風の動画、テレビ番組のオープニングを模した動画、撮影技術にこだわった商品PR風の動画、学校のクラブ紹介動画、人気作品のオープニング再現など、多彩な作品が並びます。

キャプション:校内で撮影したたくさんの写真をつないで音楽に合わせて展開させた。印象的な写真と場面転換でミュージックビデオのような雰囲気。「編集はパズルみたいで面白いです」。カメラが好きで今後は風景ばかりではなく人も撮ってみたいと思っている

校内で撮影したたくさんの写真をつないで音楽に合わせて展開させた。印象的な写真と場面転換でミュージックビデオのような雰囲気。「編集はパズルみたいで面白いです」。カメラが好きで今後は風景ばかりではなく人も撮ってみたいと思っている

NHK  Eテレの番組「デザインあ」のオープニングを研究して同様の動画を制作。「ほんの10秒の映像にいろいろな技がこめられているのがわかりました」。なにげなく見ている映像がとても手間をかけて作られていることを実感した。「デザインみ」の「み」は三鷹の「み」

NHK Eテレの番組「デザインあ」のオープニングを研究して同様の動画を制作。「ほんの10秒の映像にいろいろな技がこめられているのがわかりました」。なにげなく見ている映像がとても手間をかけて作られていることを実感した。「デザインみ」の「み」は三鷹の「み」

PR動画を制作したかったので、校内で購入できる炭酸水をモデルにした。水滴や泡の質感をとらえたこだわりの映像で、「撮影に1日かかりました」。動画編集経験はあるがアドビ製品は初めて。好きなカメラで今後は動画も撮りたいと考えている

PR動画を制作したかったので、校内で購入できる炭酸水をモデルにした。水滴や泡の質感をとらえたこだわりの映像で、「撮影に1日かかりました」。動画編集経験はあるがアドビ製品は初めて。好きなカメラで今後は動画も撮りたいと考えている

今の中高生は普段からさまざまな動画を見て楽しんだり、工夫をこらして撮影した写真をオンラインやリアルで見せ合いコミュニケーション手段にしたりと、ビジュアル表現が日常に浸透しています。たくさんのインプットがあるせいか、生徒たちは作ってみたい動画のイメージを豊富に持っていて、表現方法で悩んでいる様子がありません。

参加した生徒に感想を聞いてみると、実際に自分で制作したことで、普段何気なく見ている動画の見え方が変わったといいます。「今まで『娯楽』として見ていたけれど『作品』として見るようになりました」、「10秒作るだけでもすごく時間がかかって大変なのに、1〜2時間という長い映像を作るには、どんな仕組みで仕事をしているのだろうと興味があります」などの声があり、視点が受け手だけでなく価値の創り手である「制作者」側に変化したことがわかります。

アプリの操作については「覚えてしまえば意外とスイスイできました」と、楽しく制作できた様子です。今後創ってみたい作品をたずねると、「友達や家族を撮影してみたい」、「自分で描いたイラストをアニメーションさせてみたい」、「日本の各地で撮影した映像を編集してみたい」、「ミュージックビデオを作ってみたい」など、他のクリエイティブ領域を巻き込むイメージが広がりました。

生徒の「やりたい」を実現できる環境を

今回学校側で講座をサポートした同校情報科教諭の能城茂雄先生は、Adobe Education Leaderとして日頃からアドビ製品を活用した教育実践を行っています。都立の中高一貫校である同校では、すでに2016年から1人1台のタブレットPCを配布して活用していますが、コンピューター室にはデスクトップPCを備え、自由に使えるよう開放しています。

東京都立三鷹市中等教育学校 情報科 能城茂雄教諭

東京都立三鷹中等教育学校 情報科 能城茂雄教諭

能城先生は、情報の授業でコンピューターの処理能力について教えながら、個人配布のタブレットPCでできないことは、適宜コンピューター室のPCを使うよう生徒に呼びかけているそうです。今回できたメディアラボには、さらにハイスペックなPCと大きなモニターがならびました。「動画の書き出しには非常に時間がかかるものですが、メディアラボのPCならば一瞬ですね」と能城先生。

「生徒が興味関心を持って『やりたい』と思ったときに、それをやる環境がなければ『でもできないし……』で終わってしまうんですよね。『これでやってごらん』という環境を与えてあげることで、子ども達の創造性が伸びると思うんです」と能城先生は話し、大人が子どものレベルを決めつけるのではなく十分な環境を整えることの重要性を指摘します。

今回の講座には、初めて動画制作に挑戦した生徒もいれば、経験はあるものの有料のアドビ製品には手が届かず無料の動画編集アプリを使っていたという生徒もいました。「いいPCとアドビのアプリが使えると知って迷わず講座に応募しました」と話す生徒の姿には、学校の中に十分な制作環境を整えることの価値を実感させられます。

講師の境氏は、特にこの2〜3年のスマートフォンのアプリやハードウェアの進化で写真や動画に手軽に高クオリティな効果を加えられるようになったため、若い世代には高度な技術自体への驚きはなくなってきていると指摘します。「今の中高生はスマートフォンですでにクリエイティブな活動が身近になっているんですよね。誰もが動画の発信者になる世の中で刺激をうけて『やりたいこと』を持っている。モチベーションが高いのを感じています」。

全国で進行中の小中学校のGIGAスクール構想の次に、高校でも進む1人1台PCは、予算の関係で必ずしも動画などのマシンパワーを要するクリエイティブな作業に適したものばかりにはなりません。せっかく1人1台の活用が当たり前になるからこそ、「もっとやりたい」という生徒の気持ちやアイデアを受け止められるよう、とくに高校では生徒たちの創造性に応えられる十分なスペックのPC教室やメディアラボを常設する意義がうまれそうです。

(文/狩野さやか)

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