PDF印刷環境をテレワーク時代に合わせて再構築しよう

普段のプリント環境をもう一度考えてみよう

2020年から今まで、ビジネスの現場で大きく変わったのは“働く環境”ではないでしょうか。東京都の調査によれば、2020年3月から4月にかけてテレワーク実施率は約63%まで昇り、そのまま2021年4月まで50%前後を推移する形で一気に普及が進みました。

出社日数は企業によって異なるものの、およそ週3日がテレワーク、それ以外が出社、という勤務形態が多いようです。

【参考】東京都ホームページ

PCやネットワーク環境などがあれば、場所を問わず仕事ができるようになった方も多いのではないでしょうか。加えて、自宅でも会社と同じパフォーマンスで仕事ができる、とイメージした人も多いと思います。そんな中で、「テレワークで不足している、必要だと感じたオフィス設備」というアンケートで回答に挙がる設備があります。それが、プリンターです。さらに、元々SOHOなどで仕事場所を自宅兼事務所にしている、あるいは、少人数で事務所を借りている、コワーキングスペースを探している、という場合でも、プリンターは必須の設備として上がります。

あらゆるシーンでペーパーレス化が進んでいる昨今、10年前に比べれば紙の資料を扱う機会は減っているかもしれません。しかし、ビジネスの現場でデータを印刷する機会は今も少なからずあります。たとえば、通常の業務であれば資料を作成した後には社内プリンターで印刷し、資料として持ち歩いたり、提出前の確認作業や回覧などで紙の出力が行われてきたことでしょう。そうした工程では、画面だけを見ていては気付かない間違いに気付くことも多かったのではないでしょうか。

こうした印刷に関連する作業がテレワークなどによって行えなくなることは、効率を下げる要因や、ミスを引き起こす一因にもなります。

今は手軽にコンビニでプリント出力ができる時代なので、プリントしたいデータがあればUSBメモリなどで持ち込んですぐにプリントすることができます。しかし、プリント代はモノクロ1枚10円/カラー1枚30円(いずれもA4サイズ)ほどかかります。数枚なら許容できるコストでも、連日のテレワークで印刷回数が増え、枚数が嵩むと負担になります。さらに、業務上重要なデータを不特定多数の人が使うプリンターで印刷することにも抵抗を感じる人は多いと思います。

テレワーク、SOHOに最適なプリンターの条件とは?

今最もビジネスの現場でファイルフォーマットとして流通しているのが「PDF(Portable Document File)ファイル」です。PDFはそれまでのビジネス文書フォーマットとは違い、文字や写真、図版といった要素がすべて文書内に埋め込まれているため、どんな環境とのやり取りでも書類の見え方や印刷結果に違いが出ることはありません。やり取りを行う相手同士でフォントの環境が違ったり、画像がなかったとしても、開かれたPDFファイルの体裁は同じです。

またPDFには、昨今の印鑑レスへの要求にも対応する電子印鑑を押印する機能や、書類改ざんを防止する機能も備わっています。閲覧するだけであれば無償版のAdobe Acrobat Reader DCでもほとんどの機能を利用できます。

一方で、文書閲覧や印刷に強いPDFフォーマットですが、ページ枚数が多かったり、文書構造が複雑になればなるほど、その印刷処理には負担が掛かります。

単ページのPDFであれば[印刷]ボタンを押してすぐ印刷は完了です。しかし、仕様書や論文、図版やグラフがふんだんに配置されたページ数が多いプレゼン資料などを一般的なプリンターで印刷したとき、複雑なグラデーションがきれいに印刷されずスジが出たり、イメージしていた色と少し違う色合いに印刷されるなど、希望通りの仕上がりにならないことも少なくありません。また、家庭用インクジェットプリンターでは大量ページの印刷を行うには時間とコストが気になることもあるでしょう。

これまで会社で使っていたようなプリンターはサイズも大きく導入価格も高価なので、簡単に購入することができません。もし、手軽に正確にプリント出力ができるような、ネイティブでPDF処理ができるプリンターがあれば、印刷によるストレスはほとんど感じられなくなるはずです。

PDFネイティブ処理ができるプリンターとは?

アドビには、PDFネイティブ処理できるプリントエンジンとして「APPE」(Adobe PDF Print Engine)と「AEPE」(Adobe Embedded Print Engine)があります。「APPE」は、グラフィック、印刷市場向けに設計されているPDF処理エンジンなので、よりパワフルに、より高速に処理できるよう設計されています。しかし、高機能、高パフォーマンスを発揮するだけあって、一般家庭やSOHOなどでビジネス文書を印刷するような用途にはオーバースペックです。

一方「AEPE」は、PDFファイルを正しく、手軽に印刷することに特化して開発されたプリントエンジンです。当初よりビジネスの現場に導入されることを想定し、AEPE搭載プリンターの価格も一般的なオフィスプリンターと変わりません。

「ネイティブPDF処理」と説明されてもピンと来ない方も多いでしょう。これは、ドライバを経由せず、PDFファイルだけで直接プリント処理をする工程を指します。一方、一般のオフィスプリンターは、PDFファイルを印刷する際にプリンタードライバーを使い、印刷ジョブをすべて(または一部)ラスターデータ化してからプリンターのRIPに送ります。もともとPDFファイルとして仕上げていてもプリンタードライバーを経由すれば機種ごとの特性に合わせた処理が行われるため、ジョブの容量や複雑さによって時間が掛かったり、プリンター側がうまく処理がしきれないケースが発生する可能性があります(図1)。

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図1 従来の印刷方法

プリンタードライバーでフォントや画像をすべてラスタライズ(画像)化したファイルを生成し、プリントエンジン(プリンター)に送ります。

AEPEの場合、PDFファイルはそのまま直接プリンターに送信し、プリンターのRIP(ここでいうAEPE)で処理するため、途中で中間ファイルを生成するような変換が起きることはありません。そしてPDF処理に適した設計で開発されているため、Adobe CCで作成された透明効果も分割されず、滑らかな階調表現で印刷されます。デザインデータでもビジネス文書でも、あるいは大量ページの論文でも、PDFファイルになっていれば高速にネットワーク送信し、トラブルなく印刷できるのがAEPEです。

もちろん、現在発売されているAEPE搭載プリンターの多くは、従来の印刷方法(プリンター記述言語)もサポートしているため、一般的なビジネス文書印刷との共存も可能です(図2)。

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図2 AEPEの印刷方法

PDFをそのままプリントエンジン(AEPE)に送信し、AEPEでラスタライズ処理を行います。透明効果やグラデーションなど複雑な構造の文書も正確に処理するため、モニター上の見た目と印刷結果に違いが出ることはありません。

AEPE搭載プリンターは、「モバイル印刷」にも対応しています(AirPrint認定取得済み)。スマートフォンやタブレットで確認したメールの添付書類をすぐに印刷したい、という場合も、わざわざPCでメールアプリを立ち上げる必要はありません。そのままモバイルデバイスから添付ファイルを印刷し、紙の文書を入手できます。

現在販売されているAEPE搭載プリンター

キヤノンから発売されている「Sateraシリーズ」には、一部機種にAEPEが標準搭載されています。

カラーモデル

モノクロモデル

Satera MF656Cdw

いずれも最大印刷サイズはA4で、プリンター機能に加えてコピー、ファクス(インターネット FAX対応)、スキャナを搭載した複合機モデル。両面印刷にも標準対応しています。

本体サイズは給紙トレイをフルオープンにしない状態であれば縦横50cm以内とコンパクトに設計されているため、書斎や SOHOに設置しても違和感や圧迫感はありません。

これからも続くであろうリモートワークに向けて、本格的に作業環境を整えるのであれば、 AEPE搭載プリンターは間違いなく活用できるアイテムとなります。

最新のPDF印刷環境でストレスから解放されよう

文書を印刷する、という作業は会社やSOHOであれば普段意識せずに行っているものなので、時間が掛かったり、思うように仕上がっていないだけでストレスに感じるものです。とくにテレワークでは1人で作業することが多いため、すべての仕事の質が自分に掛かってきます。毎回コンビニプリントに頼るのは不自由ですし、印刷コストも気になります。AEPE搭載プリンターであれば、印刷コストはカラー印刷でも1枚16円前後(モノクロ印刷の場合は1枚3円前後)です。

イザというときに慌てずに、余裕を持って準備をしておくこと、さらにリモートワーク環境を快適にするために、パソコンやワーキングデスク、チェアと同じレベルで選び抜きたいのがプリンターではないでしょうか。

AEPE搭載プリンターであれば、導入時の価格やランニングコスト、設置スペース、消費電力などを考慮しても、会社に設置しても遜色のないクオリティのプリンターが書斎やSOHOの事務所に設置できます。社外秘の書類や文字や図版チェックをしたい書類を正確に、すぐに印刷できる快適さを、ぜひ体験してみてください。

この記事はフリーライターの西村希美さんによる執筆で、最新のプリンターの情報をまとめて頂いたものです。