Adobe Stockのビジュアルサーチ:クリエイティブの意図をAIで認識
ビジュアルづくりの第一歩は、画像、色彩、フォント、アイデアを探す「検索」から始まることがほとんどです。それなのに、この作業はクリエイティブプロセスとは分断されているように感じます。頭の中にあるキラキラした発想を言葉に置き換えるのは、たいていの場合、退屈で時間のかかる作業です。クリエイティブなアイデアの中心にある美的感覚や情感を検索キーワードで言い表せることなど滅多になく、本来刺激的であるはずの素材探しは、心をしおれさせる無味乾燥な作業になってしまいがちです。
そこで私たちは、クリエイティブなビジョンを実体化させる活動をサポートするために、Adobe Sensei,の人工知能(AI)および機械学習テクノロジーを活用して、検索のあり方を根本的に変えることを試みました。
AIを活用した検索でできることと、クリエイティビティへの影響
私たちはディープラーニングによって検索アルゴリズムを鍛え、画像認識能力を強化して内容を判別する機能の向上に取り組んでいます。自動車、ネコ、人間、エッフェル塔などといった被写体の違いはもちろん、色彩、構図、スタイル、雰囲気などの違いも的確に判別させ、仕分けし、こうした様々な観点にもとづく検索や、キーワードと複数の画像要素の組み合わせにもとづく検索を実行できる仕組みを開発しています。
その結果、単に指定されたキーワードや画像に近いものを見つけるだけでなく、探し物をしている当人にとって一番重要な要素が何なのかを認識し、それに近いものを検索することが可能になりました。ニュアンスやクリエイティブの意図が検索に反映されるようになったといっても過言ではないと考えています。
Adobe Stockで、特定のカラーパレットを含む日没の画像を検索した結果。
例えば、Adobe Stockの検索機能でキーワードを入力してガゼルの画像を検索したところ、興味深いガゼルの写真はいろいろ並んでいるものの、ピッタリくるものは見当たらなかったとします。ニーズに合わせて絞り込むには、まず探しているものに近い画像を一つ選びます。次に、類似画像の検索機能で、自分が用意した元画像の色彩、内容、構図に近いガゼルの写真を検索します。すると、右を向いた1頭のガゼルだけがきれいに写っている、暖色系カラーパレットの写真が見つかりました。
では、ガゼル以外の要素も探す必要がある場合はどうでしょうか。例えば、同じ配置やポーズで写っているジャーマンシェパードの写真も必要だとします。その場合は、構図の制約はそのままにしてキーワードだけ変更して再度検索しましょう。先ほどのガゼルの写真によく似たジャーマンシェパードがすぐ見つかります。右を向いた1頭の犬がきれいに真ん中に写っている、暖色系の写真です。
Adobe Stockで「ガゼル」の画像を検索
Adobe Stockの「類似画像の検索」で、サンプル画像に近い性質(内容、色彩、構図)を備えた右を向く1頭のガゼルを検索
Adobe Stockの「類似画像の検索」で、右を向く1頭のガゼルの画像を基にして「ジャーマンシェパード」を検索
このように、キーワードとビジュアルサーチを組み合わせると、画像の細かい特徴を検索エンジンに伝え、美的な感性やクリエイティブなビジョンの繊細なニュアンスを認識させることができます。その的確さはキーワードに頼った従来の検索方法とは別次元です。
次は、特定の種類の被写体を含んだ画像を探す例として、森とテントの写真を考えてみましょう。ただし、森の中ではなく森のはずれに建てられたテントがフレームの左端に配置されているような写真が必要だとします。テントをクリックして希望の場所にスライドしてから検索すると、指定したような構図の画像が見つかります。この機能は、テントという被写体を機械学習テクノロジーで認識させることにより実現されています。今後は、被写体はこの画像から、カラーはあの画像から、構図はまた別の画像からと、検索条件に複数の画像の必要な要素を組み合わせて探すことも可能になるでしょう。
Adobe Stockでテントと森の画像をキーワード検索
Adobe Stockの「類似画像の検索」で、サンプル画像に近い性質(内容、色彩、構図)を備えた森の中のテントを検索
Adobe Stockの「類似画像の検索」で、テントの写っている位置がサンプル画像に近いもの、つまり画像の左端にテントが配置されているものを検索
今後の展望:思い描いたとおりの画像を検索でつくり出す
AIとビジュアルサーチの可能性を探る取り組みは、まだ始まったばかりです。これからもAdobe Stockのようなツールの機能は高度になり、検索と創作は補完しあう形で進化していきます。そして、AIは単に検索作業を助けるだけでなく、検索する人の期待に合った素材を生成するようになるでしょう。スマート検索の発展は、データを作る人間と、そのデータから学習するAIとのダンスのようなものです。ツールのスマートな機能の発展と、尽きることを知らない人間の創造力が手を取り合って、まだ私たちが想像したこともない新たなクリエイティブ表現への道案内役を務めてくれるでしょう。
例えば、晴れた日に傘をさしている人物の画像を探しているのに、雨が降っている場面の画像しか見つからないとき、機械学習テクノロジーを活用して検索機能に素材のブレンド処理を実行させ、実際には起きたことがない場面を写した、頭の中に浮かんだとおりの画像を生成して入手できるようになります。まるで、Photoshopの不思議な画像処理を検索クエリに適用し、イメージしたままの画像を合成したかのような結果が得られるのです。
AIを活用したビジュアルサーチには、クリエイティブに携わる皆様を煩わしい作業から解放し、つまらないキーワード選びであれこれ悩むストレスを大幅に減らす力があります。検索機能がクリエイティブ寄りの作業を担うようになると、人間は、新しいアイデアを探ったり発展させたりといった本来の人間的なクリエイティブ活動に多くの時間を振り向け、専念できるようになります。
いかがでしたでしょうか? Adobe Stockをスマートな検索機能はこれからもどんどん進化しつづけますのでご期待ください。まだご利用でない方は、無料でお試しいただき、Creative Cloudとの連携による効率的なクリエイティブ制作のワークフローも含めその良さを是非体感ください。
この記事の一部は、PetaPixel.(英語)に掲載された記事の内容を再掲したものです。
この記事は2021年7月14日にScott Prevostにより作成&公開されたMoving Beyond Keywords to Make Visual Search Smarter: How AI Understands Creative Intentの訳です。